大判例

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仙台高等裁判所秋田支部 昭和27年(う)229号 判決

原審が本件起訴状記載の公訴事実第一に基きこれと同趣旨の事実を認定し「被告人は医師で麻薬取扱者として麻薬施用者の免許を有するものであるが、昭和二十六年一月八日頃から同年十月三十日頃までの間原判示西田祐太郎から数回にわたつて麻薬である塩酸モルヒネ末計三三瓦、同注一cc入一四〇本を譲り受けたのにその一部については原判示第一診療所備付の麻薬受払簿に、残余については原判示逓信診療所備付の麻薬受払簿にその品名、譲受数量、年月日、譲渡者の住所、氏名等を記載しなかつたものと判示し、これを麻薬取締法第十四条第一項、第五十九条第一項に問擬したことは原判決の記載によつて明かである。

而して原審において取り調べた被告人の麻薬取締宮荒井正に対する第一回乃至第三回供述調書の記載などによると、被告人は原判示の麻薬全部を自已の麻薬中毒症状を緩和するため譲受けたものと認められるので、被告人は医師であり、他人に対し治療の目的でこれを施用するためにあらずして、すなわちその業務の目的以外のために右麻薬の譲受行為をなしたものといわねばならない。

しかるに、凡そ医師が自已の麻薬中毒症状を緩和するために使用せんとする場合など業務の目的以外のために麻薬の譲受をなした場合には、その所為は明らかに麻薬取締法第三条第二項に違反し、同法第五十七条第一項によつて刑罰の制裁を科せられるところであるから、この譲受行為に関し麻薬の品名、譲受数量、年月日などにつき記録を作成することは、自已の犯罪を供述することに外ならず、かかる場合においてもなお右記録を作成すべしとなすのは、通常人に対しては到底期待し得ないところであるといわねばならないのみでなく、何人も自已に不利益な供述を強要されないとした憲法第三十八条の規定の趣旨にも悖る解釈となさざるを得ない。果して然らば麻薬施行者たる医師が麻薬取締法第三条第二項に違反してその業務の目的以外のため麻薬の譲受をなした場合、その譲受行為については同法第十四条第一項の規定する記録を作成しなくとも同条項違反の罪責を問わるべきものではないと解するを相当とする。これを本件についてみるに、被告人の原判示麻薬譲受の所為は、前記のとおり業務の目的以外のためにするものであるから、これについて記録を作成しなかつた原判示所為は罪とならないものといわねばならない。

しかるに原判決は前叙のとおり被告人の前記記録不作成の所為を同法第十四条第一項、第五十九条第一項に当るものとして処断したのであるから、原判決は法令の解釈適用を誤つたものであり、この誤は判決に影響を及ぼすことが明白であるから、この点において破棄を免れない。

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