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仙台高等裁判所 昭和62年(ネ)565号 判決 1989年2月27日

控訴人(第一審原告) 木村妙子

右訴訟代理人弁護士 山田忠行

右同 高橋輝雄

右同 吉岡和弘

被控訴人(第一審被告) 株式会社オリエントファイナンス

右代表者代表取締役 阿部喜夫

右訴訟代理人弁護士 渡部修

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人は控訴人に対し、金六〇万円及びこれに対する昭和六〇年三月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを四分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

三  この判決は、控訴人勝訴の部分につき、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は控訴人に対し、金八〇万円及びこれに対する昭和六〇年三月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二当事者双方の主張

次のとおり加除訂正するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決二枚目表四行目の「を」を「の」と訂正し、同行目の「業」の次に「を目的」を挿入し、同裏二行目の「原告は、」の次に「本件契約に際し、」を挿入する。

二  同二枚目裏末行目の「先立つ」の次に「被控訴人会社の従業員らによる」を、同三枚目表一行目の「または」の次に「容易に」を、同行目の「なされた」の次に「ものであり、」を、同二行目の「民法」の次に「四四条、」を各挿入し、同四行目の「すなわち、」を削除し、同八行目の「から、」の次に「当時」を挿入し、同九行目の「十分」を「適切」と訂正し、同一一行目の末尾に「しかるに、当時そのような確認手続は全くとらなかった。」を加入し、同三枚目の裏一行目ないし六行目を「そして、被控訴人としては、本件契約当時、控訴人の右保証意思確認の手続をとっていないということ及び本件連帯保証契約書は偽造されたものであるということは十分知っていた筈であり、又は、一寸調査すれば容易に知り得た筈であるところ、被控訴人は、終始否認する控訴人を、一方的に本件連帯保証人であるときめつけて執拗な追及を繰返し、更には不当にも前記立替金訴訟を提起したのである。」と訂正し、同七行目の「さらに、」ないし「ある。」を削除し、同一一行目の「被告」の次に「従業員」を挿入する。

三  同六枚目表八行目の末尾「する。」の次に「被控訴人の従業員は、当時、電話で、控訴人の保証意思を確認している。」を加入し、同行目と同九行目との間に「3同第5項の事実は否認する。」を加入する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二  甲第二号証(本件契約書)中、控訴人作成名義部分(連帯保証人欄)には、控訴人の氏名・住所・生年月日・電話番号・勤務先・勤続年数が記入され、控訴人氏名の下には「木村」なる押印がなされているけれども、《証拠省略》によれば、右氏名は控訴人が記載したものではなく、印影も控訴人の印鑑と全く違う判によって顕出されたものであり、勤続年数の記載も間違っていること、住所は結婚(昭和五二年一二月)前の実家の住所が記入されてあって、同書が作成された昭和五七年二月当時の住所とは違っていること、控訴人は、昭和三〇年八月一四日生れの女性であるが、昭和五三年一月から昭和五七年一二月まで訴外株式会社報生建設(以下「報生建設」という。)に事務員として勤務中、報生建設の社長の知人である保険外交員鈴木一男(以下「鈴木」という。)が、毎日のように報生建設の事務所に出入りしていた関係で鈴木と顔見知りとなったが、昭和五五年頃、鈴木から、「保険外交員として、仕事の成績を上げたいので、生命保険の契約者として名義を貸して欲しい。」旨の依頼を受けた際、鈴木に対し、控訴人の生年月日や結婚前の実家の住所等を教えたことがあったことが認められるので、右連帯保証人欄は、鈴木又はその意を受けた第三者が、擅に作成したものであって、控訴人の意思に基づかずに作成された偽造文書であると認められる。

三  《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

1  被控訴人は、訴外「総合衣料さとう」と加盟店契約を締結し、右の者(以下「加盟店」という。)に対し、その取扱う商品及び役務の内容並びに販売方法等について指導監督する立場にあったところ、鈴木は、昭和五七年二月頃、加盟店から衣服を購入するに際し、加盟店を通じて被控訴人に対し、高橋彰夫(以下「高橋」という。)を連帯保証人として、その購入代金等の立替払契約の申込みをした。加盟店から右申込みがあった旨の連絡を受けた被控訴人は、高橋の信用調査をした結果、高橋は右連帯保証人として不適当である旨判断したので、同年二月一七日加盟店にその旨伝えたところ、加盟店から、連帯保証人を高橋から控訴人に変更する旨の返答を受けた。そこで、被控訴人は、改めて、控訴人の信用調査をした結果、控訴人は連帯保証人として特に問題がないとの結論を出した。

2  そこで、被控訴人の従業員で調査確認事務を担当している文屋繁子(以下「文屋」という。)は、その頃、被控訴人の社内文書である調査票(以下「本件調査票」という。)中の連帯保証人欄に既に記載されていた高橋の氏名・住所等の文字の上に、黒色の太マジックペンで、右文字を塗りつぶすような仕方で控訴人の氏名・住所等を記載し、次いで、昭和五七年二月二二日午後四時四五分頃、控訴人に対し、連帯保証の意思を確認する目的をもって、控訴人の前記勤務先に電話をしたところ、控訴人不在のため、控訴人からその旨の意思確認を得ることができなかった。そこで、文屋は、赤色のサインペンを用いて、本件調査票の控訴人に関する「確認」欄中の「月日時分」欄に「四時四五分」と記載したうえ、不動文字で印刷された「本人」及び「勤務先」の部分を丸印で囲んだが、右印刷された「確認」の部分については丸印は付さなかったほか、連帯保証人欄の右側の空白部分に「四時四八分、不在、本人もどらない」と記載しておいた。しかし、結局、文屋も、その他の従業員も、それ以外に、控訴人に対し、面接は勿論のこと電話によるなどの方法によってでも控訴人の本件連帯保証の意思を確認しなかった。

3  被控訴人は、昭和五七年二月二三日、鈴木との間で、本件契約を締結するに際し、鈴木から本件契約書を差入れさせた。そして、被控訴人の担当者らは、本件契約書の本人欄と連帯保証人欄の筆跡とが違うのではないかとしただけで、そのことから、控訴人において本件連帯保証を承諾して、その意思に基づいて本件連帯保証契約書を作成して提出したものと軽々に判断して扱い、それ以上に進んで、本件契約書に基づき、控訴人に対し、面接又は電話などで控訴人本人であることを、住所・勤務年数・生年月日を問うなどして確認した上で、直接的又は間接的にでも、本件連帯保証を承諾しているものかどうかを確認する措置を講じなかった。そして、被控訴人は、同年三月一〇日本件契約に基づき、加盟店に対し、鈴木の右衣服購入代金を立替え支払った。

4  控訴人は、昭和五七年四月頃、被控訴人からの右立替払金支払催促の葉書が控訴人の実家に配達されたことにより、初めて、自分が本件契約の連帯保証人にされていることを知って驚いたが、その後まもなく、被控訴人の従業員から、控訴人の勤務先に電話がかかり、再び右金員の支払催促を受けたけれども、被控訴人に対し、連帯保証したことを強く否定して支払を拒絶した。

5  鈴木は、被控訴人に対し、昭和五七年九月二七日までに合計一三万六九〇〇円を支払うべきところ、同日までに計七万九〇〇〇円を支払っただけで、割賦支払すべき立替金の残金の支払をせず、結局、同年一一月四日分割弁済の期限の利益を喪失した。

6  被控訴人の従業員で督促事務を担当している庄子正文(以下「庄子」という。)は、昭和五七年一一月四日控訴人に対し、右立替金の残金支払を求めるとともに、その支払がなければ法的措置をとることがある旨の訴訟決定通知書と題する書面を発送した。

7  控訴人は、本件契約につき連帯保証をしたことがないのに、被控訴人から右支払催促の葉書や訴訟決定通知書が送られてきたことなどから、法律に不慣れなこともあって精神的に不安定な状態になっていた矢先、配偶者である木村功との間の子を妊娠していることに気付き、これによるつわりがひどかったため、勤務先をやめ、以後、体調をくずして自宅で休養していたところ、昭和五七年一一月八日頃、被控訴人の担当者から、電話で、強い口調で、「あなたは、鈴木さんの件で連帯保証人になっているでしょう。立替金の残金を支払って欲しい。」と言われたが、「連帯保証人になっていないので支払えない」と答えて右支払を拒否した。しかし、被控訴人の担当者は、なおも、控訴人に面談するなどして本件連帯保証の有無につき確認する何らの措置もとらないまま、その後も、しばらくの間、毎日か一日置き位に控訴人の自宅に電話をかけ(その時間は、昼前、午後三時、午後四時、夕方、夜遅く等と日によりまちまちであった。)、控訴人に対し、執拗に、右金員の支払を催促し続けたので、控訴人が警察に訴える旨告げたところ、「何時、警察に行くのか。何を言いに行くのか。」などと問い詰める態度をとったため、控訴人は精神的動揺を受けた。

8  庄子は、昭和五七年一二月一六日、右金員支払催促のため、控訴人の自宅に電話をかけたところ、控訴人の家族から、控訴人は産婦人科病院に入院中であり、同月一五日頃に退院する予定だったが未だ退院せず不在である旨の返事を受けたので、控訴人に対し、右金員支払の件につき同月二〇日までに被控訴人に返答するように等と記載された差押予告通知状と題する書面を発送した。

9  昭和五七年一二月二〇日、庄子は、再び控訴人の自宅に電話をかけたところ、控訴人は、「本件連帯保証契約は、自分が知らないうちに勝手になされたもので、自分は関係がない。」と言って、本件連帯保証契約の成立を否定するとともに、右金員の支払を拒否する旨の返答をした。そこで、庄子は、被控訴人の内部文書である管理回収カードにその旨を記載したが、これ以上に、控訴人の連帯保証の有無に関して格別の調査はしなかった。

10  被控訴人の従業員(督促担当)で庄子の上司にあたる山田健(旧姓山岸・以下「山田」という。)は、右管理回収カードの記載から、控訴人が本件連帯保証を否認していることを知っていたが、本件契約書中の鈴木作成名義部分と控訴人作成名義部分とは、その各筆跡が同一人によるものではないと認められるとして、ただそれだけのことで、格別の調査手段も講ぜず、控訴人は連帯保証したことを否認するも、単なる言いのがれであると軽信し、昭和五八年二月一一日午後八時五四分頃、控訴人に対し、再度、右立替金残金の支払催促の電話をかけたところ、控訴人は、山田に対し、本件連帯保証をしたことを強く否認し、これまで、被控訴人側で言うような連帯保証意思確認の電話連絡を受けたりしたことはない旨述べた。

11  被控訴人の従業員でこげつき債権の回収を担当している芦田総三郎(以下「芦田」という。)は、前記管理回収カード等によって、これまでの控訴人との連帯保証の有無をめぐる交渉経過を知っていたが、改めて調査することもせず、山田と同様に、一方的に控訴人は言いのがれをしているに過ぎず、本件連帯保証契約は成立しているものとして、昭和五八年九月五日、控訴人に対し、連帯保証人として、右立替金の残金六三万一九三二円を同月一二日までに支払うこと、もし、同日までに支払うことができない場合には、分割払いに応じるので、印鑑登録証明書と実印とを所持して被控訴人方に来ること、これに応じなければ訴訟を提起する旨記載した訴訟決定通知書と題する書面を発送した。これに対し、控訴人は、同月一二日、被控訴人方に電話をし、電話口にでた芦田に対し、「自分は、本件契約書に署名も押印もしたことはなく、契約書記載の住所は現住所ではなく、実家の住所である。鈴木は、生命保険の仕事をしていて、私の実家の住所を調べたのではないか。鈴木の連帯保証の件で、自分所有の被控訴人発行のクレジットカードが使用できず迷惑している。」旨述べ、本件連帯保証契約の成立を否定した。これに対し、芦田は、同月一七日上司に訴訟提起すべき旨報告し、その結果、被控訴人は、昭和五八年一一月八日本件立替金訴訟を提起した。

《証拠判断省略》

四  以上によると、被控訴人は、その従業員らにおいて、本件契約に際して、控訴人が真実本件連帯保証を承諾しているものかどうかについて適切な確認をしなかった。そればかりか、更に、同従業員らは、昭和五七年四月頃、控訴人との電話交渉に当り、控訴人から連帯保証を強く否定されたのであるから、この件につき、直ちに、調査をして真偽を確認すべきであるのにこれをせず、特に、文屋作成の本件調査票を閲すれば、控訴人の連帯保証承諾についての確認がなされていないことが極めて容易にわかるし、控訴人に対し、面接又は電話などで、本件契約書中の住所・勤続年数などを問い正せば、同契約書中の連帯保証人欄の記入と署名につき容易に不審を持ち、同欄部分が偽造であって本件連帯保証契約が成立していないことを認識できた筈であるところ、以来全く右調査を怠ったため、控訴人が本件連帯保証をしていないことに気付かず、一方的に、控訴人に対して、本件連帯保証債務があるとして、執拗に、その追及を繰り返したうえ、本件立替金訴訟を提起し、そのため、控訴人はこれに応訴しなければならなかったもので、被控訴人及びその従業員らの右行為は不法不当なものであると認めるのが相当である。

したがって、被控訴人は、控訴人に対して不法行為責任を免れず、控訴人の被った損害を賠償すべき義務がある。

五  控訴人の損害

1  弁護士費用金二〇万円

《証拠省略》によれば、控訴人は、本件立替金訴訟に応訴するため、弁護士山田忠行と訴訟委任契約をし、同弁護士に対し、その着手金及び報酬として合計金五万円を支払い、また、本件訴訟提起のために、弁護士山田忠行、同吉岡和弘、同高橋輝雄と訴訟委任契約をし、右弁護士らに対し、その着手金及び報酬として合計金一五万円の支払を約したことが認められる。

2  慰藉料金四〇万円

前叙認定の経過に徴すると、控訴人は、甚だしい精神的苦痛を被ったことが推認されるので、これに対する慰藉料は金四〇万円が相当であると認める。

六  よって、控訴人の本訴請求は、被控訴人に対し、不法行為による損害賠償として金六〇万円及びこれに対する原審における訴状送達日の翌日である昭和六〇年三月一九日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容するが、その余は失当であるからこれを棄却すべきところ、これと異なる原判決は右の限度で失当であるからこれを変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三井喜彦 裁判官 岩井康倶 松本朝光)

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