仙台高等裁判所 昭和32年(ネ)96号 判決 1958年11月17日
主文
原判決を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
補助参加により生じた費用並びに第一、二審の訴訟費用は被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において原判決添付目録記載(甲)の畑一反五畝二一歩のうち約六畝歩が本件買収計画樹立当時において既に現況宅地であつたことは甲第二十七号証決定書により明らかであるように控訴委員会は被控訴人の異議申立に対する却下決定において認めているところである。そして右畑のうち、いずれの部分が現況宅地であるか不明であるのみならず、現況宅地の部分の正確なる地積も不明であり、且つ右畑のうち本件買収計画の対象とせられた一反五畝の具体的範囲は実地においても客観的に明白ではない。また同目録記載(乙)の田九反六畝二七歩の実測面積は一町一反二畝一二歩であつて、その登記簿上の面積九反六畝二七歩に比し一反五畝一五歩の相違があるので、右畑のうち本件買収計画の対象とせられた七反七畝二四歩の範囲も具体的に明白ではない。(二)、前記(甲)の畑のうち現況宅地である部分は訴外川村兼蔵において昭和一八年に土盛をして宅地に変更したもので、本件買収計画樹立当時すでに現況宅地となつており農地ではなかつた。(三)、控訴委員会並びに補助参加人の後記主張事実中、被控訴人の従来の主張に反する点は否認する。」と述べ、控訴委員会並びに補助参加人の代理人において「(一)、控訴委員会(当時は森田村農地委員会)は昭和二二年一一月二四日被控訴人所有に係る原判決添付別表(一)の農地を被控訴人の長女川村松江の小作地、同別表(四)の農地を訴外川村兼蔵らの小作地として買収の時期を同年一二月二日と定め第四次買収計画を樹て、同年一一月二九日青森県農地委員会はこれを承認し、補助参加人は右買収計画に基ずき昭和二三年四月一三日被控訴人に対し買収令書を交付して買収処分した。(二)、当時占領軍当局の農地開放促進の要請に基ずき昭和二二年一二月四日西津軽地方事務所から控訴委員会に対し不在地主の小作地及び保有面積超過の小作地などの当然買収すべき農地の買収の時期を繰り上げ(1)縦覧公示昭和二二年一二月一〇日、(2)異議申立期間同年一二月二〇日、(3)事務所提出同年一二月二二日、(4)青森県庁提出同年一二月二六日、(5)青森県農地委員会昭和二三年一月中旬頃、(6)買収売渡期日同年三月二日の日程で取り急ぎ買収、売渡計画を樹てるようとの通達があつたので、控訴委員会は昭和二二年一二月四日付で関係地主らに対し第五次買収計画などを同年一二月一一日から同月二〇日まで縦覧に供する旨予告すると共に農地委員、補助員を動員して関係地主らについて調査したところ、川村松江は被控訴人の同居家族であつて前記別表(一)の農地を小作しているものではなく被控訴人において自作しているものであることが判明した。そこで控訴委員会は同年一二月八日頃まで右農地についの前記買収計画を取り消し原判決添付目録記載の本件農地につき第五次買収計画原案を決定したが、農地委員らの都合により同年一二月一〇日までに委員会を開くことができなかつたので、やむを得ず右第五次買収計画原案を同年一二月一〇日公告し、翌一一日か同月二〇日まで縦覧に供し同月一九日の委員会で前記別表(一)の農地の買収計画を取り消すことに申し合せ右原案通り第五次買収計画を樹てたので、適式の縦覧期間は二日間となつたのである。しかし、当時は前記の如く占領軍当局の要請に基ずく西津軽地方事務所の通達により買収売渡計画樹立の日程を指定され、これに間に合うよう計画を樹てざるを得なかつた関係から、控訴委員会は前記の如き措置にでたものであるが、前記の如く買収計画原案が公告、縦覧に供せられ昭和二二年一二月一九日右原案どおり買収計画が樹てられた以上、本件買収計画については公告並びに縦覧の手続が適法に採られたものというべきである。(三)、被控訴人は昭和二二年一二月一五日頃から前記買収計画原案を知り、また本件買収計画の樹てられたことを知つて、同月二七日控訴委員会に対し異議を申し立て、更に昭和二三年一月二七日青森県農地委員会に対し訴願を提起したが、控訴委員会並びに右委員会は右異議若しくは訴願につきいずれも実体的内容に立入り審査決定しているのであるから、仮りに控訴委員会のとつた本件買収計画の縦覧の措置に法定期間不足の違法があるとしても、右違法はすでに治癒されたものというべきである。(四)、控訴委員会は昭和二三年九月一四日青森県農地委員会に対し前記別表(一)の農地の買収計画の取消を申請したところ、同年九月一六日まず補助参加人は右農地の買収計画は被控訴人の自作を川村松江の小作地と誤つてした違法があるとして右農地についての前記買収処分を取り消し即日被控訴人に対しその旨書留郵便を以て通知し右郵便は同月一八日被控訴人に送達され、その後青森県農地委員会は同年一〇月二九日右買収計画の取消を承認した。(五)、控訴委員会は前記の如く前記別表(一)の農地につき誤つて樹てた買収計画を取り消して本件買収計画を樹て、前記別表(一)の農地についての買収計画の取消については前期の如く青森県農地委員会の承認があつたのであるから、本件買収計画樹立当時における被控訴人の農地保有面積の計算には当然右別表(一)の農地を被控訴人の自作地として加えるべきである。そして右農地を被控訴人の自作地二町五反七畝一歩に加算するときは、被控訴人の自作地は合計三町六反九畝二八歩となり法定の保有面積は三町八反であるから、被控訴人は一反二歩の小作地を保有し得るにすぎない。したがつて本件買収計画は被控訴人の保有面積を侵害するものではない。また補助参加人は前記の如く昭和二三年九月一六日右別表(一)の農地についての買収処分を取り消したのであるから、右農地は被控訴人の所有に復帰しその自作地の合計面積は三町六反九畝二八歩となつたのである。したがつて、本件買収計画はなんら被控訴人の保有面積を侵害するものではない。(六)、前記の如く右別表(一)の農地についての買収処分の取消処分が昭和二三年九月一六日に成立している以上、仮りに右取消処分の通知(書留郵便)が原審認定の事情で被控訴人に到達しなかつたとしても、国は右農地の所有権を取得することはできないから、被控訴人の保有面積の計算に当つては、これを被控訴人の自作地に算入するのが当然である。」と述べたほかは、すべて原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
(立証省略)
理由
原判決添付目録記載(甲)及び(乙)の各農地(以下本件農地という)が被控訴人の所有であるところ、控訴委員会(当時森田村農地委員会)が昭和二二年一二月一九日本件農地につき、これを自作農創設特別措置法(以下自創法と略称)第三条第一項第三号に該当する農地であるとして昭和二三年二月二日を買収の時期とする買収計画を定めたことは、当事者間に争がない。
そこでまず、本件買収計画の公告がなされたかどうかについて判断する。控訴委員会が本件買収計画を定めた後、自創法第六条第五項の規定による公告をしなかつたことは当事者間に争がない。控訴委員会は、控訴委員会において昭和二二年一二月八日頃までに本件買収計画の原案を定め、右原案を同月一〇日公告し、同月一一日から同月二〇日まで縦覧に供したところ、右縦覧期間内である同月一九日右原案どおり本件買収計画が定められたのであるから、本件買収計画については適法に公告の手続が採られたというべきである旨主張するを以て按ずるに、成立に争のない乙第一号証の一、二、甲第一、第二号証、当審証人原田俊雄の証言により成立を認め得る乙第八、第九号証の各記載、原審及び当審証人館山善吉、山谷作次郎(いずれも原審は第二回)、当審証人原田俊雄の各証言、原審(第二回)及び当審における被控訴人、当審における控訴委員会代表者原田正司の各本人尋問の結果を綜合すると、控訴委員会は昭和二二年一二月四日頃西津軽地方事務所長から、農地買収並びに売渡手続促進のため、当然買収せらるべき農地については遅くとも同月一〇日を縦覧公示の日程として買収手続などを施行すべき旨の通達をうけたこと、控訴委員会は同月初め頃本件農地を買収計画に組み入れるべきものであるとし同月八日頃本件農地につき買収計画の原案を作成し、同月一九日委員会を開催し右原案どおり本件買収計画を決議したものであるところ、前記通達の趣旨に則り右決議前である同月一〇日森田村役場の掲示場に右原案を公告したが、本件買収計画自体についてはその決定後において何等これを公告しなかつたことを認め得る。しかし右に認定した買収計画の原案なるものは自創法第六条にいう買収計画自体ではなく、控訴委員会が本件農地につき買収計画を樹立するための便宜上作成した草案にすぎないこと明らかであるから、右原案の成立を公告しても同条第五項にいう買収計画の公告とは認め難く、控訴委員会において右原案を公告するに至つた経緯が前記認定のように西津軽地方事務所長の通達において指示あつた縦覧公告の日程に適合するためにあつたにしても(右通達である乙第八号証には原案を公告、縦覧してもよい旨の記載がない)、またその後右原案どおり本件買収計画が決定せられたにしても、前記公告を以て本件買収計画の公告としての効力を有するものとは到底なし難い。したがつて、控訴委員会の右主張は採用できない。
しかして、村農地委員会において自創法に基き農地の買収計画樹立の決議をしても、司法第六条第五項による公告により、これを外部に表示しないうちは、単に行政庁の内部的な意思決定たるに止まり、いまだ行政処分としての効力を生じないものと解すべきところ控訴委員会の樹立した本件買収計画について、公告のなされていないことは前記のとおりであるから、本件買収計画はいまだ行政処分として有効に存在していないものというべく、したがつて、これが取消を求める被控訴人の本訴請求はその目的を欠き、その余の点につき判断をなすまでもなく失当として棄却すべきものとす。右と異なる原判決は取消を免れない。
よつて民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第九十四条、第八十九条を適用し主文のとおり判決する。(昭和三三年一一月一七日 仙台高等裁判所第二民事部)