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仙台高等裁判所 昭和59年(ネ)256号 判決 1986年10月29日

控訴人

阿部連造

控訴人

阿部信也

右両名訴訟代理人弁護士

川原悟

川原眞也

新里宏二

被控訴人

遊佐弘義

被控訴人

武田正

被控訴人

今野昇

被控訴人

菅原孝行

被控訴人

中村安三

右五名訴訟代理人弁護士

八島淳一郎

手島道夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴代理人は、当審において、後記の限度に請求を減縮し、「原判決を取り消す。被控訴人らは各自、控訴人らのそれぞれに対し、金五二万三七一四円及びこれに対する昭和五四年五月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員並びに昭和五四年一月一日から、被控訴人らが原判決添付第一目録記載の土地(甲地)の通行を廃止するまで、毎年一二月未日限り、年額金一四万二八五六円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠の関係は、次項以下のとおり、当審における補足主張を追加し、当審における証拠関係が当審記録中の証拠目録のとおりであるほかは、原判決の事実摘示(ただし、当審における請求の減縮に伴い、請求の原因5中、「よつて」以下を「よつて、控訴人らは、民法二一二条に基づく償金として、被控訴人ら各自に対し、右損害金相当の通行料一八三万三〇〇〇円を各自の共有持分七分の二に按分した金額である五二万三七一四円及びこれに対する訴状送達の翌日以後の日である昭和五四年五月一二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金及び昭和五四年一月一日から、被控訴人ら各自が甲地の通行を廃止するまで、毎年一二月未日限り、損害金相当の通行料年額五〇万円を前記共有持分に按分した年額金一四万二八五六円の割合による金員の支払を求める。」に、本文中及び添附図面中の「別紙図面」をいずれも「この判決添附の別紙図面(一)」に、原判決四枚目裏一〇行目の「道路のうち別紙図面④、⑨を」を、「道路を連絡する道路として別紙図面(一)の④と⑨を」に、同九枚目表四行目の「きよ乃」を「キヨノ」に、それぞれ改め、同表六行目の「乙第二二号証、」の次に「第二七号証、」を加える。)のとおりであるから、ここに、これを引用する。

三  控訴人らの補足主張

1  控訴人らが共有持分を有する甲土地は別紙図面(一)(原判決添附)の①から⑧に至る部分の全部及び⑧から⑨に至る部分のうち東側の一部であり、それはこの判決添附の別紙図面(二)のの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分(以下、土地の範囲はその区画線上の地点の符号を列記し、例えば、線内の部分の如く、また、区画線分は、その線分上の地点を列記し、例えば、線の如く表示する。)であり、そのうち、仙台市台原三丁目五番一(以下、土地の表示は単に地番のみで表示する。)は別紙図面(二)のないし、ないし線内の部分、五番四四土地は同図の線内の部分である。

2  別紙図面(二)中の甲土地に接する部分のうち、線内の部分は五番四三に、同線内の部分は五番四二に、同線内の部分は五番四一に、同線内の部分は五番四〇に、同線内の部分は五番三九に、同線内の部分は五番三八に、同線内の部分は五番四五に、同線内の部分は五番四六に、同線内の部分は五番四七に、各該当する。

3  訴外会社(鈴勝木材株式会社、商号変更後の株式会社スズケン)が甲土地を道路として開設した目的は、甲土地を含むA土地(旧五番土地のうち分筆後の五番一及び三八ないし四七に該当する部分、その余の部分はB土地)の一部を宅地に造成して分譲するためであつて、従前から居住する住民の通行の利便に供するためではないのであり、かりに、訴外会社が被控訴人ら主張の如く、従前存したという旧道路に代わる新道路をつけ換え、甲土地のうち右新道路部分を無償で通行することを、被控訴人らを含む附近住民に約束し、或は訴外会社が右の経緯のもとに控訴人らを含む本件共有者に甲土地を贈与したものとしても、その故に控訴人らがその約束に拘束されるいわれはないし、また、右の事情は控訴人らが無償通行を認めたり、受忍したりすべき根拠とはなりえない。

4  甲土地からその西側に通ずる西側道路部分の地形と幅員の関係から、別紙図面(一)の①点の東側に所在する公道から甲土地内に進入した大型車両が同図の⑭点附近まで進み、そこに被控訴人遊佐が設置した車止の所で方向転換するほかはなく、また控訴人らからの下水が一部被控訴人らの所有地内を通過して流れているとしても、甲土地内にも従前から附近住民の一部のための上水道管、ガス管等が埋設されていることを勘案すれば、右の事実によつては、控訴人らが被控訴人らの甲土地の無償通行を受忍すべき根拠はない。

5  控訴人らは、昭和四六年から昭和五〇年まで、甲土地の固定資産税六万七五〇〇円を納付し、昭和五七年八月三一日には甲土地を測量して境界線を復元し、昭和四六年から昭和五九年にかけて砂利等を購入して甲土地の補修を継続し、控訴人連造自からそのための労務を提供する等して甲土地の維持管理を続けて今日に至つており、これに要した費用は百数十万円に達する(甲第七号証、八号証の一ないし五)。甲土地の管理に要した費用と将来の管理に要する費用は、囲繞地所有者が受ける損害又は損失であり、「囲繞地の所有者に他人の通行を受忍させ、土地利用の事実上の制約を加える見返りとして、これによつて囲繞地所有者が蒙る損害又は損失を通行権者に賠償、負担させ、両者間の公平を図ることを意図」(原判決二〇枚目表三行目から八行目まで、参照)する民法二一二条の償金の法意に合致するものであり、被控訴人らが負担すべきものである。

6  次に、権利濫用の法理は、その行使が社会生活上、とうてい許容しえないような不当の結果を惹起するとか、又は他人に損害を加える目的のみでなされるなど、公序良俗に反し、道義上許すべからざるものと認められるに至つて始めて適用されるべきものである(最高裁判所昭和三一年一二月二〇日判決、民集一〇巻一二号一五八一頁)。

本件の償金請求は、被控訴人らに対して、みだりに損害を加える目的でなされたものではなく、この請求により、被控訴人らの社会生活に不当な結果が惹起されるものでないから、本訴請求が権利の濫用になるいわれはない。

四  被控訴人らの補足主張

1  控訴人らの補足主張に対する認否

控訴人らの補足主張3ないし5はいずれも争う。

同6の固定資産税の納付の不知、甲土地の測量については、控訴人連造が甲土地に接する五番四二、五番四三の土地を地下鉄工事用地として賃貸するに当つて、その土地の範囲を明らかにするために、その土地に接する五番一の一部の土地を測量した費用であり、被控訴人らが負担すべきものではない。控訴人連造が甲土地に砂利を入れたことはなく(被控訴人遊佐、A土地、B土地の居住者により組織した水道組合及び訴外白鳥宜夫がそれぞれ砂利を購入して入れたことはある。)、また、控訴人連造が道路の補修に労力を提供したことがかりにあつたとしても、被控訴人らもその補修に労力を提供したのであり、補修維持してきた道路は別紙図面(一)の①ないし⑧のみでなく⑭も含めたすべてである。

控訴人連造が甲土地の補修費として百数十万円を支出したとの点は否認する。

2  被控訴人らの主張

(一)  訴外虎岩良雄(のちには控訴人連造)はA土地のうち分筆後の五番三八、三九に当る部分の附近に家屋を建築し、この土地から公道に通じるための専用道路を設けていたが、この専用道路も直接公道に接続していたものではない。そのため、尾根道の一部である別紙図面(一)の①②間を公道と専用道路とを連絡する通路として使用していた。すなわち、A土地中、分筆後の五番四三に当る部分の東端は公道に接していたが、右土地と公道との間は当時崖状の急斜面で高さ五メートル位の段差があつた。右土地はのちに、表土を削り取られたが、現在でも右土地と公道とは約三メートルの段差があるのであり、公道に至るため通行地役権を設定する必要があつたものである。

(二)  甲土地を通路として利用している者は、被控訴人ら五名のみではなく、附近に宅地を所有し、居住している別表記載の者ら全部であるから、かりに、償金支払の義務があつても、分割債務となるべきものである。

(三)  甲土地とそれに接続する道路(西側道路等)及び周囲の土地の位置関係は、別紙図面(三)のとおりである。

別紙図面(二)の線より南側は公道に接しているが、別紙図面(一)の⑭の西方は行止りになつている。

五  控訴人らの認否及び反論

1  認否

被控訴人ら主張の2(三)中、別紙図面(二)の線より南側が公道に接していること、別紙図面(一)の⑭の西が行止りになつていることは認める。甲土地の利用者については後記のとおりであり、その余の主張事実は争う。

被控訴人らが甲土地の利用者として主張する者のうち、小野寺圀夫(別紙の一枚目)、高木俊雄(同二枚目)及び同三枚目記載の者八名は甲土地を利用していない。

同三枚目の五番二土地所有者五名は五番二土地の西方を通つて公道に通ずる道路を専ら利用している。

別紙図面(一)(原判決添附図面)

別紙図面(三)

同一枚目の村岡教寿、相沢正雄はいずれも他の通路をも利用している。

控訴人らと訴外青砥富夫、内海敏、佐藤貞門、島津義典、高橋久司は甲土地のみを利用し、五番二五と西方に通じる通路は利用していない。

2  反論

被控訴人らの外にも通行者があるとしても、これらの者は控訴人らに対し、償金支払につき不真正連帯債務を負担すべきものである。

理由

一当裁判所も、原審と同様に、控訴人らの請求を失当として棄却すべきものと判断するのであるが、その理由は、次のとおり附加、訂正をするほかは原判決の理由説示のとおりであるから、ここに、これを引用する。

1  理由中、「別紙図面」とあるのを、すべて「別紙図面(一)」に改める。

2  原判決一〇枚目裏一行目の「第三号証、」の次に、「第九号証(原本の存在も争いがない。)、第一〇号証、」を、同三行目の「号証、」の次に、「弁論の全趣旨により真正に成立したと認める乙第四四号証、」を、同四行目の「本人尋問の結果」の次に「と弁論の全趣旨」をそれぞれ加える。

3  同一一枚目表九行目の冒頭に「前顕甲第九号証、第一〇号証、」を、同裏五行目の「本人尋問の結果」の次に「並びに弁論の全趣旨」を、同行の「前記のとおり」の次に「旧五番土地中、」を、同六行目の「(2)」の次に「残余のB土地中、」を、同一〇行目の「分譲したものであるところ、」の次に「A、B両土地は、それ自体はいずれも袋地ではないものの、A土地を売却し、更にB土地を細分して分譲する場合には分割により袋地が生じることをも見越し、将来の袋地のための通路とし、また、それが袋地でないA土地の通路としても便宜なところから、共通の道路とするために、A土地の売却に先立ち、」をそれぞれ加え、同行の「右(2)の各土地は」から同末行の「譲受人のために」までを削る。

4  同一二枚目表三行目の、「『本件尾根道』という。」の次に「本件尾根道は、別紙図面(三)表示の①②④⑤を通ずる部分であり、別紙図面(一)の①((別紙図面(三)の①と同じ。))の東方は公道に通ずるが別紙図面(一)の⑭((別紙図面(三)の⑤と同じ。))の西方は現在行き止りで袋小路となつている。本件尾根道の周囲の各土地((ただし、のちに分筆によつて生じた地番を含む。))の位置関係と形状は別紙図面(三)のとおりである。」を、同九行目の「公道への通路として」の次に「旧道路部分とは別に、その北に位置し、五番三九から旧道路部分と平行に東方に延びる」をそれぞれ加え、同行の「は現在の」から同一〇行目の「平行に」までを、同末行の「事実上」を、同裏一行目の「もので、」から同行の「なかつた」までを、それぞれ削る。

5  同一三枚目表一行目の「訴外会社が」の次に「後記のように」を、同三行目の「として」の次に「平素」を、同末行の「(空地)」の次に「や田畑の畔道」をそれぞれ加える。

6  同一四枚目表一行目の「みえる」を「みえないではない」に改め、同行の「もし、」以下同一五枚目裏一行目の「そして」までを「但木が本件尾根道を開設したのは、A、B両土地の分譲をするに当り、これらの土地が将来細分化して譲渡された場合の両土地の多数の住民らの共通の道路とする目的に出たものであることは前述のとおりであるが、地役権の対象となるべき部分を分筆するとか、実測のうえ確定するとか、地役権設定を窺わせる特段の行為をしたこともないのであり、結局、A土地売却に当り、A、B両土地利用のために本件尾根道を通路として相互に利用することを承諾するものの、これを物権たる権利に高めて地役権を設定することまでの契約がなされたものと認めることは困難である。また、B土地ないし乙土地がのちに被控訴人ら又はその前者等に譲渡されるに当り、B土地ないし乙土地のために、本件尾根道中の旧道路部分について地役権が設定されたものと認める証拠はない。」に、同三行目の「右所有者」から同一六枚目表六行目の終りまでを「右所有者らは、本件尾根道が開設された前記の趣旨と経過に鑑み、その通行をなすべき権原の有無は問わずに、無償の通行を許容してきたものと認めるのが相当である。」に、それぞれ改める。

7  同一六枚目表八行目の「証人加藤逸郎の証言」の次に「並びに弁論の全趣旨」を加え、同裏九行目の「⑧」の次に「(別紙図面(三)の②③)」を、同一〇行目の「④」の次に「(別紙図面(三)の①②)」をそれぞれ加える。

8  同一七枚目表五行目の「五番四四の土地」の次に「(別紙図面(一)の⑧⑨((別紙図面(三)の③④))を結ぶ通路の東側半分)」を、同裏三行目の「取得者」の次に「等」を、同四行目の「経由させた」の次に、「(以上の如き分筆を経て本件道路((甲地))と西側道路及びその周辺土地の地番、位置関係、形状が別紙図面(二)及び(三)の各記載並びに控訴人らの当審における補足主張2のとおりとなつた。)」をそれぞれ加える。

9  同一八枚目表九行目の「ようである」を「ように見えないこともない」に改め、同一〇行目の「目的は」の次に「、従前から住民が旧道路部分を通行するのを、A土地の歴代の所有者らが容認してきたという経緯から、訴外会社もこれを尊重し、旧道路部分に代る道路として本件道路を従前からの住民にも無償で開設することをも副次的に意図していたものと認められるけれども、その主眼は」を加え、同裏六行目の「むしろ」以下同八行目の終りまでを削る。

10  同一九枚目裏二行目の「整備した」の次に「主たる」を加える。

11  同二〇枚目表三行目の初めから同二二枚目裏五行目の終りまでを次のとおりに改める。

「五 権利濫用の主張について検討するに、被控訴人らが、本件道路について各自の所有土地のために地役権を有するものでもなく、また民法二一三条による無償の囲繞地通行権を有するものでもないことは右説示のとおりであるが、但木が旧五番土地を、A、B土地の順に分譲するに先立ち、分譲地を取得する住民らが東方の公道に通じるための生活道路とするために、本件尾根道を開設し、A土地の歴代の所有者らもこの趣旨を承認して、B土地の分譲地を取得した附近住民らが本件尾根道を無償で通行することを異議なく容認してきたこと、その後、A土地が訴外会社により宅地造成のうえ更に分譲されるに当り、本件尾根道のうち旧道路部分に代り本件道路の位置に道路の付け換えがなされるとともに、道路の拡張整備がなされて現状の如き本件道路(別紙図面(二)の線内の部分)となり、更に、これが本件尾根道の残余の部分、すなわち西側道路部分(これはB土地の分譲地取得者らの一部の者が各自、自己の所有地の一部を出し合つて整備拡張し、約四メートル幅の道路としたもの)に接続されて、全体として現状(別紙図面(一)の①ないし⑭、別紙図面(三)の①ないし⑤の部分)のとおりの一本の道路となつたものであること、そしてこの道路は、旧五番土地の分譲地の中央を通る生活道路として必須の道路となつており、訴外会社も、本件道路が主としてA土地の宅地造成と分譲の便宜に基づいて開設されたものであるけれども、沿革的にはB土地の分譲地取得者など従来の住民らの生活道路として無償の通行を容認されてきた旧道路部分の代替道路としての性格を有し、その必要から、これを西側道路部分に接続させて、従来の住民らの無償通行を許容するとともに、本件道路(甲地)を、公衆用道路に地目変更して、控訴人らを含む七人の者に贈与したものであることはすでに説示したとおりである。

しかして、成立に争いのない乙第三五号証、原審における被控訴人中村、同菅原、同武田、同今野、同遊佐、控訴人連造各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件道路とこれに接続する西側道路の附近に居住する住民らは別紙の如く多数あり、これらの者やその家族が多かれ少かれ、右各道路を、東方の公道に通じる生活道路として利用していること、西側道路が別紙図面(一)の⑭(別紙図面(三)の⑤)附近で行き止りとなり袋小路になつている(これは、五番二の土地から西方に通じる道路が、土地所有者の意向等により開設されないでしまつたことによる。)ために、東方の公道に出るほかはなく、附近住民らの道路利用の状況は、公道に近い本件道路の方が、遠い西側道路より頻度と必要性の程度において優るものの、双方の道路ともA、B両土地の中央を通る一本の道路として、両土地居住の住民らの生活の利便に供されているのであり、外部からの自動車の進入、転回等を含め、本件道路のみならず西側道路も、控訴人らを含む、A土地共有者らにとつても必要な道路として、無償で利用されていることが、それぞれ認められるのである。

以上のように、本件道路は、附近の住民らがその所有地の一部を提供して作つた西側道路と一体をなす道路として、A、B両土地の居住者を含めた附近の住民全体の共通の生活道路として何人も相互に無償の通行を容認し合つて来たものであり、従つて、附近の住民らの間においては、従来より相互に道路部分に当る自己所有の敷地について、その使用の対価たる償金を請求しないことの一般的、黙示的な合意が存在し、何人もこれに従つて来たものというべきであるから、控訴人らが、本件道路の敷地である甲地の共有権を取得したことを根拠に、附近住民の一部の者である被控訴人らに対し、自己の持分の割合に応じた道路使用の対価たる償金を請求することは、附近住民の如上の合意と慣行を破り、いたずらに秩序を乱すものとして許されないものであり、権利の濫用に当るものといわねばならない。」

12  控訴人らの当審における補足主張について

控訴人らは、控訴人連造が本件道路の補修維持のために費用を支出し、それだけの損失を負担し、また将来も同様の負担が見込まれるとして、その金額相当の通行料を償金として請求するのであるが、本件道路及び西側道路のいずれであることを問わず道路の補修維持のために費用を要したとすれば、これらの道路を共通の生活道路として受益している附近住民らの共益費用として住民ら各自が応分の負担をなすべきであることは勿論であるけれども、控訴人らの右請求は、このような共益費用の応分の負担を求めるものではなく、本件道路使用の対価の支払を求めているものである(控訴人らが過去に道路補修の費用等として支出した金額を主張しているのは、道路使用の対価を算出するための便宜的な基礎として主張しているにすぎないのであり、このことは、将来の分についても、一律に一定の金額の主張をしていることからも明らかである。)から、かかる意味における本件土地使用の対価の支払を求めることが許されないことは前述のとおりである。

また、控訴人らは、被控訴人らを含む附近住民らによる本件道路ないし旧道路部分の無償通行が許容されて来た沿革や、訴外会社が本件道路の無償通行を、住民らに約束したとしても、本件道路敷地たる甲土地の共有者となつた控訴人らが右の約束に拘束され、或は、その無償通行を受忍すべき根拠はないとし、償金請求の正当性を主張するのであるが、これが権利の濫用として許されないものであることは先に詳説したとおりである。

二以上のとおりであつて、原判決は正当であり、本件控訴は理由がないので民事訴訟法三八四条一項に従いこれを棄却し、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官奈良次郎 裁判官伊藤豊治 裁判官石井彦寿)

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