大判例

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仙台高等裁判所秋田支部 昭和29年(う)84号 判決

弁護人は被告人の行為は窃盗罪でなく、詐欺罪を構成すると主張するので、この点について考究する。

原判決引用の証拠によれば被告人は他の者と共謀のうえ、原判示各パチンコ遊技場に到り、金を支払つて同遊技場経営者(以下経営者と略称する)から玉を受取り、パチンコ遊技台に玉を入れ、バネでこれをはじき、磁石を使用してその磁力により落下した玉を当りの穴に導入し、経営者から当りの玉(本件の場合二十個)を取得したものであつて、この行為は原審認定のように、窃盗をもつて論ずべきである。磁石を利用するのは窃盗の手段であり、犯人が自己の手のみを使用して他人の財物を窃取する場合、或は棒を使用して「物ほしざお」にかけてある他人の毛布などを窃取する場合と理論的には何等異るところはないのである。

窃盗は他人所有または管理の財物をその他人の意思によらないで、不法に自己または第三者の支配内に移すことをいうのであり、原判決引用の証拠によれば本件の場合、被告人その他の共犯者が磁石を使用して玉を当り穴に入れるときはパチンコ機械の構造上、経営者の意思によらないで、自然に経営者の玉が出て来る装置がしてあるのであつて、したがつてその間に経営者をだまして、経営者から任意に玉の交付を受けることはないのであるから、被告人等の行為は窃盗罪に該当し、その玉が自己の占有に移つたとき窃盗既遂罪が成立するものと解すべきである。(当りの穴に入れたとき、機械の具合により自然に玉が出て来ない場合がある。この場合は経営者またはその使用人にベルまたは口頭で玉の出ないことを告げ、或は経営者またはその使用人がこれを発見して玉を出させることになるのであるが、玉の出ないことを告げた場合を考えると、正当の手段により玉を当りの穴に入れたように装い経営者を欺罔する行為に出たわけである。しかしこの場合においても磁石を玉に作用させたとき窃盗の着手があつたとみるべきであるから、窃盗の目的を遂げようとするその過程において欺罔行為があつても、やはり窃盗罪の成立を妨げないと解する。)

被告人その他の共犯者が、本件の不正手段によつて得た玉を景品と交換した場合を考えると、それは正当な手段によつて得た玉であるように装うて経営者をだまし、景品をとつたことになるのであるがこの行為は窃盗により得た玉の事後処分であつて、別に詐欺罪を構成しないと解すべきである。

弁護人は被告人その他の共犯者は玉そのものの取得を目的としたのでなく、景品の取得が目的であるから、詐欺の犯意があつたのであると主張するのであるが、被告人その他の共犯者が景品の取得を目的としたとしても、それは終局の目的であり、磁石を使用して玉を当りの穴に入れるときは、玉の取得を目的としていること明らかであつて、結局玉を窃取し、その窃取した玉を正当な手段により得た玉のように装い、景品を取得しようとするのであるから、窃盗の犯意があつたことは疑をいれる余地がない。そして前述のように、経営者をだまして、景品を取得するのは窃盗の事後処分である。

弁護人はなお経営者に金を支払つたとき、交付を受けた玉の所有権の帰属を問題としているのであるが、最初金を払つて経営者から交付を受けた玉は、犯罪の手段に使用するのであつて、その所有権の帰属が何人であるにしてもそれは犯罪の成否に無関係である。したがつて本件において所論の玉の所有権の帰属を認定する必要はない。(しかし思うに、遊技者が金を払つて玉を受取つた場合、特約のない限り原審認定のようにその玉の所有権は遊技者に帰属するものと解する。即ち遊技者は玉を買受けて遊技するのである。)

原審には所論のような違法の点なく、論旨は採用できない。

(裁判長裁判官 中兼謙吉 裁判官 西田賢次郎 裁判官 浜辺信義)

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