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佐賀地方裁判所 昭和42年(わ)26号 判決 1968年12月25日

主文

被告人両名は無罪。

理由

本件公訴事実の要旨は

被告人両名は共謀の上、昭和四二年一月一一日佐賀市民会館会議室において、同月二九日施行の衆議院議員選挙に際し、立候補した三宅秀夫の氏名、写真、経歴などを記載した右選挙運動のために使用するビラ三四〇枚位を、佐賀県高等学校教職員組合中央委員重松茂宏ほか五名に対し、各所属分会組合員に配布方を依頼してそれぞれ交付し、もって、法定外文書を頒布したというのである。

よって按ずるに、昭和四二年一月二九日施行の衆議院議員選挙の公示が同月八日なされ、日本共産党佐賀県委員会副委員長三宅秀夫が立候補したこと。同月一一日佐賀市民会館において開催された佐賀県高等学校教職員組合(以下佐高教組と略称する)第二三七回中央委員会の席上、同中央委員である重松茂宏、福富邦明、伊東行男、大木克己、酒井洪、中原虎清が右候補者の氏名、写真、経歴、政策、抱負などが掲載された文書合計三四〇枚位を所属分会組合員に配布するため、それぞれ交付を受けたことは≪証拠省略≫によって認められるところである。

第一、本件の概要

≪証拠省略≫を綜合考察して認められる本件のいきさつは次のとおりである。

一、当時被告人上杉芳夫は佐高教組執行委員長、被告人黒木徹は同組合書記長の地位にあった。佐高教組は昭和四一年七月の第二九回定期大会で、来るべき衆議院議員総選挙に対する基本方針として、憲法上保障された思想、信条、表現の自由を尊重して組合員の政党支持の自由を保障すると共に、教職員の生活権、労働基本権、民主教育等を標榜する革新政党である社会党、共産党との提携を強化することを決議した。

二、右基本方針に則り同年一一月一九日第二三六回中央委員会において、昭和四二年一月施行の衆議院議員選挙対策として佐高教組執行部において、あらかじめ調査した資料にもとづいて提案した推薦候補予定者三名即ち社会党関係では井手以誠、八木昇、共産党関係では三宅秀夫を推薦することが圧倒的多数で可決された。その際右推薦活動の具体策として右三名の経歴、政策、識見、抱負等を記載した資料を組合員全部に配布して周知徹底をはかることも討議され、執行部において、これ等の資料を取り寄せて送付することを附帯事項として全員賛成して確認した。

三、佐高教組機関はその決議機関である右中央委員会の決議及び確認事項にもとづいて、昭和四一年一二月下旬ごろ社会党佐賀県本部より送付された社会党政策資料及び同党機関紙社会新報「井手版」、「八木版」を各分会に発送した。

次に共産党関係ではそのころ日本共産党佐賀県委員会より送付された「赤旗号外」を各分会に郵送したけれども、同号外には共産党の五大政策が掲載されてあるのみで三宅秀夫関係の資料がなかったところ、昭和四二年一月六日ごろ右委員会から本件文書二、三〇〇枚が佐高教組本部に届けられたものである。

四、昭和四二年一月六・七日の二日に亘り、佐高教組執行委員会が開催され、被告人両名および八浪一平、池田守男、杉野博文が出席して、第二三七回中央委員会開催の件について討議した。その結果右期日を同月一一日と定め、佐賀市民会館において開催すること。当日の議題は賃金斗争、定員、綜合選抜制、人事に関する問題とすること等とした。その際本件文書の配布方法について論議された。さきに送付した社会新報等の資料と同様早急に各分会に送付すべきものであるが、新年郵便事務の混雑、遅滞を免れないため確実性を期してむしろ中央委員会の席上出席中央委員に交付して持ち帰り、各分会の組合員に配布してもらうこと。公示直後であるから捜査官憲に気付かれないよう「夕闇にまぎれて」各組合員の机上に配布するように指示すること。中央委員会当日ごろは選挙関係担当者池田守男が出張して不在のため、被告人黒木において代行し、かつ一般議題を審議した後午後四時ごろから秘密会に入り、この問題を提案することを定めた。

五、同月一一日午前一一時ごろ、佐賀市民会館会議室において、第二三七回中央委員会が開催された。同委員会の議長は梶川剛が当たり、その左右には被告人両名はじめ執行委員が列席し、出席中央委員は本件の被頒布者とされた重松茂宏ほか五名を加えて、三・四〇名程度であった。午後四時ごろ一般議事日程を打ち切り、五分間休憩となったころ、組合書記池田智恵子、松本茂子によって、本件文書等が入れられた大封筒が出席中央委員の机上に配置された。やがて梶川議長が秘密会の宣言をなしたので、被告人黒木は本件文書を示しながらさきに発送した社会新報をまだ配っていない分会があれば、このリーフレットと一緒に配ってもらいたい。どういうことでひっかかるかも分らないから「夕闇にまぎれて」配布されたい趣旨の説明をなした。これに対して質疑応答がなされたが別段反対意見もなく全員了承して午後四時三〇分ごろ秘密会を終り、ここに中央委員会を閉会した。

引き続いて「政策学習討論会」が催され三宅秀夫が出席したもようであるが、これは右中央委員会とは別個に被告人上杉等の個人的集会とみなされ、佐高教組の主催にかかるものとは認められない。

第二、公職選挙法一四二条違憲論について

被告人及び弁護人は公職選挙法一四二条は、言論の自由を保障した憲法二一条に違反し無効であると主張する。

なる程憲法二一条は「言論、出版その他一切の表現の自由」を保障していること。この基本的自由権は国民主権、議会制民主制の原理を実現するための選挙活動においてこそ、最も尊重されなければならないことは論をまたない。

而して公職選挙法一四二条は法定外文書、図画の頒布を禁止したものであるから、選挙活動における言論の自由を或程度制限したものといえる。そもそも同条の立法沿革に照すと、いわゆる金権候補の選挙運動が結局選挙の公正を害するので、これを防止するために法定外文書、図画の頒布を禁止した規定が設けられたものといわれている。これに対して金の力にものをいわせないように選挙資金面の規制によって取締まればことたり、言論の自由を制限する文書、図画の頒布を制限、禁止する必要はないという論旨は是認できない。

公職の選挙について、「文書、図画の頒布を無制限に許容すれば、選挙運動に不当な競争を招来し、これがためかえって選挙の自由、公正を害し、その適正、公平な選挙を保障し難くなる」ことは明らかである。憲法二一条は言論の自由を絶対無制限に保障しているものではなく、その自由は公共の福祉のため、その時、所、方法等につき「必要かつ合理的制限」までも許容しないものと断定することはできない。またこの言論の自由に対する制限は「明白かつ現在の危険」が予測される場合のみに限定せらるべきものではなく、選挙の公正を確保するため、「必要かつ合理的」な範囲において、文書、図画の頒布に規制を加えることは「やむを得ない」措置である(昭三九、一一、一八。昭三〇、四、六。昭二五、九、二七最高大判参照)から、かような措置を認めた公職選挙法一四二条は憲法二一条に違反するものとはいえない。

第三、本件文書と法定外文書

一、≪証拠省略≫によれば、本件文書は昭和四一年一二月一二日ごろ、武雄印刷株式会社において、佐賀県共産党事務所より注文を受け、同月二七日ごろ合計一五、〇〇〇枚を作成、納品したことが認められ、前記認定のとおり、その中二、三〇〇枚が昭和四二年一月六日ごろ佐高教組本部に届けられたものである。

ところで本件文書の一面には三宅秀夫の顔写真が掲げられ、その下部に「日本共産党佐賀県委員会副委員長」「三宅秀夫」と特別大きい氏名の標示がある。その裏面には「日本共産党中央委員会議長野坂参三」の「……三宅秀夫さんのような試験ずみで立派な共産党員が是非とも国会にでて、思う存分活躍してほしい」旨その他三名の推薦の辞が述べられ、三面には、三宅秀夫の「生いたちと経歴」、その裏面に各界各層代表者一四名の推薦者名が列記され、「総選挙にのぞむ日本共産党の一〇大スローガン」の一として「あなたの一票を財閥から金をもらわぬ党、自主独立の日本共産党へ……」投票されたい旨の記載がある。

二、本件文書は一部選挙用ポスターの縮版とみられる外形をなし、内容においても単に三宅秀夫の経歴や政党の政策を客観的に紹介して周知、公表せしめるにとどまらず、実質上「すいせん」に名を藉りて来るべき総選挙に関し、日本共産党三宅秀夫候補の投票を得しめることを意図した趣旨の文書であると認められる。

三、公職選挙法一四二条一項は同項に定める通常葉書の外は選挙運動のために使用する文書の頒布を禁止した。右「選挙運動のために使用する文書」とは「文書の外形、内容自体からみて選挙運動のために使用すると推知される文書をいう」ものとされている(最高昭三六、三、一七)。選挙運動の解釈について大審院判例ではつとに「選挙運動とは一定の議員選挙につき、一定の議員候補者を当選せしむる為、投票を得又は得しむるにつき直接又は間接に有利なる諸般の行為を謂う」と定義した。美濃部達吉博士は右判例を評して間接に有利ならしむる行為まで含むものとなすべきではなく、また「選挙運動」の観念を明白にとらえていない。偶然的な単個の行為は運動の概念に該当しないと指摘され「選挙運動とは特定の議員選挙につき特定人の当選に有利ならしむることを直接の目的として、多数選挙人に交渉することに関して連続してなす行為をいう」ものと定義して然るべきであろうとされた(美濃部達吉著選挙法詳説)。

ところで選挙運動の概念は公職選挙法においても、各本条の立法趣旨に従って種々の意義を有し、統一的に定義することは必ずしも容易ではない。具体的事例に即して個々の条文毎に判断し、適切妥当なる解釈、運用をなすべきものと思料される。いずれにしても、本件文書がかような選挙運動に使用される法定外文書に該当するものと推認されることは明らかである。

第四、組合活動と文書頒布罪

被告人及び弁護人は、本件は佐高教組の意思決定機関の決議にもとづいてなされた推薦活動の一環として組合員に周知徹底を図るため、組合執行部に付託された執行業務を遂行したものであるから罪とならない旨主張するので検討する。

一、従来労働組合等の団体において、何人を候補者として推薦すべきかについて、単に推薦協議するにとどまり、直接特定又は特定し得べき候補者の当選を目的としない場合は、いわゆる法の放任行為として取締圏外におくものとされ、組合の役員会等で選挙対策として候補者を推薦決定し、その結果を、組合員に通例の方法で通知する程度のことは、組合の内部的行為とされた行政実例は判例においても認められてきたところである。

二、しかしながら組合が選挙候補者の推薦活動をなすことが許容されていることを理由として、その推薦活動のために、如何なる方法をもってしてもよいというわけのものではない。

その推薦のための文書配布行為が特定の選挙における特定の候補者の当選を得又は得しめる目的をもってする選挙運動に該当するものと認められる場合には、仮りに組合の執行機関が役員会の決議を執行する任務を遂行する義務があっても、公職選挙法一四二条の規制を受けることは当然である。

三、文書配布行為の主たる目的が組合員に対する推薦候補者の周知、徹底にあったとするも、苟も特定選挙において、特定候補者の当選を得しめる目的が認められる以上、選挙運動に使用する文書の頒布と認めることを妨げるものではない。

前記認定の本件文書の外形、内容、配布の時期、方法、その他前掲証拠によれば、本件文書を配布するにつき、佐高教組中央委員及び執行委員において、昭和四二年一月二九日施行の衆議院選挙に際し三宅候補を推薦し、同候補の人物、経歴等の周知、徹底を図ることを手段として、究極的には同候補に投票を得しめる目的があったものと判断されないわけではない。かように認定しても佐高教組が組合員の思想、信条、投票の自由を保障した趣旨に決して矛盾するものではない。

前記のごとく推薦決定の結果を組合員に通常の方法で通知するにすぎないような組合の内部的行為と認められる限界を超えて、選挙運動のため法定外文書を配布すれば組合活動としてなされたものであっても違法となり文書頒布罪が成立することはいうまでもない。

第五、本件共謀の態様

検察官は本件共謀は昭和四二年一月一一日午後四時ごろ、佐賀市民会館における佐高教組二三七回中央委委員会席上において、被告人両名が個人的立場で現場共謀した旨主張するのに対し、被告人等は右個人的現場共謀の事実を否認し、本件文書配布の問題は既に第二三六回中央委員会において推薦候補の決定と同時に確認されたもので、それにもとづいて執行委員会で配布の具体的方法を討議し、ついで第二三七回中央委員会に提案して全員異議なく承認を受けたものである。被告人等は執行部として佐高教組の意思決定を忠実に執行しようとしたものにほかならないと反論するので審案する。

一、検察官主張の個人的現場共謀説は、前記認定のとおり本件が第二三六回中央委員会における三候補の推薦決定から社会新報井手版、八木版等資料の配布、執行委員会の決議、第二三七回中央委員会秘密会に至る一連の佐高教組の組合活動を看過した独自の見解である。

検察官は論告中「被告人両名はすでに昭和四二年一月六・七日ごろ八浪、池田等と共に佐高教組の執行委員会を開催し、本件法定外文書の配布方法を来る一月一一日の本件中央委員会の席上で出席した各中央委員に対し、やみくもにまぎれて配ってくれと云って配布方を依頼しようと事前に相談していること」を認めながら、これは「現場共謀の成立を強固ならしめるもの」であると主張した。

然しながら右執行委員会における「相談」事項は第二三七回中央委員会においてそのまま実行せられたものであるから検察官主張の「現場共謀」の内容と同一である。共謀の概念から執行委員会の決議を切りはなす特別の事由は存在しない。

次に検察官は本件中央委員会においては、本件文書の配布について決議したことはなく、被告人両名が一方的に配布を依頼したにすぎないと主張して、右中央委員会における出席中央委員である本件被配布者との共謀関係を否認し、≪証拠省略≫には右主張に添う供述がある。

なる程本件中央委員会秘密会において、本件文書を配布すべきかどうかにつき出席中央委員の賛否を徴し、採決、議決という形式的決議手段がとられた事跡は認められない。ところで労働組合のごとき団体の意思決定は、議決機関によってなされ、当該団体にとって重要な議案、例えばスト権の行使とか、選挙に対する推薦候補の決定等の場合は、確実性、正当性、民主的運営を担保する意味においても、かような議決方法が要請されるべきであるが、その程度に至らない付帯的確認事項的問題についてまでも、一々厳格な方式を履践しなければ、団体の意思決定ができないわけではなく、その場合決議が存在しないものと断定することはできない。法律上共謀関係の成立には、形式的決議の有無は要件とならないのみならず、首謀者の依頼を承諾する形の事例で、かえって共謀が認められる場合は多い。

既に述べたとおり本件では、三宅候補関係の資料を組合員に配布する問題は、社会党の井手、八木候補関係の資料の配布と同様、組合の推薦活動の一環として、さきになされた中央委員会の推薦候補決定の具体策たる附帯申合わせ事項として確認されたものである。従って本件文書は右両名関係の資料を送付した例にならい、あえて本件秘密会の議にかけなくても郵送して送付さえすれば執行部の任務は果たせたわけである。ところが時期的に選挙公示直後であり、しかも本件文書は政党の機関誌、新聞、雑誌の類と異なり、外形、内容上選挙運動のため使用する文書の疑をかけられるおそれがあるため、執行部において慎重に検討を加えたうえ、あらためてその配布方を提案して、中央委員の意見をきく方法が最善策であると決議した。被告人黒木が秘密会のへき頭本件文書の配布を依頼したのは、個人として一方的に独断専行したものではなく、既に決定した佐高教組の意思を伝達し、更に前記の事情変更を考慮して、現物の資料を示し議案として提示したものと認められる。されば中央委員としてはこれを配布すべきかどうか、賛否の討論をつくすべき機会が与えられ、三〇分間に亘って質疑応答がなされた。各中央委員は思想、信条、表現の自由を保障されている以上、自由な判断をもって右提案を否決し配布を拒絶することもできた筈である。採、否の決定を明示しなかったのは梶川議長の不馴れ、不手際にも基因するとはいえ、反対意見がない限り、一応全員の賛成を得て確認されたものと認めるのが集会における決議方法としては通例である。

二、本件文書が議案の資料として会議の席上に配置された段階では未だ配布の準備的、予備的段階に過ぎず、配布の提案が採決又は確認されて謀議が成立し、分会員に配布するためこれを受領した時点において配布行為があったものと認めるのが相当である。

次に≪証拠省略≫によれば、同人は本件秘密会に出席したかどうか必ずしも明らかでないけれども、仮りに秘密会に出席しなかったとしても、黙示的に執行部の提案を承諾して本件文書を所属分会に持ち帰ったものと推認できないわけではないから共犯関係のらち外にある者ではない。そうだとすれば本件中央委員会の席上、出席中央委員は全部被告人両名と文書頒布の謀議をなしたものということができるから共同正犯関係にあるものと認められる。

三、本件所為は、執行委員会および少く共第二三七回中央委員会の議決によるものであるから、これ等の会議に出席した中央委員及び執行委員全部が団体の共同意思主体となって順次文書頒布の共謀共同正犯関係にあるものと認められる。そこで被告人両名は佐高教組の執行委員として、重松茂宏ほか五名はその中央委員としていずれも謀議に関与した共同正犯者と認めるのが相当である。

もっとも右重松茂宏等は、本件文書を各自所属分会に持ち帰った後冷静な判断をもって、自己の良識に従い組合員に対する頒布を中止した事実が認められるけれども、この事由を以って右認定をくつがえし、直ちに共謀関係の存在を否定する証左とはなし難い。

第六、共謀者間の文書の授受と頒布罪の成否

公職選挙法一四二条所定の法定外文書を共謀者間に授受した場合頒布罪が成立するかどうかについて検討する。

一、選挙犯罪は性質上実質犯と形式犯に大別される。実質犯は現実に選挙の公正を阻害する刑事犯的性質のもので、買収犯、選挙の自由妨害罪等がこれにあたる。形式犯は選挙の公正を図るため選挙運動を制限禁止する取締規定違反行為で行政犯的性質を有する戸別訪問罪、文書頒布罪等がそれである。

二、買収事犯につき最高裁判所は「いわゆる買収を目的としてその資金等を交付し、又はその交付を受ける行為が、それ自体選挙の腐敗を招く根源をなすものであるから、かかる腐敗の根源を速かに除去するため、買収にいたる前段階の交付および受交付の行為を独行して処罰の対象とした」旨の大法廷判決をもって(最高昭四一、七、一三)従来大審院が「共謀者内部の関係における金員供与実行の為にする準備的行動に外ならざるものと認む」べきものとし、共謀者間における供与資金授受の行為は交付罪、受交付罪を構成しないとした判例を変更した。

交付罪、受交付罪が設けられたのは昭和九年法律四九号による衆議院議員選挙法の一部改正によるものである。

三、公職選挙法一四二条所定の法定外文書頒布罪に関しては、買収の前段階の交付、受交付の行為に該当するものの処罪規定はない。けだし選挙の腐敗行為を防止して、その公正を図る目的で「腐敗の根源を速やかに除去するため」設けられた交付罪、受交付罪が供与の共謀者間にも成立するものとされたのは、特別な処罰規定の趣旨に照して肯認されるに至ったものである。

かような特別処罰規定が設けられていない文書頒布罪のごとき形式犯にまで右趣旨を類推、解釈して共謀者間における文書の授受行為をも処罰の対象として頒布罪が成立するものとなすことは選挙法の予想しないところであり、「必要かつ合理的」限度を逸脱して言論、表現の自由を保障した憲法二一条を不当に制限するものと認められるから違憲である。

これを要するに共謀共同正犯者相互間になされた文書の授受は、頒布行為のいわゆる「準備的行為」又は「内部的行為」に過ぎず、頒布罪を構成しないものと解するのが相当である。

結論

本件文書は選挙運動のため使用する文書に該当し、これを頒布すればたとえ組合活動としてなされたものであっても選挙法違反となることは免れない。

然しながら本件では佐高教組の役員たる被告人両名と本件文書の配布を受けた者がいずれも共謀関係にあるものと認められる。これ等の者の間に下部組織の組合員に配布する目的で法定外文書の授受があっても、頒布行為の準備的段階にすぎないから頒布罪は成立しない。

本件は結局共謀者間の文書の授受にとどまり罪とならないものと認められるから、刑訴法三三六条により無罪の云渡しをなすべきものとする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 岩村溜)

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