大判例

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仙台高等裁判所秋田支部 昭和46年(ネ)34号 判決 1972年3月29日

主文

原判例を取り消す。

本件訴えを却下する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述および証拠の関係は、つぎのとおり附加するほか、原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

(控訴代理人の陳述)

(一)  請求原因事実は、これを認める。

(二)  被控訴人の本件貸付金債権は、つぎのとおり弁済、代物弁済および債務免除により消滅した。すなわち、控訴人は亡鎌田惣次郎に対し、昭和四三年一〇月一六日に金一一万円、同年一一月二六日に金一二万円をそれぞれ弁済し、同年一〇月三〇日に、酒ビール、料理などを提供することにより金一六万八、〇〇〇円について代物弁済をし、さらに同年一一月二六日に、亡惣次郎において控訴人に対し、残債権金二、〇〇〇円につき債務を免除する旨の意思表示をした。

(被控訴代理人の陳述)

控訴人主張の右(二)の事実は、これを否認する。

(証拠)(省略)

理由

まず本件訴えの適否について検討する。

本件訴えは、亡鎌田惣次郎の相続財産管理人である被控訴人が、控訴人を相手どつて相続財産に属する貸金債権の弁済を訴求するものであることは、訴旨に照らして明らかである。ところで、記録中の審判書、被控訴人作成名義の訴訟委任状、本件訴状等に徹すれば亡惣次郎の相続人は被控訴人を含め計七名(原判決記載の請求原因(一)のとおり)であり、右相続人全員が共同して限定承認の申述をし被控訴人がその相続財産管理人に選任されたので、被控訴人において、右相続財産管理人としての資格で弁護士中林裕一に訴訟代理を委任して本件訴訟を提起するに至つたものであることが認められ、そして、右訴訟委任状および本件訴状の当事者(原告)の表示方法ならびに弁論の全趣旨によれば、被控訴人においては、本件の場合相続財産管理人自身が訴訟の当事者適格を有するとの見解のもとに被控訴人のみが原告となつてその訴訟の追行にあたつたことが認められる。

しかしながら、本件のように数人の相続人が共同して限定承認をした場合には、その相続財産に関する権利義務の主体となるのは、共同相続人全員であつて、相続財産管理人は、自己を含む相続人全員のためにその財産の管理にあたるものであつて、一種の法定代理人としての地位に立つものと解するのが相当である。したがつて、本件訴訟は、共同相続人全員が原告となり、相続財産管理人である被控訴人がその法定代理人として訴訟追行にあたるべきであつたと解されるところ、本件においては、前記のとおり、被控訴人自身が原告となつて本件を提起したのであるから、本件訴えは、当事者適格を欠く者の提起にかかるものであつて、不適法として却下を免れない。

よつて、これと異なる原判決を取り消して、本件を却下することとし、訴訟費用の負担にき、民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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