大判例

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仙台高等裁判所 昭和59年(ラ)45号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

本件の結論を導き出すのに必要な事実関係についての当裁判所の認定は、原決定二枚目裏七行目の「債権者に対して代金の」を「訴外会社に対して代金の」と改めるほかは、原決定の認定と同じである。

右認定事実に基づいて考えると、本件建物の建築に必要な材料、労務は抗告人が供給したのであるから、この限りでは抗告人が本件建物の所有権者となつたが如くである。しかし、相手方は抗告人において工事完成前に請負代金二億円の全額を弁済しているのである。従つて、抗告人と相手方が直接の請負契約関係にある場合、すなわち抗告人が下請負人でなかつた場合には、右代金完済により、本件建物は完成と同時に引渡をまたずに相手方にその所有権が帰属したと解すべきことになるが、下請負人、しかも下請代金の一割強の支払しか受けていない抗告人に対する関係でも直ちに右の法理が妥当すると解しうるのか否かについては更に検討する必要がある。

下請負契約と元請契約は各独立した別個の契約であるから、下請負人と注文者との間は直接の法律関係は生じない。しかし、下請負人は元請負人が注文者から請負つた仕事の一部または全部の完成を目的としているものであつて、一種の履行代用者である。この意味において、注文者、元請負人、下請負人の三者を二つの群に分けるとすると、後二者が同じ枠内に入れられるのは免れ難いところである。従つて、訴外会社と抗告人は同じ側の者であることになるから、このような関係にある訴外会社に対して請負代金全額の弁済がなされている事実から生ずる法律効果は抗告人に対しても前同様に及ぶということができる。

以上のとおりであるから、本件建物の所有権はその完成と同時に相手方が原始的に取得し、抗告人には帰属していないというべきである。

次に、留置権の主張について検討する。留置権は一種の拒絶権であつて、訴外会社などから本件建物の引渡を求められた時にこれを拒否しうるという受動的な権能であるのが本態である(但し、民事執行法に基づく競売は別)から、留置権に基づいて能動的に物権的請求権を行使しうるのは、留置権者の留置、すなわち占有・支配そのものが覆滅せしめられんとする状況のときに限られると解するのが相当である。これを本件についていえば、抗告人は本件建物のマスターキーや各室の鍵を所持してさえおれば、相手方またはその意を受けた少数の者が本件建物内に入り、或いは一部の店舗部分や居室を占拠しているとしても、抗告人の本件建物の大部分に対する占有・支配を喪失するわけのものではなく、そうなるのは相手方が錠のつけかえをするなどした場合に限られるというべきである。しかるところ、本件においては右の如き状況に至つていることについての疎明がないので、抗告人からの留置権に基づく立入禁止の仮処分申請を認容することはできない。

したがつて、抗告人の本件仮処分申請は被保全権利につき疎明を欠き、保証を立てさせて疎明に代えることも相当でないから、却下を免れないものである。

(輪湖公寛 小林啓二 木原幹郎)

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