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仙台高等裁判所 昭和47年(ネ)282号 判決 1973年10月18日

控訴人(被告)

株式会社鈴木製板工場

ほか一名

被控訴人(原告)

佐藤みつ

ほか七名

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人らは各自、被控訴人佐藤みつに対し金六六万四、九一五円およびこの内金六一万四、九一五円に対し、昭和四六年一〇月二二日から支払い済に至るまで年五分の割合による金員を、その余の被控訴人らに対し各金一九万七、八三二円およびこの内金一八万二、八三二円に対し昭和四六年一〇月二二日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

被控訴人らのその余の各請求を棄却する。

訴訟費用は一、二審を通じてこれを三分し、その二を被控訴人らの、その一を控訴人らの、各負担とする。

この判決は被控訴人ら勝訴の部分につき、仮に執行することができる。

ただし、控訴人らにおいて、各自、被控訴人佐藤みつに対し金三〇万円のその余の被控訴人らに対し各金一〇万円の各担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人ら

原判決中控訴人ら敗訴の部分を取消す。

被控訴人らの各請求を棄却する。

訴訟費用は、一・二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二当事者の主張等

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、次の点を付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  主張

(一)  控訴人ら

訴外亡佐藤寿治(以下亡寿治という)には、自動二輪車(以下被害車という)の運転者として、本件のように、控訴人石川要(以下控訴人石川という)の運転する普通貨物自動車(以下加害車という)に追いつかれ、追い越しをかけられた場合、できる限り道路の左側に寄つて加害車に進路を譲るべき義務があるところ、これを怠り、道路の中央寄りを進行した過失(道路交通法二七条二項違反)がある。

(二)  被控訴人ら

1 右(一)に対する答弁

亡寿治運転の被害車が道路中央寄りを進行していたことは認める。

2 主張

(1) 亡寿治の、道路交通法一八条一項違反の過失に関して、

右条項の「道路の左側に寄つて」とは、道路の中央から左側の部分を通行すべきことを意味し、道路の左側端に寄るべきことをいうのではないところ、被害車は道路中央寄りではあるが、その左側を通行していたものであるから、亡寿治には右条項違反の過失はない。

(2) 亡寿治の道路交通法二七条二項違反の過失に関して、

右(1)のように被害車が道路の中央寄りを進行したのは、その進路前方道路の左側に軽自動車が停止していたので、これとの接触を避けるため、対向車の有無を確認し、右停止車との横車間距離を十分とつたからであつて、斯様な場合、亡寿治には、加害車に進路を譲る義務はなく、したがつて、右条項違反の過失はない。

仮に、亡寿治に右の過失があるとしても、当時対向車がなかつたのであるから、控訴人石川としては、加害車と被害車との横車間距離をより以上にとつて被害車を追い越すことができる状態にあつたので、同控訴人が、原判決理由摘示の注意義務を尽してさえいれば、本件事故の発生は避け得たものであり、したがつて、亡寿治の右過失は本件事故発生の一因とはなり得ない。

(3) 亡寿治の、ヘルメツト不着用の過失に関して、

本件事故当時施行されていた道路交通法には、一般道路におけるヘルメツト着用の義務は規定されていなかつたから、亡寿治にはヘルメツト不着用による過失はない。

二  証拠関係〔略〕

理由

第一事故の発生

亡寿治が、昭和四五年一一月一二日午前一〇時一〇分頃、岩手県一関市新大町四二番地付近の国道四号線の道路(以下本件事故現場という)を被害車を運転して北進中、これと同一方向に進行して被害車を追い越そうとした控訴人石川運転の加害車に衝突されて同道路上に転倒し、これにより頭蓋底骨折の傷害を受け、その結果、同日午後八時一五分死亡したことは、当事者間に争いがない。

第二帰責原因

一  控訴人石川について、

(一)  〔証拠略〕を総合すると、次の各事実が認められ右高橋証言中、この認定に反する部分は信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

1 本件事故現場付近の道路は、本件事故発生当時歩車道の区別があり、車道部分の幅員は九メートルで、平坦、かつ、直線に通じ、アスフアルトで舗装され、見とおしは良く、道路両側は市街地であり、最高時速は、四〇キロメートルの制限規制がなされていた。

2 控訴人石川は、加害車を運転し、時速約四〇キロメートルで右1の道路を北進中、その前方道路の中央付近からやや左側(控訴人石川運転の加害車の進行方向を基とする、以下も同様)の地点を時速約三〇キロメートルで、加害車と同一方向に向け進行中の亡寿治運転の被害車を認めこれに追尾していたが、同車を追い越そうと考え、事故現場の手前約三七・七五メートルの地点に至つた際、加害車の速度を毎時約五〇キロメートルにした上、同車を、その前方約二四・二メートルの地点を進行する被害車の右側に進入させ、その追い越しにかかり、事故現場から約一〇メートル手前の地点において、加害車を、同車と被害車との横車間距離約〇・二メートルないし〇・三メートルでこれに併進させ、それから間もなく、追い越しが完了したものと考え加害車を元の進路に復するため同道路の左に寄せて進路変更をしたところ、加害車の後部左側と被害車の右ハンドルグリツプとが接触し、本件事故が発生した。

3 控訴人石川は、右2の被害車の追い越しにかかる際、加害車の警音器を吹鳴させず、かつ、同項の加害車の進路変更を開始する際、被害車と加害車との車間距離、被害車の進行状況等についての確認をしなかつた。

4 被害車は、本件事故発生現場において、少くとも、右2の加害車の追い越し行為が開始される以前に、その進路を同項の地点(中央寄)に変更し、右追い越し中も同様の状態を継続して進行しており、かつ、同項の追い越し中対向車はなかつた。

(二)  右(一)認定の事実関係からすると、控訴人石川には、先ず、被害車の追い越し行為に出るにあたつては、加害車を道路の中央部分から更にその右寄りに進行行させるか、或いは加害車の警音器を吹鳴して、亡寿治に対し加害車の接近を知らせて、同車に進路を譲らせるなどして、加害車と被害車との横車間距離を十分確認した上進行すべき注意義務が、次いで、追い越しが完了したものと考え、加害車を元の進路に復するにあたつては、被害車の進行状況を確認した上その措置に出るべき注意義務が、それぞれあるものというべきところ、同控訴人は、右(一)、2、3認定のとおり右のいずれの措置も履践せず、加害車と被害車との横車間距離を、約〇・二メートルないし〇・三メートルしか保たずに追い越し行為に出で、かつ、加害車の進路復元にあたり被害車の進行状況を確認しなかつたのであるから、本件事故発生につき、控訴人石川には、右注意義務に違反した過失があると認めるのが相当である。

(三)  右(二)の認定によると、控訴人石川は、民法七〇九条により、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務がある。

二  控訴人株式会社鈴木製板工場(以下控訴会社という)について、

(一)  本件事故当時、控訴会社が加害車を所有しており、控訴人石川が控訴会社に雇われ、同会社のため加害車を運転していたことは当事者間に争いがない。

(二)  右(一)と、右一認定の各事実によれば、控訴会社は加害車の運行供用者として、自賠法三条により、本件事故によつて生じた人的損害を賠償すべき義務がある。

第三過失相殺について、

一  道路交通法一八条一項、二七条二項、違反の過失に関して、

(一)  本件事故発生当時、被害車が、道路中央寄りを進行していたことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると、本件事故発生当時、本件事故現場付近の、被害車の進路前方の車道左側端に自動車が停止しており、これは控訴人石川も認識していたことが認められ、これに反する証拠はなく、この事実によると、被害車の道路中央寄りの進行は、亡寿治において、同車と停止車との接触を避けることにあつたものと推認され、かつ、そのため被害車が道路中央寄りに進行するであろうことは控訴人石川の容易に予想し得たところであるというべきであり、したがつてその結果控訴人石川としては右第二の一(一)4の認定のとおり、当時対向車がなかつたのであるから、加害車をして道路中央線から更に右に寄せ、これと被害車との横車間距離をもつととつて進行することが可能であつたことは明らかである。

(二)  右(一)認定の事項と、右第二の一(一)3認定の控訴人石川は被害車の追い越しにあたり、亡寿治に対して、加害車が被害車に接近したことを知らせるための警音器吹鳴等の措置をとつていなかつた事実にてらすと、亡寿治の道路の中央寄りの進行は格段非難さるべきではなく、(被害者が追い越され中急に右に進路を変えていないことは右第二の一(一)4認定のとおりである)、これを要するに亡寿治には、本件において相殺の対象とさるべき、道路交通法一八条一項、二七条二項、各違反の過失はないと認めるのが相当である。

二  ヘルメツト不着用の過失に関して、

本件事故当時施行されていた道路交通法には、一般道路におけるヘルメツト着用の義務が規定されていなかつたことは明らかであり、かつ右第一、第二の一(一)認定のような本件事故の態様によると、仮に本件事故当時亡寿治がヘルメツトを着用していなかつたとしても、これをもつて、同人に相殺されるべき過失があると認めることはできない。

三  右一、二により、控訴人らの抗弁はいずれも採用しない。

第四損害について、

一  亡寿治のもの

(一)  逸失利益

1 〔証拠略〕によると、亡寿治は本件事故当時六八才の健康な男子で、いわゆる同族会社である。酒類雑貨等販売を目的とする有限会社さとう屋の代表取締役であり、同会社から月額金五万円の給与を得ており、月金一万五、〇〇〇円を食費として家計に入れており、その同居家族は、妻の被控訴人佐藤みつと長男の被控訴人佐藤馨であり、同人らはいずれも右会社の取締役であつて同会社から月額給与を、前者は金五万円、後者は金四万円を各得ていることが認められ、これに反する証拠はなく、第一二回生命表によると六八才の男子の平均余命年数は一〇・〇九年であることが認められ、これらの事実を総合すると、亡寿治は、本件事故発生時からなお七年間、右給与額と同一収入を得ることができ、この間食費その他の生活費として右収入の四〇パーセント(月金二万円)を要するものと認めるのが相当である。

2 右1認定の事実を基礎にして、亡寿治の得べかりし利益の喪失額を、ホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除すると、次の算式により、その現価は金二一一万四、七四八円となる。

(50,000-20,000)×12×5.8743=2,114,748

(二)  慰藉料

右第一認定の亡寿治の、本件事故発生から死亡するまでの時間、受傷の程度、右第二の一、(一)認定の、本件事故の態様、右第三認定の本件事故発生についての、亡寿治の過失の不存在、右(一)1認定の事実から推認される亡寿治の社会的地位その他諸般の事情をしん酌すると、亡寿治の蒙つた精神的苦痛を慰藉するには、金三〇〇万円が相当であると認める。

(三)  相続等

1 被控訴人佐藤みつが亡寿治の妻として、その余の被控訴人らがいずれも亡寿治の子として、法定の相続分に従い亡寿治の遺産を相続したことは、控訴人らにおいて明らかに争わないから、これを自白したものとみなされる。

2 被控訴人らが、自賠法による保険金四九二万円の給付を受け、控訴会社から見舞金五万円を受領したことは当事者間に争いがない。

そこで、右(一)(二)の損害合計額金五一一万四、七四八円から、右受領額合計金四九七万円を控除(被控訴人らが控訴会社から医療費として金二万〇、〇三七円を受領したことは当事者間に争いがないところ、弁論の全趣旨によると、右金員は亡寿治の、右第一認定の受傷から死亡時までの医療費に充当され、同人の死亡にもとづく、右(一)(二)の損害の補填に使用されたものではないことが認められるので、同金員はこの控除の対象にしない)した残額金一四万四、七四八円を、右1の相続分に従つて分割すると、被控訴人佐藤みつは、その三分の一である金四万八、二四九円(円未満切捨)を、その余の被控訴人らは、その各二一分の二である、各金一万三、七八五円(円未満切捨)を、それぞれ相続したことになる。

二  被控訴人ら固有のもの

(一)  葬儀費用

1 〔証拠略〕によると、亡寿治の葬儀に関する費用として合計金六二万四、四五〇円を出捐したことが認められ、これに反する証拠はないところ、死者の遺族は早晩、自然死による葬儀費用の支出を余儀なくされるものであることに加え、右一(一)1認定の事実と弁論の全趣旨から推認される、亡寿治ならびに、その遺族である被控訴人らの各社会的地位等を総合すると、本件事故と相当困果関係のある葬儀費用としての損害額は、右のうち金二〇万円と認めるのが相当である。

2 ところで右1の葬儀費用は被控訴人佐藤みつ一人が出捐したとして、同被控訴人のみが、本訴請求をしているが、右1掲記の各証拠、その他本件に提出された全証拠によるも、同被控訴人の右単独支出を認めることができないから、葬儀費用のもつ、それは遺族として死者をとむらうために要する費用という性質と、現実に出捐者の負担部分の判然としない本件においては、これを遺族全体の損害として、被控訴人らの各相続分に応じて分割し賠償させるのが相当であると認めるところ、右一(三)1の相続関係にもとづき右1の金二〇万円を分割すると、被控訴人佐藤みつはその三分の一である金六万六、六六六円(円未満切捨)を、その余の被控訴人らは、その各二一分の二である各金一万九、〇四七円(円未満切捨)を、それぞれ取得したことになる。(死亡事故による損害賠償請求訴訟における訴訟物は一個であるから、葬儀費用につき本訴で具体的請求をしていない、被控訴人佐藤みつ以外の被控訴人らに対しこれを認容しても民訴法一八六条に違反しない)

(二)  慰藉料

右一(三)1認定の亡寿治と被控訴人らの身分関係から、被控訴人らのいずれもが、亡寿治の本件事故による死亡によつて多大な精神的苦痛を受けたことは推認に難くなく、この事実と、右一(二)認定の慰藉の額、その他諸般の事情をしん酌すると、その精神的苦痛を慰藉するには、被控訴人佐藤みつにつき金五〇万円、その余の被控訴人らにつき各金一五万円が相当であると認める。

(三)  弁護士費用

本件記録によると、被控訴人らが、弁護士松川昌蔵氏に対し本件訴訟の提起、それにもとづく第一審訴訟手続の遂行を委任したことは明らかであり、更に原審における被控訴人佐藤みつ本人訊問の結果認められる、本件訴訟提起に至つた事情、弁論の全趣旨により認められる、右委任に関しての、被控訴人らと右弁護士間における、被控訴人らは右弁護士に対しその手数料および謝金として、金七〇万円を、委任の目的を達成すると同時に支払う旨の契約の存在、それに、前記各認定の、被控訴人らの請求に対する当裁判所の認容額その他諸般の事情を総合すると、本件事故と相当因果関係のある、弁護士費用としての損害額は、被控訴人佐藤みつにつき金五万円、その余の被控訴人らにつき、各金一万五、〇〇〇円と、それぞれ認めるのが相当である。

三  認容額

右一、二によると、被控訴人らが控訴人らから賠償を求め得る損害等合計額は、被控訴人佐藤みつにおいて金六六万四、九一五円、その余の被控訴人らにおいて各金一九万七、八三二円となる。

第五結論

一  以上によると控訴人らは各自、被控訴人佐藤みつに対し金六六万四、九一五円およびこのうち右第四の二(三)の弁護士費用金五万円を除いた金六一万四、九一五円に対する記録上明らかな、本件訴状が送達された日の翌日である昭和四六年一〇月二二日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、その余の被控訴人らに対し各金一九万七、八三二円およびこのうち、右第四の二(三)の各金一万五、〇〇〇円の各弁護士費用を除いた各金一八万二、八三二円に対する、右同旨の同日から支払済に至るまで右同率による遅延損害金を、それぞれ支払う義務があるから、被控訴人らの本訴請求は控訴人らに対し、右の各金員の支払いを求める限度において理由があり、正当としてこれを認容すべく、その余は失当として棄却すべきである。

二  よつて右一と一部結論を異にする原判決を一部変更することとし、一、二審の訴訟費用について、民訴法九六条、八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言および仮執行免脱宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦克巳 伊藤俊光 佐藤貞二)

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