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仙台高等裁判所 昭和60年(く)41号 決定 1985年11月18日

少年 K・M(昭42.10.1生)

主文

原決定を取り消す。

本件を福島家庭裁判所郡山支部に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、附添人弁護士○○○○作成名義の抗告申立書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、少年の反省の態度や不良交友関係を断つ決意のほか、少年には保護処分歴がないこと、保護者の保護能力及び非行後の情状等に鑑みると、少年を中等少年院(一般短期処遇)に送致した原決定は、著しく不当な処分である、というのである。

そこで、記録を調査して検討すると、本件は、少年が、(一)昭和59年12月初旬ころ、Aと共謀のうえ、ガソリン2リットル(時価310円相当)を窃取したほか、(二)昭和60年8月19日午後9時30分ころBらと共謀のうえ、少年が交際中の女性をめぐつて対立していたCらに原判示駐車場へ呼び出されたことから、同人らを本刀等で襲撃しようと企て、右駐車場において、同人ほか6名の者を木刀や手拳で殴打し、足蹴りするなどの暴行を加えて、D(以下、混同のない限り、姓を指称する。)を除くCら6名に原判示の各傷害を負わせたほか、Dに対し数人共同して暴行したという事案であるが、少年は、技術専門学校を卒業し、自動車整備工見習として就職したが、バイクの無免許運転をするなどして怠業したため、退職して徒遊し、バイク仲間と深夜運転などを重ねるうちに、右(一)の窃盗の非行を犯し、その後、プラスチツク成形の会社に工員として勤務するようになつてからも、A、Bら中学校当時の友人らと深夜バイクを乗りまわして遊ぶなどするうち、右(二)の傷害、共同暴行の非行を犯したものであつて、殊に、右(二)の非行は、少年が交際中の女性をめぐつてCらのグループと対立し、結着の話合いのため呼び出されるに及び、その際の同人らの態度から、同人ら大勢の者から袋だたきにされるものと考え、仲間を集めて押しかけ、機先を制して相手に暴行を加えようと企て、少年が自ら木刀を準備し、集まつた仲間らに檄をとばして、呼び出された駐車場にバイクに乗つて大挙して押しかけ、同駐車場で、多数の仲間らとともに、順次、各被害者らに一方的に暴行を加えるなどの非行に走つたものであつて、各非行の動機、態様、結果及び少年の生活態度等に鑑みると、犯情は芳しくなく、非行から窺われる少年の集団依存意識ないし集団帰属志向をも勘案すると、少年を中等少年院(一般短期処遇)に送致した原決定の処分もあながち首肯し得ないわけではない。

しかしながら、関係証拠によれば、右(二)の非行に陥つたのは、少年が、Cらから右駐車場に呼びつけられた際、その場に居合わせたEやDらから、こもごも、「この車みたらわかつペ。ヤクザついていんだぞ。」、「一人で来れないなら親でも警察でも先生でも誰でも連れて来い。」、「おめい、来ねいとどうなるかわかつぺな。」などと脅されたことから、駐車場に一人で赴いても到底話合いでは済まないものと考え、Aらに事の顛末を話したところ、同人らも仲間に連絡して総勢13人が集まつたこと、少年は、Fから「木刀を持つて来い。」と言われたため、かねて買い求めていた木刀1本を自宅から持ち出し、Gがこれを受け取つてCに機先を制して殴りかかつたものであり、少年は手拳でCらを殴打したにとどまること、右(二)の非行に関与した共犯者らのうち、その指導的立場にあつたのは、むしろA、Bらであつたことが認められ、以上の各事実によれば、被害者らにも少なからず落ち度があり、かつ、右の非行の発端が少年の女性問題であつたにしても、必ずしも少年が終始その中心的役割を果たしたものではなく、又、関係証拠によれば、少年は、他の共犯者らから集めた現金5万円を被害者Eに見舞金として贈り、少年らの保護者も被害者らに見舞金を贈るなどして謝罪していることが認められるほか、少年は、深夜はいかい等による補導歴はあつても、保護処分歴は全くなく、右(二)の非行によつて身柄を拘束されたことから、内省を深め、従来の不良交友関係を断つことを誓つていることが認められるところ、以上の各事実に、少年の年齢、性格、精神状況のほか、共犯者らに対する処分との均衡等をも考慮すると、少年を直ちに中等少年院に収容して矯正教育を施さなければならないほどの要保護性があるか否か疑わしいばかりでなく、少年の保護者は、従前の監護の不十分であつたことを反省し、今後自らの手もとで少年を十分監護する旨誓い、又、雇主も、少年の今後の雇用については少年及び保護者と話し合つて決めたい旨書面で回答しているものの、いずれも、その具体的な監護指導の方策をどのようにするかについては、記録上明らかでないことなどをも勘案すると、これらの点についての調査を十分尽くすことなく、少年を中等少年院(一般短期処遇)に送致した原決定は、著しく不当な処分であるといわざるを得ない。論旨は理由がある。

よつて、本件抗告は理由があるので、少年法33条2項により原決定を取り消し、本件を福島家庭裁判所郡山支部に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 金子仙太郎 裁判官 泉山禎治 小野貞夫)

〔参照〕原審(福島家郡山支 昭60(少)516,579号 昭60.10.22決定)

主文

少年を中等少年院(一般短期処遇)に送致する。

理由

(非行事実及び適用罰条)

昭和60年9月20日付および昭和60年9月4日付司法警察員作成の送致書記載のとおり。

(処遇理由)

本件非行事実、少年のこれまでの行動、性行並びに現在の生活環境に鑑み、今後少年を健全に育成するためにはこの際少年を中等少年院(一般短期処遇)に送致し、矯正教育を施す必要がある。よつて、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して主文のとおり決定する。

〔参考〕 司法警察員作成の少年事件送致書の犯罪事実

(昭和60年9月4日付け)

被疑者K・M、Aは共謀のうえ、

昭和59年12月初旬ころの午前1時ころ、田村郡○○町大字○○字○○××番地国鉄○○駅北側町営駐車場において同所に駐車中の軽貨物自動車(登録番号いわき××あ××××号)よりP(60歳)所有にかかるガソリン2リツトル位時価310円相当を窃取したものである。

(昭和60年9月20日付け)

被疑者K・M、Bは、Aら友人10名と共謀のうえ、K・Mが女性問題でCと対立し、昭和60年8月19日午後9時30分ころ、田村郡○○町大字○○字○○×番地、○○○○工場前駐車場において話し合うため右Cらに呼出されたことを知り同人らを木刀等を使用して襲撃しようと企て

(一) 昭和60年8月19日午後9時20分ころ前記場所においてCを木刀手拳等で殴打し、足蹴りにする等の暴行を加え、もつて同人に対し加療10日間を要する右眼瞼打撲皮下血腫、右頬部並に下口唇打撲皮下出血、上顎右側中切歯牙脱臼の傷害を負わせ

(二) 前記日時場所において、Hを木刀手拳等で殴打し、足蹴りにする等の暴行を加えもつて同人に対し加療約1週間を要する右上肢、背部打撲傷兼擦過創、腰部打撲傷の傷害を負わせ

(三) 昭和60年8月19日午後9時30分ころ前記場所においてNを木刀、手拳等で殴打し、足蹴りにする等の暴行を加えもつて同人に対し、加療10日間を要する、左肘関節部、顔面打撲皮下出血の傷害を負わせ

(四) 前記日時場所においてEを手拳等で殴打する等の暴行を加えもつて同人に対し加療約6ヶ月を要する左側下顎隅角部骨折の傷害を負わせ

(五) 昭和60年8月19日午後9時25分ころ、前記場所においてIを手等等で殴打し、足蹴り等の暴行を加えもつて同人に対し、加療約1週間を要する顔面打撲傷の傷害を負わせ

(六) 昭和60年8月19日午後10時30分ころ前記場所においてJを手拳等で殴打し、足蹴りする等の暴行を加えもつて同人に対し加療約1週間を要する頸部打撲傷兼急性結膜炎の傷害を負わせ

(七) 昭和60年8月19日午後9時40分ころ前記場所においてDを手拳で殴打する等の暴行を加えもつて数人共同して暴行し

たものである。

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