仙台高等裁判所 昭和54年(ラ)48号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
一本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す。本件競落はこれを許可する。」との決定を求めるというのであり、その理由とするところは次のとおりである、
(一) 標記競売事件の昭和五四年六月一一日の競売期日に、目的不動産につき抗告人が最高価競買人となつたのに、原裁判所は同月二五日、民訴法六六四条の規定に反する違法があつたとして、抗告人に対し本件の競落を許可しない旨の決定をした。
(二) しかし、抗告人は右期日で競売開始が宣せられた直後、担当の大塚勇雄執行官に対し、準備して来た金一〇〇万円のうちの五〇万円(因みに、前記最高価競買申出価額は四四七万二二〇〇円であつた)と住民票の写を預けようとしたところ、同執行官において「お金を持つているのはわかつた。金は競売が決つたときでよい」と告げたためこれを預けないまま競買価額申出をなし、最高価競買人となつてからその場で直ちに同執行官に四四万七二二〇円を預けたのである。
(三) 福島地方裁判所郡山支部では、過去四年余の間、予め保証金を預託しないで競売が実施される慣行となつていた。
(四) 競売法により準用される民訴法六六四条は、いわゆる競買保証金を「直ちに執行官に預くるときに非ざれば其競買を許さず」と定めている。右法条の趣旨は、いわゆる空競買を防止することであり、せりが実質的支払能力に裏づけられて行われることを担保せんとするにある。右の法意からみるとき、右裁判所支部での競売手続は、金銭の所持を確認してなされているのであるから、少なくとも実質的違法性を有するものではない。右法条は「直ちに……預くるときに非ざれば」と規定していて「予め……預くる……」と定めているものではない。「直ちに」とは、時間的に競買の申出と保証金の預託が前後することを許容しているものと解すべきであり、競買申出後に保証金を預託することも適法というべきである。
(五) 国民訴法六六四条の法意が仮に「予め」保証金の預託を命じている趣旨であるとしても、前記裁判所支部の競売の実状ならびに法文の趣旨からするときは、本件の場合は同条違反の程度は極く僅かなものであり、同法六七二条八号にいう、同法六六四条に違背して最高価競買人なりと呼上げたること、には未だ該当しないとみるべきである。
二よつて審按するに、本件記録及び抗告代理人提出の書証によれば、本件につき抗告理由(一)、(二)のとおりの事実を認めることができるほか、右競落不許可決定は利害関係人菅野正輔から本件競売手続につき民訴法六七二条八号に該当する違法があるとの異議申立に基づき、右異議の申立を正当と認めてなされたものであることが明らかである。
民訴法六六四条が競買申出人に保証の預託義務づけているのは、最高価競買人が競落代金を支払わず再競売になる場合、この保証を再競売価額の不足額及び手続費用負担義務履行の担保となし、もつて最高価競買人の義務不履行を予防し、競売を確実なものにすることにあり、この意味では、最高価競買人のみに保証を預託させるだけで足りるかの如くであるが、同時に、真実競買意思をもたない、いわゆる競買ブローカー等を可能なかぎり排除して公正妥当な競売価額を形成せしめる目的をも併有していると解すべきであるから、競買の申出をしようとする者は、申出に先き立ち、もしくは申出と同時に(これが「直ちに」の趣旨である)所定額の保証を執行官に預けなければならないのであり、これを徴さないで競売を実施し、最高価競買人なりと呼上げたうえで保証預託させた場合にはこの目的が達せられないことが明らかである。したがつて、本件の場合は競落の許可につき民訴法六七二条八号に該当する違法があるから、同法六七四条一項に則り抗告人につき競落を許さないものとした原決定は相当である。
(田中恒朗 武田平次郎 小林啓二)