仙台高等裁判所秋田支部 昭和31年(う)18号 判決
よつて按ずるに起訴状記載の訴因三には被告人は法令に定められた小型自動四輪車の運転資格を持たないに拘らず昭和三十年十月七日午後十一時五十五分頃飲酒酩酊の上小型自動四輪車(山形四―二一八一号)を運転し前方を注視せず安全運転の義務を怠り無謀にも鶴岡市一日市町方面より同市荒町方面に向け内川端通りの市道路を時速四十粁位で疾走し同市五日町百四十四番地先道路において同所左側を同じ方向に歩行中の阿部美代子に気づかず同女に追突して跳ね飛ばし路上に転倒せしめよつて全治七日間を要する頭部裂傷を加えその侭運転逃走し法令に定められた必要な措置を講じなかつたものであると記載し、その罪名及罰条として業務上過失傷害刑法第二百十一条道路交通取締法違反同法第二十四条第一項第二十八条と記載しあるのであるから該訴因及罰条等を綜合して判断すると検察官としては被告人に対する業務上過失傷害並びに道路交通取締法違反の罪につき公訴を提起したものであると認めうべきものゝ如きも罪名罰条を除き訴因の記載内容自体から判断すると検察官は単純過失傷害及道路交通取締法違反の罪につき公訴を提起したものゝ如くにも解せられる。本来いかなる罪について公訴を提起したかと云うことは訴因の記載自体から明瞭であり疑問を入れる余地のないようになすべきであり然らざれば該起訴は不特定たるを免れない。尤もいかなる罪につき公訴が提起されたかの点について判断をなすに当り罪名罰条の記載が判断の一資料になることは異論はないが訴因の記載内容と罰条とが互に矛盾し又は一致を欠くが如き場合には原裁判所としては須く釈明権を行使して検察官はいかなる犯罪事実即ち訴因につき公訴を提起したるものなりやを明確になすべき義務あるものと云わなければならない。然るところ本件における原審は右の点について釈明権を行使して訴因を明確ならしめた形跡は記録上到底窺いえない。即ち右訴因三が若し業務上過失傷害等の事件として起訴されたものであり該事件として審判するのであれば前述のとおり検察官に釈明を求めて起訴状を補充訂正せしめ被告人は自動車の運転を業としており本件事故は業務上の過失によるものであることを明らかにした上で審理をなし判決に当つては判決の事実摘示の項においてそのことを明確に記載すべきであるし、若しまた訴因三は業務上過失傷害等の犯罪事実について提起されたものでないのであれば罪名、罰条等につき是正をはかつた上で審判すべきである。しかるところ原審はこの挙に出ることなく原判示第二において業務上の行為なりや否を明示することなく訴因三の事実とほゞ同一な事実を認定しながら輙くこれに業務上過失傷害及び道路交通取締法第二十四条第一項第二十八条を適用しているのであるから原審は結局必要な審理を尽さないものであり且つ刑事訴訟法第三百七十八条第四号にいわゆる理由不備の違法をおかしたものと認める外はない。
されば原判決はこの点において失当であり且つこの事実は他の自動四輪車無謀操縦の罪と併合罪関係にありとして一箇の刑をもつて処断されているのであるから原判決は全部につき破棄さるべきものである、論旨は理由がある。よつて爾余の論点についての判断は之を省略する。
(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 大島雷三 裁判官 松本晃平)