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仙台高等裁判所 昭和50年(ラ)40号 決定 1975年8月05日

抗告人 中川製袋化工株式会社

訴訟代理人 三島卓郎 柳沼一男

主文

一、抗告人中川製袋化工株式会社の抗告を却下する。

二、原決定を取り消す。

本件を仙台地方裁判所へ差し戻す。

理由

一、本件抗告の趣旨および理由は、別紙記載のとおりである。

二、まず、抗告人中川製袋化工株式会社の抗告の適否について考えるに、同抗告人は、後記認定のように抗告人柳沼一男から最高価競買人の地位の譲渡を受けた者に過ぎず、他に競売法三二条、民訴法六八〇条所定の抗告権を有することを認めるに足りる資料はないから、同抗告人の本件抗告は不適法として却下すべきものである。

三、そこで、抗告人柳沼一男の抗告理由について考える。

当裁判所は、競売手続における最高価競買人の地位は、その性質上一身専属的なものではないのであるから、最高価競買人は競落期日までにその権利義務を第三者に譲渡しうるものであり、競売裁判所も譲渡人および譲受人において右譲渡の事実および右譲受人においてその権利義務を引き受けたことを証明し、かつ、その旨の陳述をしたときは、右譲渡が利害関係人の利益、競売手続の公正を害するなど特段の事情のない限り、右譲受人をもつて競落人と定めることを要するものと解する。

本件についてこれをみるに、一件記録によると、昭和五〇年七月四日の本件競売期日において抗告人柳沼一男が原決定添付の物件について最高価競買人と定められたところ、競落期日前である同年七月九日同人は右最高価競買人の地位を抗告人中川製袋化工株式会社に譲渡し、右両名は遅くともその頃までにその事実を証明する契約書(右譲受人において一切の権利義務を承継する旨の記載がある。)を添付して原裁判所に届け出たにもかかわらず、原裁判所は、前記特段の事情の存否について特に考慮を払うことなく、同年七月一〇日譲渡人たる抗告人柳沼一男を競落人と定めて原決定を言い渡したことが認められる。

しかしながら、前述したところから明らかなように前記特段の事情のない限り、本件においては抗告人柳沼一男に対して競落を許すべからざるものであり、右事情の存否を審査しなかつた原決定はこの点において違法というべきである。よつて原決定を取り消すこととし、右特段の事情の存否についてさらに審理を尽させるため本件を原裁判所に差し戻すこととする。

四、右の次第で、民訴法四一四条、三八三条、三八六条、三八九条を各適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 佐藤幸太郎 裁判官 田坂友男 裁判官 佐々木泉)

別紙

抗告の趣旨

原決定を取消し、更に相当の裁判をせられるよう求める。

抗告の理由

一、仙台地方裁判所昭和五〇年(ケ)第五号不動産競売事件につき、昭和五〇年七月四日競売期日が開かれ、抗告人柳沼一男が最高価競落人となつた。

二、抗告人柳沼一男は、昭和五〇年七月九日、右最高価競落人たる地位を、抗告人中川製袋化工株式会社に譲渡した。

而して、右の譲渡契約の内容は別紙記載のとおりである。

三、抗告人両名は、昭和五〇年七月九日、同日付上申書にもとづき前項の契約書を添えて、仙台地方裁判所に対し、右不動産競売事件につき抗告人会社に対し競落許可決定を下されるよう上申した。

なお、抗告人会社代理人は、昭和五〇年七月一〇日、午前一〇時、右不動産競売事件の競落期日に、右上申書にもとづき陳述するため仙台地方裁判所に出頭した。

四、しかるに仙台地方裁判所は、右同日、抗告人柳沼一男に対し競落許可決定をなした。

五、しかし最高価競落人たる地位が、競落期日までに譲渡し得ることは判例通説の認めるところである(岩松三郎、競売法二二頁。斎藤秀夫、競売法一五九頁。競売手続研究会編、競売手続実務録、七〇五頁。大阪地裁昭和三八年一二月一一日判決、判例タイムズ一六一号一六六三頁。なお仙台地裁の前例としては、同地裁昭和四一年(ケ)第一〇三号事件の事例、その他)。

六、仍つて、抗告人会社は利害関係人兼最高価競落人たる地位の譲受人として、抗告人柳沼一男は競売期日に最高価競落人となつたものとして、それぞれ前記申立の趣旨の如き御裁判を求めるため本申立に及ぶ次第である。

別紙

競落人の地位の承継契約書

柳沼一男を甲、中川製袋化工株式会社を乙とし競落人の地位の承継に関し以下のとおり契約する。

第一条 甲は末尾表示の競落物件(仙台地方裁判所昭和五〇年(ケ)第五号不動産任意競売事件)を昭和五〇年七月四日金三、〇五〇万円也で競落したが、乙は本契約締結により甲の最高価競買人たる競落人の地位を承継し乙は代金支払義務を引受けるものとする。

第二条 甲は本契約により昭和五〇年七月四日仙台地方裁判所に納付した競落保証金三〇五万円也の保証金取戻請求権は乙に帰属することを確認するものとする。

第三条 甲、乙双方は裁判所の指定した競落期日に出頭し競落人の地位の承継があつたこと、及び乙は保証金の取戻請求権者であること並びに買入代金の納付の義務あることを陳述しなければならない。

第四条 裁判所より競落許可を受けたとき乙は相違なく買入代金として保証金を控除した金二、七四五万円也を裁判所に納付しなければならない。

第五条 乙は競落物件の現状をすべて了知し本契約を締結するもので本物件に関し後日いかなる苦情をも甲に対し申立てないものとする。

右契約の成立を証するため本証書弐通作成し当事者それぞれ記名捺印の上各自一通所持するものとする。

昭和五〇年七月九日

譲渡人(甲) 名取市名取ケ丘四丁目二番五号

柳沼一男

譲受人(乙) 広島県大竹市港町一丁目五番一号

中川製袋化工株式会社

右代表取締役 中川兼人

宮城県名取市手倉田字小山六〇五の二

中川製袋化工株式会社仙台出張所

右代理人所長 中田義恵

物件の表示

仙台市南小泉字三寿美田二番五七

一、宅地 四九参平方米

同所同番

家屋番号二番五七

木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建居宅

一階 壱弐九平方米壱八

外二階 参八平方米〇九

附属建物

コンクリートブロツク造陸屋根亜鉛メツキ鋼板葺平家建機械室

四平方米弐参

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