大判例

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仙台高等裁判所秋田支部 昭和31年(う)151号 判決

商法第四百九十一条にいわゆる「預合」とは会社の発起人又は取締役等が株金払込にあたり会社資本となす意思がないのに金融機関の役職員と通謀して恰も現実に株金の払込がなされたように仮装する行為を指すものと解すべきである。然るところ所論は原判決が被告人川村が株式会社東信の代表取締役深沢八百寿の了解を得て昭和二十九年二月初頃被告人梁に対し同会社の増資払込金の不足額五十五万円を登記完了後直ちに払込金による会社預金中から返済する条件の下にその金策を依頼したところ被告人梁は右依頼に応じ同年二月九日銀行係員との間に右と同一条件の下に自己の預金を担保として手形貸付の方法で金五十五万円を借受ける契約をなし同月十日帳簿上の操作により同金員を深沢八百寿の株式払込金として株式会社東信名義を用いて銀行の別段預金となし即日株式払込金保管証明書の交付を受け登記手続を完了した上同月十一日右五十五万円中五十万円(差額五万円は同日被告人川村と被告人梁との間に東信が被告人梁から借用する契約が成立した)を株式会社東信名義で引出して右被告人梁の銀行に対する借入金の弁済に充当した事実を認めながら被告人梁が五十五万円を借受けこれを株式払込金として充当する際銀行係員との間に株式払込金に使用する旨打明けたがその借入金の返済につき右東信と銀行との関係において特約がなかつたものと認定して被告人等は銀行係員と通謀し株式払込を仮装したものにあらずと認定した。然し本件払込金の借入及び返済に関する検察官の被告人梁徳郎及び被告人川村三男並びに吉田武太郎の各供述調書の記載によれば被告人梁名義で借受け深沢八百寿名義を以て銀行に対し株式会社東信の増資払込金名義で同会社の別段預金とした払込金の払出についてはこれが斡旋をしたところの被告人梁を通し同会社の取締役である被告人川村と銀行との間に右払込金は東信より払出請求があつてもこれに応ずることなく被告人梁に対する貸金の支払に充当する旨の特約があつたことは明らかであるから原判決が被告人等と銀行との間に通謀なしと断じたのは事実を誤認したものである。而して右誤認は判決に影響を及すことが明白と認むべきであると主張する。

然しながら本件においては被告人梁は秋田相互銀行大館支店に百万円以上の定期預金を有しておりこれを担保として同銀行より金五十五万円を借受け右被告人はこれを増資新株全部の払込義務者である深沢八百寿に貸与し同人においてこれを払込金に充当し株式会社東信においてこれを前記支店に寄託したことが認められるのであるからその払込が所論の如く仮装とは云いえない。尤もその金銭の借受、払込等は何れも帳簿上の操作によるものであるがそのために現実の払込がなかつたと云うが如きは当らない。なお株金払込が仮装でない一証左として右の如く払込まれた金員はその後昭和二十九年二月十一日株式会社東信より深沢八百寿に対する同会社の金八十万円の債務の支払にあてていること(このことは証第一五号の昭和二十九年二月十一日附出金伝票の記載により明らかである。而して被告人川村の原審公判廷における供述によれば右会社は深沢八百寿所有の同会社株式を第三者に売却しその代金を以て貸金業等の経営資金にあてていたものであり本件払込当時同会社の深沢に対する債務は八十万円を超える額であつたことが認定できる。)また深沢八百寿においては右弁済を受けた金員中金五十万円を同人の被告人梁に対する前述の債務の支払にあてた事実の存すること等を挙げうる。尤もこれらの各弁済も亦帳簿上の操作によるものであり且各法律行為が一つ一つ個別的になされておらないような外観から推して深沢八百寿に対する会社債務の支払の如きは認めえないとの見解を抱かしめる余地がないとは云えないが、然し前述の如く此の点に関しては証第一五号の伝票も存するのであり輙く右見解には左祖しがたい。更に被告人梁は金五十五万円を融資したのに対して深沢よりは金五十万円の弁済を受けたに止まり残金五万円については株式会社と同被告人との間の債権債務として処理していること等から考えても新株払込の資金調達のために被告人梁に対して金融を申込みその融資をえたことに始まりその融資返済に終る以上述べた一連の行為はすべてそれぞれ有効な法律行為であり相互に切り離しえない関連を有するものと認むべきである。されば本件株金払込は仮装であるとの所論は採用しえないことは明らかであり、以上と同趣旨の原判決は洵に相当であり事実誤認乃至は法令適用の誤等は存しないものと云わなければならない。論旨は理由がない。尤も原判決はその後段即ち(ハ)項において縷々本件株金払込については被告人等と銀行役職員との間に通謀の存しなかつたことを説明しているが株金払込が真実且つ有効なものであると解する以上通謀の有無の問題を生ずる余地はないのであり、斯様な問題を特に取上げたがために却て原審は果して如何なる理由により本件が犯罪を構成しないものと認定したのか判断に苦しむような副次的効果を齎してはいるが然し結局此の点に関する原判決の説明は無用に帰するので此の点については詳細説明の要を見ない。

(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 大島雷三 裁判官 松本晃平)

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