仙台高等裁判所 昭和31年(う)178号 判決
原審仙台地方裁判所は、昭和三〇年一二月二六日、被告人丹野亀一郎外七名に対する公職選挙法違反被告事件の判決において、被告人丹野に対する同年六月一六日付起訴状記載の公訴事実第一の一、三乃至六、第二の一乃至十一、第三、第四の各公訴事実につき有罪の言渡をし、第一の二(後藤三郎に対する金員供与)、第二の十二(高橋盛男に対する金員供与の申込)の各公訴事実につきそれぞれ無罪の言渡をし、これに対し原審検察官は法定期間内に控訴の申立をしたが、該申立は特に部分を限つていないので、原判決中同被告人に関する右有罪部分及び各無罪部分の全部に対して控訴をした趣旨と解するの外はない。然るに、検察官は、当裁判所の指定した控訴趣意書提出期間内に控訴趣意書一通を提出したが、該控訴趣意書の前文に「丹野亀一郎に対する公職選挙法違反被告事件につき仙台地方裁判所が昭和三〇年一二月二六日言い渡した判決に対しさきに検察官より控訴を申し立てたが、その理由は左記のとおりである」と記載しながら、その本文理由中においては、第一の二の公訴事実に関する無罪部分についての事実誤認と量刑不当を主張するのみで、第二の十二の公訴事実に関する無罪部分については何等論及するところがない。而して、決定で控訴を棄却すべき場合について規定した刑訴法三八六条一項三号にいわゆる「控訴趣意書に記載された控訴の申立の理由が、明らかに三七七条乃至三八二条及び三八三条に規定する事由に該当しないとき」とは、控訴趣意書に控訴理由の記載はあるが、その記載された理由が明らかに右法定の事由に該当しない場合のみならず、控訴趣意書に控訴理由の記載の全然ない場合をも含むものと解するのを相当とするから、第二の十二の公訴事実に関する無罪部分に対する検察官の控訴は、右三八六条一項三号により棄却を免れないものといわなければならない。
(裁判長裁判官 板垣市太郎 裁判官 有路不二男 裁判官 杉本正雄)