大判例

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佐賀地方裁判所 事件番号不詳〔1〕 判決

本籍並住居

佐賀縣佐賀郡川上村大字川上五百十九番地

大藏事務官 全國財務労働組合佐賀税務署支部長

友納十三男

当三十三年

右の者に対する労働関係調整法違反被告事件について当裁判所は檢事長田栄弘関與の上管轄権の有無並に公訴の適否の点につき審理を遂げ次の通り判決する。

主文

本件は当裁判所の管轄に属する。

本件公訴は適法である。

理由

本件公訴事実は、被告人は大藏事務官として佐賀市所在佐賀税務署庶務課に勤務し一面全國財務労働組合佐賀税務署支部の支部長兼組織部長にして同時に同組合佐賀地区連合会の執行委員なる処現業以外の行政事務に從事する者は労働爭議行爲を爲し得ざることを知り乍ら政府に対する地域別最低賃金制の確立其の他十数項の要求事項の貫徹を期し昭和二十三年三月十五日、二十二日、二十三日の三回に亘り右税務署に於て主動的地位に立ち右支部組合員たる右税務署員百五十四名中の大部分と共に賜暇の名目の下に一斉欠勤の手段に出て税務業務の正常運営を阻害し以て爭議行爲を爲したものであると謂うに在る。

これに対し被告人並に弁護人は管轄違の申立をし且本件公訴は不適法として棄却せらるべきものなる旨主張するから、これについて左に逐次審按する事とする。

第一、被告人並に弁護人は本件は当裁判所の管轄に属しないと主張し、その理由の要旨は全國財務労働組合佐賀税務署支部組合員の本件賜暇戰術が爭議行爲であると仮定するも、該行爲は全國財務労働組合中央本部の指令により全國の各支部と共に一斉に行われたものであるから爭議行爲としては全國財務労働組合により全國的に行われた一個の行爲と見るべきである。故にその行爲地は同組合の中央本部事務所の所在地である東京都であり、労働関係調整法第三十九條により処罰せらるべき者は法人たる同組合の中央執行委員である。從つて本件の土地管轄は犯罪地及び被告人の住居地いずれによるも当裁判所に属しないと謂うに在る。然し乍ら本件公訴において犯罪事実として示されたところは前記の如く佐賀税務署支部組合員の一斉欠勤行爲であり、被告人として指定された同支部の代表者たる本件被告人であり同被告人の住居地が当裁判所管内に在る事は明かであるから、公訴事実自体に徴し犯罪地及び被告人の住居地のいずれよりするも本件の土地管轄が当裁判所に属する事は明瞭である。

第二、弁護人が本件公訴を不適法であると主張する理由の要旨は

(一)  本件について佐賀地方労働委員会のなした処罰請求は同委員会の正当な決議に基づかないから無效である。即ち同委員会は本件被告人に対する処罰請求について何等の決議もして居ない。仮に昭和二十三年三月二十三日同委員会において右処罰請求の決議をしたとするも同委員会は同日午前の会議において出席委員九名により一旦本件佐賀税務署支部の一斉賜暇については処罰請求をしない旨決議し乍ら同日午後更に右九名中の五名のみ集合して本件について処罰請求する旨を右午前の決議と全然反対の決議をしたものである。然し右の如き決議は多数決原理を無視する違法のものとして無效である。又右午後の決議は占領軍佐賀軍政部の圧力により出席委員がその眞意に非ざる意思表示をしたものであり、その他右決議には重大なる瑕疵があるから無效である。

(二)  本件は佐賀縣地方労働委員会の処罰請求に基づき起訴せられたものであるが、同労働委員会は本件について管轄権を有しない。從つて右処罰請求は不適法のものである。即ち本件一斉賜暇行爲は前記の如く全國財務労働組合中央本部の指令により全國一斉に行われたものであるから全國一個の爭議行爲と見るべきものである。從つてその行爲地は中央本部事務所の所在する東京都であり、労働関係調整法施行令第十一條による管轄労働委員会は東京都地方労働委員会であつて佐賀縣地方労働委員会には何等の管轄権もない。

(三)  本件公訴は労働組合の正当な組合運動を彈圧しようとする意図に出たものであり、斯くの如きは憲法に違反しポッダム宣言及び極東委員会の日本労働組合に関する十六原則の趣旨を無視するものである。

と謂うに在る。

然し乍ら

証人櫻井義暢、同岩尾新一、同氏家新十郞、同糸川勇次郞の各当公廷における供述を綜合すれば、佐賀縣地方労働委員会においては昭和二十三年三月二十三日午前本件佐賀税務署支部組合員の一斉賜暇行爲の件について委員会を開き、出席委員九名により右一斉賜暇行爲は労働調整法違反の爭議行爲と認むるが一應同支部に対し勧告を発するに留め、処罰請求はこれを差控える事とする旨の決議をしたが、同日正午頃同委員会長糸川勇次郞は出席委員一同に対し占領軍佐賀軍政部に右会議の経過報告の要ある旨並に同問題について午後更に審議の要あるやも知れざるにつき同日の委員会を午後に継続すべき旨を申し傅え、右軍政部に報告を了した後同日午後更に委員会を続行したが、委員中四名は所用のため午後の会議には出席せず残り五名(使用者側一名、労働者側二名、第三者側二名)により再審議の結果全員一致を以て本件一斉賜暇行爲につき処罰請求をなす旨の決議をした事、当時の佐賀縣地方労働委員会運営規定によれば同委員会においては使用者側、労働者側、第三者側の委員各一名以上出席すれば開会し且決議し得る事になつて居た事を認むるに十分であり、右決議が故意に多数決原理を無視して不法になされたものであり且他の圧力により出席委員がその眞意に非ざる意思表示したものであり、その他該決議に瑕疵があると云う弁護人の右(一)の主張事実はこれを認むるに足る証拠がない。

次に本件公訴事実は前記の如く全國財務労働組合佐賀税務署支部組合員の一斉賜暇行爲を右佐賀税務署支部なる労働者團体の爭議行爲と見、これを以て労働関係調整法第三十九條の罪として居るのであり、記録編綴の佐賀縣地方労働委員会会長の本件被告人に対する処罰請求書記載の事実もこれと同趣旨に出て居り、いずれも全國財務労働組合の全國的爭議行爲をその対象として居るものではない。而して処罰請求並に公訴が適法であるか否かは一應該処罰請求並に公訴において示された事実自体に徴してこれを判断すべきものであつて、本件処罰請求並に公訴に係る事実は右の如く佐賀税務署支部の行爲を対象として居るものであるから右事実自体に徴すれば本件の管轄地方労働委員会が佐賀縣地方労働委員会である事は明かである。本件一斉賜暇行爲が右の如く佐賀税務署支部なる独立の労働者團体の爭議行爲であるか又は弁護人主張の如くその然らざる行爲であるかは本件につき更に事実の審理を俟つて判断せらるべきところであつて、その結果の如何と本件処罰請求並に公訴が適法であるか否かの問題とは法律上別個の問題である。よつて弁護人の右(二)の主張もこれを採用する事が出來ない。

尚労働組合関係者に対する公訴提起の一事を以て正当な労組働運動に対する不当の彈圧であるとは解し難く、他に本件公訴が右彈圧を意図するものである事の証拠がないから弁護人の右三の主張もこれを採用するに足らない。

以上説示する如く本件は当裁判所の管轄に属し、且本件公訴は適法に提起せられたものと認むべきである。

よつて主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 西岡稔 裁判官 岩永金次郞 裁判官 富川盛介)

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