大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和55年(ラ)114号 命令 1981年2月03日

抗告人

株式会社 前岡

主文

本件抗告状を却下する。

理由

右抗告状の作成名義人欄には「東京都江戸川区長島町一五六九番地一、株式会社前岡」との記載があるのみで、代表者名の記載がないから、右は適式な申立書であるとはいえない。

職権をもつて調査・探知した結果、以下の事実が明らかとなつた。すなわち、

1  右抗告状は郵便提出にかかるものであるが、本件競売事件の債務者兼物件所有者である株式会社前岡の本店所在地は前記の東京都江戸川区長島町一五六九番地一、その送達場所は千葉県市川市宮久保三丁目三番一一号であるから、右会社自体から本件抗告状の提出がなされたとすれば、通常は東京都内または千葉県内の郵便局扱となる筈であるのに、その封書には「福島花園町」局の消印が押捺されている。

2  本件とは別の仙台高等裁判所昭和五五年(ラ)第九六号事件記録によれば、福島地方裁判所同年(ケ)第四六号宅地建物競売事件について言渡された競落許可決定に対し、その債務者兼物件所有者たる「ひまわり実業株式会社」名で即時抗告状が提出され、六〇〇円の収入印紙を貼用すべきところ一〇〇円不足していたため、右不足額の納付命令がなされたのに対し、同会社代表取締役高橋仁一郎名で、要旨「同会社は右抗告申立をしたことはなく、むしろ右競売事件のすみやかな終了を望んでいる。」旨の上申書が提出された。右抗告状にも代表者名の記載はなく、一方本件抗告状も貼用印紙額が一〇〇円不足している。

3  右二通の抗告状の各会社名下に顕出されている「代表取締役印」と刻された丸印は同一のものであると認められ、また抗告の理由欄にはいずれも「記録精査の上おつて追完する」と全く同一の文言が記載されている。

4  右両事件とも福島市<省略>に住所を有するAが競落人となつており、納付済の保証金を控除すれば、競落代金として本件については三八五万〇二〇〇円、別件については九〇〇万円を納付すべきこととなつている。

5  同人が仙台・福島両地方裁判所管内の多くの競売事件で競買申出人または競落人となり、しばしば即時抗告をなし、抗告棄却の決定を受けている者であることは当裁判所に顕著な事実である。

以上の各事実を総合すると、本件抗告状は競落人たるAが株式会社前岡の名を藉りて作成提出した不適式かつ違法な文書であると推認すべきものであり、本件抗告申立の無権代理行為が同会社によつて追認される見込もなく、したがつて同会社に対し貼用印紙不足額一〇〇円の納付を命ずる余地もないと認められるから、直ちに本件抗告状を却下することとし、民事訴訟法四一四条、三七〇条、二二八条二項に従い主文のとおり命令する。

(田中恒朗)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例