仙台高等裁判所 昭和46年(行ス)2号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔決定理由〕一 本件記録添付の疎明資料及び相手方審尋の結果によると、相手方は昭和一九年五月一九日古川市稲葉字南町一四六番地において朝鮮慶尚南道梁山郡東面法基里三二四番地在籍父亡李昌浩、母金尚支の二男として出生し、平和条約の発効に伴い日本国籍を離脱し、昭和二七年法律第一二六号二条六項に基づいて本邦に在留していたこと、出入国管理令施行後である昭和四年五月六日気仙沼簡易裁判所において窃盗、同未遂、建造物侵入罪により懲役二年の判決を受け控訴したが、同年一一月四日仙台高等裁判所において控訴棄却の判決を受け同月一一日右刑が確定したので、山形刑務所に服役したこと、仙台入国管理事務所入国警備官は相手方が右懲役刑に処せられたことにより、同令二四条四号リに該当する容疑者として違反調査をし、同所入国審査官は昭和四六年一月一四日同条同号リに該当する旨認定し、同所特別審査官は同日相手方の請求により同年八月一一日口頭審理のうえ、右認定に誤りがない旨判定したこと、相手方は同日法務大臣に異議の申出をしたが、法務大臣は同年九月二九五日異議の申出は理由がない旨裁決しその結果を抗告人に通知したので、抗告人は同年一〇月七日相手方に右裁決結果を告知し、同月一四日相手方に対し退去強制令書を発付したことが疎明される。
二 抗告人は、本件申立は行政事件訴訟法二五条三項の「本案について理由がないとみえるとき」に該当するから却下されるべきであると主張するが、本件退去強制令書発付処分が適法であるかどうかについては、本案訴訟において慎重な審理判断を必要とするところであつて、現段階においてその理由のないことが疑う余地がない程明白であると断定することはできない。したがつて、この点に関する抗告人の主張は採用できない。
三 次に抗告人は、本件申立は「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当しないと主張する。まず本件退去強制令書に基づく送還部分の執行停止についてみるに、相手方が本件退去強制令書発付処分取消等請求事件の判決確定前に右退去強制令書に基づき送還される場合には、相手方において回復困難な損害を被ることはこれを覆うに難くなく、右処分の性質、相手方の従来の生活、境遇、経歴、送還先が朝鮮であることなどの点から、損害を避けるため緊急の必要があると認められる。
次に収容部分の執行停止についてみるに、本件記録添付の疎明資料及び相手方審尋の結果によると、相手方は母金尚支、兄李定暉、弟李定坤とともに肩書住所地において生活し、兄弟三人で病身の母の世話をしているが、自らは独身で扶養すべき妻子はなく、姉禎子の夫朴邦行は宮城県黒川郡大和町で古物商を営み、姉禎も仙台市内で働いていることが疎明されるので、相手方の収容により、母の扶養に困る状態でなく家族の生活が破壊されるとは考えられない。もつとも右収容によつて相手方が精神上肉体上の苦痛を被り、ひいては家族、とりわけ母の心労が大きいことは想像するに難くないけれども、これは収容に伴い当然に発生するものであつて、回復困難な損害には該当しないというべきである。
収容は送還の前提ないし附随的手段に過ぎないから、送還部分の執行が停止される以上、収容のみの執行をすることは許されないとの見解もあるが、送還の執行停止は本案判決の確定するまでの一時的暫定的措置であり、本案訴訟における審理の結果によつて本件退去強制処分が適法と判断される余地がある以上は、その執行を保全するため収容の必要性のあることは否定できない。相手方審尋の結果によると、相手方は現在運送会社において長距離運送のトラック運転手として働いており、今後間違いを起したり逃げかくれしないことを誓つていることが疎明されるけれども、相手方の過去における経歴、性格、生活態度等を総合すると、逃亡のおそれが全くないとは断定できず、また、出入国管理令五四条の仮放免の措置には種々の制約が付せられることを考慮しても、いまだもつて本件収容部分の執行を停止すべき緊急の必要性があるとは認められない。
四 以上の次第で、相手方の本件退去強制処分の執行停止の申立は、送還部分に限り正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべく、本件抗告は右の限度で理由があるから原決定を変更することとし、民訴法九六条、八九条、九二条を適用して主文のとおり決定する。
(佐藤幸太郎 田坂友男 佐々木泉)