仙台高等裁判所 昭和49年(ツ)6号 判決 1974年5月13日
上告人
紺野建設株式会社
右訴訟代理人
長田弘
被上告人
平和信用株式会社
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人長田弘の上告理由第一点について《省略》
同第二点について
前所有者から土地の譲渡を受けてその所有権を取得した者(現所有者)が右土地をそれ以前から占有する者に対してその所有権に基づいて明渡を求めた場合において、右占者有が抗弁として賃借権の存在を主張しようとするときは、一応前所有者との間に賃貸借契約の存在することを主張立証すれば足りるのであるが、現所有者が賃借権取得の対抗要件の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者であることを主張立証したときは、占有者はさらに右対抗要件の存在を主張立証する責任を有するものと解すべきである。
これを本件についてみるに、原判文によると、被上告人は、本件土地はもと訴外金子与十郎の所有であつたが昭和四六年一〇月二九日競落によりその所有権を取得し、同年一一月四二四日その旨の登記を経由した(このことは当事者間に争いがない。)ところ、上告人は被上告人の承諾なく本件土地を使用収益しているとして上告人に対し本件地上物件の収去と本件土地の明渡を求め、上告人の主張する前所有者との間の土地賃借権を争つていることがうかがわれる。
右主張の全趣旨からみると、被上告人は、本訴において右賃借権につき対抗要件の欠缺を主張する利益を有する第三者であることを暗黙裡に主張立証しているものとみることができるから、上告人は、その主張する賃借権につき対抗要件を具備していることの主張立証責任を負うこととなつたものというべきである。原判決には、所論のような主張立証責任の分配を誤つた違法はない、論旨は理由がない。
同第三点について《以下、省略》
(佐藤幸太郎 田坂友男 佐々木泉)
<参考> 上告理由
第二点 原判決は上告人の土地賃借権の主張について、その登記についての主張立証がないことを理由にこれを排斥したが、これは主張立証責任分配の原則を誤つたものであり、違法である。
すなわち上告人は、本件土地につき昭和四二年一〇月ころ前所有者金子与十郎の代理人金子与志博との間で賃貸借契約を締結して、その引渡しを受けたことを理由に賃借権の主張をしたところ、原判決は、その賃借権が本件土地の所有権を取得した被上告人に対抗しうるものであること(上告人のため、被上告人の本件土地所有権取得登記に先んずる賃借権の登記があること)については何ら主張立証がないから、上告人が金子与十郎から本件土地の賃借権を取得したか否かの点を判断するまでもなく、賃借権の主張は理由がないと判示した。
しかし、賃借権の登記は第三者に対する対抗力を付与するものであるが、その点については一般の不動産物権に関する登記と異なるところはないものというべく、さすれば登記の主張立証責任は、物権変動を生じたことを主張する者になく、かえて相手方において登記のないことを主張立証しなければならないとすると同様に解すべきである。したがつて本件の場合においても、もし登記について主張立証がなければ、その不利益は被上告人が負うべき筋合いのものであり、原判決がこれと異なる判断をして上告人の主張自体を退けたのは、主張立証貴任に関する法律の解釈を誤つた違法があるといわざるをえない。