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仙台高等裁判所 昭和59年(ネ)561号 判決 1986年1月27日

控訴人

縄野修一

右訴訟代理人

柿崎喜世樹

被控訴人

前田一郎

右訴訟代理人

高山克英

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、当審において請求の一部(山形簡易裁判所昭和五二年(ノ)第一一〇号債務分割調停事件の調停調書に基づく債務の不存在確認を求める部分)を減縮し、「原判決を次のとおり変更する。控訴人の被控訴人に対する、昭和四九年一一月一日付でなされた元本七五〇万円の貸金について、残元本二〇八万五〇〇〇円及びこれに対する昭和五三年一月一一日から完済まで年二割の割合による遅延損害金の債務が存在しないことを確認する。被控訴人は控訴人に対し、原判決の添附別紙物件目録記載の各不動産についてなされた同登記目録記載の登記の抹消登記手続をせよ。被控訴人から控訴人に対する山形地方裁判所昭和五五年(ケ)第一号不動産競売申立事件による前記物件目録記載の各不動産の競売手続は許さない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠の関係は、当審において次のとおり主張とその反論をそれぞれ補足し、当審における証拠関係が当審記録中の証拠目録のとおりであるほかは、原判決の事実摘示(ただし、原判決四枚目表七行目の「手形」を「手続」に、同裏一一行目から一三行目までの記載を「右抗弁事実は認める。」に改める。)のとおりであるから、ここにこれを引用する。

三  控訴人の補足主張

1  求償債権の発生原因(負担部分)について

(一)  数人の連帯保証人間の負担割合について、判例は「負担部分に付き特約があればそれに従う。特約がない時は、受益の割合によつて定める。受益の割合が明らかでない時は平等である。」としている。(大審大正五年(オ)三〇五号同年六月三日民三判、民録二二輯一一三二頁、民抄録六六巻一四七一九頁など)

(二)  訴外会社が控訴人と被控訴人外一名の連帯保証のもとに中小企業金融公庫から借入れた三〇〇〇万円は、大部分が新工場の建設資金として使用された。その鉄骨工事は被控訴人が一四〇〇万円で請負つたのであつて、三〇〇〇万円中一四〇〇万円は被控訴人に流れたことになる。訴外会社が被控訴人に右の工事注文をしたのは、被控訴人が右資金借入の連帯保証人になつたからに外ならないのであり、工事注文と被控訴人の連帯保証とは対価関係に立つのである。だから工事請求があれば被控訴人が連帯保証人としての責任を果すのは当然と考えられていたものである。又、工事請負をしたことによつて被控訴人は必要経費を除いた利益があつた筈である。その意味では三〇〇〇万円の受益を控訴人のみが受けたとはいえない。

(三)  被控訴人は訴外会社との間で従前から取引があつて連帯保証人になつたりしていた。その背後には連帯保証人になることによつて相互に将来の取引関係を円滑にしたり、利益を確保しようとする意図がある。つまり利益があるので連帯保証人になるということである。単に連帯保証人になることのみの依頼、承諾ということではない。又被控訴人は訴外会社の役員だつたのであり、その役員報酬も受領していた。控訴人も役員報酬を受領していたものであるが、その意味では会社の負債について、被控訴人が全く免責される理由はない。

2  「担保建物」の価額と担保保存義務について

(一)  被控訴人は控訴人が中小企業金融公庫に対し訴外会社の連帯保証人としてその債務を弁済したことにより、同会社所有の建物(担保建物)の抵当権を法定代位により取得したのに、その後、控訴人が同抵当権を転根抵当にしたため、民法五〇四条の担保保存義務に違反するとし、被控訴人に対し、求償しえないと主張する。

(二)  かりに右主張のとおりであるとしても右担保建物の価格は多くとも二九五〇万円である(甲第六三号証・被控訴人はこれを五〇〇〇万円は下らないという。)。一方、控訴人が中小企業金融公庫に対して弁済した金額は、三六九四万七〇七二円であるからかりに本件抵当物件を処分しても、七四四万七〇七二円が不足することになり、この金額を控訴人が支払つたこととなる。そして、連帯保証人は三名であるからこれを三分すれば二四六万二三五七円となる。又被控訴人に対する債務は二〇八万五〇〇〇円と昭和五三年一月一一日から完済まで年六分の割合による金員となるが、控訴人の相殺の通知到達日が昭和五五年八月一二日であるから、この間の元利金を計算すると金二四〇万八六八七円となる。

よつていずれにしても相殺によつて被控訴人の控訴人に対する債権は消滅したことになる。なお、右の考え方によれば、控訴人の昭和五五年八月一二日付の相殺通知は自働債権の額を誤つたことになるが、それでも相殺の効果は発生することは、判例上認められている。

四  被控訴人の反論

控訴人は被控訴人の本件連帯保証の負担部分が零ではないと主張し、その理由として被控訴人が工事請負等により利益を受けたというのであるが、連帯保証人間の負担部分については、中小企業金融公庫から借り受けた三〇〇〇万円の利益の帰属主体が直接は誰れであるかによるべきである。それは当然主たる債務者である訴外会社であり、そして控訴人は訴外会社の代表取締役の地位にあり、かつ親族の長たる立場において訴外会社の業務を殆ど独断専行し、かつ訴外会社倒産後はその財産隠匿行為と看做し得る行為をしながら訴外会社の残存財産の管理をしてきたものであるから、訴外会社と同様に借入による利益の全部を受けていたものである。

控訴人の主張する被控訴人の請負工事による利益は、借入金との関係では、契約関係を媒介とした間接的なものであり、直接的利益とは言えないものである。

よつて控訴人の主張は失当である。

理由

一当裁判所も原判決と同様に、原判決認容の限度で控訴人の請求を認容すべきものと判断するのであるが、その理由は次のとおり附加、訂正を加えるほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1  原判決一一枚目表九行目から同裏一三行目までの記載を

「二 被控訴人の抗弁(一)、(二)の事実も当事者間に争いがない。」に、同一二枚目表五行目の「前記二3確定事実」を「前記二の確定事実」に、それぞれ改める。

2  同一三枚目表一〇行目の「前記主張の」次に「明示的な」を加える。

3  同一六枚目表八行目の「前記2認定の事情」の前に「連帯保証契約の際に、各保証人間において明示的な内部負担の取り決めがなされなくても、連帯保証時の保証人相互間の事情に基づいて、保証人相互間の内部負担の割合につき相互に黙示的な合意が存ずる場合には、負担部分はその合意によつて定まるものと解されるところ、」を加え、同裏四行目の「零である」を「ないものとする黙示的な合意が存在したもの」に改める。

二控訴人は、①訴外会社が被控訴人らの連帯保証のもとに融資を受けた資金により建設することになつた工場の鉄骨工事を被控訴人が一四〇〇万円で請負い、それだけの経済的な利益を受けたこと、②被控訴人が本件連帯保証をしたことと右工事請負とが対価関係に立ち、被控訴人が連帯保証人としての責任を免れないこと、③被控訴人が訴外会社の監査役として報酬を受けていたこと、④被控訴人が訴外会社と従来から取引関係にあり、訴外会社の連帯保証人になることについて利益があつたこと、を理由として、本件連帯保証についての被控訴人の負担部分がないものとする旨の黙示的な合意が存在したことを争うのであるが、右主張の如き事情は、被控訴人が本件連帯保証をした理由ないし動機にすぎず、したがつて、被控訴人が、訴外会社の債権者に対して保証債務を履行すべき義務を負うことは格別として、連帯保証人相互の内部において、被控訴人は最終的に責任を負わないこと、すなわちその負担部分を零とする黙示の合意が存在したことを否定すべき理由とはなりえないものである。

三以上のとおりで、右と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので、民事訴訟法三八四条一項に従いこれを棄却し、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官田中恒朗 裁判官伊藤豊治 裁判官富塚圭介)

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