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佐倉簡易裁判所 昭和47年(ト)12号 決定 1972年6月30日

債権者 椿謹二

右代理人弁護士 小長井良浩

同 葉山岳夫

同 長谷川幸雄

同 藤田一伯

同 菅野泰

同 岡田宰

同 近藤勝

同 大川宏

同 野島信正

同 中根洋一

同 長嶋憲一

同 井上庸一

同 磯貝英男

債務者 京成電鉄株式会社

右代表者代表取締役 川崎千春

右代理人弁護士 田辺恒貞

同 豊田愛祥

同 神保国男

債務者 株式会社熊谷組

右代表者代表取締役 牧田甚一

右代理人弁護士 木村恒

主文

債権者の本件仮処分申請を却下する。

申請費用は債権者の負担とする。

理由

一、債権者の本件申請の趣旨および理由は、別紙「仮処分命令申請書」記載のとおりであり、これに対する債務者らの答弁は、別紙各「答弁書」記載のとおりである。

二、債権者が成田市駒井野字松ノ入七四七番三原野三畝一三歩(以下本件土地という)につき、持分三〇分の一の共有者として登記されていること、債務者京成電鉄株式会社(以下京成電鉄という)は資本金一三五億円の鉄道による一般運送等を目的とする会社であり、京成電鉄成田空港線について昭和四六年四月二〇日千葉県知事(ただし、債権者の主張は建設大臣)の事業認定処分を受け、現在右鉄道敷設工事(以下本件工事という)を継続していること、債務者株式会社熊谷組は、建設工事の設計および請負等を目的とし、債務者京成電鉄から本件工事の第四工区の建設工事を請負い、現在直営で右工事を施行していることはいずれも当事者間に争いがない。

三、そこで、被保全権利の点はさておき、本件仮処分の必要性の点につき先づ判断する。本件疎明資料によると、次の事実を認めることができる。

1、本件土地は、藤崎定雄、同りょうの所有であったが、昭和四一年一〇月二五日ころ「新東京国際空港」建設反対斗争のため、いわゆる一坪運動の土地として提供され、債権者を含む実川清之ほか二九名の共有地として同年一一月七日所有権移転登記が経由されたが、その後本件土地が空港敷地外に決定したため債権者を除く実川清之ほか二八名からはその返還の承諾を得られていること

2  本件土地が成田空港線にかかるとしても、その面積の約三分の一が路線外にあり、また、本件土地がよせがり(田の周辺の草刈場)であること

3  成田空港線は当面新空港と都心を結ぶ唯一の大量輸送機関であるとともに将来予想されるぼう大な輸送需要に対処するため高度の必要性を有すること、そして、本件土地付近を含む第四工区は既に完成した成田第四架道橋と駒井野隧道との中間にあり、本年六月末をもって路盤工事(トンネル、橋梁工事)を、引続き軌道工事、電気関係工事を八月中に完成させ、空港線として九月には安全の確認および乗務員の訓練等を含めた特別車両による運転のための各種テストをくり返えし今秋の空港開設時までに運行できるよう万全を期す必要があること

三、以上認定の事実によると、債務者京成電鉄の本件工事の公益性、緊急性および必要性ならびに路線変更の困難性とそれによって多大の損害を被ることに比すと、本件工事の続行、完成によって債権者の被ることあるべき損害は、金銭賠償による補償または残余土地の現物分割による取得によって満足さるべきものということができる。

四、よって、本件仮処分申請はその余の点について判断するまでもなく保全の必要性の疎明なきものというべく、また保証をもって右疎明に代えさせることも相当でないから、これを却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 古川智)

<以下省略>

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