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仙台高等裁判所 昭和47年(ネ)29号 判決 1974年12月18日

控訴人(附帯被控訴人)

猪苗代薫

右訴訟代理人

勅使河原安夫

外一名

被控訴人(附帯控訴人)

日野恵子

右訴訟代理人

佐藤唯人

外一名

主文

本件控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

控訴人(附帯被控訴人)は、被控訴人(附帯控訴人)に対し、金二三万円及びうち金一八万円に対する昭和四五年五月一九日から、うち金五万円対する本裁判確定の日の翌日から、それぞれ支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。

被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴を棄却する。

訴訟費用中、附帯控訴費用は被控訴人(附帯控訴人)の負担とし、その余は一、二審を通じこれを七分し、その六を被控訴人(附帯控訴人)の、その一を控訴人(附帯被控訴人)の、各負担とする。

この判決は、被控訴人(附帯控訴人)勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

第一被控訴人の第一次的請求の請求原因中、控訴人が肩書地で、外科及び整形外科を主とした猪苗代病院を経営していること、被控訴人が、昭和四三年六月一五日、交通事故により左大腿骨々析(以下本件骨折という)、頭部、右拇指各擦過創の傷害を受け、即日同傷害治療のため右病院に入院し吉成医師の治療を受けたこと、右治療中、被控訴人の左足踵部及び左足背部に皮膚壊死の損傷(以下本件壊死という)が生じ、更にその治療を受けた結果被控訴人の左足踵部、左足背部、左右大腿内側、左臀部、右腓腸部、左腰部の七か所に合計七個の外傷瘢痕(以下本件瘢痕という)が生じ、これが残存していることは、当事者間に争いがない。

第二本件壊死及び本件瘢痕の発生についての、吉成医師と訴外前田秀也医師(以下前田医師という)の各過失の存否について。

一、吉成医師につき。

<証拠>によると、次の事実を認めるとができる。

(一)  被控訴人は前記猪苗代病院に入院後、先ず、外科で、前記頭部、右拇指各擦過創の治療を受け、同月一七日本件骨折治療のため、同病院整形外科に回付され、その当時同科医長であつた吉成医師の治療を受けることとなつた。

(二)  吉成医師は、被控訴人に対し本件骨折治療のため、いわゆる垂直牽引療法(そのうちの介達牽引方法・以下本件療法という)を採用したが、同療法は、整覆固定、機能回復を目的とし、牽引用ホームラバー(スピードトラック)で骨折した下肢の両側を挾み、その上に弾力性包帯を巻いてホームラバーを固定する一方、晒等をもつて患者の下腹部をベットに固定させたうえ、下肢を、ホームラバーの先端に取り付けた牽引枠を通じ、錘の重力によりベットと垂直方向(上方)へ牽引し、もつて大腿部の筋肉を緊張させて骨折部分の癒合をはかるもので、医学界では幼児の大腿骨々折の治療として一般的に用いられている方法である。

(三)  本件療法は、一般的に、下肢挙上により、下肢血圧低下並びに静脈血環流減少等の下肢の循環障害を惹起せしめ、これに基因して皮膚の栄養障害をもたらし、その結果皮膚壊死等の合併症を生ぜしめる危険性が相当高いものであることから、この危険を防止するためには、その実施上、前記ホームラバーを固定する包帯は下腿部分に均等の強さをもつて巻かれ、牽引力が下腿全体に分散して加わるようにすることと、牽引用錘は患者の臀部が若干ベッド面から浮上する程度の体位を保持するため、患者の体重の七分の一若しくは八分の一の重量のものとすること等が要請され、これが正規で、これを履践した場合は他に原因の存しない限り皮膚壊死等の損傷の発生は稀有である。

(四)  吉成医師は、右ホームラバーと包帯の中間に綿包帯を介巻し、錘は、被控訴人の体重が一五キログラムであつたため、当初は二キログラムのものを、同月一九日以降は骨折端の検査の結果三キログラムのものを、それぞれ使用したほかは、概ね、前記(二)のとおりの方法を講じている。

(五)  同月二二日頃、被控訴人の左足踵部及び左足背部に十円硬貨大の発赤が生じたため、吉成医師は、本件療法は従前どおりとして、同日から同月二七日まで右発赤部分にチンク油等を塗布してその解消につとめたが、これが治癒せず、同医師は同日被控訴人の治療担当を終え、同月二八日から訴外堀田英二医師(以下堀田医師という)がその担当者となつたが、その頃には、右発赤部分は症状が進行し一部水泡となり、かつ、左足部に腫張があり、更に右水泡部分の症状が進行し、同年七月一二日頃、本件壊死が生ずるに至つた。

(六)  本件療法において、前記ホームラバー固定用包帯が弛緩すると同包帯及び右ホームラバーが足首、足背部に集中し、その結果前記(三)の正規、妥当な牽引状態が失われて、牽引力による圧迫が足踵部、足背部のみに集中して加わることになるが、右弛緩は通常、患者がその体及び足を動揺させることも重要な原因であるところ、被控訴人は他の同年令の患者に比し身体の動揺度が高く、前記包帯の弛緩等が屡々あり、そのため堀田医師は、同年六月三〇日頃、包帯とホームラバーの中間に副木をあてるなどの工夫を試み、身体の動揺による包帯の弛緩とそのずれの防止に努めた。

(七)  前記包帯の弛緩が生じた場合、これを前記(三)の如き状態に復するための巻き直しをすることは、本件骨折治療目的に反しない範囲で容易であり、更に、前記(五)の発赤の発生段階でも被控訴人の身体の動揺に備えての包帯の巻き方、若しくは巻き直し時期等の改善は可能であり、それにより右発赤の悪化ひいては本件壊死を防止することが可能であつた。

(八)  前記(五)の発赤、水泡、本件壊死死の発生原因は、前記(三)のとおり、下肢挙上による下肢の血行減少であることのほか、前記ホームラバー固定用包帯が弛緩したため、牽引力による圧迫が被控訴人の左足踵部及び左足背部のみに集中的に加わつたことにあり、更に、右水泡が進行し、被控訴人の左足踵部及び足背部に存する血管分布及びその配列の異状と相まつて、本件壊死に至つたものである。

<証拠判断省略>

右認定の事実を総合して考察するに、本件療法は、下肢牽引(上方に)と、ホームラバー固定用包帯の弛緩に基づく同包帯の足首への集中により、同部分の皮膚に損傷を発生させる危険性が大であることにかんがみ、同療法施行担当者としては、常に、同包帯が弛緩しないようにするは勿論、弛緩が生じた場合は直ちにこれを巻き直す等して包帯が所定の状態を保持しているよう配慮し、下肢に、本件壊死につながる発赤、水泡の発生することを未然に防止すべき注意義務があるというべきところ、右は、前記の如くいずれもその履践が容易であるから、結局本件壊死の発生は治療担当者たる吉成医師が右注意義務を怠り、包帯が弛緩して被控訴人の左足踵部及び左足背部に異常な圧迫及び刺激が加わる状態を放置したまま本件療法を継続施行した同医師の過失に基因するものと認めるのが相当である。

もつとも、<証拠>によれば、吉成医師が被控訴人の治療を担当していた当時、看護婦らは被控訴人の付添人から包帯の弛緩した旨の連絡を受けて右包帯の巻き直しをしたことを窺い得るが(<証拠判断・省略>)、本件全証拠によるも、付添人からの右連絡が適切な時期になされた等の点については遂にこれを認めることができず、結局被控訴人の治療を担当する吉成医師としては付添人の連絡の有無にかわらず右判示のごとき注意をなすべき義務があるものというべく、これが義務の懈怠により前記の如く発赤、水泡ひいては本件壊死を惹起するに至つたものとみるのが相当である。

二、前田医師につき。

<証拠>によると次の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

(一)  本件壊死は前記の如く左足踵部及び左足背部に存し将来足関節部の拘縮等の機能障害を残すおそれがあるところから、右患部に皮膚移植手術を施すこととし、被控訴人は、同年八月一二日前記猪苗代病院において、前田医師により、本件壊死に対し、細菌感染防止傷閉鎖と肉芽を良好にする目的をも兼ねた皮膚移植手術を受けた。

(二)  前田医師は、右手術にあたり、移植用皮膚を当初被控訴人の左大腿部から剥離しようとしたが、その際、使用した皮膚剥離器(パージェット式)の刃の部分を皮膚に深く入れ過ぎて、移植に適する皮膚の剥離が不可能となつたため、この部分からの剥離を中止し、引き続いて被控訴人の右大腿部から皮膚を剥離したうえ、これを本件壊死部分に移植したが、結局癒着しなかつた。

(三)  被控訴人は、同年九月一四日から同年一一月二日まで岩手医科大学付属病院に入院し、同病院において、同年九月二四日、同年一〇月八日、同月二二日、皮膚移植手術を受け、更に同年一一月三日から同年一二月二六日まで、前記猪苗代病院に入院し右手術後の治療を受けたが、結局本件瘢痕が残存するに至つた。

右認定の事実によると、前田医師は、皮膚の移植手術の際の皮膚剥離にあたり要請される、皮膚剥離器の安全使用等の注意義務を怠つたものと認めるのが相当であり、したがつて本件瘢痕のうち、当初の左大腿部からの皮膚剥離により生じた一個の瘢痕の発生は、前田医師の過失に基因するものというべきである。

これを要するに、吉成医師の前示の如き過失により被控訴人の左足踵部及び左足背部に発赤・水泡を生ぜしめ、これが増悪して本件壊死を生じ前示の如き皮膚移植手術施行のやむなきに至らしめ、これに前田医師の皮膚移植手術上の前記過失も競合してその結果本件壊死部分及び右皮膚移植手術の結果生じた瘢痕、すなわち合計七か所の本件瘢痕を生ぜしめるに至つたものというべきである。

第三控訴人の帰責事由について。

一、吉成医師に関して。

吉成医師が、本件療法を施行した期間のうち、同年六月一七日から同月二七日までの間、控訴人の被用者であつたことは当事者間に争いがなく、本件療法が、控訴人の病院事業の執行々為であり、かつ、本件壊死が右事業の執行々為により生じたものであることは、前記第一のとおりである。

右事実によると、控訴人は吉成医師の行為につき民法七一五条による使用者としての責任を負担するものというべきである。

二、前田医師に関して。

<証拠>によると、前田医師は前記第二の二の皮膚移植手術当時、岩手医科大学付属病院に助手として勤務したが、堀田医師のすすめにより控訴人の依頼により、控訴人から報酬を受ける約束で、前記猪苗代病院所属の医師に代り、控訴人の指示を受けた後、前記第二の二の認定の如く、右病院内で、右移植手術を施行したことが認められ、これに反する証拠はない。

右認定の事実によると、控訴人と前田医師との間に雇傭契約関係はないが、同医師は控訴人の指揮監督のもとに、控訴人の医療業務を行い、控訴人は、その事業のため同医師を使用したものであり、かつ、本件瘢痕のうち左大腿部に存するもの(前記第二の二参照)が右事業の執行々為により生じたものと認めるのが相当であり、したがつて控訴人は、前田医師の行為につき、民法七一五条による使用者としての責任を負担するものというべきである。

第四抗弁について。

一、「許された危険」であるとして違法性が阻却される旨の主張につき。

一般的に、「許された危険」の法理が適用されるのは、社会生活上極めて有益な治療目的の達成をはかる、それ自体適法(無過失)な行為に、必然的に付随する、不可避的な医療侵襲がある場合であると解されるところ、本件についてこれをみると、前記第二の一の(三)認定のとおり、本件療法は、本件壊死等の、いわゆる、合併症を生じさせ易い性質を帯有するが、同項及び同(七)認定のとおり、その療法上、ホームラバー固定用包帯の、弛緩防止、巻き直し等を講ずることにより容易に右合併症の発生を阻止し得るものであるから、本件壊死は、本質的に、本件療法に、必然的に付随する、不可避的侵襲とはいえないのみならず、前記第二認定のとおり、主目的治療方法たる本件療法に違法な点(吉成医師に過失があるため)が存するから、本件につき、右「許された危険」の法理は、その適用の余地がないものといわざるを得ない。したがつて、この点に関する抗弁は理由がない。

二、選任、監督上の義務を履践した旨の主張につき。

本件につき提出された全証拠によるも、控訴人が、吉成、前田両医師に対する監督について相当な注意を払つていた事実を認めることができない。却つて、<証拠>を総合して認められる(これに反する証拠はない)、吉成医師は、岩手医科大学卒業後、同大学付属病院に勤務して整形外科を担当し、医学博士の学位を有し、同年六月当時、整形外科医として経験六年を有していたところ、控訴人は、昭和四二年一月頃から、同大学から、同医師を、いわゆる、優秀な人材であるとして推せんされた結果、雇用した事実、前田医師は、右大学を卒業後、前記第三の二認定のとおり同大学付属病院に助手として勤務する整形外科医であつたところ、前記第二の二認定の如き、猪苗代病院において、前記控訴人の依頼により皮膚移植手術を施行したのは、当時同病院の整形外科医長であつた堀田医師から控訴人が、前田医師は右手術につき、その手腕の面等で適任者であるとして推せんされた結果によるものである事実、控訴人は、右の如き、両医師を被用した経緯等から、両医師に対し全幅の信頼を寄せた結果、その各治療行為を一任していた事実、それに、前記第二認定の右両医師の過失内容を併せ考えると、控訴人は、右両医師に対し、その選任についてはともかく、その監督につき相当の注意を払つていなかつたものと認めるのが相当である。

したがつて、この点に関する抗弁は理由がない。

第五損害について。

一、逸失利益につき。

<証拠>によると次の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

(一)  昭和四六年二月当時における、被控訴人に存する本件瘢痕の部位、形状等は、次のとおりである。

1、左臀部に存するもの。

巾2.5センチメートル、長さ5.5センチメートル、楕円形で褐色色素を有する。

2、右大腿部内側中枢部に存するもの二個、

巾9.5センチメートル長さ六センチメートル、巾7.5センチメートル長さ1.5センチメートルで光沢を有する。

3、右下腿部中央部に存するもの。

巾、長さとも五センチメートルで、表面が平滑、軽い褐色の色素沈着を有する。

4、左大腿中央部に存するもの。

巾1.5センチメートル長さ一一センチメートル、辺縁不正の長方形で褐色を有する。

5、左大転子部に存するもの。

巾5.5センチメートル長さ六センチメートル、正方形で、辺縁のやや盛上つた褐色色素沈着を有する。

6、左側背部に存するもの。

直径約4.5センチメートルで、円形の辺縁がやや盛上つた褐色を有する。

7、左踵部に存するもの。

巾約4.5センチメートル長さ三センチメートル、楕円形の周辺がケロイド状に盛上つた褐色色素沈着を有する。

(二)  被控訴人は昭和三七年七月一七日生の女子であるところ昭和四六年二月当時、本件瘢痕の存在のため、同瘢痕部分に、寒冷時疼痛を覚え、かつ時折掻痒感があり、更に長距離歩行時や左足起立時に疲れ易い状態にあつた。

(三)  前記(一)の状態を有する本件瘢痕は、医学的に見て、身体機能の面では全く異状はなく、真の意味のケロイドではなく、いわゆる肥厚性のもので、数年の経過で、瘢痕部の隆起は平担化し、色素沈着も概ね、軽快となり、更に前記(二)の、疼痛、掻痒感は、右隆起の平担化等と共に数年の経過により、治癒し、また、歩行時障害は、両下肢の関節機能等の正常性により、数年の経過により消退する可能性が極めて大である。

右認定の事実を総合して考察すると、被控訴人が一八才に到達(稼働開始時)した段階における本件瘢痕は、概ね軽快、治癒し、機能面に全く影響のない、僅かの痕跡が残存するのみであり、かつ、その痕跡自体も、その部位からいつて、通常の女性の社会活動(労働も含む)上、平素、それが外部に露呈されるものではないから、女性であることを考慮し、一応、外観に存する醜状とはいえ、通常、一般的な労働におけるその稼働能力には、なんらの影響を与えるものではないと認めるのが相当である。<証拠判断・省略>

右によると、本件瘢痕は、被控訴人の将来における稼働能力の減退を生ぜしめる後遺症とはいえないから、被控訴人は得べかりし利益の喪失による損害賠償債権を有せず、したがつて、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人のこの点についての請求は理由がない。

二、慰藉料につき。

<証拠>によると、被控訴人は、本件壊死の治療のため、前記第二の二の(三)の各入院のほか、前記猪苗代病院に、昭和四三年八月一〇日から同年九月一三日まで入院し、昭和四四年一月から同年六月まで通院したこと、被控訴人は、本件瘢痕による羞恥心から、脱衣等を要する小学校での体育の時間等は、概ね見学に廻つていること等の事実が認められ、これに反する証拠はなく、右事実に、前記一の(二)認定の各障害及び同(三)認定の、将来長期残存する本件瘢痕の痕跡、その他諸般の事情を併せ考えると、本件瘢痕により、被控訴人に精神的苦痛が存することは推認に難くなく、これを慰藉するには、金一一〇万円が相当であると認める。

三、過失相殺につき。

本件療法において、前記ホームラバー固定用包帯が足首に集中する原因となる、その弛緩は、患者がその身体を動揺させることが重要な原因であるところ、被控訴人は、本件療法中、他の同年令の患者に比し、身体の動揺度が高かつた事実は、前記第二の一の(六)認定のとおりであり、更に<証拠>によると、吉成医師その他前記猪苗代病院の看護婦は、本件療法中、再三、被控訴人及びその付添人に対し、被控訴人がその身体を動揺させないこと、前記包帯が弛緩した場合は直ちに、右医師、看護婦にその旨連絡するよう指示していたことが認められ、これに反する証拠はない。

右認定の事実によると、被控訴人及びその付添人は、吉成医師の右指示に従わず、安静を保持せず、また安静を保持させず、一般的にいわれる医師のなす治療に協力すべき注意義務を懈怠したものと認めるのが相当であり、この過失は、本件壊死に基づく本件瘢痕の発生の一因をなすものというべきであるところ、前記認定の被控訴人の年令、吉成、前田両医師の過失内容、程度その他諸般の事情を総合すると、被控訴人と古成、前田両医師の過失割合は、前者が一〇パーセント、後者が九〇パーセントと認めるのが相当である。

右によると、被控訴人の前記二の慰藉料額は金九九万円となるところ、被控訴人は、本訴において、自賠責保険から受給した金八一万円を控除した残額を請求しているから、結局、右慰藉料の残額は金一八万円となる。

四、弁護士費用につき。

弁論の全趣旨によると、被控訴人が、本訴の提起、追行を、原審において弁護士小笠原一男に、当審において同弁護士及び弁護士佐藤唯人に各委任したことが認められる。

ところで、本件事案の内容及び訴訟追行の難易の程度等を考慮すると、被控訴人が本件につき弁護士を代理人として委任したことは相当であり、本件事案の難易の程度、前記三の本件認容額その他の事情を総合すると、本件壊死、同瘢痕による損害として控訴人の負担に帰せしむべき弁護士費用は、全体として、金五万円が相当であると認める。

第六結論

以上によると、被控訴人の本訴請求は、合計金二三万円及びこのうち、右弁護士費用を除いた金一八万円に対する、記録上明白な、本件訴状送達の日の翌日である、昭和四五年五月一九日から、右弁護士費用金五万円については、その支払時期の存在についての、被控訴人の主張、立証がなく、かつ、通常は、委任事務の終了が確定した裁判確定の日に弁済期が到来するものと解するのが相当であるから、これに対する、本裁判確定の日の翌日から、それぞれ支払済に至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において正当であるからこれを認容すべきであるが、その余は失当としてこれを棄却すべきである。

よつて右と一部結論を異にする原判決は一部失当であるから、本件控訴に基づき原判決を変更し、附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民訴法九六条、九五条、八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき、同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(井口源一郎 伊藤俊光 佐藤貞二)

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