仙台高等裁判所 昭和63年(ネ)196号 判決 1989年1月27日
控訴人(原告)
鈴木幸平
ほか一名
被控訴人(被告)
近浩二
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
控訴人らは、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人らに対し各金七五〇万円及びこれに対する昭和五九年五月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張並びに証拠関係は原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
理由
原判決事実摘示の請求原因1、2、3の事実は当事者間に争いがない。
被控訴人主張の免責の抗弁について判断する。
成立に争いない甲第三号証、第五号証の一、二、原審の控訴人鈴木幸平の供述により成立を認めうる乙第一号証の一ないし六、いずれも原審における証人布川浩之の証言、被控訴人、分離前昭和六一年(ワ)第四五七号事件原告近仁美各本人尋問の結果及び検証の結果によれば、次の事実が認められる。
本件事故現場付近の道路はアスフアルト舗装で、幅員七・九メートル、被控訴人の進行方向で昇り勾配約八パーセント、右へ約三六度のカーブであり、カーブより先の前方は見えない。当時路面は乾いていた。
被控訴人は、事故当日(昭和五九年五月二七日)午前二時頃、新潟市内の自宅を、自動二輪車で、後部に妻の仁美を同乗させて出発したが、事故直前頃、本件現場近くを時速約四〇キロで宮城県方面へ向つて走行していた。
他方、鈴木英正は自動二輪車(以下、鈴木車という。)で宮城県方面から山形市方面に向つて時速七〇ないし八〇キロで走行して、本件現場近くにさしかかつた。
被控訴人は、事故直前、後部に妻仁美を同乗させて、道路左側部分を時速約四〇キロで進行していたところ、前方約四〇ないし五〇メートルに、時速約七〇ないし八〇キロで対向してくる鈴木車を発見したが、鈴木車が中央線を越えて進行してきたので、衝突を避けようとして、両車の距離約二〇メートルの時、ハンドルを右にきつたが、間に合わず、両車とも左側面において衝突した。衝突地点は中央線より道路左側部分へ約六〇センチメートル入つた所であつた。時速七〇キロの場合、秒速約一九メートル、時速四〇キロの場合、秒速約一一メートルであるから、両車の車間距離が三〇メートルあるとき、一秒間で衝突することになる。被控訴人が危険を感じたとき、既に衝突を回避することは不可能であつた。
以上のように認められる。甲第八号証、原審の控訴人鈴木幸平本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は、前掲採用の証拠に照らし信用できず、他に右認定を動かすに足る証拠はない。
右認定に基づいて判断するに、本件事故は鈴木車が制限速度を越えた時速七〇ないし八〇キロで進行し、カーブで中央線を越えたために発生したものであり、被控訴人には何ら違反はなく、しかも、衝突回避も不可能であつたから、本件事故は専ら鈴木英正の過失によつて生じたものであり、被控訴人に何ら過失はないこと明らかである。次に、被控訴人の車の構造上の欠陥又は機能の障害の有無は本件事故と関連性がないと認められる(もつとも、被控訴人は当日新潟市から蔵王エコーラインまでその車を無事に運転してきたのであるから、その車に構造上の欠陥も機能の障害もなかつたものと認められる。)。
したがつて、被控訴人の免責の抗弁は理由がある。
よつて、控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石川良雄 武田平次郎 木原幹郎)