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佐賀地方裁判所 昭和33年(行)2号 判決 1960年4月12日

原告 高取二郎

被告 国

主文

原告の「佐賀税務署長が原告に対し昭和二十二年九月十五日附及び同二十三年二月十五日附を以てなした各納税告知は無効であることを確認する」との請求はこれを却下する。

原告その余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「佐賀税務署長が原告に対し昭和二十二年九月一日附財産税課税価格更正又は決定等通知書を以てなしたる財産税課税価格更正が無効であることを確認する。

同署長が原告に対し昭和二十二年九月十五日附及び同二十三年二月十五日附を以てなしたる各納税告知は無効であることを確認する。

被告は原告に対し金四万八千百三十四円及びこれに対する昭和二十八年四月三日から百円につき一日金四銭の割合による還付加算金を支払うこと。

訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告は昭和二十二年二月十三日佐賀税務署長(以下署長という)に対し、左記内容の財産税課税価格等申告書を提出した。

申告義務者

神埼郡仁比山村

原告

財産価格

七五四、八七七円

一七二八番地

高取ハナ(武雄町)

財産価格

三二、六四三円

甥 狩野雄一郎

財産価格

一、三五五円

義妹 狩野サト

財産価格

三五、一六七円

合計

八二四、〇四二円

二、原告は右申告書に添付して物納並びに納付猶予申請書を提出したが、この申請書と前記申告書中の財産のなかには登記簿上原告所有名義になつている武雄市武雄町所在の農地が含まれているが、この農地に関し武雄農地委員会は、原告が不在地主であること等の理由により、原告の所有農地と認め難いとして昭和二十二年八月七日原告及び署長宛にその旨通知したに拘らず署長はこれを考慮せず物納申請書に対して何等の回答をしなかつたので、原告は直ちに修正の申告書を署長に提出した。

三、署長は昭和二十二年九月一日附左記財産税価格更正又は決定等通知書(以下更正通知書という)及び同月十五日附納税告知書を原告宛発送し、その頃原告はこれらを受領した。

財産税課税価格更正又は決定等通知書

氏名

更正又は決定金額

更正による不足税額又は決定金額

加算又は追徴税額

税額計

原告

八三二、一〇〇円

八一、二八五円八〇銭

四、四六二円五〇銭

八五、七四八円三〇銭

同居家族ハナ

一九四、三〇〇円

九〇、五七四円二〇銭

四、九五四円四〇銭

九五、五二八円六〇銭

同同居家族狩野雄一郎

一、三〇〇円

同居家族サト

五四、二〇〇円

納税告知書

納人 原告外一名 財産税一八一、二七六円九〇銭 納期日昭和二十二年十月十五日

尚右通知書の原告及び高取ハナの税額合計欄の数字四七六、五〇五円一〇銭及び一一二、四〇二円三〇銭は抹消され署長の取消印が押捺され、その横にそれぞれ八五、七四八、三〇及び九五、五二八、六〇の数字が書き添えてある外、狩野雄一郎及びサトの税額欄の数字六七一、八〇及び一八、一六七、七〇が抹消され署長印が押捺されている。

四、署長は昭和二十三年二月十五日附左記納税告知書を原告宛発送しその頃原告はこれを受領した。

納税告知書

納人 原告 財産税四三、七四二円三〇銭 納期日昭和二十三年二月二十九日

五、原告は昭和二十八年四月二日原告及び同居人の納付すべき財産税は金四八、一三四円でよいとのことであつたので翌三日これを納入したに拘らずこれを一部入金と称し滞納処分を取消さないがこれは財産税法第五七条に違反する。

六、被告答弁第二項第三項第四項及び第五項中誤謬訂正処分後の原告及び狩野両名分の税額が四六七、九四〇円であること及び第十項中原告が昭和二十一年十一月二十八日高取ハナと離婚しその後原告主張の農地を同女に譲渡し同女のために所有権移転登記手続がなされたことは認めるがその余の事実は否認する。

七、前記第二項のとおり昭和二十二年九月一日附署長の通知書により狩野雄一郎、同サト両名に対する課税処分は取消されたにも拘らず、更正決定処分及び誤謬訂正処分後の財産税額中には右両名の財産税が含まれているのは違法で無効といわねばならない。

八、右主張が理由なしとするも、狩野両名は原告の同居家族ではない、財産税申告書に両名を記載したのは原告の義妹、甥である一時的同居人として申告したものに過ぎずこれを同居家族として課税したのは違法で無効である。

仮に狩野両名が原告の家族であるとしても、両名は昭和十九年七月強制疎開により東京都から移転した一時的同居人に過ぎず、亦一時的同居人として申告したのに拘らず、これを原告の同居家族として課税したのは財産税法第十条に違反するから違法で無効である。

九、高取ハナ分を全額取消した結果、残る原告狩野両名分の申告税額の合計は金四〇九、五九六円三〇銭(申告総税額四二六、四七〇円から高取ハナ分一六、八七三円七〇銭を差引く)で誤謬訂正後の三名分の税額合計は四六七、九四〇円である。

従つてこの両者の差額は五八、三四三円七〇銭となり被告主張のように四一、四七〇円とはならない。

そしてこの差額五八、三四三円七〇銭はもとより原告他二名分であるからこれを三名各自に割当ると原告分四七、九二三円八一銭、雄一郎一三円五四銭、サト分一〇、四〇六円となるから差額は四一、四七〇円なりとし、これを原告のみに課税することは違法である。

十、誤謬訂正後原告の納入すべき税額の差額が四一、四七〇円であるとしても、この差額の算出方法は財産税法第二三条に違反したものである。税額の差額を求める場合においても、それぞれ合算の人数に応じて各々その税額を算出せざれば、合算按分による算出ということが無意味となる。従つて四一、四七〇円は三人分若くは四人分の税額の合算額であり、原告のみの差額としたのは処分の誤りで無効である。

十一、前記第二項のとおり原告が申告した財産価格中には公簿面上は原告所有の如くなつているが、農地委員会により、高取ハナの所有農地として強制買収された財産が含まれている。署長が原告の提出した物納申請書(これに右農地が含まれている)を受理しながら、これに対し何等回答をしなかつた瑕疵があるのみならず、農地委員会より右農地は原告所有農地でない旨の通知に接しながら、これを更正せず、又右通知に基いて原告が提出した修正申告書に対しても何等の回答をしないばかりか、原告の所有物でない農地に対して財産税を課したものであるから無効である。

証拠として甲第一号証乃至第八号証を提出し証人池田軍一の証言を援用し乙号各証の成立を認めた。

被告指定代理人は「原告の各請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め答弁として次のとおり述べた。

一、原告第一項の事実は認める。

同第二項の事実中原告が修正申告書を提出したこと、農地委員会が署長に通知を発したことは否認、添付申請書に対し許否の通告をしたか否かは書類の保存期間経過後であるから知らない、その余の事実は認める。

同第三、四項の事実は認める。

同第五項の事実中原告が昭和二十八年四月三日財産税として金四八、一三四円を納入したこと及び滞納処分を取り消していないことは認めるが、その余の事実は否認する。

二、原告の申告財産価格八二四、〇四二円に対する税額は四二六、四七〇円でこれを次のとおり按分比例した。

総税額

各申告者の税額

原告

四二六、四七〇円

三九〇、七五六円八〇銭

高取ハナ

四二六、四七〇円

一六、八七三円七〇銭

狩野雄一郎

四二六、四七〇円

六七一円八〇銭

狩野サト

四二六、四七〇円

一八、一六七円七〇銭

三、署長の更正処分により財産価格の総計は金一〇八一、九〇〇円となり、これに対する税額は五九八、三三〇円で、これを次のとおり按分した。

税額

加算又は追徴税額

合計

原告

四七二、〇四二円六〇銭

四、四六二円五〇銭

四七六、五〇五円一〇銭

ハナ

一〇七、四四七円九〇銭

四、九五四円四〇銭

一一二、四〇二円三〇銭

狩野雄一郎

六七一円八〇銭

六七一円八〇銭

狩野サト

一八、一六七円七〇銭

一八、一六七円七〇銭

五九八、三三〇円

九、四一六円九〇銭

六〇七、七四六円九〇銭

四、右按分比例は計算誤りで正確な税額ではないが、財産税は同居家族の総財産価格により計算されるので総税額五九八、三三〇円に誤りはないが、各人の税額は次のとおりである。

原告

四六〇、一七五円七〇銭

(誤算税額より

一一、八六六円九〇銭減)

ハナ

一〇七、四〇〇円二〇銭

(同

四七円七〇銭減)

狩野雄一郎

七一八円一〇銭

(同

四六円三〇銭増)

サト

三〇、〇三六円

(同

一一、八六八円三〇銭増)

五、署長は昭和二十二年十月二十日高取ハナを同居家族でないと認め、さきの更正処分を次のとおり訂正し、即日原告に対し、高取ハナ分全額取消、原告の申告税額との不足額四一、四七〇円、加算税追徴税二、二七二円三〇銭、計四三、七四二円三〇銭と通知した。

課税価格

税額

加算税追徴税

原告

八三二、一〇〇円

四四九、一〇〇円五〇銭

二、二七二円三〇銭

ハナ

全額取消

狩野雄一郎

一、三〇〇円

六七一円八〇銭

サト

五四、二〇〇円

一八、一六七円七〇銭

合計

八八七、六〇〇円

四四六七、九四〇円

総税額四七〇、二一二円三〇銭

六、課税価格八八七、六〇〇円に対する税額は四六七、九四〇円となり、税額の総計に誤りはないが、按分比例は誤つていた。正確な各人の税額は次のとおりである。

原告四三八、六八〇円六一銭(一〇、四一九円八九銭減)、狩野雄一郎六八五円三四銭(一三円五四銭増)狩野サト二八、五七四円〇五銭(一〇、四〇六円三五銭増)

七、原告主張第七項の事実中、更正決定処分及び誤謬訂正処分後の財産税中に狩野両名に対する財産税も含まれていることは認めるが、右両名に対する課税処分を取消したとの主張は否認する。

八、同第八項中狩野両名が原告の義妹、甥であることは認める、右両名が東京から疎開したとの事実は知らない、狩野両名は原告の同居家族として申告されたものである。

九、同第九、十項に対し次のとおり述べた。

原告に対する誤謬訂正後の申告との増差額四一、四七〇円の納税告知は、本来は五八、三四三円七〇銭とすべきところ、一六、八七三円七〇銭(高取ハナ申告相当分)を脱漏したものである。

然し、右納税告知は法律上その必要がなかつたものであり、無意味のものである。誤謬訂正処分は原更正処分と一体をなしてその効力を持続するものであるから、当初更正処分における納税告知(原告及び高取ハナの申告との増差額)一七一、八六〇円のうち右五八、三四三円七〇銭について告知の効力を有するものである。

十、同第十一項の農地が昭和二十二年七月二日高取ハナの所有農地として買収されたことは認めるが、財産税は財産税法第一条第四条により調査時期たる昭和二十一年三日三日午前零時において有していた財産につきその所有者に対して課税するものであるところ、調査時期における原告主張の不動産の所有者は原告であつて、登記簿上も調査時期当時は同人名義になつており、その後昭和二十一年十一月二十八日原告が高取ハナと離婚し、原告より同人に対し譲渡され、その後同人のため所有権移転登記がなされたのであるから右不動産についても原告に対し課税することは何等違法でない。仮に調査時期において、実質上は高取ハナの所有であつたとしても、本件課税は無効ではない。

財産税法第四八条は誤つて課税価格を過大に申告した場合は申告期限後一ケ月間に限り更正の請求をすることができる旨の規定があり、従つて申告期限後は自由に訂正することは許されず、期限後一ケ月を経過すればもはや更正の請求もできないのである。しかるに、本件課税については原告が自らその主張の不動産を所有財産の一部として課税物件に含めて申告したものであり、また所定期限内に申告の更正も行われていないので、本件課税は有効である。

(証拠省略)

理由

原告主張の第一、三、四項の事実と被告の答弁第二、三、四項の事実と誤謬訂正後の原告及び狩野両名に対する財産税額の総計が金四六七、九四〇円であることについては当事者間に争いがない。

よつて請求趣旨第二項の請求について判断するに、財産税法(以下法という)第四十条第一項によると納税義務者の申告に係る財産税は申告期限後(昭和二十年二月十五日)一箇以内に納付しなければならず又法第五十条によると政府が課税価格を更正した場合は、その通知をした日から一箇月後を納期限としてその追徴税額(不足税額)を徴収するのであり、課税価格及び税額は、更正処分が行われない限り申告書の提出により又は更正が行われた場合は法第四十九条に基く課税価格の更正を納税義務者に通知することにより、それぞれ確定する。

従つて財産税額とその納期限は本件の各納税告知書により決定されたものではなく、これらの告知書の発送は行政行為ではなく単に納税義務の履行を催告する事実行為に過ぎないから、納税告知を行政行為としてその無効確認を求めることは許されないのでこの点についての原告の請求はこれを却下する。

次に請求趣旨第三項の請求について判断する。

職権により調査するにこの請求は佐賀地方裁判所昭和二十八年(ワ)第一三一号財産税の時効確認並に納税金還付請求事件(控訴審福岡高等裁判所昭和二十八年(ネ)第六六七号事件、上告審昭和三十年(オ)第三八四号事件)の確定判決の主文に包含されているものと同一であり、本訴において主張する原告の請求原因は前記事件についての事実審の最終の口頭弁論期日以前に発生していた事実であることは請求原因自体よりみて明らかである。

とすれば右事件の既判力はこの請求に及んでいるので、原告の請求は失当としてこれを棄却する。

次に請求の趣旨第一項について判断する。

先ず原告請求原因第五項の主張について判断するに仮に滞納処分が違法であつたことしても滞納処分は確定した税金の徴収手続であり、更正処分とは別個の行為であるから、これによつて従前の更正処分が違法性を帯有したり又無効ならしめるものでない。

従つてこの主張は採用し難い。

次に同第七項の主張つき判断するに、原告は更正通知書中の狩野両名の税額欄の金額が抹消されていることを以て狩野雄一郎、同サトに対する課税処分が取消されたものであると主張しているが、これは単に誤記を訂正したものであつて課税処分を取消したものでないと解するのが相当である、というのは財産税は前記のとおり申告納税制を採用しているものであるので前記理由中冒頭記載の争いのない事実を総合すると原告らの申告に係る税額と更正による税額との不足税額のみを記載して作成すべきであつた更正通知書を誤つて更正により確定した各人別の総税額―按分比例を誤つていることには当事者間に争いのない―を記載しこれを不足税額に書き換えた―訂正後の不足税額も按分比例の誤りにより不正確であることは当事者間に争いがない―ものである。

従つて原告のこの点に関する主張は採用し得ない。

次に請求原因第八項の主張につき判断する。

成立に争いのない甲第三号証、第六号証を綜合すると狩野サト及び狩野雄一郎は調査時期である昭和二十一年三月三日午前零時において原告を戸主とする家族すなわち家を同じくし、原告の戸主権に服する親族ではなかつたことが認められ、この認定事実を覆すに足りる証拠はない。

とすれば署長が狩野両名を原告の同居家族と認め、原告と高取ハナ及び狩野サトの課税価格を更正したことは法第十一条第二項に違反したものであるといわねばならない。然し乍らこれを以て直ちに署長が行つた更正が無効であるということはできない。というのは行政行為を無効とする瑕疵は重大且つ明白なものでなければならないところ、署長が原告の申告どおり狩野両名を原告の同居家族と認定して狩野サトの課税価格を更正した結果原告に対する税率の変更をまねくに至つたもので、これは行政行為を当然に無効とする程の重大な瑕疵と解することはできない。

従つて原告のこの点に関する主張は採用し得ない。

次に原告第九、十項の各主張について判断する。

原告は高取ハナに対する課税を全額取消した結果原告主張のように誤謬訂正後の三名分の税額と申告税額との増差額は五八、三四三円となるにも拘らず被告はその増差額を四一、四七〇円として算定の誤を犯し而も右四一、四七〇円には狩野両名に対する税額も含まれているに拘らず原告のみに課税することは違法であると主張する。ところで原告の右主張はこれを請求趣旨第二項と原告主張事実中第四項の記載とを通じて考えると原告は被告が増差額算定上の誤算とこの誤まれる増差額の金額を一人原告に課税したとしこれを昭和二十三年二月十五日附の納入告知書の無効理由として主張しているものと考えられる。ところで被告において前記増差額の算定に原告主張のような誤算があつたこと、被告が昭和二十三年二月十五日原告主張第四項の内容記載の納税告知書を原告宛に発し、その頃原告がこれを受領したことはいずれも当事者間に争がないが、右のように納税告知書の記載に誤謬があつたとしても財産税法において納税告知を行政行為として無効確認を求めることの許されないことは前記理由中の請求趣旨第二項の請求についての判断において説示したとおりであるので原告の前記主張は採用できない。

最後に原告の第十一項の主張について判断する。

調査時期に原告がその主張する農地を所有していなかつたとしても政府の更正は、この農地に関しては原告の申告どおり認めて、これを含めて課税価格及税額を更正したもので、このことは前述のおり行政行為を当然に無効とする程の重大な瑕疵と解することはできない。このことは納税義務者が課税価格を過大に申告した場合にも、所定期限内に限りその課税価格の更正を請求することができるとの法第四十七条の規定よりも窺い知ることができる。

よつて爾余の点を判断するまでもなく原告のこの点に関する主張も理由がない。

以上判示のとおり原告の各請求中請求趣旨第二項の請求は不適法として却下し爾余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原田一隆 山本卓 岩川清)

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