大判例

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仙台高等裁判所 昭和35年(う)551号 判決

判決理由〔抄録〕

被告人が前記地先路上で急停車しようとした際、道路交通取締法第二二条同法施行令第三六条所定の「右腕または左腕を右方車体外または左方車体外に出す」という方法による手の合図をしたと認めるに足る証拠はない。しかし、当時被告人の運転する自動車後部の制動機に故障はなかったのであるから、被告人が停車するためブレーキを踏んだ瞬間自動的に右制動燈がついたものと推認され、また、その点滅は昼間でも後方に追従する者に十分見えるものと認められる。したがって停止の合図の措置自体に関しては被告人に過失がなかったものといわなければならない。

次に、進行中の自動車の運転者が路上ことに本件の事故現場のような市街地の路上で停車しようとする場合には、追従する車両等による追突の危険を避けるため、後方の交通状況に留意し、その安全を確認する注意義務があることは、条理上当然である。本件においては、丹羽の運転する原動機付自転車が被告人の自動車に約一〇米の間隔をもって追従していたこと、被告人がバックミラーにより或は後部の窓硝子を通して自動車後方における危険の有無を確認しえたにかかわらずこれを確認しないで急停車の措置をとったことはさきに説明したとおりである。原判決は、当時の客観的状況から見て、被告人が制動燈による停止の合図をすることによって、後方に対する注意を十分払ったものといいうる旨説示している。しかし制動燈による合図は、後方の車に対する自車が停止するという合図であり、しかも、それは停止の措置に着手して始めて合図としての効果を発生するにすぎないのである。後方における危険の有無の確認は、停止の措置の着手したがって制動燈による合図に先行すべき注意義務である。順序として、まづ自車の停止が後方の車に危険を及ぼさないかどうかに留意してその危険のないことを確認し、しかる後に停止の措置に着手すべきものである。自車の後部に接近して他車が追従している際に、後方における危険の有無を確認しないで停止の措置を執れば、たとい後車に対し制動燈による停止の合図が完全に行われても、時すでにおそくして後車による追突を免れることのできない場合があるであろう。すなわち、後方における危険の有無の確認と停止の合図と相まって始めて停車によって生ずることあるべき危険が防止されるのであって、被告人が制動燈による停止の合図をしたことによって、後方に対する十分の注意を払ったものという原判決の観方は、現に丹羽の原動機付自転車が被告人の自動車に接近して追従している本件の状況下においては、妥当しないというべきである。したがって、被告人には、停車の前提措置として後方における危険の有無を確認することをしなかったという点において過失があったものといわなければならない。

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