仙台高等裁判所秋田支部 昭和27年(う)169号 判決
第一、検察官の公入札妨害の公訴事実に関する控訴趣意について、
一、まず、刑法第九十六条ノ三第二項の「公正ナル価格ヲ害シ又ハ不正ノ利益ヲ得ル目的ヲ以テ談合シタル者」という規定の解釈について考究する。
原判決が談合罪における公正価格とは公正な自由競争によつて形成せらるべき落札価格と解しているのは正しい。即ち公正価格は入札を離れて客観的にきまる価格ではなく、入札の場合、談合がなかつたとすれば、落札になつたであろうと認められる価格をいうのである。もつとも入札施行者が予定価格ないし落札制限価格を決定してこれを公示せずにおき、入札の全部がその価格の範囲から脱しているときには落札を認めず再入札に附するとか、特定の業者と随意契約を締結することがあり、したがつて、談合が行われても落札にならない結果を招くことになる場合が生じ得るのであるが、この場合における公正価格は入札施行者の拒否のない限り落札となるべかりし価格であつて、入札施行者の入札後の行為は談合罪の成立に関係がないものと解する。けだし談合罪は談合即ち協定の成立により既遂となり談合は性質上入札前に成立するからである。
不正の利益とは社会常識に照らし具体的事案について決定すべきであるが、工事を施行する意思なく、金銭(談合金)を得ることのみを目的とし談合した場合は勿論、工事施行の意欲があつても、金銭その他の経済上の利益の提供を受けることによりその工事施行の意欲を放棄し、他の業者との協定(談合)に応じたときも、その経済上の利益が社会常識上いわゆる「祝儀」の程度を超え、不当に高額である場合は不正の利益と解すべきである。
「公正ナル価格ヲ害スル目的」をもつてした談合罪と「不正ノ利益ヲ得ル目的」をもつてした談合罪とは別個に成立し得るのであつて、そのことは条文に「又ハ」とあることにより明らかである。なお「目的」とは意思と同意義に解すべきであつて、公入札の場合、競争者が公正価格を害することを認識し、または未必的に認識しながら(その数額まで認識する必要はない)互に協議して、一定の価格を決定し、ある特定の入札希望者以外の者はその一定の価格以上で入札し、右特定の入札希望者のみはその価格以下で入札することにより、その者が落札者たらしめんことを協定した場合は「公正ナル価格ヲ害スル目的」をもつた談合罪が成立し、また、競争者の間で社会常識上不当と認められる程度の金銭をある特定の入札希望者に提供させ、その金銭を、他の形式上入札しても、実質的には落札による工事施行の意欲を放棄した者(またはその従業者)に、分配することを協定した場合においては、「不正ノ利益ヲ得ル目的」の談合罪が成立するものというべきである。この場合金銭を提供する特定の入札希望者は金銭を提供するのであつて、この点のみからいえば不正の利益の取得者ではないのであるが、不正の利得を得ることの謀議に参加しているのであるから共犯の責任を免れ得ないと解する。
二、つぎに本件公訴事実について検討する。
(一) 起訴状第一の事実の要旨は「秋田県仙北郡生保内村が同村立生保内中学校々舎三百二十四坪余を新築するため、昭和二十五年一月十四日午後二時より同村役場で、建築の公入札を施行したのであるが、その際被告人伊藤は同村役場および同村男坂高橋タマヱ方等において、自己が右建築工事を落札し契約者となるべく、被告人佐川、高橋に対し当日入札のため来会した業者にこの旨談合方を依頼し、被告人佐川、高橋はこれを承諾し、前記場所において被告人伊藤とともに、右公入札のため来会せる被告人竹内、六郷、田口、池田、安倍、川和田、木村、佐藤ほか数名に対し、それぞれ「今日の入札は地元の業者(被告人伊藤)に委してもらいたい」と交渉し、また被告人高橋は前記被告人等に対し「皆さんはどうか三百八十万円以上に入れて下さい、業者には一人当り一万円宛をあげますから入札書を見せて下さい」と申向け、前記被告人等はこれを承諾し、いずれも三百八十万円以上に入札し、右建築工事を被告人伊藤に落札せしめ、同人をして右工事の契約者たらしめんと談合し、被告人高橋は右各被告人等の入札書を一覧し、三百八十万円以上に記入せることを確認のうえ、被告人伊藤が提供した談合金十七万円より被告人安倍に一万二千円、その余の被告人にそれぞれ一万円宛を贈り、前記各被告人は右談合金を収受して不当利得をなした」というのである。そして原審第六回公判調書によると、検察官は右被告人等全部が公正価格を害し、かつ不正の利益を得る目的をもつて談合したものであると釈明している。
そこで考察するに、
(1)司法警察員に対する畠山敏男の第一回供述調書、原審第三回公判調書中証人鈴木佐久司の供述記載によれば、秋田県仙北郡生保内村においては、生保内中学校々舎総坪数三百二十四坪余一棟の建築をするため、昭和二十五年一月十四日午後二時より同村役場で公入札を施行した事実が認められ、被告人伊藤、佐川、高橋、竹内、六郷、田口、池田、安倍、川和田、木村、佐藤はいずれも建築請負業者または建築請負業を営む会社の代理人として、同日右公入札参加のため生保内村役場に出頭したことは検察官に対する前記被告人等の供述調書により認められるところである。
(2)しからば、本件入札における公正なる自由競争により落札されたであろう価格は如何なる価格であつたろうか。
検察官に対する被告人高橋、六郷、佐川、池田、佐藤の各供述調書によれば、被告人高橋は「本件入札当日書類を調査した結果一応三百六十万円に見積つたが、村からの給付材がある関係上三百二十九万円で入札する考であつた」と述べており、被告人六郷は、「本件入札当日、入札前に役場で工事費の調査をして、三百二十万円と見積つた」と述べており、被告人佐川は「本件入札の前調査して三百八十万円で入札する考であつたところ、当日になり三百五十万円で入れようと考えた」と述べており、被告人池田は、「本件入札の四、五日前ごろ生保内村役場において書類に基いて調査したところ坪九千七百円で入札価格は三百十四万二千八百円となつた(工賃、交通費、会社の利益等一切の費用を含む)」と述べており、被告人佐藤は「本件入札前村当局の説明を聞いて三百五十万円に入札しようと考えた」と述べている。以上の証拠と原審第三回公判調書中証人鈴木佐久司の供述記載を総合すれば公正価格は大体三百二十万円ないし三百五十万円以下であると認めるのを相当とする。もつとも検察官に対する被告人田口の供述調書によれば、本件入札にあたつて、生保内村当局者は最低入札者必ず落札者とは限らぬと述べたことが認められるのであるが、前記証人鈴木佐久司の供述記載によれば生保内村としての予定価格は三百五十万円であつたことが認められるので、最低価格入札者が落札者とならなくも、三百五十万円とすれば落札になつたことが認められる。このことは検察官に対する被告人伊藤の供述調書により認められる。結局生保内村は被告人伊藤と随意契約により本件工事につき三百五十万円で請負契約を締結した事実からも推察されるのである。
(3)検察官に対する被告人伊藤、佐川、高橋、竹内、六郷、田口、池田、安倍、川和田、木村、佐藤の各供述調書によれば、本件入札〓日被告人伊藤は自己が落札者となることを強く希望して、その実現方を被告人竹内に依頼し、被告人竹内はさらに被告人高橋に依頼した結果、被告人高橋は、被告人伊藤から同人の入札希望価格が三百八十万円位であることを聞いて、同村役場附近の高橋タマヱ方に集つた右被告人等を含む被告人伊藤以外の業者に対し、「皆さんは三百八十万円以上に入れて下さい。業者には一万円宛を支払いますから入札書ができたら見せて下さい」と申向け、なお被告人伊藤もその場において「地元の業者(被告人伊藤は地元の業者である)にまかせて欲しいからよろしくお願いします」と依頼したので他の被告人等はこれを承諾し、ここに以上の被告人等は被告人伊藤に落札させるため、入札の際は被告人伊藤以外の被告人等は三百八十万円以上に入札することを協定した事実が認められる。
(4)前記のように、被告人高橋、六郷、佐川、池田、佐藤の五名はいずれも本件工事の入札価格を三百五十万円以下と見積つたのに三百八十万円以上で入札することを協定したのであるから、公正価格を害することになることを認識していたことは明らかである。
検察官に対する被告人伊藤、竹内、田口、安倍、川和田、木村の各供述調書によれば、同被告人等はいずれも三百八十万円以上で入札することに見積つた事実が認められるのであるが、また同被告人等が他の業者の見積価格を知つていたという証拠はないのであるが、公入札において入札希望者の各自の入札見積価格が異なることは当然各自において予想していればこそ、そこに協定(談合)が生ずるのであるから、協定する場合各自はそれぞれ自己の見積価格よりも低額の希望者の存するかも知れない程度の認識があるものと推認されるのである。本件においては前項(3)で説明のように被告人伊藤以外の被告人等は三百八十万円以上に入札してくれという言葉があり、これを被告人等が承諾したのであるから、被告人伊藤、竹内、田口、安倍、川和田、木村の六名もまた、それぞれ他の業者中には三百八十万円より低額の入札希望者があるかも知れないことを推測し得たものというべく、或は協定がなければ落札されるであろう価格(公正価格)が協定によつて引上げられるかも知れない程度の認識があつたことは当然推認されるのである。そしてこの程度の認識があれば公正価格を害する目的の談合罪の成立に必要な動機に関する要件を充足するものというべきである。
原判決をみると、被告人伊藤が地元請負人としての面目上契約者たらんことを熱望し、他の業者はこの熱望に負けて同人に譲歩したものであると説明している。以上の証拠によれば右のような事実が認められるのであるが、しかしそれは協定に至る事情にすぎず、犯罪の成否には関係がない。
(5)原審第二回公判調書中証人下間金次郎の供述記載、検察官に対する被告人伊藤、高橋、六郷、佐川、池田、佐藤、竹内、田口、安倍、川和田、木村に対する各供述調書によれば、右協定成立により被告人伊藤は三百七十八万五千円で入札し、被告人高橋は入札せず、その他の被告人等はいずれも三百八十万円以上に入札した事実およびその結果被告人伊藤が最低入札価格ではあつたが、生保内村の予定価格より高額であつたため、落札とならなかつた事実が認められる。しかし協定成立後現実に入札しなくも、犯罪の成立に関係なく、また入札施行者側の事情によつて落札とならなくもそのことは犯罪の成立に関係がない。
(6)原審第二回公判調書中証人沢口朝治、下間金次郎、鈴木貫一の各供述記載、検察官に対する被告人伊藤、高橋、六郷、佐川、池田、佐藤、竹内、田口、安倍、川和田、木村の各供述調書によれば、被告人高橋は被告人伊藤以外の請負業者に対し三百八十万円以上に入札すること、業者には一万円宛贈与することの条件をもつて協定に応ずるよう申向け、被告人高橋、伊藤以外の他の被告人等はこれを承諾して協定成立後被告人高橋は、一万円を受領して入札を思い止まり、さらに被告人伊藤以外の被告人等に対しては入札書に三百八十万円以上の記載のあることを確認して金一万円宛交付し、その被告人等はこれの贈与を受けた(被告人安倍はなお二千円の追加贈与を受けた)事実および被告人伊藤は業者に一万円贈るほか附添人にも一人当り千円ないし二千円を贈与するための資金として金十七万円を負担した事実が認められる。被告人等の多くは右一万円はいわゆる「御祝儀」ないし「弁当代」であると主張するのであるが、名目は別とし、右一万円は社会常識上いわゆる「御祝儀」とか「弁当代」の程度を超えており、談合金として違法性を帯びているものと認めるのを相当とし、それは法律にいう不正の利益に該当するというべきである。
(7)被告人伊藤以外の被告人等が右不正の利益を得ることを認識して協定した以上、法律にいう不正の利益を得る目的をもつて談合したことになるのである。被告人伊藤のみはその資金を提供したものであるがやはり右協定について謀議に関与したものとして共犯の責任を免れないことは前記説明のとおりである。
(8)以上説明のように、被告人等の起訴状第一の生保内中学校公入札妨害の事実は認定し得るのであるから原判決が公正価格を害する目的をもつて談合した証拠はなく、不正利益を得る目的をもつて談合したとの証拠もないと判断したのは判決に影響すべき事実を誤認したもので、破棄を免れない。論旨は理由がある。
(二) 起訴状第二の事実の要旨は「秋田県仙北郡神代村において、同村神代中学校々舎二百三十七坪を新築するため、昭和二十五年一月二十五日午前十一時より同村役場で建築の公入札を施行したのであるが、その際公入札に先だち、被告人鈴木源之助は株式会社堀井組(代表堀井元一)をして右建築工事を落札し、契約者たらしむべく、同村役場において被告人伊藤長太郎、佐川亀治、高橋子之吉に依頼し、当日公入札のため来合せる業者被告人竹内幸治、川和田彌一、木村郁郎、田口慶助、六郷順一、池田左武郎、ほか十数名に対し、それぞれ「今日の入札は堀井組に委してもらいたい」と交渉し、また被告人高橋子之吉は前記被告人等に対し「堀井組が十五万円を出すことにしたから皆さんは二百五十万円以上に入札して下さい」と申向け、前記被告人等はこれを承諾し、いずれも二百五十万円以上に入札し、右建築工事を株式会社堀井組に落札せしめ、もつて同会社をして右工事の契約者たらしめんことを談合した」というのである。そして原審第六回公判調書によると、検察官は右被告人等全部が公正価格を害し、かつ不正の利益を得る目的をもつて談合したものであると釈明している。
右事実に関係している被告人のうち被告人田口についてのみは原審無罪の判決に対し検察官から控訴の申立がなかつたので、同被告人に対する罪責の有無については当審の判断の対象から除外し、その余の被告人についてその罪責の有無を検討する。
(1)司法警察員に対する三浦英吉の供述調書および検察官に対する藤川得三の供述調書によれば、秋田県仙北郡神代村においては神代中学校々舎二百三十七坪一棟を増築するため、昭和二十五年一月二十五日午前十時ごろから神代村役場において公入札を施行した事実が認められ、被告人鈴木、伊藤、佐川、高橋、竹内、川和田、木村、六郷、池田はいずれも建築請負業者または建築請負業を営む会社の代理人として同日右公入札参加のため神代村役場に出頭したことは検察官に対する同被告人等の供述調書により認められるところである。
(2)検察官に対する藤川得三の供述調書によれば、神代村の本件工事の予算は二百四十五万円であつたことが認められ、検察官に対する被告人木村の供述調書によれば、同被告人は「詳細調査の結果二百二十万円で入札する考であつた」と述べており、検察官に対する被告人伊藤の供述調書によれば同被告人は「技師に調査させた結果二百四十万円と見積り、この価格に接近した価格で工事をとりたいと思つた」と述べており、検察官に対する被告人佐川の供述調書によれば、同被告人は「二百四十五万円位に入札して仕事をとろうと考えた」と述べている。以上の証拠によれば、入札が公正な自由競争のもとに行われたとすれば落札されたであろう価格即ち本件入札における公正価格は二百二十万円ないし二百五十万円以下の範囲内であることが認められる。
(3)原審第二回公判調書中証人下間金次郎、大石蔵雄、加賀谷弘蔵、野呂貞敏の各供述記載、検察官に対する被告人鈴木、伊藤、佐川、高橋、竹内、川和田、木村、六郷の各供述調書によれば、被告人鈴木は株式会社堀井組の代理人として公入札参加のため神代村役場に出頭したものであるが、同会社に落札させようと強く希望し、入札当日同村役場において被告人川和田、伊藤、佐川のほか久松一郎と談合方について協議したのであるが、互に自己が落札者たらんとして協議調わずやむなく談合金の額を入札に附し、その多額の者を落札者にさせようと相談がまとまり、入札に附した結果被告人鈴木の入札額が十五万円で最高額であつたため同人の代理する株式会社堀井組に落札させようと協議一決し、被告人鈴木、伊藤、佐川等は「堀井組にやらせてくれ」と他の業者に依頼し、右協議にあたつて種々斡旋の労をとつた被告人高橋は「談合金十五万円を出してもろうことにして、堀井組にまかせることにしたから、皆さんは二百五十万円以上に入れて下さい」と申向け、被告人竹内、木村はこれを承諾し、ここに被告人鈴木、伊藤、佐川、高橋、川和田、竹内、木村の間には被告人鈴木以外の者は二百五十万円以上に入札することの協定が成立した事実が認められる。
原審が二百四十万円を協定価格と認定したのは事実を誤認したものである。
(4)被告人伊藤、佐川、木村は前記のようにいずれも本件工事の入札価格を二百五十万円以下と見積つたのに、二百五十万円以上で入札することに協定したのであるから公正価格を害することになることを認識していたというべきである。
原判決は被告人木村は堀井組に譲れとの被告人高橋等の斡旋を拒絶する勇気なく、談合に応じたものであると説明している。しかしこのような事実は談合するに至つた事情にすぎず犯罪の成否に関係がない。
検察官に対する被告人高橋、川和田、竹内の各供述調書によれば、同被告人等はいずれも本件工事の入札価格を二百五十万円以上で入札することに見積つた事実が認められるのであるが、また同被告人等が他の業者の見積価格を知つていたという証拠はないのであるが、前記二の(一)の(4)において説明したとおり、いずれも自己の見積価格よりも低額の希望者の存するかも知れない程度の認識があるものと推認されるのである。本件においては前項(3)で説明したように被告人鈴木(堀井組)以外の者は二百五十万円以上で入札することの申出を承諾したのであるから、当然他の業者中には二百五十万円以下の入札希望者があるかも知れないことを推測し得たものというべく、協定がなければ落札されるであろう価格(公正価格)が協定によつて不当に引上げられるかも知れない程度の認識を有していたことは推認するに難くない。そしてこの程度の認識があれば公正価格を害する目的の談合罪の成立に必要な動機に関する要件を充足するものというべきである。
検察官に対する被告人鈴木の供述調書によれば同被告人は初めから談合により落札しようという意思であつたため、入札価格の見積をしなかつた事実が認められるのであるが、初めから談合を目ろむ以上当然談合により、公正価格が害されるかも知れない程度の認識があつたというべきである。
(5)検察官に対する藤川得三、鈴木慶司、鈴木礼二および被告人鈴木、伊藤、佐川、高橋、川和田、竹内、木村の各供述調書によれば、右協定成立により被告人鈴木は二百三十八万円で入札し、被告人高橋は入札せず、被告人伊藤、佐川、川和田、竹内、木村はそれぞれ二百五十万円以上の価格で入札したのであるが、鈴木慶司が談合の交渉も受けずその話のあつたことも知らずに、二百三十万円で入札したため、同人に落札された事実が認められるのであるが、被告人高橋が入札しなかつたことは犯罪の成立に関係なく、また協定不参加者がいたため協定が実を結ばなかつたとしても、それは犯罪の成立に影響がない。
(6)右(3)の証拠によれば被告人鈴木は堀井組に落札させるため、金十五万円を談合金として他の業者に分配すること、他の業者は二百五十万円以上に入札することの協定が成立したのであつて、右十五万円は前記説明のように談合金についての入札をした事実に照らし、また金額(約三十名の業者が集つたので一人の業者は五千円程度の分配を受けることになる)からみて社会常識上不正の利益に該当するものと認めるのを相当とする。被告人のうちには単なる「御祝儀」程度であると主張するものもあるが、採用できない。
(7)被告人伊藤、佐川、高橋、川和田、竹内、木村は被告人鈴木が提供する金十五万円の分配を受けることを知つて協定に応じたのであるから、同被告人等は不正の利益を得る目的をもつて談合したものというべく、また被告人鈴木は金十五万円の提供を約定したのであるが、やはり右協定について謀議に関与したものとして共犯の責任を免れないことは前記説明のとおりである。
(8)以上説明のように、被告人鈴木、伊藤、佐川、高橋、川和田、竹内、木村については起訴状第二の神代中学校公入札妨害の事実を認定し得るのであるから、原判決が同被告人等において公正価格を害する目的をもつて談合した証拠はなくまた不正の利益を得る目的をもつて談合したとの証拠もないと判断したのは判決に影響すべき事実を誤認したもので、破棄を免れない。この点の論旨は理由がある。
しかし、検察官に対する被告人池田の供述調書によれば、同被告人は談合についての交渉を受けたことなく、自分独自の考で二百六十一万円で入札したのであり、協定に参加しなかつた事実が認められ、また検察官に対する被告人六郷の供述調書によれば、同被告人は被告人高橋から「今日の工事は堀井組に譲つてくれ」との依頼を受けたが、特に譲る気持はなく、入札した事実が認められ、以上の各認定を覆すに足る証拠はない。
したがつて被告人池田、六郷については犯罪の証明がないのであつて、右第二の事実については同被告人等に無罪の言渡をした原判決は正当であり、論旨は理由がない。
(中略)
以上説明したような次第であつて、被告人高橋子之吉の控訴は刑事訴訟法第三百九十六条によりこれを棄却し、被告人全部に対する検察官の控訴は理由があるので同法第三百九十七条により原判決(被告人田口の神代中学校の公入札妨害に関する無罪部分を除く)を破棄し、同法第四百条但し書によりさらに判決する。
「罪となるべき事実」
被告人伊藤長太郎、佐川亀治、安倍勉、田口慶助、六郷順一はいずれも肩書住居において土木建築請負業を営み、また被告人鈴木源之助は株式会社堀井組取締役、被告人高橋子之吉は高子組合資会社代表社員、被告人竹内幸治は竹内土建株式会社取締役、被告人池田左武郎は玉成土建株式会社取締役、被告人川和田彌一は川和田木材工業株式会社取締役、被告人木村郁郎は有限会社木村組取締役、被告人佐藤武夫は横手建設株式会社取締役としていずれも各会社の営業である土木建築請負の業務に従事していたものであるところ、
第一、秋田県仙北郡生保内村は同村内に村立生保内中学校々舎三百二十四坪余を新築するため、昭和二十五年一月十四日午後二時から同村役場において右新築工事の公入札を施行したのであるが、その公入札には被告人伊藤長太郎、佐川亀治、高橋子之吉、竹内幸治、六郷順一、田口慶助、池田左武郎、安倍勉、川和田彌一、木村郁郎、佐藤武夫その他の建築請負業者数名が入札のため同日同村役場に集つた。
被告人伊藤長太郎は自己が右工事を落札して契約者となることを強く希望し、被告人竹内幸治にその実現方を依頼し、被告人竹内幸治はさらにこれを被告人高橋子之吉に依頼した結果、被告人高橋子之吉はこれを承諾し、同村役場の説明会終了後入札施行前同村役場附近の高橋タマヱ方において、被告人伊藤長太郎から同人の希望入札価格が三百八十万円位であることを聞いて、そこに集つた右被告人等を含む業者に対し「皆さんは三百八十万円以上に入れて下さい。業者には一万円宛を支払いますから入札書ができたら見せて下さい」と談合方を提案し、他の被告人等はこれを承諾し、ここに以上の被告人全部はいずれもこの提案を承諾し、自由競争により形成せらるべき公正価格(三百二十万円ないし三百五十万円の範囲)を害すること或は害するかも知れないことを認識しながら、また被告人伊藤長太郎以外の被告人等は談合金一万円(不正の利益)の分配を受ける目的をもつて、三百八十万円以上に入札し、右工事を被告人伊藤長太郎に落札せしめようと協定して、公正価格を害し、なお不正の利益を得る目的をもつて談合し、
第二、秋田県仙北郡神代村は同村内に村立神代中学校々舎二百三十七坪を新築するため、昭和二十五年一月二十五日午前十一時ごろから同村役場において右新築工事の公入札を施行したのであるが、その公入札には被告人鈴木源之助、伊藤長太郎、佐川亀治、高橋子之吉、竹内幸治、川和田彌一、木村郁郎その他の建築請負業者約二十名が入札のため同日同村役場に集つた。
被告人鈴木源之助は株式会社堀井組(代表者堀井元一)の代理人として談合により同会社に落札させようと熱望し、同様入札の強い希望者であつた被告人川和田彌一、伊藤長太郎、佐川亀治および久松建設株式会社代理人久松一郎こと久松敬周と協議のうえ、談合金の額について入札に附し、被告人鈴木源之助の入札額十五万円が最高額であつたため、株式会社堀井組に落札させることとなり、被告人鈴木源之助、伊藤長太郎、佐川亀治は「堀井組にやらせてくれ」と他の業者に依頼し、右協議の際斡旋の労をとつた被告人高橋子之吉は「談合金十五万円を出してもろうことにして堀井組にまかせることにしたから、皆さんは二百五十万円以上に入れて下さい」と申向け、被告人竹内幸治、木村郁郎はこれを承諾し、ここに、以上の被告人全部はいずれも自由競争により形成せらるべき公正価格(二百二十万円ないし二百五十万円以下の範囲)を害すること、もしくは害するかも知れないことを認識しながら、また被告人鈴木源之助以外の被告人は談合金(大体業者一人当り五千円程度)の分配により不正の利益を得る目的をもつて二百五十万円以上に入札し、右工事を株式会社堀井組に落札せしめんことを協定して、公正価格を害し、なお不正の利益を得る目的をもつて談合し
たものである。
「証拠の標目」
(省略)
「法令の適用」
一、被告人高橋子之吉の所為中公入札妨害の点は各刑法第九十六条ノ三第二項(第一項)罰金等臨時措置法第二条、第三条に該当するのでいずれも懲役刑を選択し、恐喝の点は刑法第二百四十九条第一項に該当し、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条本文第十条により最も重い恐喝罪の刑に同法第四十七条但し書の制限内で法定の加重をした刑期範囲内において、同被告人を懲役六月に処し、情状刑の執行を猶予するのを相当と認め、同法第二十五条によりこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
二、被告人伊藤長太郎、佐川亀治、竹内幸治、川和田彌一、木村郁郎の判示所為は各刑法第九十六条ノ三第二項(第一項)罰金等臨時措置法第二条、第三条に該当するのでいずれも罰金刑を選択し、右は刑法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十八条第二項により罰金合算額の範囲内において同被告人等を各罰金一万円に処し、被告人鈴木源之助、六郷順一、田口慶助、池田左武郎、安倍勉、佐藤武夫の判示所為は刑法第九十六条ノ三第二項(第一項)罰金等臨時措置法第二条、第三条に該当するので、いずれも罰金刑を選択し、その金額範囲内において同被告人等を各罰金五千円に処し、以上の被告人等において、右罰金を完納することができないときは、刑法第十八条により金二百円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。
(以下省略)
(裁判長裁判官 中兼謙吉 裁判官 西田賢次郎 裁判官 浜辺信義)