佐賀地方裁判所 昭和51年(ワ)242号 判決 1980年3月03日
原告
中野竹一
ほか二名
被告
山口円二
ほか一名
主文
一 被告らは各自、原告中野竹一に対し金一三九万九八〇〇円、同中野スエ子に対し金六八万六六〇〇円同有限会社佐賀電設に対し金五万六〇〇〇円及び右各金員に対する昭和五一年七月二八日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らの被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用中、中野竹一及び同中野スエ子と被告ら間において生じた分はその七を被告らの、その三を同原告らの負担とし、原告有限会社佐賀電設と被告ら間に生じた分は全部同原告の負担とする。
四 本判決主文第一項は仮に執行することができる。
事実
第一請求の趣旨
一 被告らは名自、原告中野竹一に対し金二〇八万五八七六円、同中野スエ子に対し金一〇八万六六〇〇円、同有限会社佐賀電設に対し金九〇七万八八七三円及び右各金員に対する昭和五一年七月二八日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 第一項につき仮執行の宣言。
第二請求の趣旨に対する答弁
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
第三請求原因
一 事故の発生
1 日時 昭和五一年七月二八日午後五時二〇分頃
2 場所 佐賀県佐賀郡諸富町大字徳富五七大成会館先路上
3 加害車 普通貨物自動車(福岡一一す四四五九)
4 態様 前記日時場所に原告中野竹一(以下「原告竹一」という。)が被害車を停車中、被告山口芳己運転の加害車が追突した。
5 被害車 普通乗用車(佐五五ひ五〇〇五)
6 原告らの傷害の部位、程度
原告竹一は外傷性顕性頭痛症候群で、入院五七日、通院六八日(実日数四三日)、原告中野スエ子(以下「原告スエ子」という。)は頸椎捻挫で通院一二六日(実日数九〇日)
二 責任原因
1 被告山口円二は加害車の運行供用者で、且つ業務執行中に本件事故は発生した(自賠法第三条及び民法第七一五条)。
2 被告山口芳己は前記のとおり加害車を運転して走行中、前方注視を怠つた過失により、おりから前方に停車中の被害車に追突し、これを大破せしめるとともに原告竹一及び同スエ子に傷害を負わせた(民法七〇九条)。
三 原告らの損害
(一) 原告竹一 二〇八万五八七六円
1 医療費 九〇万九〇八〇円
2 入院雑費 三万三六〇〇円(一日六〇〇円の入院五六日分)
3 文書料 一万五六〇〇円
4 慰謝料 一四八万六六七六円
原告竹一は入院五七日、通院六八日を要する外傷性顕性頭痛症候群の傷害をうけ、右精神的苦痛を慰謝するには金一四八万六六七六円を以て相当とする。
5 弁護士費用 八〇万円
原告竹一個人のみならず、原告スエ子及び原告有限会社佐賀電設(以下「原告会社」という。)のすべてを右竹一が代表して、原告ら訴訟代理人弁護士に委任したが、本件訴訟の難易、事故が被告らの一方的過失に基づくものであることなどを考慮すれば、弁護士費用八〇万円は本件事故と相当因果関係を有するものとして、被告らに負担させることができる。
6 損害の一部填補 一一五万九〇八〇円
7 以上、原告竹一の損害は1ないし5の合計三二四万四九五六円から6を差引いた二〇八万五八七六円となる。
(二) 原告スエ子 一〇八万六六〇〇円
1 医療費 二二万三七二〇円
2 休業損害 一八万円
三ケ月間原告会社の勤務を休んだため、その間の得べかりし給与一八万円を喪つた。
3 通院費用 一五万六六〇〇円
スエ子は大財の自宅から諸富の小柳外科までタクシーで往復一、七四〇円(片道八七〇円)の九〇日間通院したことによる損害である。
4 慰謝料 七五万円
原告スエ子は事故のため、通院一二六日を要する頸椎捻挫の傷害をうけ、主婦として、又原告会社の取締役として業務に従事できなかつたので、右精神的苦痛を慰謝するには七五万円を以て相当とする。
5 損害の一部填補 二二万三七二〇円
6 以上、原告スエ子の損害は1ないし4の合計一三一万〇三二〇円から5を差引いた一〇八万六六〇〇円となる。
(三) 原告会社 九〇七万八八七三円
1 逸失利益 九〇二万五五二四円
原告会社は、代表取締役が原告竹一で、昭和四四年一月設立される以前は原告竹一が昭和三九年三月から電気工事店を個人でやつていたもので、税金対策上右のとおり有限会社を設立するに至つたものである。
会社設立当時から三年間は、相談役格で、形式上代表取締役として原告竹一の妻スエ子の兄である訴外諸富秀高に就任してもらつていただけで、取締役は原告竹一と妻の原告スエ子の二人で、資本金一〇〇万円(原告竹一の持分八〇口、同スエ子の持分二〇口)従業員一二名(女子事務員二名、現場作業員一〇名)で、次にのべるとおり会社の業務はすべて原告竹一個人の掌握するところで、いわゆる個人会社で、竹一に会社の機関としての代替性がなく、竹一と会社とは経済的に同一体をなし、会社はいわば形式上有限会社という法形態をとつたにとどまる実質上の個人企業である。
原告会社の主たる営業種目は、屋内電気工事であるため、当然に建築に付帯する工事で、勢い、全工事量の約九割は下請とならざるを得ない。そのため元請となる建設会社とか、電気工事会社とかから電気工事の発注をうけるためには、原告竹一個人の対外的信用、力量、手腕に頼らざるを得なかつた。かような工事の受注は従業員を以てしては不可能なことである。原告会社の場合、電気工事の注文を一つ一つ受けていくのではなく、右に述べたとおり元請からの発注によつて下請するので、原告竹一を離れて会社の存在は考えられず、会社にとつて原告竹一は余人をもつて代えることができない不可欠の存在である。かようなことから工事の注文をとり、材料の仕入れ、現場作業の指揮、工事の見積も原告竹一自らこれに従事せざるを得ない状況にあつた。
ところが、原告竹一の本件交通事故による休業のため、その休業期間中は工事の発注は零で、かろうじて事故前に発注をうけた工事をやるに止つたため、会社の業績は極めて悪化し、九〇二万五五二四円の得べかりし利得を喪つた。即ち
(1) 事故前の昭和五一年四月から七月までの電気工事の売上額は三三七七万七六七九円(月平均売上額八四四万四四一九円)で、材料代が一八五四万七四三七円となつていたので、これを差引けば一五二三万〇二四二円の荒利益があり、その率は四五・〇九%となつていた。
ところが、原告竹一が昭和五一年七月二八日から一〇月末日まで休業したため、同年八月以降一二月までの売上額は二二二〇万五四〇七円と激減した。
もしも、原告竹一が休業していなかつたならば、事故前四ケ月の月平均売上額八四四万四四一九円を下廻ることはなかつた筈である。
そこで少くとも八月から一二月まで四二二二万二〇九五円の売上額を確保できたのに、実際には前記のとおり二二二〇万五四〇七円の売上額となり、二〇〇一万六六八八円の売上減少となつた。
これに荒利益の率である四五・〇九%を乗ずれば九〇二万五五二四円となり、これが原告会社の損害額となる。
(2) 仮に原告主張の右逸失利益が認められないとしても、原告会社の第七期決算書(甲第二三号証)によれば、完成工事収入六二四七万円、工事総利益一五五〇万円、営業利益二〇五万円を計上されており、甲第三号証の第八期決算書(自昭和五〇年九月一日至昭和五一年八月三一日)と比較するに同期の完成工事収入八九〇六万円、工事総利益一九一八万円、営業利益一八四万円と、社長の原告竹一が本件交通事故により昭和五一年七月二八日から八月三一日まで三五日間休んだにもかかわらず、前期と比較して工事収入は順調に伸びを示していた。
しかるに、原告竹一の前記交通事故による休業が引続いて同年一〇月末日まで三ケ月間も及んだため、右休業期間中、工事の新規発注は零で、かろうじて事故前に発注をうけた工事を細々と施工するにとどまり、反面必要経費は物価高と人件費の支出増額(工事がないからといつて従業員を首にすることはできず、賃金も退職金も規定どおりに支払わなければならない)のため、原告会社の業績は極めて悪化し、甲第二〇号証の第九期決算書にみられるとおり、完成工事収入八六八六万円、工事総利益一五四九万円、営業損失四八六万円と前期(甲第三号証)と比較して営業成績は、大幅な落込みを示した。
もし、社長の原告竹一が交通事故にあつていなければ、昭和五一年下半期から同五二年にかけては経済界の動向はようやく不況を脱し、景気回復の途上にあり、建設工事は漸増しつつあつた時でもあるので、原告会社の場合、少くとも前記決算を下廻らない程度の利益をあげ得た筈である。
そうだとすれば、前期と今期の決算による営業利益の差額は前期の営業利益(個人の場合の純益に相当する)一八四万円に今期の営業損失四八六万円を加算した六七〇万円となり、原告会社は原告竹一の交通事故により右同額の損害を蒙つた(以上いずれも金額は一万円未満切捨)。
なお、前期と今期の完成工事収入の差額に利益率を乗じた額を以て損害額とする考え方もあるが、前期中には原告竹一が本件事故で三五日間休んでいるので工事収入の伸びに影響を及ぼしており、単的に工事収入だけの比較をすることは妥当でなく、逆に本件事故のため、今期の必要経費が増加している点も見逃してはならないので、彼我勘案すれば、前記のとおり右双方を考慮した営業利益の差額を以て本件交通事故による損害とみるのが相当である。
2 自動車の損害 二三万一一七九円
原告会社は新車を一七五万円で購入し、二ケ月後に本件事故により破損したもので、修理費用一七万七八三〇円(被告支払い)を要したが、右車両の破損による評価損は修理費用の三割程度であることは公知の事実であるから、その三割に当る五万三三四九円と右修理費用の合計二三万一一七九円の損害を蒙つたというべきである。
3 損害の一部填補 一七万七八三〇円(自動車修理費用として被告支払いによる。)
4 以上、原告会社の損害は1ないし2の合計九二五万六七〇三円から3を差引いた九〇七万八八七三円となる。
四 結論
よつて、被告らに対し、原告竹一は二〇八万五八七六円、原告スエ子は一〇八万六六〇〇円、原告会社員九〇七万八八七三円及び右各金員に対する本件事故発生日である昭和五一年七月二八日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各連帯支払いを求める。
第四請求原因に対する認否
一 請求原因一の1ないし5の事実は認めるが、6の事実は不知。
二 同二の事実は認める。
三 同三中(一)の1及び6、(二)の1及び5並びに(三)の3は認めるが、その余の事実は争う。
四 被告らは原告会社の蒙つた損害につき賠償の責任はない。即ち、
1 不法行為に基づく損害賠償義務は、直接加害された者に生じた損害に対してあるにとどまり、第三者には及ばないと解すべきであつて、これが不法行為法の原則である。
したがつて、また右直接の被害者でない第三者には相当因果関係の理論は適用の余地はないと考えるべきである。
けだし、相当因果関係の理論は、直接被害者について発生した全損害のうち、加害者に負担せしむべき損害賠償額の範囲を固定することにあるのであるから、本件のような第三者たる原告会社について生じた損害にまで拡張すべきではない。
以上のとおり、原告会社にかりに損害が生じたとしても、右は間接損害であるから、被告らには賠償義務はない。
2 かりに右主張に理由がなく、会社に生じた損害についても賠償責任が認められる場合があるとしても、それは前記不法行為法の原則から考えて、その範囲は厳格に解すべきである。
すなわち、いわゆる個人会社で被害者に会社の機関としての代替性がなく、被害者と会社とが経済的に一体をなし、会社はいわば形式上有限会社という法形態をとつたにとどまる実質上の個人営業で、被害者を離れて会社の存続は考えられず、会社にとつて被害者は余人をもつて代えることのできない不可欠の存在である等の事情がなければならないのである。
(最高裁第二小判昭和四三、一一、一五・最判集二二巻―一二号―二六一五頁参照)
原告会社は従業員一四名の電気工事を営業種目とする会社で、県の指定工事の資格検査ではBクラスにランクされており、市内でも五社に入つている中堅会社である。
その営業状態も年間売上げ約九〇〇〇万円を記録しており(甲第三号証)、これだけの売上げを記録している原告会社の営業について原告竹一が自ら注文をとり材料を仕入れ、現場作業の指揮、工事の見積り、集金等に従事した、という超人的仕事をしてきたとは到底考えられないのである。
原告会社には堀内某が勤務していたところ、本件事故前二~三か月前に退社しているが、同人が原告会社の営業から仕事の分担まで全般的に責任ある立場に立つていたものである。
以上のとおり、原告会社と原告竹一の関係につき、原告会社の経済成績がひとえに原告竹一の手腕活動に依存すると共に、その企業利益が即ち原告竹一の利益と目されるような関連性一体性は到底認められない。
かりに、原告ら主張のように利益の減少があつたとしても、それは右堀内の退社がある程度の影響を与えていることは明らかである。
よつて、原告会社の損害について被告らには賠償の義務はない。
3 かりに右が理由がないとしても、過失あるためには結果に対する予見または予見の可能性を必要とするところ、被告らには原告竹一の受傷による原告会社について、原告ら主張のような事情を予見していなかつたし、また予見の可能性もなかつた。
4 かりにそうでないとしても、前記不法行為の原則からして、その損害額の主張立証は厳格に解すべきところ、原告らの主張立証するところは、極めて漠然たる荒利益であり、右をもつて原告会社の損害額につき主張立証を尽くしたということはできない。
第五証拠〔略〕
理由
一 請求原因一の1ないし5及び二の事実は当事者間に争いがない。
二 原告竹一及び同スエ子の傷害、治療経過
1 原告竹一
成立に争いない甲第一及び第一七号証並びに原告竹一(第一回)本人尋問の結果によれば、同原告は本件交通事故により外傷性頸性頭痛症候群の傷病名で、佐賀郡諸富町所在の小柳病院において事故翌日(昭和五一年七月二九日)から昭和五一年一一月三〇日まで入通院しながら治療をうけたが、入院期間は八月五日から九月三〇日までの五七日間、通院期間は七月二九日から八月四日までと、一〇月一日から一一月三〇日までの六八日間(内実治療日数は四三日間)であつたことが認められる。
2 原告スエ子
成立に争いない甲第二及び第一八号証並びに原告スエ子本人尋問の結果によれば、同原告は本件交通事故により頸椎捻挫の傷病名で、前記小柳病院において事故当日(昭和五一年七月二八日)から昭和五一年一一月三〇日まで一二六日間通院(内実治療日数は九〇日間)して治療をうけたことが認められる。
三 原告竹一及び同スエ子の損害
1 原告竹一の損害
(一) 医療費 九〇万九〇八〇円
これについては当事者間に争いがない。
(二) 入院雑費 三万四二〇〇円
前記認定のとおり、原告竹一は本件交通事故により五七日間入院したのであるが、一日当りの入院雑費は六〇〇円を要すると解するのが相当であるから、小計三万四二〇〇円となる。
(三) 文書料 一万五六〇〇円
原告竹一本人尋問の結果(第一回)及び同結果により成立を認める甲第四ないし第七号証によれば、原告竹一は本件交通事故に起因する入院証明書代、診断書代、交通事故証明書代として小計一万五六〇〇円支出したことが認められる。
(四) 慰謝料 一四〇万円
原告竹一本人尋問の結果(第一回)及び同結果により成立を認める甲第一三号証によれば、原告竹一は本件事故当時原告会社から月額二八万円の給与を得ていたところ、昭和五一年八ないし一〇月分は本件受傷による治療のため原告会社を休み、その間三ケ月分の給与の支払いを受けていないことが認められ、これらの事実に前記認定の原告竹一の傷病名、治療経過等を併せ斟酌すると、同原告の本件交通事故に起因する慰謝料としては一四〇万円をもつて相当と認める。
(五) 填補 一一五万九〇八〇円
これについては当事者間に争いがない。
(六) 未填補損害額 一一九万九八〇〇円
以上(一)ないし(四)の合計二三五万八八八〇円から(五)を差引くと一一九万九八〇〇円となる。
(七) 弁護士費用については後述する。
2 原告スエ子の損害
(一) 医療費 二二万三七二〇円
これについては当事者間に争いがない。
(二) 休業損害 一八万円
原告スエ子本人尋問の結果及び同結果により成立を認める甲第一四号証によれば、同原告は本件受傷当時原告会社に勤務し、基本賃金月六万円の支払を受けていたが、本件受傷による通院治療のため昭和五一年八ないし一〇月は勤務を休み、その間原告会社から何らの金員の支給も受けていないことが認められるから、右三ケ月間の休業損害は一八万円ということになる。
(三) 通院費用 一五万六六〇〇円
原告スエ子尋問の結果及び同結果により成立を認める甲第一二号証の一五・一八によれば、同原告は自宅のある佐賀市大財町から諸富所在の前記小柳病院まで通院の際タクシー(片道八七〇円)を利用したことが認められるが、これに成立に争いない甲第八号証をも併せ考慮すれば、同原告が通院治療のためタクシーを利用したことは相当と認められる。よつて、前記認定の実治療日数九〇日間を乗ずると、通院費用は一五万六六〇〇円となる(八七〇×二×九〇=一五六六〇〇)。
(四) 慰謝料 三五万円
前記認定の原告スエ子の傷病名、治療経過等を斟酌すると、同原告の本件交通事故に起因する慰謝料としては三五万円をもつて相当と認める。
(五) 填補 二二万三七二〇円
これについては当事者間に争いがない。
(六) 未填補損害額 六八万六六〇〇円
以上(一)ないし(四)の合計九一万〇三二〇円から(五)を差引くと六八万六六〇〇円となる。
四 原告会社の損害
1 逸失利益
(一) 原告会社の経営実態
(1) 証人荒谷嘉章(第一・二回)の証言により成立を認める甲第三、第二〇ないし第二三号証、証人諸富秀高・同徳島富雄・同荒谷嘉章(第一・二回)の各証言、原告スエ子・同竹一(第一・二回)各本人尋問の結果を総合すると以下の事実が認められ、これに反する確たる証拠はない。
イ 原告竹一は昭和三九年三月頃個人として「佐賀電設」の屋号で、住宅、店舗、工場、アパートの屋内電気設備工事の下請工事を主として経営しはじめた。
ロ 昭和四四年一月、それまでの個人経営から法人組織にかえることとし、商号を有限会社佐賀電設として原告会社を設立したが、その理由は、税金対策、対外的信用、仕事の充実を目指すこと等にあり、原告竹一は同原告の所有財産を原告会社に現物出資し、資本金一〇〇万円のうち、八〇万円を同原告が、二〇万円を同原告の妻である原告スエ子が出資した。
ハ 原告会社設立後二年位は、原告スエ子の実兄訴外諸富秀高が代表取締役を勤め、原告会社の経理関係の仕事の援助をしてもらつたが、昭和四六年頃には原告竹一が代表取締役に就任し、今日に至つている。
ニ 原告会社の従業員は本件事故当事一二名位(うち女子職員が二名で事務関係の仕事に従事し、他一〇名位の男子職員が作業に従事している。)であつた。
(尚、冒頭掲記の人証によれば、「原告竹一は自ら仕事の九割を占める下請工事の注文を受け、見積りを書き、時には直接請負う仕事の設計図を書き、材料の仕入れ先を従業員に指示し、集金も大半は自ら行い、作業現場の総括的指揮をふるつてきた。原告会社は原告竹一の個人経営時代からの信用により経営を維持してきたものであつて、原告会社には、他に原告竹一の仕事を代りに担当遂行しうる者はいなかつた。」というのであるが、後述ホの事実と併せ考慮すると、必らずしもこの通り措信するには、ちゆうちよを禁じえない。)
ホ 原告会社は税理士に依頼して会社として事業年度毎にきちんとした決算報告書を作り、かつ、それによれば、本件事故当時の原告会社の年間売上高は約九〇〇〇万円にものぼつており、また原告会社が加入している佐賀電気工事協同組合の中でも、原告会社の規模は中の上位に位置していた。
(2) 以上のようにみてくると、原告竹一が原告会社の中心人物であり、ワンマン的経営の状態にあつたといえるにしても、さりとて右両原告の間に経済的同一体があるとまでいえるかどうか疑問であり、他にこれを肯認せしむるに足りる証拠はない。
(3) 本件におけるように、交通事故によつて企業の代表者が受傷し、その受傷の故に代表者が休業を余儀なくされ、その結果企業の利益が減少した場合、その企業独自の逸失利益を請求することができるかどうか争いのあるところであるが、原告も主張の前提としているとおり、右代表者と企業とが経済的に同一体をなしていると解される場合にのみ肯定されるのが相当である。本件においてこれをみれば、右(2)で述べたように、この点について積極的な心証がとれないのであるから、その不利益を原告会社が被つたとしても止むをえない。前記認定のとおり、原告竹一が、税務対策上、対外的信用上等の理由で会社組織にし、一面では利益を得てきたであろう反面、思いがけない代表的人物の交通事故により原告会社が何ほどかの逸失利益の損害を被り、その請求ができないとしても、会社組織にした負の面が顕在化したにすぎず、この点のみの不当性を力説するのは、法全体の衡平の見地からみた場合必らずしも当を得たものとは言えないと思われる。
とするならば、その余の点について判断するまでもなく、原告会社の逸失利益の主張は失当といわざるをえない。
2 自動車の損害 二三万三八三〇円
原告竹一本人尋問の結果(第一回)によれば、本件交通事故により被害にあつた自動車は原告会社の所有であつたことが認められるからその損害は原告会社が直接の被害者として加害者に対し請求できるのは明らかである。
ところで、被害自動車の修理代として一七万七八三〇円要したことは当事者間に争いがなく、成立に争いない乙第一号証によれば、事故による減価損として五万六〇〇〇円が相当との財団法人日本自動車査定協会の査定がなされていることが認められる。そうだとすれば、原告会社の自動車の損害は右合計の二三万三八三〇円とみるのが相当である。
3 填補 一七万七八三〇円
これについては当事者間に争いがない。
4 未填補損害額 五万六〇〇〇円
そこで右2から3を差引くと五万六〇〇〇円となる。
五 原告竹一の弁護士費用 二〇万円
弁論の全趣旨により成立を認める甲第一六号証及び原告の主張によれば、原告竹一は本件訴訟の提起・遂行を原告ら訴訟代理人弁護士に委仕し、その費用は同原告が全部負担する旨約していることが認められるが、本件訴訟の全過程を概観すると、被告らに支払を命ずべき本件事故時の弁護士費用の現価は二〇万円をもつて相当と認める。
六 結論
以上の次第であるから、被告らは連帯して、原告竹一に対し三の1の(六)と五の合計一三九万九八〇〇円、原告スエ子に対し六八万六六〇〇円、原告会社に対し五万六〇〇〇円及びこれらに対する本件事故日の昭和五一年七月二八日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、この限度で原告らの請求を正当として認容し、その余はいずれも失当として棄却する。よつて、民訴法八九条、九二条、九三条、一九六条により、主文のとおり判決する。
(裁判官 簔田孝行)