仙台高等裁判所 昭和59年(ネ)81号・昭59年(ネ)60号 判決
【主文】
一 原判決中、控訴人ら敗訴の部分を次のとおり変更する。
控訴人らは各自被控訴人トシに対し金九六九万八四八六円及び内金七二二万五五二一円に対する昭和五九年八月二日から、内金七〇万円に対する昭和五六年九月一三日から、各完済まで年五分の割合による金員の、同三香子、同邦子及び同智典に対し各金六三九万八九九一円及び内金四八一万七〇一七円に対する昭和五九年八月二日から、内金四〇万円に対する昭和五六年九月一三日から各完済まで年五分の割合による金員の、同明子、同久人及び同章史に対し各金一二六〇万三四一四円及び内金九五三万二八〇〇円に対する昭和五九年八月二日から内金八〇万円に対する昭和五六年九月三〇日から各完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。
被控訴人らのその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は第一・二審とも各控訴人らにつき生じた分は当該控訴人の負担とし、各控訴人と被控訴人らとの間に生じた分はそれぞれこれを五分し、その四を控訴人らの連帯負担とし、その余を当該被控訴人らの負担とする。
【事実】
一 各控訴代理人は「原判決中、控訴人らの各敗訴部分を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
二 当事者双方の主張及び証拠の関係は、次項以下のとおり主張を補足し、当審における証拠を附加するほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
三 控訴人堀合ら(以下単に控訴人らという。)の補足主張
1 本件事故原因について
(一) 村井貞允鑑定書(甲第一二号証の四)は、本件事故を起した土砂崩壊の原因につき、「パワーショベルの始動による振動によつて崩壊を起した」としているが、事故前にパワーショベルは運転されていなかつたのであるから、それによる振動はありえず、右鑑定書によつては、本件事故の原因は解明されない。
(二) 本件事故は不可抗力に基づくものである。
本件工事がなされた土地は真砂土であつて、もろい地質であるが、一般的にみて常時崩壊事故が生ずるとは考えられず、かつ、本件工事設計図面にも崩壊事故が発生することを前提とする設計や予算計上がなされておらず、また、控訴人らも過去の工事においてこのような崩壊事故を経験していないので本件事故発生について全く認識予見がなかつた。さらに、本件の如き事故発生は稀有に属するから、控訴人らには事故回避の義務もなかつた。
原判決は、控訴人宏憙が本件事故現場の法面に網をかぶせたり、防護柵、土止め支保工を設けたりすべきであつたとして、これをしなかつたことを非難するが、事故直前の状況からみて、本件のような人身事故が発生することは予測できなかつたものであるから、右不作為をもつて、控訴人宏憙の過失責任を問うことは無理を強いるものである。
2 損害額について
(一) 亡昭寿及び哲郎の各年間収入はともに年間一〇〇万円とみるのが相当である。また、生活費は、同人らは一家の主人であるから、収入の五〇パーセントとみるのが相当である。就労可能年令は同人らが土木作業員であるから六〇歳が限度であり、五〇歳を過ぎた後は収入が半減するものとして、ライプニッツ式により中間利息を控除すべきである。
亡哲郎の牛乳配達による収入は、臨時的なものであり、就労可能期間中継続するものとは考えられないので、収入として計上すべきではない。
亡昭寿及び哲郎とも固有の慰謝料は同額とすべきである。
3 過失相殺について
本件事故は、亡昭寿及び哲郎(以下被害者らともいう。)がずる休みをしていた時に発生したものであり、その過失は大きいので、もし控訴人宏憙に過失が認められる場合においても、被害者らの過失を八〇パーセントとして相殺すべきである。
4 控訴人宏幸の責任について
控訴人宏幸は控訴人宏憙の子であり、父宏憙の手伝をしていただけあつて、一般の従業員と同様の立場にすぎず、ただ親子の関係にあつたために、他の従業員らから「専務」等と呼ばれていたが、現場監督としての責任はない。
四 控訴人山田町(以下、単に控訴人町という。)の補足主張
1 本件土砂崩壊の原因
真砂土地盤は比較的良好な地盤とされており、崩れ易い危険な土質の地盤ではない。それにも拘らず、本件の場合崩落が生じたのは、平行節理面(横に走る割れ目)があつたことによる。この平行節理面は薄く粘土のつまつた層であり、風化の過程で生じたものである。しかし、真砂土地盤には平行節理面が必ずあるというものではなく、また全くないというものでもない。その存在の有無は地表面を見ただけでは全く判らず、掘削して断面を見て初めて判るのであるから、判つた時点で、これに対応した工法をとるしかない。それは専門業者たる建設業者のとるべき工法の問題であつて、設計上の問題ではない。
2 発注と設計について
建設工事の発注は、注文書の必要とする建造物を指定して行うものであり、注文書において、建設させようとする建造物の外観、有すべき機能を、場所的、平面的、立体的、断面的に、設計図により特定することを要するが、この設計は、専門業者に依頼される場合が多く、殊に市町村においては専門職員をおくことが困難なので、自ら設計することはない。
これに反して、工事方法については、契約に際してそれを特定して発注するということはない。それは、建設業者(建設業法により登録され専門的資格を認められた者である。)の責任において行う事柄であり、注文者の関知するところではない。工事には常識的な施工の順序があり、工事の段取りの巧拙、天候等による能率の良否等によつて業者の利益に多少の影響がありうるが、業者は自己の選択した工事方法により工事見積を算出して競争入札に参加し、請負契約を結ぶのである。これに対し、注文者は注文の目的物即ち、設計どおりの建設物が完成されればよく、それがどのような工事方法によつて施工されるかにはかかわりのないことである。ただし、設計が現地に適合しない場合や、その他注文者の責に基づく事由により工事を当初の予定どおり進行させることができない場合に限り、設計変更や工事金額の変更の問題が生じる余地があるにすぎないのである。
本件宅地造成及び擁壁工事の設計は訴外鈴木測量有限会社に発注してなされたものであるが、それは岩手県土木部の設計マニュアルに基づく適法かつ妥当なものであつた。
控訴人町は右の設計図(乙第二号証の一ないし三、一)どおりの宅地造成工事をなすべき請負契約を、堀合建設こと控訴人宏憙との間で結んだのであり、この設計というものは造成されるべき結果を図示したのみで、工事方法とは関係がない。
したがつて、民法七一六条にいう注文につき注文者に過失があつた場合には当らない。
3 注文者の指示義務について
(一) 本件工事は校庭に隣接した小山を掘削して宅地を造成するにすぎず、土木工事としては極めて単純な工事であり、常識的な施工法をとることによつて容易に完成できる性格のものであつた。請負人である控訴人宏憙において土質及び湿度によつて決定される安息角(崩れない角度)を考慮して掘削し、土留コンクリートブロックを積んだのち裏込めをすればそれでよかつたのである(労働安全衛生規則三五六条参照。設計において擁壁の法面勾配か三分五厘((約七一度))という急勾配であるにしても、施工の過程では右規則同条において定められているとおり掘削面の勾配が六〇度以下となるようにし、土質、湿度を考慮して安全な勾配で掘削して、行えばよいのである。)。本件の二号擁壁については、その構造及び裏込となる栗石の層を特定しただけの設計がなされているにすぎない(乙第二号証の三)。擁壁は僅か五メートル程度の高さの小山の土圧を支えるに足るものであれば十分であり、設計マニュアルからみて妥当な設計であつた。本件事故は控訴人宏憙が僅かの労を惜しんで擁壁とほぼ同じ勾配によつて掘削したことから生じたものである。同控訴人は急勾配の掘削をするに当り、平行節理面などの有無に注意して必要に応じて労務者に危険のないように土止め支保工又は防護網を設置する等の配慮をなすべきであつた(同規則三六一条)。
そもそも建設工事においては危険を伴わないものはないが、本件工事の如きはその施工法が常識化しており、予定された順序により労働安全衛生規則等の規準に従つて工事を進める限り危険はないのである。本件事故は控訴人宏憙か建設業者として遵守すべき安全配慮義務を怠つたことにより生じたもので、注文者たる控訴人町において特別の指示をなすべき注意義務はなかつたのである。
(二) 注文者である控訴人町が地方自治体であることによつても、一般の場合とは異なる特殊な注意義務があるものではない。本件契約は他のすべての公共工事の場合と同じく、公共工事標準請負契約約款によるものであるか全く危険のない土木工事はありえないのであるから、地方公共団体なるが故に注文者に対してそのような注意義務を課するとすれば、地方公共団体が注文者である公共工事の場合はすべて注文者に安全管理義務が生じることとなり、請負人の独自性を無視する結果となる。これは民法七一六条及び労働安全衛生法の趣旨に反する理解というべきである。
また、控訴人町の職員千代川の監督は、契約の履行を確保するためのもので、工事施工の監督ではないし、同人が直接人夫を指揮して作業を進めたわけでもなく、人夫との間に直接の支配従属の関係は生じていない。
地方公共団体の締結する工事契約は、公共の利益に関する工事について行われるものであるから、地方公共団体の職員は契約の適正な履行を確保するために必要な監督を行うことが法律上義務づけられている(地方自治法二三四条の二、同法施行令一六七条の一五)。千代川が本件工事について行つた監督は右契約の履行確保の趣旨をこえるものではない。
もつとも、千代川は、昭和五五年一月二三日に本件事故現場の近くに小規模の崩落があつた際、翌二四日控訴人宏幸から「法面が少し崩れた」旨の電話連絡を受け、「気をつけて工事してくれ」と返答したが、これは常識的に注意を促したにすぎず、施工上の監督義務に基づいて与えた注意ではない。
本件において第二の崩落を防ぐには予め危険箇所を崩落させる方法をとることが簡易かつ常識的な方法であつた。それはバックホー等を用いて短時間で処理でき、設計変更とか工事代金の増額等の問題も生じないものであるから、控訴人宏憙において直ちに行うべきであり、控訴人町において指示する必要はなかつた。
4 過失相殺について
被害者らが、土砂崩落時に、掘削した溝の中に坐つて休んでいたことは、控訴人らの主張と同様である。このことは事故の態様からも明らかである。
すなわち、本件事故は、地上から僅か五メートルの高さの地点から約一八・五立方メートルの土砂が崩落したことによる事故であり、この程度の土砂崩落により死亡事故が生じることは極めて珍らしい。しかも、この一八・五立方メートルの土砂は一点に崩落したものでも、また被害者らの頭上に降下したものでもない。土砂は高さ五メートルの所から、三・八メートルの幅をもつて、溝(上部の幅三メートル、低部の幅二・五五メートル、深さ一・七メートル)の中に、当初七〇度の斜面(崩れながら緩かになり五〇度の安息角に達して崩落は止まつた。)に沿つて崩落したのであり、重力による加速度はないに等しく、このような状態で土砂がなだれ落ちて溝を埋めるには若干の時間を要することである。したがつて、被害者らが立つて作業中であつたのであれば、敏速に対応して崩落圏外に脱出することができた筈である。被害者らは自分達が掘削した溝の中に坐つて休憩していたために敏速に腰を上げて避難することができなかつた。また崩落した土砂は溝の傾斜面とは反対側を充たすには至らなかつたので、立つて作業していれば僅かに身体を崩落斜面の反対側の溝の端に寄せるのみで、助かつた筈である(甲第一〇号証の八)。被害者らは、正規の休憩時間外に人目をはばかり自分達が掘つた溝の中に坐つて休憩していた蓋然性が高い。
三 被控訴人らの補足主張及び反論
1 注文者の責任について
(一) 裁判例上、注文者の責任が認められる事例として(イ)注文者に工事の専門的知識、経験があるとみられる場合、(ロ)注文工事自体又は工法から被害発生を容易に予見できる場合があげられる。本件は右いずれの場合にも該当する事案であり、控訴人町の責任が肯定されるべきである。右(イ)の点については控訴人町は、注文者が一般の素人と異なり、発注する工事に対してそれ相当の専門的知識を有することを社会的通念上も期待されている地方自治体なのであり、また右(ロ)の点についても控訴人町の監督員千代川は「本件現場の土砂が真砂土であり、場所によつては亀裂や滑り面があり、土砂自体も水分を含んでおり、もろい土砂になつていること、薄い粘土層が筋のように入つていて滑り面をなし、滑り易くなつていることが判つていた」のであり、また「本件擁壁の下方の法勾配が設計上約七一度という急勾配で、注文の工事自体が危険性を含むものであり、工法も重機類を使用する危険性の高い方法で施工されていたことを知つていて、地山の一部が崩落する危険を容易に予測できたし、さらに本件事故の前日には地山の一部が崩落したとの連絡を受けながらも、何らの措置も論ぜず工事続行を黙認した」というのであるから、過失責任があることは明白である。
(二) 控訴人町は、工事方法は請負業者の責任において行うことであり、注文者の関知することではないとか、千代川の監督は契約の履行を確保するためで工事施行の監督ではないと主張するが、裁判例は注文書の性格、請負契約の内容、工法の内容等を具体的に判断して責任の有無を判断しているのであり、控訴人町の主張は当らない。
2 労災保険金の受領について
(一) 被控訴人佐藤トシ関係の労災保険金中、死亡一時金と葬儀費を除いて昭和五五年五月から昭和五九年八月までに受領した年金は別紙労災年金給付額表記載のとおり合計金三八五万三、二四二円である。(原判決事実摘示の金額一一九万八二二八円を含む。)
(二) 被控訴人佐藤明子関係の労災保険金中、右同様に受領した年金は別紙労災年金給付額表のとおり合計金三三六万五五〇一円である。(原判決事実摘示の金額一一七万七四七四円を含む。)
六 当審における証拠関係<省略>
【理由】
一当裁判所の事実認定と判断は次のとおり附加、訂正し、当審における補足主張に対する判断を加えるほかは、原判決の理由一ないし四に説示のとおりであるから、ここにこれを引用する。当審で新たに取り調べた証拠によつても以上の認定を動かすに足りない。
1 原判決の附加、訂正
(一) 一三枚目裏一行目の「節理面」の次に、「下方」を、同六行目の「エンジンをかけたのと」の次に「殆んど」をそれぞれ加え、同三行目及び一四枚目表八行目に、それぞれ「振動」とあるのを「震動」と改める。
(二) 一四枚目表一三行目の「一ないし八」を「一ないし六」に改める。
(三) 一八枚目裏四行目の「乙第一号証」の前に「原審における控訴人堀合宏憙尋問の結果により成立の真正を認めむる」を加える。
(四) 二三枚目表二行目の「、同三香子、同邦子及び同智典」を削り、同四行目の「昭和五五」から同裏一行目までを次のとおりに改める。
「昭和五五年五月から昭和五九年八月まで別紙労災年金給付額表の佐藤トシ関係欄に記載のとおり年金として合計金三八五万三二四二円の給付を受けた事実を認めることができる。被控訴人佐藤トシが受けた右労災保険に基づく給付金は遺族である同人及び被控訴人三香子、同邦子及び同智典に対する損害賠償の趣旨で遺族の代表者である被控訴人トシに対して給付されたものと解するのが相当である。
右被控訴人らは本訴において、損害額から香典三四万円、労災保険により給付を受けた死亡一時金二〇〇万円、葬儀料二八万円のほか年金給付金一一九万八二二八円(七九万四四八九円と四〇万三七三九円との合計額)を控除した残額を請求しているので、右控除額中、年金給付分を同表の年金給付額に当てはめると昭和五五年五月支給分から昭和五六年五月支給分までの全部と、同年八月支給分のうち一九万五三六一円との合計額に相当するから、総損害額(二八一四万九八〇〇円)から右控除分を引いた残額(二四三三万一五七二円)から、更に同年八月支給分の残額六五一四円(二〇万一八七五円と一九万五三六一円との差額)及び同年一一月支給分から昭和五九年八月支給分までの同表記載の各給付金額を差し引いた残額がそれぞれその時点における損害賠償債権額となる。
そして、被控訴人トシが亡昭寿の妻であり、同三香子、同邦子及び同智典が昭寿の子であることは先に認定したとおりであるから、右損害賠償債権を同人らがそれぞれの法定相続分に応じて承継取得したものと認められる(香典も、労災給付金も被控訴人トシに対し給付されたものであるか、香典の趣旨及び労災保険給付金の前記趣旨に鑑み、損害賠償の関係では各自の相続分に応じた割合により帰属したものとみて差し支えない。)。
してみると、右被控訴人らの各相続分(被控訴人トシは九分の三、同三香子、同邦子及び同智典はいずれも九分の二)に応じて按分した損害賠償債権額と、不法行為後右被控訴人らの請求する日(昭和五五年一月二六日)から各労災年金給付時まで及びその後の遅延損害金(民事法定利率年五分)の計算結果は別紙計算書1及び2のとおりである。」
(五) 二五枚目表五行目の「、同久人及び同章史」を削り、同七行目の「昭和五五年」から同裏二行目までを次のとおりに改める。
「昭和五五年五月から昭和五九年八月まで別紙労災年金給付額表の佐藤明子関係欄に記載のとおり年金として合計金三三六万五五〇一円の給付を受けた事実を認めることができる。被控訴人明子が受けた右労災保険に基づく給付金は遺族である同人及び被控訴人久人、同章史に対する損害賠償の趣旨で遺族の代表者である被控訴人明子に対して給付されたものと解するのが相当である。
右被控訴人らは本訴において損害額から香典五〇万円、労災保険により給付を受けた死亡一時金二〇〇万円、葬儀料二七万一六五〇円のほか年金給付金一一七万七四七四円を控除した残額を請求しているので、右控除額中、年金給付分を同表の年金給付額に当てはめると昭和五五年五月支給分から昭和五六年八月支給分までの全部と同年一一月支給分のうち九万一九七二円の合計額に相当するから、総損害額(三四七三万五五四三円)から右控除分を差し引いた残額(三〇七八万六四一九円)から、更に同年一一月支給分の残額一〇万二一二八円(一九万四一〇〇円と九万一九七二円との差額)及び昭和五七年二月支給分から昭和五九年八月支給分までの同表記載の各給付金額を差し引いた残額がそれぞれの時点における損害賠償債権額となる。
そして、被控訴人明子が亡哲郎の妻であり、同久人及び同章史が哲郎の子であることは先に認定したとおりであるから、右損害賠償債権を同人らがそれぞれの法定相続分に応じて承継取得したものと認められる(香典や労災給付金帰属関係についての考え方も前述の被控訴人トシらの場合と同様である。)。
してみると、右被控訴人明子らの各相続分(各三分の一)に応じて按分した損害賠償債権額と、不法行為後右被控訴人らの請求する日(昭和五五年一月二六日)から各労災年金給付時まで及びその後の遅延損害金(民事法定利率年五分)の計算結果は別紙計算表3のとおりである。」
(六) 二五枚目裏四行目の「トシ」を「明子」に改める。
2 控訴人堀合らの補足主張に対する判断
(一) 控訴人堀合らは、本件事故が、不可抗力に基づくものであるとして同人らの責任を否定しているのであるが、引用にかかる原判決の認定事実のとおり本件事故はかなりの急角度で傾斜した平行節理面の入つている真砂土の地盤を、その節理面の下方を切断する形で掘削する工事方法を採用したため、崩落し易い危険な状況を現出をした結果、平行節理面を境にして土砂が滑り崩落して生じたものであり、前掲甲第一〇号証の一〇によれば附近におけるブルドーザーのエンジン回転による震動が実験の結果本件事故現場において震度一に近い数値を示したことが認められること、エンジン始動と殆んど同時に崩落が生じたこと等土砂崩落時における周囲の状況から推して崩れ易い状況にあつた真砂土がその自重によりエンジン始動による震動を契機として崩落し本件事故となつたことは明らかである。かりに右エンジン始動との因果関係の点をしばらくおくとしても、右の工法をとつた結果土砂崩落の危険を生じさせ、土砂の自重による崩落という結果を招いたことは否定できないのであり、このことは本件事故の数日前にも本件事故現場の直近の場所で同様のやや小規模の土砂崩落があつたことに照らして明らかである。
しかして、このような特殊の真砂土地盤に工事を施行する場合には危険回避の方法として引用にかかる原判決認定の如き工事方法があるのであるし、土木工事の業者として専門的な知識、経験を有し、土地の事情にも通じた控訴人堀合らは、工事を施行すべき現場の地盤の状況及び工事の進展に伴い数日前に生じた崩落の経験から予測される危険を十分考慮しながら危険回避のための措置をとりつつ工事をなすべき注意義務があり、その義務を尽すことは十分可能であつたというべきである。
したがつて、不可抗力であつたとの控訴人堀合らの主張は採用できない。
(二) 同控訴人らは、損害に関し、収入の五〇パーセントを被害者らの生活費として控除し、また土木作業員の稼働しうる年齢を六〇歳までとしてライプニッツ方式により計算すべきであること、亡哲郎の牛乳配達による収入は臨時のものであつて損害として計上すべきものでないこと、固有の慰謝料は各被害者とも同額とすべきこと、八〇パーセントの割合により被害者の過失を参酌し相殺すべきこと等を主張し、損害額を争つている。
しかし、収入額、稼働年齢、控除すべき生活費及び中間利息控除の方式については引用にかかる原判決の認定及び判断のとおりでこれを変更する必要をみない。亡哲郎の牛乳配達による収入については、甲第二七号証及び第二九号証と原審における被控訴人明子本人尋問の結果によれば、亡哲郎は全酪牛乳山口直売所から牛乳を仕入れて宅配したり、スーパーマーケットに卸売したりすることにより仕入価格の約二割の収入を得、また尾半ストアーから牛乳を取り寄せて配達しその手数料を継続して取得していたものであることが認められるのであり、単に一時的、臨時的な収入を得ていたにすぎないものではないことが窺われるから、他に特段の事情が認められない本件では将来も継続することが見込まれるものとして、損害の基礎となる収入に計上すべきものである。慰謝料の点についても、各被害者の遺族の状況等を斟酌すれば原判決の認定のとおり各被害者ごとに異なつた金額を定めることが妥当である。さらに、過失相殺については、被害者らが本件土砂崩落のあつた溝の中で所定の休憩時間外にひそかに休憩していたことは認め難いことは原判決の理由説示のとおりであるうえ、かりに、被害者らが溝の中で休憩していた時に土砂の崩落があり事故に遭遇した場合であつても、被害者らが作業中であれば本件事故から逃れられたと認むべき資料は存しないので、被害者らが作業中であつたか休憩中であつたかは本件事故の発生とはかかわりがなく、右控訴人らの責任に何らの影響を及ぼさないものというべきである。よつて右過失相殺の主張は採用できない。
(三) 控訴人宏幸は、同人が控訴人宏憙の経営する建設業について一般の従業員と同様の地位において稼働していた者であるとして本件事故についての責任を否定するのであるが、<証拠>を総合すれば、控訴人宏幸は現場責任者として控訴人宏憙の明示又は黙示の指揮をうけ、同人と共に又は同人に代つて作業員及び作業の割り振り、工程の指示等、原判決認定の如き事務を行い、第二擁壁工事の進行管理を担当していた者であることが明らかであるから、同控訴人にも事故回避の措置をなすべき注意義務があつたことは勿論であり、その注意義務懈怠に基づく事故責任があるというべきである。
3 控訴人町の補足主張に対する判断
(一) 本件事故発生の態様及び原因、本件工事を注文した控訴人町の監督員である千代川の職務権限と本件事故に至るまでの同人の工事監督の状況の詳細は引用にかかる原判決の理由説示二及び四のとおりであつて、本件事故のもととなつた土砂崩落は、控訴人町の注文にかかる工事を施すべき同町管理の土地に平行節理が走つていて掘削すれば崩落の危険があるという、土地自体の性状に特別の危険が包蔵されていたことに発するものであるから、このような危険性を含む土地に工作物を構築する場合には他に対する危険の回避をなすべき注意義務があることはもとよりである。そして、このような土地上に工作物を構築する工事を他に請け負わせる場合には請負人においてその専門的な知識と経験とに基づいて危険回避の措置を講ずべきものではあるが、注文者においても工事方法のいかんにより、潜在する危険が顕在化するおそれがあるから、注文に当り、または工事の進行過程において、請負人に対し危険回避のために工事方法を限定し或は工事に条件を付し、その他適宜の措置を講ずべきことを求める等の注意義務があるというべきであり、請負人が第一次的な危険回避の責任を負うことの故に、注文者の右注意義務が皆無になるものではないと解するのが相当である。以上のことは、千代川が地方自治法第二三四条の二同法施行令第一六七条の一五に基づく監督又は検査の職責を有する者であることによつても左右されるものではない。
したがつて、本件においては、控訴人町は本件の第二擁壁の工事を控訴人宏憙に注文するに当り、その掘削現場の土地の性状が、掘削した場合に土砂崩落の危険性を包蔵することを認識しそれに基づく危険回避について請負人に対し前述の如き特段の指示を与え、或は監督員の千代川を通じて工事施行の過程において同様の指示をなすべき注意義務があつたというべきであり、控訴人町にはその措置を欠いた過失があるといわねばならない。
控訴人町主張の事情中、真砂土地盤の中を走る平行節理の存在が地表面からみたのみでは判明しないとの点は、工事発注の際に地質調査を十分に尽せば予知しうると思われるのみならず、少なくとも工事進行の過程において本件事故前にすでにその節理の存在が判明しえたものであるし、本件工事の設計自体が妥当で瑕疵がないこと、請負契約において工事方法を請負人の選択に任せそれについて特段の定めがなされなかつたことはいずれも控訴人町の以上の注意義務を免れしめるものではなく監督員千代川の職責が注文にかかる工事の履行を確保することにあり、同人が工事の施行を監督すべき専門的な技術者ではないとの点も、控訴人町が同監督員等を通じて前記の注意を尽すべき義務を免れしめるものではないと解するのが相当である。また公共の工事の場合には注文の主体である公共団体の組織上、工事に伴う危険性の認識予見の可能性について一般の場合より多くを期待することができるものと解されるから、具体的な場合に、事情のいかんにより或る程度重い注意義務が課される結果となつても信義則上やむを得ないものというべきであり、控訴人町の責任を否定することはできない。
(二) 過失相殺の主張については、控訴人堀合らの主張に対する判断と同様である。
二結論
以上の次第で、控訴人らは各自、被控訴人トシに対して九六九万八四八六円(弁護士費用の損害七〇万円と別紙計算表1の損害賠償債権及び遅延損害金の合計金額)及び内金七二二万五五二一円に対する同計算表の遅延損害金計算の最終日の翌日である昭和五九年八月二日から、内金七〇万円に対する訴状送達日の翌日以後であることが記録上明らかな昭和五六年九月一三日から、各完済まで年五分の割合による金員を、同三香子、同邦子及び同智典に対して各六三九万八九九一円(弁護士費用の損害四〇万円と別紙計算表2の損害賠償債権及び遅延損害金の合計金額)及び内金四八一万七〇一七円に対する同計算表の遅延損害金計算の最終日の翌日である昭和五九年八月二日から、内金四〇万円に対する右同様訴状送達日の翌日以後である昭和五六年九月一三日から各完済まで年五分の割合による金員を、同明子、同久人及び同章史に対し、各金一二六〇万三四一四円(弁護士費用八〇万円と別紙計算表3の損害賠償債権及び遅延損害金の合計金額)及び内金九五三万二八〇〇円に対する同計算表の遅延損害金計算の最終日の翌日である昭和五九年八月二日から、内金八〇万円に対する訴状送達日の翌日以後であることが記録上明らかな昭和五六年九月三〇日から各完済まで年五分の割合による金員を支払う義務があるから、被控訴人らの請求は右各金員の支払を求める限度で理由があり認容すべきであるがその余は理由がなく棄却すべきである。
よつて、原判決は以上の結論と異なる限度で相当でなく、本件各控訴は一部理由があるから、民事訴訟法三八六条により原判決を変更し、訴訟費用の負担につき同法九六条、九二条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(田中恒朗 伊藤豊治 富塚圭介)