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仙台高等裁判所 昭和62年(ラ)59号 決定 1988年2月08日

抗告人

横浜常蔵

抗告人

奥野哲平

抗告人

長尾要一

抗告人

長尾峰五郎

抗告人

寺山鉄弘

右五名代理人弁護士

祝部啓一

被抗告人

田端勝一

右代理人弁護士

山崎智男

主文

本件抗告をいずれも棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。

二本件における事実関係は、原決定の認定したとおりであるからこれを引用する(ただし、原決定二枚目表八行目の「本件の」を「別紙目録記載一、二の」と、同二枚目裏三行目の「同月」を「同年一〇月」と訂正し、別紙目録記載一の「相手方ら名義」を「申請人名義」と、別紙目録記載二の「相手方長尾峰五郎名義」を「申請人名義」と訂正し、別紙目録記載二の次に行を変えて「相手方 長尾峰五郎」を加える。)。

ところで、商法二〇四条ノ二、第二項の規定により株式の譲渡の相手方と指定された者が、同法二〇四条ノ三、第一項の規定により、株主に対し、株式を自己に売り渡すべき旨を請求したときは、この請求によって、株主と右譲渡の相手方と指定された者との間に、当該株式について売買契約が成立するものと解すべきである。そして、このようにして当該株式について、売買契約が成立した後は、右の請求をした者は、もはや一方的に右請求を撤回することはできないものというべきである。

これを本件について見ると、前記事実関係によれば、抗告人らが、原決定別紙目録記載一の株式については昭和五九年一〇月一二日付、別紙目録記載二の株式については同年一一月八日付各書面をもって、被抗告人に対して、売り渡すべき旨を請求したのであるから、右各請求により、被抗告人と抗告人らとの間に、本件株式について売買契約が成立したものというべきであり、抗告人らは、もはや右請求を撤回できないものというべきである。

抗告人らは、右と異なる見解に立って、本件株式の売買契約は未だ成立していないとか、同法二〇四条ノ四、第六項の規定に基づく売買の解除は、株主のみならず、同法二〇四条ノ三、第一項の規定により株主に対し株式を自己に売り渡すべき旨を請求した者もなしうると主張するが、いずれも独自の見解であって、採用することができない。したがって、抗告人らは、原審第八回審問期日において、本件株式の売買契約を解除する旨の意思表示をしているが、解除の効果は生じないものというべきである。

また、抗告人らは、石村秀雄において、本件株式の譲り受ける意思を放棄しているとか、申請外会社の取締役会において、被抗告人の申請にかかる本件株式の譲渡を承諾したとか主張するが、記録によれば、右事実は、いずれも、被抗告人と抗告人らとの間に本件株式の売買契約が成立した後の事実であることが明らかであるから、右売買契約の効力に何ら消長を及ぼすものではない。

そして、原決定は、同法二〇四条の四、第二項に基づき、本件株式の売買価格を一株につき一〇九五円と定めたものであり、その過程に何ら違法は認められない。

よって、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからいずれもこれを棄却し、抗告費用は抗告人らの負担とし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官奈良次郎 裁判官伊藤豊治 裁判官石井彦壽)

抗告の理由

一 原決定は抗告人らにおいて「本件売買契約を解除するとか、本件手続中に申請外会社の取締役会において申請人の株式譲渡を承認する旨の決議をしたから、申請人はもはや非訟事件手続を続行する利益を失った等主張するが、いずれの主張も理由がなく採用し難い」と認定、前記原決定(主文)の表示欄記載の決定をされた。

二 商法二〇四条ノ四⑥項の「商法二〇四条ノ二第三項<取締役の承諾があったとみなされる場合>ノ規定ハ売買価格ト供託シタル額トノ差額ニ相当スル金額ノ支払ナキ為株主ガ売買ノ解除ヲ為シタル場合ニ之ヲ準用ス」の規定、代金の支払に関し「売買価格と供託金額の差額の支払のない場合には、株主は相当の期間を定めて支払を催告し、支払なきときは売買を解除しうる。売買を解除したときは株主の当初申出のあった株式の譲渡は承認があったものとみなされる」の説示(注釈株式会社法 上 今井宏外著 有斐閣九八頁)がある。

三 抗告人らが被指定者として供託した「一株五〇〇円の割合による供託金」は抗告人らにおいて「一株五〇〇円」でも買い入れる旨売渡請求したもので、原決定の「一株金一〇九五円」で買い入れる旨売渡請求したものではない。したがって「売買価格を一株につき金一〇九五円と定める」の原決定があったからとて、右原決定の時点で右決定額通りの売買契約が成立したとはいえない。一方「決定された売買価格が供託額を超える場合売渡請求者はその差額を支払うべし」とする商法上の規定もない。

四 「差額の支払のない場合には株主は相当期間を定めて支払を催告し、支払なき場合には売買を解除できる。解除の場合株主の当初申出のあった株式の譲渡は承認があったものとみなされる」の説示及び商法二〇四条ノ四第四項の「株式の移転は代金支払の時に効力を生ずる」の規定を綜合すれば、法は供託額を超える売買価格の場合売渡請求者の売買申込みの撤回を認める趣旨をも含んでいるやに解される。以上により商法二〇四条ノ四に関し供託額を超える場合の売買契約は供託額と売買価格の差額の支払があった時に成立すると解する。したがって、売渡請求者の供託の法的性質は売買申込みにすぎず、売渡請求者は差額の支払を完了するまでは自由に右売買申込みを撤回しうると解する。売渡請求者による解除の場合にも商法二〇四条ノ四⑥項が準用されると解する。

五 本件は相手方の譲受人石村秀雄において譲受意思を放棄した事案、また申請外会社においても相手方の株式譲渡を承認する旨決議した事案である。また、抗告人らにおいても売買申込みを撤回した事案である。したがって、本件株式の移動は現段階ではないから相手方の本申立は棄却さるべきものと解する。しかるに、原決定は抗告人らの主張に反するので本抗告に及ぶ。

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