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仙台高等裁判所 昭和38年(ラ)48号 決定 1963年7月16日

抗告人 斎藤賢次

主文

本件即時抗告を棄却する。

理由

本件即時抗告の趣旨および理由は末尾別紙記載のとおりである。

しかし民訴三〇五条前段によると鑑定人の忌避は鑑定人が鑑定事項につき陳述をする前にすることを要するものとされている。

ところで本件記録によれば原審裁判所受命裁判官は昭和三六年九月一九日鑑定人栗城久に鑑定を命じ、かつその鑑定事項については後日鑑定書を裁判所に提出せしめて意見を陳述することを許容し、鑑定人はその後所要の調査を遂げ、昭和三七年八月二九日原審裁判所に鑑定書を提出したものであることが明らかである。

右のように裁判所が鑑定人に対し、鑑定事項につき即答を求めることなく、後日提出すべき鑑定書をもつて陳述すべきことを許容した場合においては前示民訴三〇五条前段所定の「陳述を為す前」とは鑑定書を裁判所に提出する前と解するのが相当である。

しかるに記録によれば抗告人が原審裁判所に本件忌避申立をしたのは昭和三八年五月二二日であるから如上の理由によつて許されない。

もつとも民訴三〇五条後段にれば、当事者は鑑定人の陳述後であつても、忌避の原因が陳述後に生じ、又は当事者が忌避の原因のあることを鑑定人の陳述後に知つたような場合は、特に忌避の申立をすることができることとされている。

しかし本件の場合、忌避の原因が鑑定人の鑑定書提出以前の日時に生じたとされていることは申立書の記載によつて明らかであるし、又抗告人が所論忌避の事由を知つたのは鑑定書提出前の昭和三七年六月二七日ごろであることは原審第一一回口頭弁論期日における抗告代理人のその旨の陳述によつて認められるから、本件は民訴三〇五条後段所定のいずれの場合にも当たらないものといわなければならない。

それ故本件忌避申立は却下すべく、これと同旨の原決定は相当で、本件抗告は理由がないから、これを棄却すべきである。

よつて民訴四一四条、三八四条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 松村美佐男 飯沢源助 野村喜芳)

別紙

申立の趣旨

原決定を取消され鑑定人栗城久に誠実な鑑定を妨ぐべき原因ある旨の御裁判を求める。

申立の理由

1 本件鑑定命令は昭和三十六年九月十九日午前十時検証の際受命裁判官より鑑定人栗城久に命ぜられた、同鑑定人が鑑定に着手したのは年を越えた昭和三十七年六月二十五日、之を終えたのは同二十七日で、右受命の時から長日月を経過し、この間何等鑑定を後らせる事由は存在しなかつた、而も鑑定書の作成は昭和三十七年八月二十八日で受命の時から約一年になんなんとし、格別難しい鑑定でもないのに長日月無為にすごしていたことは誠実に鑑定を行つたかどうか甚だ疑問である。

2 右鑑定人は鑑定実施のため大沼郡昭和村大字小野川所在五津屋旅館に昭和三十七年六月二十五、六、七日の三日間宿泊したのであるが二十七日の夜控訴人舟木惣意方において強か飲酒し饗応を受けた。

この事実と前記鑑定書作成に至るまでの態度とを併せ考えるときは、鑑定の公正を疑わしむるに十分で忌避の原因ありと信ずる。

3 右鑑定書の作成は昭和三十七年八月二十八日であり、裁判所え提出の日は何時か判らぬが右提出の事実を知つたのは昭和三十八年四月一日の口頭弁論期日においてであり、従つて右提出が何時にもせよ申立人が前記忌避の原因あることを知つたのは鑑定人の陳述をなしたる後に該り、忌避の理由あるものと信ずる。

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