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仙台高等裁判所秋田支部 昭和30年(う)59号 判決

原判決が罪となるべき事実として「被告人は貸金業を行うにつき所定の届出をしないで別表記載のとおり昭和二十六年二月(三月とあるのは誤記と認める。)二十六日以降同二十九年十月十五日までの間八十六回に亘つて肩書自宅等で鈴木太三郎外三十二名に対し月利二分八厘ないし六分で現金合計三百九十六万二千円を貸付け、以て業として金銭の貸付をした」と認定し、右各所為を一括して無届貸金業の一罪とし、これに対し出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律(以下新法と称する。)第七条第一項、第十二条第一号(同条第一項第一号とあるのは誤記と認める。)を適用処断したことは所論のとおりである。

よつて原判決の法令の適用の当否について検討する。

まず、新法第七条第一項は「業としての金銭の貸付……(貸金業という。)を行う者は、その業を開始した時は、遅滞なく、政令で定める事項を記載した書面を添えて、その旨を大蔵大臣に届け出なければならない。」第十二条第一号は「第七条の規定による届出を怠つた者……は三万円以下の罰金に処する。」旨各規定し、また、同法附則第三項は「第七条の規定の施行前から引き続いて貸金業を行つている者は、この法律施行後二月以内に、政令の定めるところにより、大蔵大臣に届け出なければならない。」第四項は「前項の規定による届出を怠つた者……は、三万円以下の罰金に処する。」旨各規定する。右各規定を対照し考察するに、前者は新法施行後新たに貸金業を開始した者に対し、所定の届出義務を課し、この義務の懈怠を処罰する趣旨であり、後者は新法施行前、すなわち、貸金業の取締に関する法律(以下旧法と称する。)施行当時から引き続いて新法施行後に貸金業を行つている者に対し、所定の届出義務を課し、この義務の不履行を罰する趣旨であることは明らかである。そしてまた、右附則第三項の「貸金業を行つている者」の中には、旧法にいわゆる「貸金業者」はいうまでもなく、「貸金業者」でなくて貸金業を行つている者をも含む趣旨と解するのを相当とし、従つて、旧法当時から引き続いて新法施行後に「貸金業者」でなくて、貸金業を行つている者は新法第七条第一項の規定による届出義務を負うのでなく、附則第三項の規定による届出義務を負い、この不履行につき附則第四項により罰せられるものと解すべきである。

つぎに、旧法第五条は「貸金業者でなければ、貸金業を行つてはならない。」と規定し、第十八条第一号によると、「この規定に反し貸金業を行つた者」は処罰されるのである。それ故、本条の取締の対象は貸金業者でない者の行う貸金業自体、いわゆる無届貸金業の行為であり、本罪は職業犯に属する。しかして、新法にはこれに相当する罰条を欠き、新法は無届貸金業の可罰性を認めていないのである。新法第七条第一項及び附則第三項の規定による届出義務の懈怠は、所定の届出をしないで貸金業を行つたという犯罪形態で現われるであろうが、このため、同条項の処罰規定たる第十二条第一号又は附則第四項が旧法第十八条第一号、第五条と同じく、無届貸金業を処罰する規定と誤解すべきでない。すなわち、右各本条は前段説明のとおり、所定の者が負う届出義務違反を取締るのであり、本罪は純正不作為犯に属する。従つて旧法第十八条第一号(第五条)の無届貸金業の罪と附則第四項(第三項)の届出義務違反の罪とはそれぞれ、保護法益及び犯罪構成要件を異にし、各別個の犯罪といわなければならないのである。

以上の説明から明らかなように、「貸金業者」でない者が旧法施行当時から引き続いて新法施行後も所定の届出をしないで貸金業を行つているときの擬律は、旧法施行当時の行為については、無届貸金業の職業犯の一罪として旧法第十八条第一号、第五条、新法附則第十一項を、新法施行以後の部分には引き続いて貸金業を行つている者の届出義務違反として附則第四項、第三項をそれぞれ適用し、右二個の罪を併合罪として処断すべきものであつて、右各行為を一括して新法第十二条第一号、第七条第一項を適用すべきではない。

しかるに、原判決が旧法施行当時の昭和二十六年二月二十六日以降同二十九年六月十四日までの間、被告人が貸金業者でないのに貸金業を行つた事実及び被告人が引き続いて新法施行後の昭和二十九年六月二十六日以降同年十月十五日までの間、貸金業を行つていたのにかかわらず、二月以内に所定の届出をしなかつた事実を各認定しながら、宛も、新法第十二条第一号、第七条第一項が旧法第十八条第一号、第五条に相当するとなし、職業犯の一罪として貸金業の行為終了時の右新法各本条を適用すれば可なりとの見解に立ちたるものの如く、右各事実を一括して無届貸金業の一罪とし新法第十二条第一号、第七条第一項を適用処断したのは法令の解釈適用を誤つたものといわざるを得ない。しかして右誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決はこの点において、破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて同第二の量刑不当の論旨に対する判断は後記自判の際自ら示されるので之を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第三百八十条により、原判決を破棄し、同法第四百条但書により当裁判所において改めて次のとおり判決する。

罪となるべき事実。

被告人は

第一、貸金業等の取締に関する法律(以下旧法と称する。)所定の貸金業者でないにかかわらず、原判決別表記載のとおり、昭和二十六年二月二十六日以降同二十九年六月十四日までの間七十四回に亘り、被告人の肩書自宅等において、鈴木太三郎外二十九名に対し月利二分八厘ないし六分で現金合計三百八十一万六千円を貸付け、以て貸金業を行い、

第二、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律(以下新法と称する。)施行後も、右に引き続いて貸金業を行つているにかゝわらず、同法施行後二月以内に所定の届出をしなかつた

ものである。

証拠の標目。

右事実を認定した証拠の標目は原判決が摘示するのと同一であるからこれを引用する。

法令の適用。

被告人の判示所為中第一の所為は旧法第十八条第一号、第五条、新法附則第十一項に、第二の所為は新法附則第四項、第三項に該当するので、前者の罪について旧法第十八条により懲役と罰金とを併科する。しかして、右二個の罪は刑法第四十五条前段の併合罪であるから、罰金刑につき同法第四十八条第二項により各罪について定めた罰金額を合算し、所定刑期及び罰金額の範囲内において被告人を懲役三月及び罰金五万円に処し、情状懲役刑の執行は之を猶予するのを相当と認め、同法第二十五条第一項により、本裁判確定の日から一年間右懲役刑の執行を猶予し、右罰金を完納することができないときは同法第十八条に従い金二百円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置すべく、原審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項に則り全部被告人をしてこれを負担せしめることとする。

(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 岡本二郎 裁判官 兼築義春)

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