仙台高等裁判所 昭和29(う)132 高裁判例
主 文
原判決を破棄する。
被告人A、同Bを各懲役八月に処する。
ただし、この判決確定の日から三年間いづれも右刑の執行を猶予する
理 由
本件各控訴の趣意は被告人Aの弁護人金崎益枝作成名義の、被告人Bの弁護人中
村嘉七作成名義の各控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。
弁護人金崎益枝控訴趣意第一点について、
論旨は原判決は被告人を懲役八月の実刑に処しているが、本件窃盗の罪は所謂余
罪であるから、原判決が刑法第二十五条第一項により執行猶予を附し得ないとの解
釈をとつたとすれば、同法条の解釈適用を誤つたものであると主張する。
被告人Aが昭和二十九年一月二十二日原審において別件の窃盗被告事件について
懲役十月但し三年間刑の執行猶予の言渡を受け右判決は同年二月六日確定したこと
並びに原審が認定した本件窃盗の事実は右確定判決以前の昭和二十八年十二月二十
九日頃の所犯であつて本件窃盗の罪は右確定判決のあつた罪と刑法第四十五条後段
の併合罪の関係に立つもので右確定判決によつて執行猶予を言渡された罪の所謂余
罪であることは所論のとおりである。
よつて執行猶予の確定判決を経た罪の余罪について刑法第二十五条第一項により
刑の執行を猶予し得るかを検討する。
まづ或る罪につき執行猶予の確定判決があり、この猶予期間中さらに罪を犯した
者に対しては改正(昭和二十八年法律第一九五号による改正以下同じ)前の刑法第
二十五条第一号により再度の執行猶予を言渡すことはできなかつたところであつ
て、猶予期間中の者に対しては法は刑の言渡失効の恩典と猶予取消の警告とにより
再犯を自制すべきことを期待しているのであるから、この法の期待に反し、再び罪
を犯した場合にはもはや、かさねて執行猶予を付し得ないと考えられたからであ
る。しかし、或る罪の執行猶予の判決確定前に犯し、これと同時審判の可能性のあ
つた所謂余罪については事情は右と異るものがあり、これ最高裁判所の判決(昭和
二十五年(あ)第一五九六号同二十八年六月十四日大法廷判決)が執行猶予の確定
判決を経た罪とその余罪とが同時に審判されていたならば、一括して執行猶予を付
し得たであろうと認められる場合には刑の執行猶予制度の本旨に鑑み改正前の刑法
第二十五条第一号の「刑ニ処セラレタル」とは実刑の言渡を受けた場合と解し、余
罪について執行猶予の可能なことを認めた所以であると解する。
しかして同法条は改正後の同法第二十五条第一項第一号としてそのまま存置せら
れたのであるから、右判例の解釈はいぜん改正後の同法条についても維持せられる
べきものというべきである。もつとも右改正と同時に同法第二十五条第二項の新設
をみたが右の理はこれによつて何等影響がないものである。すなはち、同法第二十
五条第二項は改正前においては執行猶予を付することができなかつた猶予期間中罪
を犯した者に対し「一年以下ノ懲役又ハ禁錮ノ言渡ヲ受ケ情状特ニ憫諒ス可キモノ
アルトキ」は再度の執行猶予の言渡を可能ならしめる趣旨の規定であつて、余罪に
ついて刑に処せられる者には関わるところはないのである。けだしかかる執行猶予
中、罪を犯した者であるからこそ右の如く同条第一項の場合に比し特に厳重な条件
を付すると共に右第二項の新設に伴い附加された同法第二十五条ノ二に規定する必
要的保護観察に付する措置がとられなければならないものとしたのであつて、余罪
についてかかる厳重な制約を設ける何等の理由がないからである。
<要旨>要するに余罪たる本件窃盗については、前記最高裁判所の判例の示すとこ
ろに従い、刑法第二十五条第一項</要旨>第一号により執行猶予の言渡をすることが
できるものと解すべきである。そして同条第二項により保護観察に付すべきではな
いと解するを相当とする。しかし原判決には同法条の解釈について何等判示すると
ころはなく、原判決が単に余罪たる本件窃盗について実刑の言渡をしたからといつ
て、刑法第二十五条第一項の解釈を誤つたものとはいえないから法令違反を主張す
る論旨は理由がない。
同弁護人の控訴趣意第二点、及び被告人Bの弁義人中村嘉七の控訴趣意について
(各量刑不当の論旨)
記録及び証拠により本件の情状を調査するに被告人Bは本件の被害について一部
弁償をし被害者との間に示談解決をみていること、被告人Aも本件の被害の弁償に
ついて誠意が認められること、前刑の罪も比較的軽徴と認められること、その他被
告人等の家庭の状況、生活状態等考慮するとき原判決が被告人等に対し実刑の言渡
をしたのは科刑重きに過ぎるものというべく、原判決はこの点において破棄を免れ
ない。論旨はいづれも理由がある。
よつて各刑事訴訟法第三百八十一条第三百九十七条第一項により原判決を破棄し
各同法第四百条但書により更に判決する。
原判決の確定した事実を法律に照らすと、被告人等の原判示各行為はいづれも刑
法第二百三十五条第六十条に当るところ、被告人Aの判示窃盗の罪は判示確定裁判
を経た罪と同法第四十五条後段の併合罪であるから、同法第五十条により未だ裁判
を経ない右罪について処断することとし、いづれも所定刑期範囲内において被告人
等を各懲役八月に処し、情状により各同法第二十五条第一項によりこの判決確定の
日からいづれも三年間右各刑の執行を猶予すべく、原審の訴訟費用は刑事訴訟法第
百八十一条第一項但書により被告人Aをしてこれを負担せしめない。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中兼謙吉 裁判官 岡本二郎 裁判官 兼築義春)