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仙台高等裁判所 昭和35年(ラ)81号 決定 1962年2月14日

抗告人 丸和商事株式会社

訴訟代理人 今野佐内

相手方 浅野吉蔵

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告代理人の抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。民訴法第五四四条による執行の方法に関する異議は、執行の形式的要件の欠缺、執行を妨げる理由の存在、差押禁止物件に対する差押もしくは提出を拒否する第三者の占有物件の差押等、執行機関が自ら調査判断の上遵守すべき執行手続上の規定に違背して執行をなしたことを理由としてこれをなすべきものであつて、単に執行の目的物が債務者の権利に属しない等の実体上の理由に基いては本条の異議を申し立てることはできないと解するのが相当である。もつとも競売法による競売開始決定に対しては、本条を準用して異議の申立をすることができ、その理由として抵当権の不存在、無効、被担保債権の不存在等の実体上の理由を主張することが認められているけれども、これは任意競売が強制競売と異り執行力ある債務名義を必要としない結果、裁判所は競売の申立があつたときは、その申立が実体上理由があるかどうかを一応審査し、実体上理由があるとみえる場合に限りこれを許可することを要するので、実体上理由があるかどうかも執行機関たる裁判所の調査判断事項とされているためであつて、このことをもつて前記解釈を覆えすべき理由とするには足らない。

しかして本件のような債権の仮差押の執行として執行裁判所が第三債務者に対し支払禁止命令を発するに当つては、その債権の存否帰属につき予め債務者および第三債務者を審尋せず(民訴法第七四八条、第五九七条)、ただ債権者の主張自体に基いて一応それが存在しかつ債権者に帰属するものとして認定するだけで足り、執行裁判所はそれ以上右債権が実質上存在するか否か又それが実体上債務者に属するか否かについて審査するを要しないのである。

従つてたとい仮差押執行の目的となつた債権が執行以前から存在しなかつたとしても、それがため右執行がその開始に当り遵守すべき手続上の規定に違背したものということはできないのみならずそのいう如く債権が実在しないならば、本件執行としての支払禁止命令の送達を受けてもその効力を生じないのであり、抗告人はかかる支払禁止命令の送達を受けただけではこれによつてその権利を害されることもないのであるから、右執行に対し異議を申し立てこれを争う利益もないものというベく、いずれにしても抗告人の主張は理由がないものというのほかはない。

よつて民訴法第四一四条、第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 村上武 裁判官 上野正秋 裁判官 新田圭一)

抗告の趣旨及び理由

原決定はこれを取消す。

相手方が福島地方裁判所昭和三四年(ヨ)第八六号債権仮差押命令申請事件につき昭和三四年一一月三〇日為した別紙債権目録記載の債権に対する仮差押の執行はこれを許さない。

との決定を求める。

第一、原審裁判所は、抗告人の申立に対する判断として、「そもそも債権の仮差押執行は、民事訴訟法第七四八条によつて債権の仮差押執行に準用される同第五九七条によれば、予め債務者及び第三債務者を審尋しないでなすものであり、また仮差押の段階においては何ら換価手続、ひいては取立訴訟に及ぶこともなく仮に申立人主張のように被差押債権が存在しないとしても、単に差押の効力が生じないだけであつて、本執行に転移した場合はともかくとして、第三債務者たる申立人は何ら法律上事実上の拘束乃至不利益を受けることはないのであるから、執行保全手続の性質上右理由により執行の取消をもとめることは許されない。」として却下の決定をした。

第二、(一)けれども、前記のとおり、債権者と第三債務者との間には、本件仮差押当時は被差押債権が存在しなかつたのであるから、かかる場合は執行手続は不法であるとしてこれを匡正するため異議申立は可能であると信ずる。

(二)そうだとすれば、抗告人は本件仮差押決定の取消を求めるのにどのような法定の手続によることとなるであろうか、抗告人は本件仮差押決定の当事者ではないから、民訴第七四四条第一項による異議、同第七四七条第一項による取消、同第四一〇条による通常抗告、同第四一五条第一項による即時抗告の各種の不服を申立てることができないことはいうまでもない。また、抗告人は被差押債権が申立外福三商事株式会社の債権ではなく抗告人の債権であることを主張するものでないから、民訴第五四九条第一項による第三者異議の訴を提起し得ないこともおのずから明らかである。このようにして、残る方法は民訴第五四四条第一項による異議であつて、まさに、抗告人はこの異議によつて-そして、この異議によつてのみ-本件仮差押決定の取消を求めることができるものと解せざるを得ない。

(三)又、仮差押決定に対し第三者が不服を申立てる方法として右のように民訴第五四九条第一項の第三者異議の訴と同第五四四条第一項の異議とが認められることは同第七四八条本文により明瞭であつて、受執行者でない第三者も仮差押決定を争い得ることは疑がなく、この場合には第三者は執行における手続上の瑕疵を理由としようが、実体上の理由に基ずこうが等しく仮差押決定を取り消すに価する異議を申立てることができるものと解する。原決定は、第三債務者たる抗告人は何等法律上事実上の拘束乃至不利益を受けることはない(果してそのように断定可能か疑いがある。)のであるから、執行保全手続の性質上、執行の取消をもとめることは許されないというが、仮差押決定における第三者は実体上の理由に基いては仮差押決定に対し不服を申し立て得ない(右第五四九条第一項の場合を除き)というのであろうか。

なお、民訴第五四四条第一項の異議は実体上の理由に基いてもこれをなし得ることは、競売法による競売開始決定に対しては債務者は債務の不存在を主張し、その決定の取消を求めるため右第五四四条第一項による異議の申立をなし得るのである。(大審院昭和五年(ク)第一二三九号同年一二、一七、決定、同大正二年(ク)第一〇二号同年六、一三決定各参照)

(四)以上の次第で、抗告人は民訴第五四四条第一項の異議を申立てて本件仮差押決定の取消を求め得るのである。原審はこの法条の解釈を誤り、抗告人の異議は理由がないとして却下したが、それは不当であるから、抗告の趣旨のとおり御裁判を仰ぎたく本抗告に及びます。

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