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仙台高等裁判所 昭和32年(ネ)86号 判決 1958年2月26日

控訴人(原告) 片平六彌

被控訴人(被告) 丸森町教育委員会

原審 仙台地方昭和三〇年(行)第一一号(例集七巻一二号300参照)

主文

原判決を取り消す。

耕野村教育委員会が控訴人に対し昭和二十九年三月三十一日付でした耕野小学校講師の解職処分を取り消す。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和二十九年三月三十一日付で発令されたという耕野村教育委員会の控訴人に対する耕野小学校講師を解職するとの行政処分の存在しないことを確認する。仮りに右処分が存在するとすれば右解職処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は(証拠関係については省略、陳述の点については)、原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

控訴人が昭和二十五年十二月三十一日宮城県伊具郡耕野村立耕野小学校の講師を命ぜられ、以来その職にあつたこと。控訴人が耕野村教育委員会教育長森谷祐堂の求めにより昭和二十九年三月二十日退職願を提出したこと。同委員会が同月二十二日控訴人の退職願を承認し、解職することを決定したこと。控訴人が同月二十六日右森谷教育長に対し右退職願を撤回する旨申し出たこと。控訴人がその解職処分について、同年八月二十四日宮城県伊具郡町村公平委員会に対し審査の請求をし、この事務を引き継いだ丸森町公平委員会が昭和三十年二月二十六日控訴人の右審査請求を棄却し、その裁決書が同月二十八日控訴人に到達したこと。耕野村が昭和二十九年十二月一日宮城県伊具郡丸森町に合併され、丸森町教育委員会が耕野村教育委員会の事務を承継したことは当事者間に争がない。

成立に争のない甲第一号証の一・二、第二号証の一乃至三、第三号証の一・二、第七号証、乙第二号証、第三号証の一乃至三、第四乃至第七号証と原審証人今野常三、加藤清、原審及び当審証人森谷祐堂、八島考二の各証言並びに当審における控訴人本人尋問の結果を綜合すると、宮城県教育委員会においては、五十五歳以上の教員に勇退を求める等の人事異動方針をたて地方教育委員会に協力を求めたので、耕野村教育委員会でも右趣旨にそつて五十五歳以上の教員に辞職を勧告することゝなり、控訴人もこれに該当したので、教育長であり耕野小学校長であつた森谷祐堂から昭和二十九年三月二十日控訴人にこの旨話した結果、控訴人は前記のとおり同日退職願を提出するに至つたこと。耕野村教育委員会では前記のとおり同月二十二日委員会を開催して控訴人の退職願を承認し、発令の日を同月三十一日と定めたこと。控訴人は五十五歳以上の教員で退職しない者もあると聞き前記のとおり同月二十六日森谷教育長に退職願の撤回を申し出たこと。控訴人に対する任命権者は耕野村教育委員会であるが、給与の点で県教育委員会に依存している関係で、県教育委員会において各地方教育委員会の給与その他人事の調整をはかる慣例となつていたので、耕野村教育委員会は同月二十四日県教育委員会伊具出張所を通じ県教育委員会に対し控訴人の退職とこれにともなう給与関係の審査を具申したこと。森谷教育長は控訴人から退職願の撤回の申出を受けたので、その頃これを耕野村教育委員会長に報告するとともに、県教育委員会伊具出張所に対し県教育委員会の意向を尋ねたこと。県教育委員会伊具出張所では森谷教育長に対し、控訴人の右退職願の撤回を認めない方針を伝え、県教委員会に控訴人の退職にともなう給与等の審査書類を進達し、県教育委員会は同月二十九日右審査の結果を耕野村教育委員会に送付したこと。耕野村教育委員会においては、控訴人の退職願の撤回を承認するにつき、なお県教育委員会と折衝の余地あるものと考え、同月三十一日には控訴人に解職の辞令を交付せずにいたところ、県教育委員会の意向により同年四月二十日当時の教育長であり耕野小学校長である今野常三から同小学校において同年三月三十一日付の「願に依り職を解く」旨の辞令を控訴人に交付したこと。控訴人はその間耕野小学校に出勤し教員の職務を採つていたのであるが、右辞令を一度受領のうえ、耕野村教育委員会に行つて右辞令を差し置き、引き続き同年五月二十二日まで勤務していたこと。が認められる。右認定を動かすに足る証拠はない。右認定事実によると、耕野村教育委員会は控訴人に対して昭和二十九年三月三十一日付依願解職の決定をし、同年四月二十日その辞令を交付したのであるから、右解職処分の不存在確認を求める控訴人の本訴請求は理由がないものといわねばならない。

よつて右解職処分取消の予備的請求につき判断する。公務員は国家公務員であると、地方公務員であるとを問わず憲法上全体の奉仕者として義務づけられているものであるから、任意に辞職することは許されず、任命権者の承認を要するものといわねばならない。従つて、控訴人は前示のとおり耕野村立耕野小学校講師として地方公務員たる地位に在る者であるから、前示退職願を耕野村教育委員会に提出しただけでは当然に退職の効力を生ずるものではない。ところで私人の公法上の行為はそれに基いて有効な行政行為がなされるまでは一般にこれを撤回することができるものと解すべきである。控訴人が昭和二十九年三月二十日耕野村教育委員会に対し退職願を提出し、同月二十二日同委員会において右退職願を承認したところ、控訴人が同委員会教育長に対し右退職願の撤回を申し出たことは前認定のとおりであるが、右退職の承認は辞令の交付その他の方法により控訴人に表示されたとき効力を生ずるものと解すべきである。そして控訴人が右退職願の撤回を申し出るまでに耕野村教育委員会から控訴人に対し控訴人の右退職願を承認する旨の表示がなされたことはこれを認めるに足る証拠がない。それなら、控訴人の右退職願の撤回は退職願の承認が効力を生ずるまでになされたもので有効であるから、耕野村教育委員会が控訴人に対し依願解職処分をしたことは違法というべく、これが取消を求める控訴人の予備的請求は正当として認容すべきである。右と結論を異にする原判決は不当であるからこれを取り消すべきものとする。

よつて民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 板垣市太郎 石井義彦 兼築義春)

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