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佐賀地方裁判所 昭和47年(ワ)210号 判決 1973年6月19日

原告

本野豊

被告

株式会社佐賀タクシー

主文

一  被告は原告に対し金一三〇万四、二二六円及び内金一二四万四、二二六円に対する昭和四六年一一月七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は二分し、その一を原告、その一を被告の各負担とする。

四  第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

原告

被告は原告に対し金三一二万〇、七九一円および内金二八五万〇、七九一円に対する昭和四六年一一月六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行宣言。

被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二原告の請求原因

一  原告は左記交通事故により頸部、腰部捻挫、頸腕症候群、難聴等の傷害を受けた。

(一)  日時 昭和四六年一一月六日午前九時三五分頃

(二)  場所 小城郡三日月町大字長神田、大寺橋交差点附近国道

(三)  事故車 普通乗用車(佐五あ四一一八、運転者鬼崎大助)

(四)  態様 原告運転の貨物自動車が前記交差点手前で停止中追従してきた事故車に追突された。

二  被告は事故車を所有し、これを自己のため運行の用に供していた。

三  原告の損害は左のとおりである。

(一)  治療費 八万七、五四八円

(二)  入院雑費 一万六、〇〇〇円

原告は昭和四六年一一月一五日から翌四七年一月一七日まで六四日間入院しその間一日二五〇円の割合で一万六、〇〇〇円の雑費を要した。

(三)  通院交通費 三万九、八四〇円

原告は昭和四六年一一月六日から同四八年五月一〇日までの間に三三二回に亘り中央クリニツク、小林医院に通院して治療を受けたが通院のための交通費三万九、八四〇円(一往復バス代一二〇円)を要した。

(四)  休業損害 一八九万七、一四〇円

(1) 原告は事故前土砂販売業を営み昭和四五年一一月一日以降同四六年一〇月末までの一年間の右営業による粗収入二三八万四、〇四七円から諸経費九四万五、〇五七円を差引き純利益一四三万八、九九〇円を得ていたところ、本件事故により昭和四七年一一月五日まで休業のやむなきに至り右一年間一四三万八、九九〇円の損害を蒙つた。

(2) 他方原告は妻と共同で田一町一反を耕作し昭和四五年の収穫一一〇俵(反当り一〇俵)、九三万五、〇〇〇円(一俵当り八、五〇〇円)の収入を得、経費控除後の純利益は六五万四、五〇〇円であつた。

原告の寄与率を七割として一年間の休業損害は四五万八、一五〇円となる。

(五)  逸失利益 三二万七、五二二円

原告は本件事故のため結局前記土砂販売業を廃業のやむなきに至り、昭和四七年一二月から丸福建設に日雇として稼動することとなつた。これによる原告の収入は月平均六万五、三二八円で事故前の収入に比較し五万四、五八七円の減少となり昭和四七年一一月六日から同四八年五月五日までの六ケ月間の逸失利益は三二万七、五二二円となる。

(六)  慰藉料 八〇万円

(七)  弁護士費用 二七万円

(八)  損害の填補

(一)ないし(七)の合計三四三万八、〇五〇円が原告の損害であるが、本件事故に関し自賠責保険から二四万六、一九〇円、被告から七万一、〇六九円の支払を受けたのでこれを控除し、残額三一二万〇、七九一円とこれに対する本件事故発生日から完済まで年五分の遅延損害金の支払を求める。

第三被告の答弁

請求原因一及び二のうち原告の傷害については不知、その余は認める。

同三の(一)ないし(七)はすべて争う。(八)のうち被告が七万一、〇六九円を支払つたことは認める。なお原告が自賠責保険から受領した金額は三四万六、一九四円である。

原告は従来土砂販売業を営んでいた旨主張するがその実体はトラツクによる運送業であり、しかも原告は右事業の経営につき免許を受けておらず違法な行為による収入であるから右逸失利益を損害として賠償請求することは許されない。

第四証拠〔略〕

理由

一  請求原因一及び二のうち、原告の受傷の点を除きその余の事実は当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると原告は右事故によりその主張の傷害を受けたことを認めうる。

二  そこで原告が本件事故により蒙つた損害について検討する。

(一)  治療費

〔証拠略〕によると原告は中央クリニツクで治療を受け治療費一万六、四七九円を支払つたことが認められる。

(二)  入院雑費

〔証拠略〕によると、原告は昭和四六年一一月一五日から翌四七年一月一七日まで中央クリニツクに入院し治療を受けたことが認められ、一日平均二五〇円程度の出費を要したであろうことは推測に難くないので右費用は合計一万六、〇〇〇円となる。

(三)  通院交通費

〔証拠略〕によると、原告は合計三五六日間通院し、交通費としてその主張額を下らない額を支出したことを認めうる。

(四)  休業損害

(イ)  〔証拠略〕によると、原告は従前株式会社丸福建設に勤務し貨物自動車の運転に従事していたところ昭和四二年九月から独立して土砂運搬業を始め、ダンプカーを使用して丸福建設の専属として同社の注文に応じ土砂運送を行つてきたが、道路運送法第四条の事業免許を受けていなかつたこと、本件事故による受傷のため原告は前記運送業をあきらめ、ダンプカーを処分して昭和四七年一二月から前記丸福建設に雇われ爾来土砂採取現場での伝票記帳等の単純な事務労働に従事し日給二、三〇〇円、月平均二五日稼働し五万七、五〇〇円の収入を得ていることが認められる。

原告は右運送業による年間収入一四三万八、九九〇円を本件事故による休業損失として主張するが、不法行為による損害賠償の制度は法律上保護さるべき利益を侵害された被害者の救済を図るものであるところ、自動車運送事業は運輸大臣の免許を受けることを要し、これに違反した者は自動車の使用を禁止されることもあり、且つ罰則規定もあることに鑑み無免許運送事業による収益は本来あるべき姿ではないからこのような違法な行為による収入を損害として賠償請求することは許されないものと考える。従つて無免許営業による収益を逸失利益の算定根拠とする原告の主張はそのままでは採用できないが、然しながら本件事故によつて原告が労働の機会を失いこれによつて相当の損害を蒙つたことも明らかであり、これを全く無視することも公平を失することとなり妥当でない。

そこで本件事故当時の原告の年令(三四才―〔証拠略〕)をも考慮のうえ昭和四六年度における佐賀県下男女別常用労働者一人一ケ月平均現金給与総額統計(佐賀県勢要覧―佐賀県企画部統計調査課編昭和四七年版)によると男子一ケ月の給与は七万七、七一五円であるから原告も本件事故に遇わなければ右程度の収入を得ることができたものと認めるのが相当である。

而して前認定のとおり原告は本件事故後丸福建設に就職した昭和四七年一二月まで約一年間休業したことが認められるのでその間の逸失利益をホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除すると八八万八、〇九五円となる。

(ロ)  次に原告は右期間中の農業収益の減収四五万八、一五〇円を請求するところ、事故前後における収入の変動、経費、原告の寄与率等を認定するに足る資料に乏しくその損害額を認定することができない。

(五)  逸失利益

前認定のとおり昭和四七年一二月以降の原告の月収は五万七、五〇〇円であり、事故前の収入に比し二万〇、二一五円の減収となるから、翌四八年四月末までの逸失利益は一〇万一、〇七五円となる。

(六)  慰藉料

原告の傷害の程度、入通院期間、その他一切の事情を考慮して六〇万円を相当と認める。

(七)  弁護士費用

原告は岩永某を介して被告と示談交渉したが被告は一八万円を提案したのみで進展せず、原告は原告代理人に本訴を委任したことが原告本人の供述により認められるが、報酬契約の内容については一切明らかでない。然しながら本訴の内容経緯に鑑み六万円を被告に負担させるのが相当である。

三  損害の填補

原告が自賠責保険から三四万六、一九四円の支払を受けたことは〔証拠略〕により認めることができ、右のほか被告から七万一、〇六九円の支払を受けたことは争いがない。

四  よつて原告の請求は一三〇万四、二二六円及び内金一二四万四、二二六円(前記金額から二の(七)の六万円を控除したもの)に対する本件事故の翌日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の限度で認容し、その余を棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松信尚章)

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