仙台高等裁判所 昭和55年(ネ)262号 判決 1980年12月25日
主文
一 原判決主文第一項中、被控訴人の本訴請求を金二四万〇三二〇円及びこれに対する昭和五一年三月一日から完済まで年五分の割合による金員を超えて認容した部分を取消す。
二 右取消部分につき、被控訴人の本訴請求を棄却する。
三 原判決主文第三項を次のとおり変更する。
1 被控訴人は控訴人に対し金二四万五九六三円及びこれに対する昭和五一年三月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 控訴人のその余の請求を棄却する。
四 その余の本件控訴を棄却する。
五 訴訟費用は、第一、二審を通じ、本訴、反訴ともこれを五分し、その三を被控訴人の、その余を控訴人の、各負担とする。
六 この判決は、第三項一及び前項に限り、確定前に執行することができる。
事実
控訴人は「本訴につき、原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。反訴につき、被控訴人は控訴人に対し金五一万二三〇三円及びこれに対する昭和五一年三月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」との判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠関係は、左記を付加するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴人の主張
(本訴について)
1 本件は右折車が直進車の進路を妨害したため起きた事故で、直進車の運転者である控訴人に責任はないのに、偶々控訴人に酒酔い運転が認められたという弱身があつたため、訴を提起されたものであるが、右酒酔いと本件事故との間に因果関係はない。
2 自動車の保有者と運転者との間に親族というような密接な関係があり一体と認めることができる場合には、その運転者の運転上の過失は、その者が保有者でなくても、保有者側の過失として過失相殺の事由とするべきである。また本件事故は後記4のとおり控訴人自身の過失も加つて起きたものである。したがつて、控訴人に被控訴人の本件事故による損害を賠償すべき義務があるとしても、その賠償額の算定に当つては右各過失が斟酌されるべきである。
(反訴について)
3 被控訴人は実弟である斉藤政夫が運転未熟のため、その運転を直接指揮していたところ、同人が本件事故地点で右折することを躇躊していたのに「ゴー」と発進の合図をし、同人がその合図に従つて右折したため本件事故となつたのであるが、被控訴人が右折可能と判断して発進の合図をしたこと自体過失であるから、共同不法行為責任を免れることはできない。
4 民法七一五条にいう使用者は必ずしも雇傭関係上の使用者であることを要するものではなく、広く他人を指揮監督して自己の仕事を実行させる関係にある場合をも包含するものと解すべきであるから、被控訴人は本件事故に関しては斉藤政夫の使用者であり、同条一項の責任を負うべきである。
二 証拠〔略〕
理由
一 当裁判所は主文第一項の限度において被控訴人の本訴請求を相当と認定判断するが、その理由は左記1ないし6のとおり補正するほか原判決の理由第一と同一であるから、これを引用する。
1 原判決六枚目裏一行目の「甲第四号証」を「甲第四号証の二、四、六」と、同五行目の「甲第四」を「甲第四号証の二ないし六」と各訂正する。
2 原判決七枚目表四行目の「入口前」の次に「より手前」を加え、同七行目の「あるのでその接近前に右折横断できるものと考え」を「あり、同車も右「どさんこ」構内へ左折進入するものと軽信し、」と改める。
3 原判決七枚目裏二行目の「払ろず」を「払わず」と訂正し、同行の「直進」の前に「減速しないで」を加え、同五行目の「帯び」を「帯びが認められ、」と訂正し、同行の「時刻」から同七行目の「しており、」までを削る。
4 原判決八枚目表五行目の「直進車」の前に「控訴人の前記酒気帯びは右注意義務の懈怠の一因となつていることが認められ、」を加える。
5 原判決八枚目裏七行目の「そして、」の次に「後記第二の一に認定するとおり斎藤政夫は被控訴人の自動車運転業務につきその被用者の立場にあつたものであるから、その過失は被害者側の過失として損害額の算定に斟酌されるべきである」を加え、同行の「斎藤政夫は」以下同九枚目表三行目までを削る。
6 原判決九枚目表一一行目の「心棒の曲りのため」から同一二行目末尾までを「被控訴人車は下取車として四〇万円と評価され、新車の車両価格(事故車の車両価格と同一。)金一一一万二〇〇〇円との差額七一万二〇〇〇」と、同末行の「右認定に反する」から同枚目裏一行目の「信用しない。」までを「被控訴人本人尋問の結果中右の認定に反する部分は前掲甲第二号証と対比して、また控訴人本人尋問(第一回)の結果中右の認定に反する部分は伝聞にすぎないことにより、いずれも措信し難く、他に右の認定を左右するに足る証拠はない。」と、また同三―四行目の「相当であると認められ、右差額七七万円」を「相当と認められるが、被控訴人車は購入時から本件事故時までに一か月余り使用されたのであるから、その本件直前の価額は、少くとも購入価格よりも一割を減価すべきものと認めるのを相当とする。従つて、新車価格から一割を減じた金一〇〇万〇八〇〇円から下取価格を差引いた金六〇万〇八〇〇円が被控訴人の損害額と算定されるところ、前示過失相殺により、右のうち金二四万〇三二〇円」と、それぞれ改める。
二 次に、当裁判所は主文第三項1の限度において控訴人の反訴請求を相当と認定判断するものであり、その理由は左記1、2のとおり補正するほか原判決の理由第二と同一であるから、これを引用する。
1 原判決九枚目裏一二行から同一〇枚目表四行目までを削り、同個所に左記を加え、同五行目の「しかし」を「また」と、同七行目の「認められる」を「前記認定のとおりである」と、同行「つき」を「ついては」と、同八行目の「自賠法第三条の」を「自賠法第三条によつても賠償」と、同一〇行目の「人損」を「損害」と各改める。
「前記甲第一号証、第四号証の六並びに原審における証人斎藤政夫の証言及び被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は福島県双葉郡富岡町から当時の住所である同県相馬市中村の自宅に連絡して、弟の斎藤政夫に自己所有の自動車を運転して迎えに来させ、これに同乗して自宅に戻る途中本件事故が起きたこと、斎藤政夫の運転経歴は免許取得後半年位で浅かつたため、運転経験の長い被控訴人が助手席にあつてその運転に気を配つていたもので、現に本件事故の直前にも政夫に対し「ゴー」と合図して発進の指示をしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。右事実によると、被控訴人と右斎藤政夫との間に、被控訴人の自動車運転業務につき民法七一五条一項にいう使用者・被用者の関係が一時的に成立していたものというべく、同項但書の主張立証のない本件においては、被控訴人は同項本文の規定により斎藤政夫が前記過失により控訴人に与えた損害を賠償する義務があるといわなければならない。
2 原判決一〇枚目裏一二行目の「認められるが、」を「認められる。」と改めて、以下三行を削除し、同一一枚目表四行目の「総所得」を「総所得金額」と訂正し、同六行目の「仕事ができず、」以下四行を「仕事ができなかつたことが認められる。従つて右総所得金額は一一か月の稼働によつて得られたものであるところ、控訴人は右同年三月中の休業に因り右総所得金額の二二分の一に当る金三万一二七二円の所得を得ることができず、同額の損害を被つたものと推定することができる。右の推定額を超えて控訴人の休業に因る損害を認めるに足る証拠はない。」と改め、同一〇行目の前に左記を挿入する。
「(四) 自動車の運搬・修理費
成立に争いのない甲第四号証の二、乙第一、第二号証及び原審における控訴人本人尋問の結果(第一回)によれば、本件事故により控訴人所有の車両(福島五五ほ五八七三号)の左前照灯、バンバー、ボンネツト、グリル等が破損したこと、右車両を自動車修理工場までクレーン車を使用して運搬するために金三万六〇〇〇円を、同車両の修理費として金四〇万円を支出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
(五) 以上(二)ないし(四)の控訴人の損害額を合計すると金五〇万二六九六円となるところ、前示過失相殺の結果、右のうち被控訴人の負担すべき損害額は金三〇万一六一七円であり、これに前記慰藉料額を合算した金三六万〇四一七円が、被控訴人の控訴人に支払うべき損害金の総額である。」
三 以上認定判断したところによると、被控訴人の本訴請求は、控訴人に対し金二四万〇三二〇円及びこれに対する本件事故の翌日である昭和五一年三月一日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるが、その余は失当として棄却すべきであり、控訴人の反訴請求は、被控訴人に対し金三六万〇四一七円及びこれに対する本件事故の翌日である前記の日から完済に至るまで前記割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるが、その余は失当として棄却すべきである。
してみると、本件控訴は一部理由があるからこれと異る原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 大和勇美 石川良雄 宮村素之)