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仙台高等裁判所秋田支部 昭和49年(う)89号 判決 1976年3月18日

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人宮形忠造の負担とする。

理由

各控訴趣意は、被告人宮形を除くその余の被告人らの弁護人竹島四郎・同安田忠共同提出(但し、被告人宮形の関係では撤回した)、被告人須藤の弁護人寺井俊正提出、被告人宮形忠造の弁護人工藤勇治提出及び被告人中村元吉の弁護人金野繁提出の各控訴趣意書記載のとおりであるから、いずれもこれらを引用する。

一弁護人寺井俊正の控訴趣意第二点(被告人須藤についての訴訟手続の法令違反)について。

所論は、原判決は、被告人須藤の事実認定の証拠として、被告人宮形、同工藤光雄、同田中、同本間、同中村、同櫛引の各司法警察員に対する供述調書を掲げているが、右各供述調書につき被告人須藤は、証拠とすることに同意していないし、それらは刑訴法三二一条の書面にも該当しないから、証拠能力がないこれらの書面を証拠とした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があるというのである。

被告人須藤については所論にかんがみ、その余の被告人(但し被告人工藤精一を除く。)については職権をもつて調査すると、記録によれば、原審は、被告人工藤精一を除く被告人らの司法警察員に対する各供述調書を当該被告人に対する関係では刑訴法三二二条の書面として、他の被告人に対する関係では同法三二八条の書面としてそれぞれ証拠調べをしていることが明らかであり、右各供述調書は他の被告人の関係では事実認定の証拠には供することができないと思われる。ところが、原判決が証拠の標目においてこれを区別することなく被告人工藤精一を除く各被告人らの司法警察員に対する供述調書を掲げている。これは明らかに違法であるが、原判決が掲げる他の証拠によつて被告人らの原判示事実はそれぞれ十分認定できるから、右訴訟手続の法令違反は判決に影響を及ぼすことが明らかとはいえない。論旨は理由がない。

二弁護人竹島四郎・同安田忠の控訴趣意第一点、弁護人寺井俊正の控訴趣意第三点、弁護人工藤勇治の控訴趣意第一点、弁護人金野繁の控訴趣意第一ないし第三点(いずれも事実誤認)について。

各所論は、多岐にわたりるる述べているが、要するに、(一)被告人らは、昭和四六年四月二九日(以下、とくに明示しない限り月日のみで示すのは昭和四六年である。)の山海荘謀議は架空のもので、その他本件犯行を共謀したことはない(弁護人全員の控訴趣意)、(二)被告人中村は、五月一日早朝鈴木泰治方には行かなかつたから、被告人田中から五〇〇票を無効とすることになつたいきさつの報告を聞いていない(弁護人金野繁の控訴趣意)、(三)被告人須藤、同宮形、同工藤光雄は、いずれも真実同一筆跡の無効票と信じて八六〇票の中村票を抜き出したのであつて、投票増減の犯意がなかつた(弁護人金野繁以外の弁護人全員の控訴趣意)から、被告人八名はいずれも無罪であるのに、原審は被告人八名を投票増減罪で処断している。原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認がある、というのである。

しかし、原判示事実は、原判決の掲げる証拠により認めることができ、所論にかんがみ、記録及び証拠物を精査し、当審における事実取調の結果に徴しても、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認があるとは思われない。以下数点について説明する。

(一)  いわゆる山海荘謀議について

(1)  被告人須藤、同宮形、同本間、同中村、同田中、同櫛引の各警面・検面調書の信用性について。

これらの調書の信用性については、原判決が第三、証拠についての判断の二、共謀、とくに四月二九日夜の山海荘謀議についての2で説示するところは、記録を精査すれば、ほぼ認めることができ、原審がいずれも信用できると判断したのは相当と思われる。

被告人中村の供述調書につき付言する。

所論(弁護人竹島四郎・同安田忠、同金野繁の各控訴趣意)は、被告人中村がはじめて警察官に山海荘謀議を自白したのは六月二一日で、佐藤検事の最初の取調は六月一九日であつて、その日には調書は作成されなかつた(被告人中村の原審公判廷での供述)のに、現実には六月一七日付警面調書があり、六月一八日付と六月一九日付各検面調書がある。したがつて、六月一七日付警面調書、六月一八日付検面調書の成立ばかりか、その信用性にも疑問がある。六月一七日付警面調書と六月二一日付警面調書の冒頭記載は矛盾するから、六月一七日付警面調書はむしろ六月二一日以降に作成されたと断定せざるを得ない。六月二四日付検面調書と六月一八日及び一九日付各検面調書の関係も警面調書の関係と同一である。結局被告人中村の自白を繰り上げてその信用性を増すと共に、六月一七日付警面調書と六月一八日及び一九日付各検面調書の関連性(自白の内容)を断ち切り、検面調書の信用性を高めようとしたものと解せざるを得ないという。

しかし、被告人中村は、六月一七日、二一日いずれも警察官江刺家正の取調を受け、六月一八日及び一九日はいずれも検察官佐藤美津次の取調を受け、それぞれ調書が作成されたことが十分認められる<証拠略>。次に、六月一七日付警面調書は僅か三葉で、この調書では山海荘謀議について極く粗筋だけを自白しており、六月二一日付警面調書では自白しなかつた理由を明らかにして、四月二七日からの行動につき述べ、二九日の山海荘謀議について詳細に述べているのであり、両者の記載に何ら矛盾は認められない。更に、六月一八日付検面(検察官佐藤美津次)調書では、「山海荘謀議については最後まで黙つていたが、これは関係している多勢の仲間だつた人々に迷惑がかかると思つたからです……」と述べ、六月二四日付検面(検察官梁瀬照久)調書にも、「逮捕された六月一一日検事さんからきかれた時四月二九日頃の夜山海荘に行つたことはないと申し上げたがそれは嘘で、本当はその日の夜竹風会の幹部等と山海荘に集まり……」と述べているが、取調の検察官が変つていることが調書自体から明らかで、いずれも当該検察官に対してはそれぞれはじめて自白したと認めるのが相当で、両調書の記載に矛盾があるとは思われない。論旨は理由がない。

(2)  世永巌、田中隆、野呂貞蔵の各検面調書及び井上一美の六月六日付警面調書の信用性について。

弁護人竹島四郎・同安田忠の所論は、右検面調書、警面調書の各信用性を争うので、先ず、右検面調書につき、記録を精査しても、それらの調書が信用性に欠けるところがあるとは思われず、いずれも大綱において前記二(一)(1)に掲げる被告人須藤らの各供述調書の記載に符合しているから、右各検面調書を信用した原審の証拠評価に誤りがあるとは考えられない。

次に、井上一美の六月六日付警面調書をみると、当時鰺ケ沢町選挙管理委員会委員であつた同人は、四月三〇日と五月一日は私用で弘前の方に行つており、その前の四月二九日の祭日だつたと思う、昼近く鈴木の事務所の方から今晩七時頃山海荘にきてくれという電話があつたが、夕方六時頃家に帰ると妻から今晩山海荘での集りは取り止めになつたとの電話があつた旨聞いたというのであり、右供述は被告人櫛引の検面調書に符合しており、井上の右調書は十分信用できる。これに対し、被告人櫛引は、原審公判廷では「四月二一、二日頃鈴木の事務所から井上一美に今晩山海荘で会合があるから出席して貰いたいと電話連絡したことがあるが、当時映画のロケ隊の一行が山海荘に泊つていたので、会合はやらなかつた。捜査官に対しては四月二一、二日頃のことを記憶違いで四月二九日と述べた」と供述し、当審では四月二一、二日頃を四月二〇日頃と訂正している。他方、当時山海荘の従業員であつた当審証人中島ふみ、同阿保朝明の各供述、押収してある帳面一冊(当庁昭和四九年押第二四号の三〇)によれば、中島ふみは映画のロケ隊が山海荘に滞在中の四月一四日、渥美清、田中邦衛から帳面にサインして貰つたことが認められる。しかし右証人中島ふみ、同阿保朝明は、ロケ隊が山海荘に宿泊したのは四、五日、または三日位であるというのであつて、ロケ隊が四月二〇日頃山海荘に宿泊していたと断定することは困難である。したがつて、被告人櫛引の弁解は採ることができない。井上一美の警面調書を信用できるとした原審の判断は正しいと思われる。

(3)  山海荘謀議の存在について。

原判決が説示するとおり、<証拠>によれば、原判示のとおり、四月二九日山海荘で本件犯行につき共謀がなされ、その後順次共謀がなされたと認めるのが相当で、原審の事実認定に誤認があるとは考えられない。

(4)  被告人須藤、同本間、同中村のアリバイについて。

所論(弁護人竹島四郎・同安田忠、弁護人金野繁の各控訴趣意)は、被告人須藤、同本間、同中村は、山海荘謀議についてはそれぞれアリバイがあるといい、同被告人らも原審でそれぞれアリバイを主張しているが、この点につきいずれもアリバイが認められないとした原審の判断は、記録によれば、合理的で十分理解でき、その判断に誤りがあるとは思われない。

(5)  原審証人杉沢申晃の証言、物証について。

所論(弁護人竹島四郎・同安田忠、弁護人金野繁の各控訴趣意)は、杉沢申晃は、捜査段階から終始一貫して四月二九日山海荘で会合がなかつたといい、山海荘の家宅捜索も二回なされ、従業員らも取調を受けたが、会合があつたことを裏付ける証拠は何も発見できなかつた。<証拠>によつても、四月二九日山海荘で被告人らの会合があつたとは認められない、というのである。

杉沢申晃は竹風会の幹部で、山海荘を経営する会社の社長でもあるが、原審証人として、終始四月二九日山海荘では会合がなかつたといいながら、同人が部屋の使用状況等を記入していたカレンダーの四月分をことさら廃棄したのではないかという疑いもあり(原審証人横山政雄の供述)、同人が原資記録、資料綴、公給領収書等に四月二九日の会合につき記載させなかつたとしても何ら不自然ではなく、これらに記載がなかつたことから直ちに会合がなかつたとはいえない。当審証人三浦房江は、四月二九日山海荘若水の部屋を使用しなかつたし会合はなかつたと供述しているが、同人は現在も山海荘に勤務している点からみて、右供述はそのまま信用することができない。

(6)  四月二九日午後の田中稔方の謀議について。

弁護人工藤勇治、同金野繁の所論は、山海荘謀議は全く架空のもので、それは四月二九日午後被告人田中方で開かれた会合のすりかえであり、その会合には鈴木泰治、一戸正太郎、被告人本間、同工藤精一、同田中、同櫛引らが出席した。もしこの会合が知られると、累は鈴木泰治、一戸正太郎に及ぶことが必至であり、それだけは防止する必要があつたと主張し、被告人宮形及び証人宮形勣はいずれも当審公判廷で、昭和四九年九月下旬、被告人工藤精一から四月二九日午後被告人田中方二階で会合があつた旨聞いたと述べている。しかし、当審において被告人工藤精一は、「宮形らに対し、四月二九日田中方に集つたように思つたのでそのようにいつたが、それは五月四日昼田中方へ行つたことがあるのでその日と感違いした」と述べ、被告人田中は、「四月二九日午後自宅で会合したことはない」と述べ、被告人本間及び同櫛引も「四月二九日午後田中方に集つたことはない」と述べており、結局四月二九日午後田中稔方二階で会合があつたと認めることはできない。

(二)  五月一日鈴木泰治方における話合について。

弁護人金野繁の所論は、原判決が、「五月一日早朝被告人田中、同本間、同工藤精一、同中村らが鈴木宅に集つた際、被告人田中が五〇〇票を無効とすることになつたいきさつの報告をしたところ、右被告人らはこれを了承し……」と判示しているが、被告人中村は、五月一日午前九時頃、老人クラブの仕事で舞戸の財産区に出かけ午後一時頃まで仕事をしていた、また右事実認定の証拠は、被告人田中の捜査官に対する供述調書のみで、被告人中村の供述調書には勿論、当日出席したという被告人本間、同工藤精一の各供述調書にもこの事実についての供述記載はない。原判決にはこの点につき事実誤認がある、というのである。

原判決の掲げる関係証拠をみると、被告人田中の六月二一日付、六月二九日付各検面調書中には、判示に照応する供述記載があり、被告人中村は六月二五日付検面調書では、「五月一日の午前中鈴木先生の事務所か竹風会の事務所かで、私や本間由松、中村圭吾、工藤精一などが居たところで田中稔から『夕べ須藤委員長に呼ばれてわれわれが出した異議申立書の中村の票を菊谷と鈴木に按分するのはおかしいと石岡がいつていたがどうだときかれ五〇〇票抜かないと逆転しないことがわかつた』ということをきかされた、私も異議申立書の内容や鈴木が逆転する方法は田中稔や本間や櫛引達で考えて書いたものだが、鈴木が当選しなければ意味がないので、こうなつたら五〇〇でも同一筆跡の不正な票として抜いて貰わなければならないと思つた」と述べている。そして、被告人中村は、当時殆んど毎日鈴木方や竹風会事務所に顔を出していたと思われるから、五月一日午前九時頃財産区に出かけたとしても、その前に鈴木方に行つたとすることは決して不自然ではないと考えられる。被告人本間、同工藤精一の各検面調書に五月一日早朝の鈴木方における話合について記載がないからといつて話合がなかつたとはいえない。また、被告人田中が、原審で右話合がなかつたと述べているが、その供述も同被告人の前記検面調書に照らし信用できない。原審は、被告人田中の検面調書、被告人中村の検面調書により、五月一日早朝鈴木方での話合の事実を認めたものと思われ、原判決にはこの点で事実誤認の疑いがあるとは考えられない。

(三)  被告人須藤、同宮形、同工藤光雄の犯意について。

所論(弁護人竹島四郎・同安田忠、弁護人工藤勇治の各控訴趣意)は、被告人須藤、同宮形、同工藤光雄には犯意がなかつたというが、原判決の判示事実中二、罪となる事実の2実行々為という部分は、原判決の掲げる関係証拠により十分に認められ、原判決が第三、証拠についての判断中一、実行々為についてという項で示した判断は、関係証拠に徴しおおむね正当であり、被告人須藤、同宮形、同工藤光雄はいずれも明らかに有効な投票五九三票を故意に無効と認定して中村候補の得票数を減少させたことは明らかで、右被告人三名に犯意があつたことは疑う余地がないとした原審の判断に誤りがあるとは考えられない。

弁護人寺井俊正の所論は、被告人須藤、同宮形、同工藤光雄らが同一筆跡として抜き出したのは八六〇票である、そのうち任意の二六七票が代理投票分として控除されたが、その残り五九三票中にも代理投票が存在する可能性がないとはいえない。したがつて、五九三票からさらに二六七票を控除すべきである。そうすれば僅か二〇九票を無効として減少させたもので、この程度ではまだ被告人らの犯意を推断することは論理の飛躍というべきであるという。

しかし、原判決は、右被告人らが、点検の体裁を装えながら、明らかに異なる筆跡の票を、それと知りながら字画の極く一部でも相似ているだけで同一筆跡票として適宜抜きとることを繰り返し、……取り出した合計八六〇票の中村票から、代理投票分二六七票を控除した五九三票を同一筆跡による無効な偽造票と認定し、中村票から有効票である五九三票を故意に減少させたと判示している。もともと代理投票分二六七票は、中村、鈴木、菊谷三候補者分の合計と考えられるから、中村票から代理投票総数二六七票を控除したのはむしろ多過ぎるとさえいうべく、さらに五九三票から二六七票を控除すべきいわれがない。したがつて、原審の判断は正当であり、これと異なる見解を論拠にして犯意を否定することは困難である。論旨は理由がない。

三弁護人寺井俊正の控訴趣意第一点(法令の解釈適用の誤、憲法三一条、三九条違反)について。

所論は、原判決は、原判示事実に対し公職選挙法二三七条三項、四項を適用し、被告人須藤を処断している。しかし、町選管委員会の異議申立に対する決定は、訴訟における判決と同じく一つの判断行為である。その判断の対象は、町長選挙の選挙会が決定した中村候補の当選の効力の有無である。右判断の資料の収集行為の一である投票の検証及びこれに基づく判断が杜選極まるものであつたり、明らかに不当であつても、その検証行為及び判断行為に対してまで公職選挙法二三七条三項、四項の投票増減罪を拡大解釈して適用することは罪刑法定主義の大原則(憲法三一条、三九条)よりして許されない。何となれば右検証及びこれに基づく判断は、物理的に投票の増減を招来するものでないことは勿論、投票の効力自体に何らの変動を生ずるものではない、また、直接投票の増減の効果をきたすものでもない。その誤りは単に一の判断の誤りを結果するにすぎないからである。次に、原判決は、「被告人須藤が……もつて、中村候補の得票から有効投票である五九三票を故意に減少させた。そしてその場において、被告人須藤は中村候補の有効得票数を四、六四〇票として鈴木候補(得票数は四、七五五票)の当選を宣言した」と判示しているが、もし被告人須藤が、「鈴木候補の当選を宣言した」ことをもつて、法二三七条三項、四項の行為に該当するとしたのであれば、その誤りは益々明らかである。すなわち、異議申立に対する審理決定は、当該当選の効力の存否に対する「判断の表示」にとどまるものであり、それを超え他候補の当選を宣言したとしても、当然無効であつて何らの効果を生ずるものでなく、もとより投票増減の効果をも生ずるものでないからである、というのである。

しかし、公職選挙法二三七条三項にいう投票の数の増減とは、実質上投票の数を増減する場合と計算上増減する場合とを含み、選挙事務関係者が右投票の数の増減を行なえば、その行為が同条四項にあたると解するのが相当である。本件においては、原判決は、被告人須藤は、選挙管理委員会委員長として、同委員である被告人宮形、同補充委員である被告人工藤光雄と共謀のうえ、原判示のとおり、異議申立に対する選挙管理委員会の審査にあたり中村候補の得票を点検し、明らかに有効な五九三票を故意に無効な偽造票と認定し、中村票から五九三票を減少させたというのであつて、被告人須藤の行為は正しく公職選挙法二三七条四項にあたるというべきである。原判決に法令の解釈適用の誤りがあるとは考えられない。ましてや憲法三一条、三九条の規定に違反するいわれがない。論旨は理由がない。

次に、原判決は、鈴木候補の当選を宣言したと判示していることは所論指摘のとおりであるが、原審が鈴木の当選を宣言したことをもつて投票増減罪にあたると判断したとは到底考えられない。すなわち、原判決は当裁判所の判断という項において、本件において罪となるのは選挙管理委員会として当選人を決定したことにあるのではなく、被告人須藤らは明らかに有効な投票を故意に無効と認定して中村候補の得票数を減少させたことにある旨判断しているからである。論旨は前提を欠き採用できない。

四弁護人竹島四郎、同安田忠の控訴趣意第二点、弁護人寺井俊正の控訴趣意第四点、弁護人工藤勇治の控訴趣意第二点(いずれも量刑不当)について。

本件は、昭和四六年四月二五日施行の青森県鰺ケ沢町長選挙において、中村候補は五、二三三票で当選、鈴木候補は四、七五五票で落選したことから、鈴木候補を支持する竹風会副会長であつた被告人本間、同じく竹風会の幹事長であつた被告人田中、同じく竹風会事務局長であつた被告人櫛引、個人的関係から鈴木候補を支持していた被告人工藤精一、同中村は、投票のすりかえがあつたとして異議申立をして中村候補の当選の効力を争い、鈴木候補を逆転当選させようと相謀り、鰺ケ沢町選挙管理委員会委員長である被告人須藤、同委員である被告人宮形、同補充委員である被告人工藤光雄を抱き込み、右被告人三名が選挙管理委員会(なお小沼委員も出席していた。)を開き、被告人工藤精一からの異議申立の審査に名を藉りて中村候補の得票の点検をし、原判示のとおり、有効な中村候補の票のうち五九三票を故意に同一筆跡による無効な偽造票と認定し、同候補の有効得票数五、二三三票から五九三票を減少して四、六四〇票とし、鈴木候補を逆転当選させたという事案で、右犯行の罪質、態様、被告人らの立場・被告人らの演じた役割、とくに被告人須藤、同宮形、同工藤光雄は、それぞれ選挙管理委員会委員長、同委員、同補充員として実行々為を行つたこと、当時、被告人本間は公職選挙法違反で、被告人櫛引は業務上横領罪でそれぞれ刑の執行猶予中の身であつたことなどは徴すれば、被告人らの刑事責任はきわめて重大である。犯行が露見して鈴木候補は町長に就任することがなかつたことその他所論指摘の各被告人に有利な事情を斟酌しても、原判決の量刑はそれぞれ相当で、不当に重いとは考えられない。論旨は理由がない。

そこで、各刑訴法三九六条及び被告人宮形につき更に同法一八一条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(中島卓児 萩原昌三郎 板垣範之)

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