佐賀地方裁判所 平成12年(ワ)92号 判決 2005年1月14日
原告
山本務
同訴訟代理人弁護士
団野克己
被告
南川副漁業協同組合
同代表者代表理事
川﨑守
同訴訟代理人弁護士
松田安正
被告
川副町
同代表者町長
江口善己
同訴訟代理人弁護士
安永宏
同
池田晃太郎
同
江崎匡慶
同訴訟復代理人弁護士
奥田律雄
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して九八〇万三五〇〇円及びこれに対する平成一三年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。
四 この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、原告に対し、連帯して二七二九万三〇八二円及びこれに対する平成一三年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 仮執行宣言
第二事案
一 事案の概要
本件は、佐賀県佐賀郡川副町(以下、地名を指すときは単に「川副町」と、当事者である被告川副町を指すときは「被告町」とそれぞれいう。)において、冬期にイチゴ等をハウス栽培している原告が、被告南川副漁業協同組合(以下「被告漁協」という。)所属の漁家により、原告のハウス付近を流れる用排水路(以下「クリーク」という。)に海苔加工排水である大量の海水を排出された結果、イチゴ等が不作になったが、その際、被告らは、漁家から排出された海水への対策を怠ったなどと主張して、被告らに対し、不法行為又は国家賠償法に基づく損害賠償を請求した事案である。
二 争いのない事実等
以下の事実は、当事者間に争いがないか、又は本文中に掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認めることができる。
(1) 当事者
ア 原告は、川副町内在住の農家であり、昭和五三年ころから、イチゴや花等をハウス栽培している。原告は、昭和五八年ころから平成一〇年ころまで、同町《番地省略》の土地(別紙図面・甲四一中、「ハウス」と記載された場所)に五〇〇坪と二五〇坪の二棟の園芸ハウス(以下「旧ハウス」という。)を設け、イチゴ等を栽培していたが、後記のとおり、イチゴや花等の農作物が不作になったとして、平成九年六月ころから平成一〇年ころにかけて、順次、旧ハウスから数キロメートル離れた佐賀空港近くの同町《番地省略》に園芸ハウスを移転し(以下、移転先の園芸ハウスを「現ハウス」という。)、現ハウスでイチゴ等の栽培を営むようになった。
イ 被告漁協は、水産業協同組合法により設立された法人であって、漁家等の経済的社会的地位の向上及び水産業の生産力の増進を目的とし(同法一条、五条)、組合員の事業等に必要な資金の貸付、共同利用に関する施設、組合員の知識の向上及び組合員に対する一般的情報の提供などを事業としている。なお、被告漁協を含む川副町内の漁協は、平成八年度から平成一二年度まで、被告町の塩水対策事業費のほぼ二割を負担していた。
ウ 被告町は、地方自治法上の地方公共団体である。
(2) 原告が栽培していた農作物の不作
原告は、別紙「損害額一覧表」の「(1)イチゴについて」中「平成四年度」(平成三年一一月から平成四年五月までを指す。以下、特に断りのない限り、他の年度についても同様である。)から「平成一二年度」までの間に、各年度に対応する同表「作付面積」欄のとおり、イチゴを栽培し、それぞれ各年度における同表「実際の売上額」欄のとおりの売上を得た。
(3) クリークの利用及び管理等
川副町では、昭和四〇年ころから、海苔養殖・加工製造事業が本格化しており、被告漁協も、それを営む漁協の一つであるが、他の漁協と異なり、海苔加工漁家から海(有明海)までの距離が比較的離れている。
別紙図面のとおり、被告町は、同町内に多数のクリーク(生活排水路、農業用水路の兼用水路)を設置しており、旧ハウスも西側と南・北側をクリークに接していた(以下、旧ハウス西側に接して流れるクリークを特に「本件クリーク」という。)。また、同町内には多数の漁家があり、海苔の製造・加工をしている漁家も少なくなく、それらの漁家は、海水をクリークに排出していた。その後、平成五年ころからは原藻の鮮度を保つため、かくはん機が漁家に導入されるようになった。かくはん機とは、大型のタンクの中に海苔と海水を投入し、大型のプロペラ状のバーでそれらを混ぜ合わせ、二四時間中、海苔の原藻の鮮度を保つ機械である。それぞれの漁家は、被告漁協が戸ヶ里漁港に設置したポンプで河口からくみ上げた海水をかくはん機に投入し、その使用済み海水をそれぞれクリークに流していた。
生産機で海苔一枚を製造するには、水道水約一リットルが必要となり、最盛期においては、漁家一軒あたり一日約二万五〇〇〇枚の海苔を製造することもあるので、その場合には、約二五トンの水道水を排出することになる。他方、かくはん機は一日平均約一トンの海水を排出するが、その際、生産機から排出される約二五トンの水(これには裁断された海苔等が混ざっている。)と混合して排出されるので、結局、約二六倍に希釈された海水が海苔加工排水として排出されている。
戸ヶ里漁港でくみ上げた海水の塩分濃度は、ほぼ二万五四〇〇ppm程度であった。
被告町は、平成七年一一月三〇日、本件クリークの南側にある別紙図面に「堰」と記載された場所のクリーク内に、杭を打設して合板等で囲み、その中に土を埋め戻すなどした、開閉不能な仮堰(以下「本件仮堰」という。)を設置した(なお、本件仮堰のために打設された上記杭を撮影した写真が甲四六の⑦ア・イ及び乙イ一の一の②である。)。本件仮堰は、以後、毎年、海苔加工時期(一一月から翌年二月末にかけて)のみ設置され、海苔加工時期が終了すると撤去されていた。また、本件クリークの上流(北側)の地点(別紙図面中の④の地点。乙イ一二file_2.jpg
、乙ロ四の二「樋管」地点)には、平成一〇年以前には木製の樋管が、それ以降は新たなゲート(樋管)がほぼ同一場所に設けられていた。
原告は、毎年九月ころから翌年五月ころまで、旧ハウスでのイチゴの栽培のため、毎週一回程度、旧ハウスの西側に接する本件クリーク(主に同クリーク付近に放置された廃車車両(乙イ一の写真⑪・⑫)の北側地点)から、ポンプを用いて四〇ないし五〇トンの用水をくみ上げ、潅水チューブを用いて潅漑を行っていた。
なお、旧ハウス付近においては、本件クリーク西側の町道下に本件クリークと併行して流れる国営の三面水路があり、その他に二つの国営水路が設けられていた(別紙図面中⑥の東西方向の水路、及び、⑥と⑧のクリークに挟まれた東西方向の水路)が、その用水を国の許可なく使用することはできなかった。
(4) 本件訴訟に至る経緯
原告は、別紙「事実経過一覧表」のとおり、平成六年の秋ころ、イチゴの発育不良の原因が海苔加工排水にあるのではないかと疑い、被告漁協にその対処方を申し入れ、平成八年一二月二一日及び平成九年一月二一日、その上部団体である有明海漁業共同組合連合会(漁連)を介し、被告漁協に対し、再び対処方を求め、さらに同年二月一日及び平成一一年八月二三日には佐賀県水産局に対し、平成一〇年四月六日及び同年九月一七日には被告町に対し、それぞれ対処方を求めた。
被告漁協は、同被告の費用負担で、三面水路等の国営水路からの取水のためのポンプの設置を原告に提案したこともあったが、結局、実現せず、組合員に対して、海苔加工排水の対策を指示することもなかった。
原告は、平成九年六月一日から平成一〇年ころにかけて、五八八万七一三二円を費やして、イチゴ栽培の施設を旧ハウスから現ハウスに移設し、平成一一年三月一一日、被告町に対し、上記のハウス移転事業に関する補助金の交付を申請して、同月二四日、被告町から一九六万二〇〇〇円の交付決定を受けた。
他方、被告漁協から平成一一年四月一二日付けで補償に応ずる意思はない旨の書面を受け取った原告は、同年一〇月二六日、被告らを相手方として、佐賀簡易裁判所に一般調停を申し立てたが、平成一二年二月二二日、調停不成立となったため、同年三月一三日、当庁に本訴を提起した。
なお、被告町及び被告漁協は、それぞれ平成一二年六月三〇日及び平成一六年八月二〇日の第二回及び第二一回口頭弁論期日において、その発生後から三年を経過した損害につき、消滅時効を援用するとの意思表示をした。
第三争点
一 本件における争点は下記のとおりである。
(1) 原告の農作物に被害が生じたか(以下、原告が栽培していた農作物に被害が出たことを「本件農作物被害」という。)
(2) 本件農作物被害の原因は塩害か(原因物質)
(3) 本件クリークに海苔加工排水が流れていたか(汚染経路)
ア 本件クリークの塩分濃度
イ 本件クリークの水流
ウ 漁家のかくはん機からの排水
(4) 被告町の責任原因
ア 国家賠償法(以下「国賠法」という。)二条一項責任
イ 国賠法一条一項責任
(5) 被告漁協の責任原因
(6) 消滅時効とその放棄・援用権喪失
二 争点に関する当事者の主張
(1) 原告の農作物に被害が生じたか
(原告の主張)
原告は、昭和五八年ころから、旧ハウスにおいて、イチゴや花等の農作物を栽培していたが、別紙損害額一覧表「年度」ないし「原告主張の損害額」欄に記載のとおり、平成六年以降、平成五年までと比較して収穫高が減少し、売上も減収となった。
原告は、平成五年ころからイチゴの発育不良に悩み、作付面積を縮小したりしていたが、平成九年五月ころ、約八〇〇坪分の潅漑用水に相当する四〇トンの水を確保するとの提案を被告漁協から受け、作付面積を拡大した。したがって、この作付面積の変動は、本件農作物被害があったことと相容れないものではない。また、農業総収入と冬期農作物の被害とは関係がない。
(被告らの主張)
否認ないし争う。
原告は、平成五年ないし六年ころ、旧農協のイチゴ部会を脱退していることから、その販売高等が正確であるかを確認できない。
原告は、平成四年に七四〇坪、平成五年には五〇〇坪であったイチゴ作付面積を平成六年ないし七年に二五〇坪に縮小しており、逆に、平成八年に五〇〇坪、平成九年には七五〇坪と拡大しており、被害があったとの主張と相容れない。また、平成六年ないし七年の農業総収入に大きな減少はみられない。
(2) 本件農作物被害の原因は塩害か(原因物質)
(原告の主張)
イチゴは、対塩性が弱い農作物とされ、苗が活着した後の数日程度を除き、塩素濃度が二〇〇ppm(百万分率)以下(塩化ナトリウムに換算した場合は四〇〇ppm以下)の用水を使用することが必要であり、それ以上の塩素濃度の用水を使用した場合は発育不良となるとされる。
現に、原告が、平成一四年一月三〇日から同年三月一一日まで、対塩性に関する対照実験として、イチゴ等に対し、正常な用水(二〇〇ppm以下の水)と、一〇〇〇~六〇〇〇ppmの塩分濃度の水をそれぞれ潅漑してその成長を観察したところ、後者についてその外観や根毛に顕著な異常が生じた。
原告は、塩害が生じたからこそ、急きょ、園芸ハウスの移転に踏み切ったものであり、海苔排水の被害に伴い、現に被告町から補助金の交付を受けた。
(被告らの主張)
否認する。
原告は、被告らに塩害の証拠を全く示しておらず、被告らや、佐賀県において、その事実を確認してはいない。
原告は、園芸ハウスの移転を平成八年以前に計画していたのであり、また、被告町の補助金交付(前記第二の二(4))は、政治的な決着であるから、いずれも塩害を裏付ける事実ではない。
トルコキキョウ・アスターは、定植時期・出荷時期からしても、海苔加工排水とは無関係である。
(3) 本件クリークに海苔加工排水が流れていたか(汚染経路)
(原告の主張)
本件農作物被害は、被告漁協所属の漁家が、海苔加工機械であるかくはん機から大量の海水をクリークに排出した結果、本件クリークを流れる用水の塩分濃度が上昇していたところ、原告がそれを潅漑に用いたり、又はそれが土壌中に浸透し、若しくは降雨時に本件クリークからあふれ出るなどして、農作物に影響を及ぼしたものであって、そのことは、以下の事実から明らかである。
ア 本件クリークの塩分濃度
被告町が平成六年一一月八日から実施した塩分濃度調査結果においても、数千ppmという高い塩分濃度が測定されている。また、原告が平成一三年一一月八日から平成一四年二月二六日までに実施した塩分濃度測定の結果、平成一〇年ころにゲートが設置された旧ハウス西側に接する本件クリークでは、おおむね五〇〇ppmにとどまったが、旧ハウス北側に接するクリークでは、八〇〇〇~九〇〇〇ppmの塩分濃度を検出した地点もあった。
平成一〇年ころには旧ハウス西側を流れる本件クリークの北側(上流)に樋管(ゲート)が設置され、上流域からの水流が一定程度遮断されるなどの整備がなされ、また、漁家数自体が減少した時点においてすら、高い塩分濃度が測定されている。これに対し、本件農作物被害が生じていた平成六年以降、上記整備がなされるまでの間は、樋門の排水能力は十分でなかったのであるから、平成一四年度に測定した数値よりも高い塩分濃度の水が滞留していたことが推測できる。
イ 本件クリークの水流
漁期における本件仮堰付近のクリークの水流は、甲三四及び四五のとおりである。
漁家は平成五年以降にかくはん機を導入しているが、本件農作物被害は、同年以前には全く生じておらず、平成六年になり初めて生じたものである。なお、赤水とは、海苔加工排水に含まれる原藻かすが腐敗することにより、クリーク用水を赤く染めることをいい、本件農作物被害とは直接の関係はないが、赤水が発生していることは、海苔加工排水がその場所まで流れていることを意味する。
また、被告町は、平成七年一一月ころ、本件仮堰を設置したが、その後、川副町全体のイチゴの収穫量は減少しておらず、原告の収穫量だけが減少している。これは、本件農作物被害が、干ばつや大雨によるものではないことを示すものであり、むしろ、本件仮堰の設置によって、その下流の農家が塩害を免れた反面、本件仮堰の近くの上流に位置していた旧ハウスに被害が集中したことを示すものである。
ウ 漁家のかくはん機からの排水
海水の塩分濃度は、通常、約三万四〇〇〇ppmであるところ、漁家が、かくはん機から海苔加工排水である海水を排出するにあたり(前記第二の二(3))、仮にそれを二六倍に希釈して排出したとしても、その塩分濃度は一〇〇〇ppmを超えることになる(前記(2)の原告の主張のとおり、イチゴの塩分耐性は四〇〇ppmとされている。)。同濃度の水五〇トンを、ある年の九月から翌年五月まで毎週一回(一八週間)の割合で八〇〇坪のハウスに散水すれば、一平方メートルあたり三〇〇グラムもの塩分を与えたことになる。加えて、ハウス内には地下水からの浸透(ハウス内は温暖であり、降雨の影響から遮断されているので、地上からの浸水量よりも、地上への蒸発量のほうが多く、その分、地下水が地中に浸透することになる。)があり、それをも考慮すれば、かなりの塩分がハウスに集積されることになる。
(被告らの主張)
本件農作物被害は、塩害に起因するものではなく、干ばつ又は大雨による水害に起因するものである。このことは、原告は、塩害があったと主張しながら、その当時、専門機関による継続的な調査を行っていないことや、以下の点からも明らかである。
ア 本件クリークの塩分濃度
漁家が使用する海水の塩分濃度は二万五四〇〇ppmないし二万七〇〇〇ppmである。
平成一〇年以前にも、本件クリークの上流には樋門が設置されており、旧ハウス西側部分に上流からの水流が流入することはなく、むしろ、平成一〇年ないし一二年ころ、旧ハウスの北側及び南側にあるクリークがそれぞれしゅんせつされたことにより、旧ハウス西側の本件クリークに水流が流入するようになるなど、平成六年ないし一〇年当時と現在では水流環境が変化しているのであるから、かかる水流環境の変化した後における原告の調査結果をもって、当時の塩分濃度を推定することはできない。
佐賀大学農学部教授・取出伸夫作成の「川副町塩害問題について」と題するレポートは、推定に基づく仮説であり、信頼性を有さない。
イ 本件クリークの水流
漁期における本件仮堰付近のクリークの水流は、乙ロ四の二のとおりである。
ウ 漁家のかくはん機からの排水
本件クリークには、被告漁協以外の漁協に所属する漁家からの排水や、一般家庭の生活雑排水も排出されていたのであるから、塩分の出所は被告漁協に属する漁家だけではない。
被告漁協所属の漁家のうち、平成五年から平成一〇年までの間に、かくはん機を導入し、本件クリークに海水を排出していたのは三名にすぎない。
被告町の測定結果中、平成七年一月九日に一五〇〇ppmを測定したのは、平成六年七月から平成七年三月までの猛暑と干ばつに起因している。また、同年一二月一四日に一八〇〇ppmを測定したのは同月中の小雨によるものであり、海水の遡上による影響も考えられる。
そして、平成一〇年度の農作物被害は、平成九年一一月二六日に大雨による洪水のため、旧ハウスが冠水したことに起因するものであって、塩害とは無関係である。
(4) 被告町の責任原因
(原告の主張)
ア 国賠法二条一項責任
前記(3)の原告の主張のとおり、被告漁協所属の漁家が大量の塩分を含む海苔加工排水を本件クリークに排出させていたところ、本件クリークを管理していた被告町は、平成七年一一月ころ、本件仮堰を設置したため(なお、平成一〇年以前にその上流で設置されていた樋管には、水流をせき止める機能はなく、本件仮堰に貫通ビニール管があったとしても、滞留を解消する効果はなかった。)、本件クリークの水の流れを停滞させ、水位を上昇させた。
本件クリークは、原告が、実際にその用水を潅漑に用いていたように、農業用水路として公共の目的で用いられていたのであるから、その塩分濃度を正常に保つことができず、かつ、水害を起こしやすくさせた点で、被告町がした本件仮堰の設置、又は本件クリークの管理には瑕疵があったというべきである。したがって、被告町は、国賠法二条一項に基づき、原告に生じた損害を賠償する責任がある。
イ 国賠法一条一項責任
また、海苔加工排水は一般廃棄物に該当するところ、被告町は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)に基づき、それを処分するなどすべき義務、具体的には海苔加工排水のクリークへの排出を規制し、若しくは下水道を設置するなどして海苔加工排水を収集すべき義務、又は農家等に塩害に関する情報を提供すべき義務があったのに、それらを怠った。
被告町では、前記「赤水」が発生するなど、海苔加工排水の問題が従前から広く知られていたところ、かくはん機の導入は、それに拍車を掛けた。川副町と同じ有明海沿岸で海苔漁業が盛んな佐賀県佐賀郡久保田町では、塩水対策のための下水道整備の計画を進めており、平成六年二月四日付け佐賀新聞紙上でそのことが報じられたのであるから、被告町は、遅くともそのころには海苔加工排水による塩害の可能性を認識していた。同年一一月八日、川副町内のクリークの塩分濃度調査が実施され、一〇〇〇ppmを超える塩分濃度が測定されたこと、そのころ、佐賀県から、塩分対策に関する具体的指示を受けていたことなどからすると、被告町に、本件農作物被害の認識可能性があったことは明らかである。したがって、被告町は、国賠法一条一項に基づき、原告に生じた損害を賠償する責任がある。
(被告町の主張)
ア 国賠法二条一項責任
本件仮堰の設置は、旧ハウス西側から南方向に下る本件クリークの水流を、東方向に変更(切り回し)するためのものであって、本件クリークの水流を停滞させたり、水位を上昇させる目的ではないし、そのような結果を生じた事実はおろか、本件仮堰を貫くビニール管に水が入ったことすらない。
もともと、旧ハウス西側を流れる本件クリークを下った場所には、漁期中は完全に閉鎖されるゲートが土地改良区によって設置されており、南方向に用水が流れることは期待されていない。そのため、被告町は、平成一〇年以前にも、本件クリークの上流に樋管を設置して旧ハウス西側の本件クリークに水が集中しないようにしたほか、平成七年ころ設置した本件仮堰にもビニール管を貫通させ、本件クリークに水が滞留しないように配慮している。本件農作物被害が仮に水害に起因するものだとしても、むしろ、低平地である旧ハウス用地に雨水が滞留するという、地形的要因と自然現象に起因するものであって、本件仮堰や本件クリークの設置又は管理に瑕疵があることに基づくものではない。
イ 国賠法一条一項責任
海苔加工排水は、一般廃棄物に該当しない。
仮に該当するとしても、水質汚濁防止法又はその他の法令において、被告町には海苔加工排水の排出を規制すべき権限や基準はない。被告町は、被告漁協に対しては排水対策を指導し、農協に対しては塩分測定の結果を情報提供するなど、町として可能な対策を実施しており、作為義務違反はない。下水道も現在設置工事中である。
また、被告町には、赤水の調査のために塩分測定をした事実はあったが、海苔加工排水が本件農作物被害を惹起しているとの認識可能性はなかった。
(5) 被告漁協の責任原因
(原告の主張)
ア 漁家への情報提供義務違反
被告漁協は、水産業協同組合法に基づき設立された組合であって、組合員に対する教育及び情報提供等をその目的としていることからすると(同法一一条一項一〇号(現行法では同条項一三号))、漁協としての対策を要する客観的な事情がある場合には、組合員に対する教育及び情報提供等をする義務が生ずる。
本件において、被告漁協は、組合員である漁家が平成五年ころからかくはん機を導入したことによって海苔加工排水(海水)をクリークに多量に排出していた事実を認識し(平成六年以降は佐賀県から海苔加工排水への対策も勧告されていた。)、自らも、漁港に海水取水用ポンプを設置していたにもかかわらず、漁家に対し、海苔加工排水対策についての指導ないし情報提供を怠った。
イ 海苔加工排水対策義務違反
また、上記アの事情に加え、被告漁協は、原告に対して、一度は用水の供給を約束するなど、海苔加工排水の対策の必要性を認識していたが、その後、用水を供給することも、環境保全に協力することもなく、海苔加工排水の対策を何ら採らなかった。なお、被告漁協は、被告町と共同して本件仮堰を設置した(設置費用の一部を負担している。)。
ウ したがって、被告漁協は、不法行為に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。
なお、三面水路は、夏期の稲作に利用するための国営の水路であって、原告を含む個々の農家が自由に使用できるものではない。
(被告漁協の主張)
ア 漁家への情報提供義務違反
水産業協同組合法一一条一項一〇号は、漁協の組合員に対する教育及び情報提供等についての権限を定めたものであって、その義務を定めたものではない。
かくはん機は、漁家自身の判断により購入・設置しているものであり、被告漁協には、その使用を中止させたり、クリークへの排水を差止めする権限も手段も有していない。
イ 海苔加工排水対策義務違反
被告漁協は、自ら海苔を生産するものではなく、海苔加工排水対策を講ずる立場にはない。むしろ、被告漁協は、原告に対し、川上峡から来る三面水路、又は本件クリーク西側の東西に流れる水路からの取水を原告に提案した上、被告漁協において、取水ポンプの設置費用を負担する旨申し入れてきた。それにもかかわらず、原告は、その設置工事に協力しなかった。なお、平成七年から、毎年一一月ないし翌年三月にかけての海苔加工時期に本件仮堰が設置されたことは認めるが、その設置責任者は被告町である。被告漁協は、本件仮堰を何ら管理しておらず、仮に本件仮堰の設置によって原告に何らかの損害が生じたとしても、被告漁協が責任を負う義務はない。
ウ 被告漁協は、そもそも原告から塩害の証拠を示されておらず、塩害の事実を確認していないのであるから、その認識もなかった。
(6) 消滅時効とその放棄・援用権喪失
(被告らの主張)
原告は、本件農作物被害の発生の事実及び被告らが加害者に当たることを被害発生当初から明確に認識していたのであるから、各損害の発生から三年を経過した時点で、それぞれの消滅時効が完成した。
なお、被告らが時効援用の意思表示をした事実は、前記第二の二(4)のとおりである。
(原告の主張)
被告らが私法上の賠償責任を負うかどうかは、法律的判断であり、原告がそれを認識したのは、平成五年ころではなく、本訴提起に先立つ調停事件の申立てのころである。
被告町は、前記第二の二(4)のとおり、原告に対し、補助金を交付しており、これは、一部弁済(承認)として、時効中断又は時効援用権喪失事由となる。
第四当裁判所の判断
一 争点(1)(原告の農作物に被害が生じたか)について
(1) 前記第二の二(2)掲記の事実に加え、《証拠省略》によれば、原告は、昭和五九年から平成五年ころまでの間、たびたび表彰されたり、あるいは雑誌に特集されるなど、イチゴ生産農家として優秀な成績を収めており、特に平成四年ないし五年度のイチゴの一坪当たりの販売高は、別紙「損害額一覧表」中「同坪当たり」欄記載のとおり、一万一二〇〇円以上を維持していたこと、しかるに、平成七年度以降の同販売高は、高くても七〇〇〇円台と少ない額に推移してきたことが認められる。かかる事実は、平成七年度以降、何らかの原因により、原告の栽培するイチゴに生育上の被害が生じたことを裏付けるものといえる。
なお、被告らは、原告が平成七年度から平成九年度にかけてイチゴの作付面積を二五〇坪から七五〇坪へと三倍にしていることは、イチゴに被害が生じた事実と相容れないと主張する。しかしながら、原告の旧ハウスの面積はもともと七五〇坪あり、イチゴの坪当たり販売高は別表のとおり明らかに減少していたのであるから、総販売高を上げるために作付面積を広げることは栽培者の心理として十分に考え得る事柄であることや、平成一一年度以降は旧ハウスから更に面積の広い現ハウスに移転していることなどに照らすと、原告がイチゴの被害にもかかわらずその作付面積を拡大していた事実とイチゴに被害が生じた事実とが相容れないとまでいうことはできない。
そして、その被害額については、これらの数値に加え、川副町農協イチゴ部会の年度ごとの坪当たり販売高の平均では、平成四年度が九九六九円、平成五年度が一万〇八五五円、平成六年度が一万〇九五〇円、平成七年度が一万二一四三円、平成八年度が一万三二四八円、平成九年度が一万二八一三円、平成一〇年度が一万一三六〇円、平成一一年度が一万二八五八円、平成一三年度が一万一九五五円と推移していることに照らすと、控え目にみても、平成四年度以後の原告の栽培するイチゴの坪当たりの平均販売高は一万一二〇〇円を下回るものではなかったと認めるのが相当であり、結局、原告の栽培していたイチゴに生じた被害の額は、別紙「損害額一覧表」中「(1)イチゴについて」の「認定損害額」のとおりとなる(なお、平成一一年度と平成一二年度は現ハウスにおける栽培実績を基に算定したものであり、平成四年度以後の旧ハウスにおける平均販売高との多寡を単純に比較するのは相当とはいえないが、この点は後に改めて検討する。)。
(2) これに対して、花及び野菜の販売高についてみると、下表記載のとおり、塩害等がなかったとされる平成四年度及び五年度の坪当たりの販売高よりも、平成六年度以降のそれが高値となる年度が多々見受けられ(殊に、平成五年度の花の販売高と平成六年度及び七年度のそれには極めて大きな差が認められる。)、このことからすると、花や野菜についての被害が生じたとは評価できない。《証拠省略》中には、これらについても被害が生じたとの原告の主張に沿うものもあるが、客観的な裏付けを欠き採用できない(仮に花などに被害が生じたとしても、《証拠省略》によれば、花はあまり水を必要としないというのであるから、被害の原因は、海苔加工排水とは無関係のものであるとも考えられる。)。
年度
区分
作付面積
販売高
同1坪当たり
4
野菜
4アール(121坪)
3万円
248円
5
野菜(含タマネギ)
8アール(242坪)
12万6761円
524円
5
花
240坪
5万円
208円
6
野菜
3アール(464坪)
3万円
65円
6
花
500坪
555万8863円
1万1117円
7
野菜
3アール(464坪)
3万円
65円
7
花
500坪
571万7626円
1万1435円
8
野菜
3アール(464坪)
4万5000円
97円
8
花
250坪
192万9539円
7718円
9
野菜(含タマネギ)
6アール(928坪)
4万6561円
50円
9
花
100坪
34万9720円
3497円
10
野菜(含タマネギ)
19アール(575坪)
66万0761円
1149円
10
花
100坪
34万9720円
3497円
12
野菜(含タマネギ)
20アール(605坪)
14万2033円
235円
12
花
100坪
34万9720円
3497円
(3) なお、被告らは、原告の農業総収入が減少していないことを指摘するが、原告は、夏期に米作をするなどしてイチゴ以外にも農業収入を得ていたことが認められるから、本件農作物被害がなかったとはいえない。
二 争点(2)(本件農作物被害の原因は塩害か―原因物質―)について
(1) 《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。
ア 塩害とは、塩分によって作物が直接に受ける障害をいい、土壌中に塩化ナトリウムが過剰に存在したり、ナトリウムイオンや塩素イオンが異常に吸収された場合に発生する。作物の塩害に対する耐性を対塩性というが、対塩性は品目によって異なり、昭和三八年ころから数人の研究者によって分類がなされているが、それによれば、イチゴの対塩性は「弱」とされ、具体的には、土壌一〇〇グラムあたりの塩化ナトリウムは七〇ないし八〇ミリグラム以内、用水中の塩化ナトリウム濃度は三五〇ppm以内(ただし、苗が活着した直後の数日間であれば、塩化ナトリウム濃度二〇〇〇ppm程度の用水を使用しても、生育に大きな影響はみられないとされる。)が安全とされている。
一般に、塩のような電気伝導度の高い物質を含む水を動植物にかけると、浸透圧の関係で、動植物の体内にある水分が外部に排出され、しおれたり、縮んだりすることになる。
イ 原告は、本訴係属中の平成一四年一月三〇日から同年三月一一日まで、対塩性に関する実験を行った。すなわち、現ハウスで定植したイチゴ等を①定植したまま、正常な用水(塩化ナトリウム濃度二〇〇ppm以下の用水)を潅漑したもの、②定植したまま、海苔加工漁家から排出された排水の塩化ナトリウム濃度を五〇〇〇ppmに調整した用水を潅漑したもの、③定植したまま、塩化ナトリウム濃度を一〇〇〇ppmに調整した同排水を潅漑したもの、④鉢植えに移し、正常な用水を潅漑したもの、⑤鉢植えに移し、塩化ナトリウム濃度を六〇〇〇ppmに調整した同排水を潅漑したものの五つにおおむね区分し、それぞれ成育過程を観察した。その結果、当初のイチゴの成長の度合いにかかわらず、塩化ナトリウム濃度の高い用水を潅漑したイチゴの葉や根が、正常な用水を潅漑したもののそれと比べて、枯れたり、変色したりするなどした。なお、同じ高い塩分濃度の用水を潅漑したイチゴのうちでも、定植したまま栽培を続けたものと、鉢植えに移して栽培を続けたものとでは、後者のほうに顕著な生育不良があらわれたが、これは、前者に対しては、定期的・機械的に正常な用水も潅漑されたためと考えられる。
ウ 平成六年六月ころから平成七年二月ころまで、佐賀県内は記録的な猛暑と干ばつに見舞われた。佐賀県農産普及課の調査によれば、梅雨時に小雨であったため、クリークの用水の塩分濃度が上昇して根痛み等が発生し、また、干ばつにより畑の塩分除去などができなかったとされる。県内でのイチゴの作付面積は三七七ヘクタール(約一一四万坪)であるが、そのうちの二一六・一ヘクタール(約六五万坪)で被害が発生し、被害金額は四億七六〇〇万円と推定された。他方、このような干ばつの中でも、塩分濃度の薄い場所から潅漑用水を取水した農家や、塩類除去剤をかん注した農家については、被害の拡大を防ぐことができ、平成六年一一月には、川副町全体として、例年の三倍以上の収穫を上げることができた。
平成四年度から平成一一年度の川副町農協イチゴ部会内のイチゴの坪当たり販売高は、前記一(1)のとおりであって、平成四年ないし六年の坪当たりの販売高に下落がみられるものの、それ以外の年は、おおむね一万一〇〇〇円以上を維持している。これに対して、原告の坪当たり販売高は、別紙「損害額一覧表」中の「同坪当たり」欄記載のとおり、平成七年度以降、大幅な下落がみられる。
エ 平成九年一一月二六日、大雨のために本件クリークの西側農地や下流域農地を含む付近一帯が冠水し、旧ハウス内も冠水したが、その結果、原告の栽培していたイチゴは全滅した。
(2) 以上の事実からすると、イチゴの潅漑に塩水を用いることにより、根や葉が枯れたり変色するなどその成長不良が生ずることは明らかといえるところ、本件全証拠を通覧しても、塩害以外に原告の栽培していたイチゴに成長不良をもたらした他の原因としては、上記(1)エの水害のほかにうかがわれない(連作障害を推認させる具体的な証拠もない。)。
この点、被告らは、平成七年度に原告のイチゴに成長不良が生じたのは、同年度の干ばつの影響によるものであると主張する。
しかしながら、確かに平成七年度に干ばつがあったにせよ、その前後の年を通じて、川副町農協イチゴ部会内のイチゴの坪当たり販売高はおおむね一万一〇〇〇円以上を維持している反面、同部会内の原告の栽培していたイチゴにはこれをはるかに下回る損害が生じていることからすると、不作の主な原因は、干ばつではなく、塩害であると認められる。
もっとも、平成一一年度は現ハウスの移転のためイチゴの作付けがなされておらず、平成一二年度は現ハウスでの栽培のため、その作付面積が旧ハウスのそれとは状況を異にしており、いずれも売上減少額をそのまま基準とするのは相当でないところ、これに加えて、平成一〇年度には旧ハウスの北側にゲート(樋管)が新たに設置され、旧ハウスの西側クリークに塩水が流入しないよう閉鎖されたことが一応認められる(なお、その塩水流入防止の効果が完全なものであったか否かは、後記三(2)で指摘するとおり、必ずしも明白とはいい難いものがある。)から、原告の主張するイチゴの被害が専ら塩害によるとの明確な証拠はないというほかない(現ハウス移転に伴うイチゴ栽培の苦労等は、慰謝料算定の一要素として斟酌するのが相当と解する。)。
三 争点(3)(本件クリークに海苔加工排水が流れていたか―汚染経路―)について
(1) 《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。
ア 被告町は、平成六年一一月八日、旧ハウス付近を流れるクリークの塩分測定を行った。その結果は、別紙図面のとおりであるところ、本件クリークの幾分上流(北側)では一八〇〇~一九〇〇ppmを観測していたが(同図面③④の地点)、旧ハウス付近まで下ると二四〇〇ppmを測定し(同図面⑤の地点。なお、④の地点と⑤の地点の間には被告漁協所属の漁家が三軒存在する。本件仮堰の地点では一七〇〇ppmの塩分濃度となる(同図面⑨の地点)。他方、本件仮堰を南方に越えた地点の塩分濃度は一一〇〇ppmとなるが(同図面⑩の地点)、本件仮堰を越えずにクリークに沿い東方に曲がった地点のそれは二八〇〇ppmである(同図面⑦の地点)。
イ 本訴係属中の平成一三年一一月八日から平成一四年二月二六日までの間、原告が本件クリークの塩分濃度を測定した結果、旧ハウス西側(甲五五の一のfile_3.jpgからfile_4.jpgまでの地点。別紙図面においては④から⑤までの箇所に相当する。)においては、おおむね、その北側で三〇〇~一五〇〇ppm、南側で二〇〇~五〇〇ppmの濃度がそれぞれ観測されていたが、旧ハウス跡地の直近のクリークにおいて(甲五五の一のfile_5.jpgの地点では平成一三年一一月二〇日に、同file_6.jpgの地点では平成一四年二月一六日から二〇日に)、三〇〇〇ppm以上の濃度が観測されたこともあった。
また、旧ハウス跡地の南側を流れるクリーク(甲五六の一の⑨~⑪の地点)では、平成一三年一一月二四日から二五日に一五〇〇~一六〇〇ppmの、平成一四年一月一〇日から一二日に八〇〇~九〇〇ppmの塩分濃度をそれぞれ測定したほかは、おおむね、二〇〇~五〇〇ppmの範囲に収まっていた(甲五六の一の⑨~⑪)の地点)。
他方、同跡地の北側を流れるクリークでは、平成一三年一一月二三日から二七日まで二二〇〇~五二〇〇ppmもの高い濃度を測定したほか、同年一二月八日から二二日まで(ただし、時折低い濃度を測定している。)、二一〇〇~五二〇〇ppmもの高い濃度を測定し、さらに、平成一四年一月三日から一二日には、日にちによっては、三〇〇〇~四〇〇〇ppmもの塩分濃度を測定した地点もあった(甲五六の一の①~③の地点。甲六一の二)。なお、平成一三年一一月三〇日に甲五六の一の①~③の地点の塩分濃度を測定した際、二〇〇ppmと低い数値が測定されたが、同月二九日、佐賀地方気象台において、七〇ミリメートルの降雨を観測している。
ウ 本件クリークのうち、旧ハウスから比較的近い上流部分において、かくはん機を導入して海苔加工業を営む漁家は三軒であったが、更にその上流には、付近のクリークに海苔加工排水を排出している漁家が多数あり、そのクリークと本件クリークとは接続していた。また、旧ハウスは、本件クリークと隣接しており、その土壌表面の高さも本件クリークの水面位置とはそれほど高低差がないこと、本件クリークの用水が旧ハウスの直下を通る地下水とつながっており、冬期においては旧ハウス内が温暖であるために、同ハウス内の土壌の水分が蒸発し、それだけ旧ハウス内の土地には地下水からの浸透、とりわけ、地下水を介した本件クリークからの流入があり、実際、旧ハウス内のあぜを約二〇センチメートルほど掘り返したところ、水の浸透が確認された。
他方、本件クリークの用水を潅漑用水として利用しない、同クリーク西側のトマト、イチゴ栽培農家からは、不作を訴える声はなかった。
(2) これらの事実を総合すると、本件クリークは、海苔加工業を営む漁家から排出される海苔加工排水(海水)が流入する位置に設置されており、平成六年における被告町の調査でも、平成一三年における原告の調査でも、現に塩害をもたらし得る一〇〇〇ppm以上の塩分濃度が測定されていることからすると、本件クリークには、漁家から排出された海苔加工排水が流入していたと推認できる。
これに対し、被告らは、平成五年当時にかくはん機を導入し、クリークに海苔加工排水を排出していた漁家は三軒にすぎず、しかも、そのクリークから下流に位置する本件クリークまでの間には、平成一〇年以前から樋管が設けられており、その海苔加工排水が本件クリークに流入することはなかった、平成一〇年以降、本件クリークに海苔加工排水を排出する漁家は一軒だけである。漁家は、海水(塩分濃度二万五四〇〇ppm)を二六倍に希釈し排出しており、海苔加工排水によって高い塩分濃度が検出されたとは考えられず、本件クリークの塩分濃度が高いのは、もともと、海水の遡上や生活雑排水による塩分が残留していたところ、猛暑等によりクリークが干ばつとなり、塩分が高くなったことや、もともと干拓地であったことなどに基づく旨主張し、これに沿う《証拠省略》も存する。
しかしながら、《証拠省略》によれば、旧ハウス西側に流れる本件クリークの上流(北側)に存する現樋管は平成一〇年ころ新設されたものであるが、それまでにあった旧樋管は既に老朽化していたことが認められ、平成六年の被告町の調査においても、旧樋管の直下(別紙図面の④の地点)において一九〇〇ppmもの塩分濃度を測定していることからすれば、当時の旧樋管が上流からの排水を遮断していたとは認められない。また、平成七年以降に干ばつの影響はなかったことに加え、平成一三年ないし一四年に行われた調査でも前記のような高い塩分濃度を検出していることからすれば、被告らが指摘する一軒以外にも、海苔加工排水を排出することにより本件クリークの塩分濃度を高めることに寄与した漁家の存在がうかがわれるところである(また、この点を措くとしても、かくはん機からの海苔加工排水は、生産機から排出される裁断された海苔が含まれる排水と混ざって排出されるのであるから、裁断された海苔にも塩水の付着が見込まれる以上、海水を単純に二六倍に希釈したものであるとはいえない。さらに、海水の遡上が原因であるとする主張についても、下流よりも上流の塩分濃度が高い事実と相容れない。その他、生活雑排水の影響については、これを裏付ける証拠はなく、むしろ、《証拠省略》によれば、そのような影響は存在しないことがうかがわれる。また、もともと干拓地であったことによる影響も、かくはん機使用時期以降の塩分濃度の上昇を十分説明する事情とはなし得ない。
なお、被告町は、平成七年一月九日から平成一〇年一一月三〇日までの間、合計二二回にわたって、旧ハウス西側の本件クリークの塩分濃度を測定し、その結果によれば、旧ハウス付近ではおおむね一〇〇~七〇〇ppmという低い濃度が測定されたことが認められる。しかしながら、《証拠省略》によれば、その測定方法は、用水の上澄みの塩分濃度を測定し、沈殿している塩分を測定するものではなかったことが認められる(《証拠省略》によると、牛乳瓶に紐を付けてクリークに投げ込み、底の水をくみ取り測定したとの記載もみえるが、かかる方法により、底の水が正確に採取されたかどうかは明確とはいい難い。)上、その他、測定回数や時期(ピークとなる一月中のデータが少ない上、前記(1)イの事実によれば、降雨直後は相当に低い塩分濃度となることが認められる。)などに照らせば、同測定結果が、旧ハウス付近の本件クリークの塩分濃度を正確に反映したものと認定するには足りず、前記推認を覆すには至らない。
四 争点(4)(被告町の責任原因)について
(1) 国賠法二条一項責任について
ア 前記第二の二(3)のとおり、被告町は、本件クリークを含む旧ハウス付近一帯に存在するクリークを管理していたところ、平成七年ころから、毎年、海苔加工時期(一一月ないし翌年二月末)の間、原告の了解を取ることなく、本件仮堰を設置したことが認められ、これら公の営造物の設置・管理権者であるといえる。また、上記三のとおり、本件クリークには海苔加工排水が流入していたことも認められる。
イ ところで、営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が、通常有すべき安全性を欠いていることをいうところ、ここに「通常有すべき安全性」とは、本件のようなクリーク(用水路)内の仮堰の場合、かかる仮堰が設置されることにより、当該仮堰の上流において、クリーク内を流れる海水が滞留し、これによる塩害がクリークに接する農地内で発生することがないよう、クリーク及び仮堰と周辺一帯農地の農耕作業上の正常性が保たれることを、その内容として当然に含んでいると解するのが相当である。
これを本件につきみるに、《証拠省略》によれば、本来、本件仮堰は、旧ハウスの北側に位置する基盤整備実施地区から流入してくる大量の農業用水を排出するため、既存のクリークの水流を変更して東側に伸びる準用河川(大野第二幹線水路)に接続すること(切り回し)に、その目的があると認められるところ、前記第二の二(3)の事実及び証人江頭幸夫の証言によると、被告町は、本件仮堰の下流域(南側)に塩水が蔓延することを防止する目的をもって、毎年、海苔加工時期(一一月ないし翌年二月末)になると、本件仮堰を設置していたものとうかがえ、その結果として、本件仮堰の下流域(南側)に塩水が蔓延することは防止できたが、本件仮堰の上流域にある原告の旧ハウス西側の本件クリークなどに塩水が蔓延し、これにより塩害がもたらされたものと推認される。したがって、本件仮堰及び本件クリークは、上記の意味における「通常有すべき安全性」を欠いていたものと認めるのが相当である。
そうすると、本件仮堰の設置には瑕疵があったというべく、被告町は、その設置管理者として国賠法二条一項の責任を免れない。
(2) 国賠法一条一項責任について
ア 廃棄物処理法は、「廃棄物」を「ごみ、粗大ごみ、燃え殼、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染された物を除く。)」と定め(二条一項)、廃棄物のうち、産業廃棄物以外のものを一般廃棄物と定めた、(同条二項)上、市町村に対し、その区域内における一般廃棄物の減量に関し住民の自主的な活動の促進を図り、一般廃棄物の適正な処理に必要な措置を講ずるように努力する義務(四条一項)、廃棄物の排出の抑制や適正な処理に関する事業者等の意識の啓発を図るように努力する義務(同条四項)を課するとともに、一般廃棄物の発生量・処理量の見込み、一般廃棄物の排出の抑制のための方策に関する事項など、その区域内の一般廃棄物処理計画を策定し(六条)、これに従いその区域内における一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集・運搬・処分すべき義務を課している(六条の二第一項。なお、同条五項によれば、市町村長は、その区域内において事業活動に伴い多量の一般廃棄物を生ずる土地又は建物の占有者に対し、当該一般廃棄物の減量に関する計画の作成、当該一般廃棄物を運搬すべき場所及びその運搬の方法その他必要な事項を指示することができるものとされている。)。
そして、「廃棄物」の定義中、「不要物」とは、自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい、これに該当するか否かは、その物の形状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当である(最高裁平成一一年三月一〇日第二小法廷決定・刑集五三巻三号三三九頁)ところ、本件における海苔加工排水は、海苔の生産過程においてその鮮度を保つために海苔の原藻をかくはんした後の海水として、取引価値があるとは認められず、生産機から排出される排水と混合して排出される以外の特段の排出処理をされていないこと、海苔加工排水には、高濃度の塩分のほかに、腐敗すれば赤水の原因ともなる、裁断された海苔原藻も含まれることからすると、これが、不要物として廃棄物に当たると解するのが相当である。
なお、被告町は、海水は水質汚濁防止法における有害物質に含まれないと主張する。しかしながら、水質汚濁防止法による規制対象に当たらないことが、廃棄物処理法の適用(処理義務等)を免れさせる事情とまではならないから、同主張は失当である。
イ 国又は公共団体の公務員による権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法一条一項の適用上違法となるものと解するのが相当である(最高裁平成元年一一月二四日第二小法廷判決・民集四三巻一〇号一一六九頁、同平成七年六月二三日判決・民集四九巻六号一六〇〇頁、同平成一六年一〇月一五日判決・裁判所時報一三七三号四頁参照)。
これを本件につきみるに、まず、被告町は、被告漁協に対し、海苔加工排水の排出対策の周知を組合員に指導するよう通知した事実は認められる(別紙事実経過一覧表参照)ものの、海苔加工排水に関する一般廃棄物処理計画を策定したり、収集・運搬・処分した事実は認められない。そうすると、被告町には、廃棄物処理法に基づく処理義務に違反した事実が認められる。
そして、同処理義務は、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図る目的で課されたものであって、直接、個別の国民である原告に対して負担する法的義務ではないけれども(同法一条)、これによって得られる利益は、川副町内に園芸ハウスを構える原告も当然に享受するものであり、殊に、本件においては、被告町は、旧ハウスの付近に本件仮堰を設置しているところ、同処理義務を果たさなければ、原告が旧ハウスで栽培している農作物に被害が発生することを認識し得たものであると認められる。しかしながら、上記のとおり、廃棄物処理法上、被告町には、原告に対する関係でも、海苔加工排水を収集・運搬・処分すべき法的義務を負っていたものと解することまではできず、原告の同法上保護された利益は反射的なものにすぎないから、本件において、被告町の不作為は、国賠法一条の違法性を具備し得ないというべく、この点における原告の主張は失当である。
五 争点(5)(被告漁協の責任原因)について
(1) 水産業協同組合法(水産業協同組合法等の一部を改正する法律(平成一四年法律第七五号)による改正前のもの)は、その行う事業によってその組合員又は会員のために直接の奉仕をすることを目的とする漁業共同組合等の水産業共同組合の設立を認め(四条)、漁業共同組合の事業として、「組合員の事業又は生活に必要な共同利用に関する施設」(一一条一項四号)、「組合員の漁獲物その他の生産物の運搬、加工、保管又は販売」(同項五号)、「水産動植物の繁殖保護、水産資源の管理その他漁業の利用に関する施設」(同項六号本文)、「水産に関する経営及び技術の向上並びに組合事業に関する組合員の知識の向上を図るための教育並びに組合員に対する一般的情報の提供に関する施設」などの事項を定めている(同項一〇号)。すなわち、漁業共同組合は、一般的に組合員に対する教育、情報提供、共同施設の管理などをその目的としていると評価できるところ、組合員全体に関する問題や共同施設の管理に関する問題等が生じた場合は、漁協として、それに対する何らかの対策をとる必要がある。その意味で、漁家が共同で使用しているクリーク等に排出された海苔加工排水の管理は、漁業共同組合として取り組むべき課題であると認めるのが相当である。
(2) 本件において、前記認定事実及び証拠によれば、被告漁協は、川副町内の海苔加工漁家を組合員とする漁業共同組合であり、平成五年ころから、かくはん機を導入した複数の組合員(漁家)が、本件クリークに海苔加工排水(海水)を排出していた事実を認識していたものと認められ、そのことは、平成六年以降、佐賀県から海苔加工排水への対策を勧告されたり、自ら漁港に海水取水用ポンプを設置していた事実からも裏付けられる。そして、一般的には、海水を摂取することが農作物の発育に影響を及ぼすことは明らかであり、その理は、複数の漁家から排出された海苔加工排水(海水)の場合に顕著にあらわれることになる。すなわち、一つの漁家から排出される海水であれば、その影響は比較的少なく、また、排水対策もその漁家限りで講ずることが可能ではあるものの、複数の漁家から排出された場合は、その影響は大きく、その対策を講ずることも、それらの漁家間の調整という問題がある以上、容易ではない。このような場合、前記のように、組合員全体に関する問題や共同施設の管理に関する問題に対処すべき立場にある被告漁協としては、各組合員に対して、海苔加工排水の排出に関する指導・勧告をしたり、その影響についての情報を提供したり、あるいは、本件クリークの利用等に関する取り決めをするなど、何らかの措置を講ずべき義務があったと解するのが相当である。
しかるに、本件全証拠によっても、被告漁協が組合員である漁家に対し、海苔加工排水の本件クリークへの排出を制限ないし中止するように指導・勧告したり、同排水が農作物に影響を及ぼすことについて情報提供をした事実はもとより、本件クリークの利用に関して、漁家一軒が一日あたりに海苔加工排水を排出できる量を取り決めるなどの措置を講じた事実は認められない。
(3) そして、別紙事実経過一覧表のとおり、被告漁協に対しては、原告による申入れのほか、平成六年一二月九日以降、佐賀県や漁連(有明海漁協連合会)から、たびたび、海苔加工排水に関する対策については組合員に周知徹底するよう文書で通知されていたことが認められるのであるから、組合員が海苔加工排水を排出している事実や、海苔加工排水の農作物への影響について被告漁協が認識していたこと、旧ハウスの農作物(イチゴ)に対する塩害の原因となったと推認し得る本件仮堰の設置につき、被告漁協は自ら設置費用の一部を負担しながら、これによって原告の旧ハウス西側のクリークによる塩水が滞留するのを認識しつつも、その改善のための措置をとることなく終始していたことなどが明らかであり、それにもかかわらず、海苔加工排水に対する措置を何らとらず、これを怠った被告漁協には、原告の本件農作物被害を放置したものとして、過失があるといわざるを得ない。塩害の事実を認識していなかったとの同被告の主張は採用できない。
したがって、被告漁協の上記放置行為は不法行為(民法七〇九条)を構成するものというべく、原告に対して損害を賠償すべき責任を負うと解される。
六 争点(6)(消滅時効とその放棄・援用権喪失)について
《証拠省略》によれば、原告は、平成六年ころ、イチゴの苗に成長不良があることを意識し始め、同年一〇月ころ、被告漁協の担当者に改善要求をしたこと、被告町に対しても、平成七年一〇月ころには、文書で公式に塩害対策を求めるようになったこと、これに対して、被告らは、いずれも原告の主張するイチゴの減収が塩害によるものであることを争いながらも、本件仮堰を設置したり、あるいは、旧ハウスの移転補償交渉に応じるなど、一応原告の希望に沿うかのごとき態度を取りながら、最終的には塩害の証明がないとして、その補償要求を明確に否定するに至ったこと、この間、原告は、単身、被告町との上記旧ハウス移転交渉にあたり、その第一回交渉期日(平成一一年二月一八日)までに、知り合いの弁護士から三年間の消滅時効制度の存在につき教示を受け、上記補償交渉が決裂するや、直ちに同年一〇月二六日、被告らに損害賠償を求める一般調停を佐賀簡易裁判所に申し立てたことが認められる。これらのことからすれば、原告は、遅くとも上記弁護士から教示を受けた平成一一年二月ころには「損害及び加害者」を知ったとみるのが相当である。
したがって、被告らの主張する消滅時効の完成は、本件の場合、これを認めることができず、この点の被告らの主張は採用できない。
七 結論
以上によれば、原告の請求中、イチゴの減収に関する損害については、平成七年度から平成一二年度までにつき、別紙「損害額一覧表」中「認容額」欄記載の各金額の限度で理由がある(もっとも、平成一〇年度分については、専ら水害によるものと認められるから零円である。また、平成一一年度と平成一二年度分については、旧ハウスにおける認定基準単価(一万一二〇〇円)を、そのまま同ハウスとは作付面積や栽培土壌の条件等をことごとく異にする現ハウスにおける栽培実績に適用して、イチゴの減収に関する損害を認定するのは相当でなく、他にこれを明確に認定すべき証拠もないから、控え目に、平成七年度から平成九年度までの各「認定損害額」の平均値(一二〇万一一六六円)を若干下回る一〇〇万円の限度で認めるのが相当である。)。
次に、ハウス移転に伴う損害としては、旧ハウスの移転費用五八八万七一三二円のうち、原告が既に補助を受けた一九六万二〇〇〇円のほかに、被告らの営造物責任ないし不法行為責任(両者は不真正連帯債務である。)と相当因果関係のある損害として二〇〇万円の限度でこれを認めるのが相当であり、また、原告の度重なる改善要求にもかかわらず、被告らが適切な対策を講じなかった結果、原告の旧ハウスに平成七年から継続的に被害が累積し、二〇年間営んできた旧ハウスを移転せざるを得なくなったこと、移転先の現ハウスは圃場整備して一年しか経ない土地であり、新たなイチゴ栽培に格段の努力、苦労を強いられたことなどからすると、財産的損害の填補だけでは賄い得ない精神的損害が原告に生じたものと認めるのが相当であり、この原告が被った精神的損害を慰謝するに足る金額は一〇〇万円をもって相当と判断する。
また、弁護士費用については、本件事案の難易、審理の経過、認容額等を考慮すると、一二〇万円をもって相当と認める。
以上によれば、原告の請求は、別紙「損害額一覧表」中「認容額」欄記載の限りにおいて理由がある。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 榎下義康 裁判官 田中芳樹 片岡理知)
<以下省略>