佐賀地方裁判所 昭和61年(ワ)93号 判決 1990年3月23日
原告
浦川和彦
原告
小池義浩
原告
南里隆芳
右原告ら訴訟代理人弁護士
河西龍太郎
同
本多俊之
同
宮原貞喜
被告
日本国有鉄道清算事業団
右代表者理事長
杉浦喬也
被告
石井幸孝
被告
藤井定
被告
眞子誠
右被告ら訴訟代理人弁護士
杉田邦彦
主文
一 原告らと被告日本国有鉄道清算事業団の間において、日本国有鉄道清算事業団法附則第二条による被告日本国有鉄道清算事業団への移行前の日本国有鉄道が昭和六一年二月一日付けで原告らに対してした各減給一〇分の一・一か月の懲戒処分が無効であることを確認する。
二 被告日本国有鉄道清算事業団は、原告浦川和彦に対し、六九五円及びこれに対する昭和六〇年一一月二一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは、連帯して、原告らに対し、各六〇万円及び右各金員に対する昭和六一年四月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告らのその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
事実
第一請求
一 主文一項と同旨。
二 被告日本国有鉄道清算事業団(以下「被告事業団」という。)は、原告浦川和彦(以下「原告浦川」という。)に対し、六九五円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは、連帯して、原告らに対し、各一一〇万円及び右各金員に対する昭和六一年四月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二主張
一 請求原因
1(1) 原告浦川は昭和五五年一〇月、原告小池義浩(以下「原告小池」という。)は同五六年五月、原告南里隆芳は同五二年四月、それぞれ、日本国有鉄道清算事業団法附則第二条による被告事業団への移行前の日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)に雇用され、同六〇年一〇月当時、いずれも国鉄伊万里保線区に勤務し、国鉄労働組合(以下「国労」という。)に所属していた。
(2) 右当時、被告藤井定(以下「被告藤井」という。)は国鉄長崎管理部工務課主席であり、被告眞子誠(以下「被告眞子」という。)は国鉄伊万里保線支区の助役であったところ、右両名は、上司に対し、原告らが昭和六〇年一〇月三日(以下「本件当日」という。)午前一〇時八分から同三〇分までの間作業現場を無断で離脱した(以下「本件職場離脱」という。)のを現認した旨の報告をした。
(3) 国鉄九州総局長であった被告石井幸孝(以下「被告石井」という。)は、国鉄総裁の懲戒権限を代行して、原告らに対し、本件職場離脱を理由として、昭和六一年二月一日付けで各減給一〇分の一・一か月の懲戒処分(以下「本件各懲戒処分」という。)をした。
2 請求第一項について
本件各懲戒処分はいずれも事実誤認に基づくものであるから、被告事業団に対し、その無効であることの確認を求める。
3 請求第二項について
(1) 国鉄は、原告浦川に対し、昭和六〇年一〇月三一日の一時間二九分の欠勤のほかに本件職場離脱による欠勤二二分があるとして、同年一一月二〇日、同日支払うべき同月分の給与から二時間分の賃金一三九〇円を減額した。
(2) 本件職場離脱による欠勤が存在しない場合に減額されるべき賃金額は六九五円である。
(3) よって、原告浦川は、被告事業団に対し、労働契約に基づき、未払賃金として(1)の金額から(2)の金額を控除した額である六九五円の支払い及び昭和六〇年一〇月分の給与支給日の翌日である同月二一日から完済に至るまで右金員に対する民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
4 請求第三項について
(1) 被告藤井及び被告眞子は、上司に対し本件職場離脱を現認した旨の報告をするにあたり、原告らの言い分を全く無視したずさんな調査により原告らが作業現場を離脱したと誤認し、あるいは、右離脱の事実がないことを知っていた。
(2) 被告石井は、国鉄総裁の懲戒権限を代行して本件各懲戒処分をするにあたり、被告藤井及び被告眞子の報告のみを信頼し、原告らにおいて、本件職場離脱があったとされている時間帯に現場を通過した列車の乗務員に対する再調査をするよう求めたにもかかわらず、右再調査をせず、または、再調査結果を全く無視した。
(3) 右(1)の当時、国鉄は被告藤井及び被告眞子の使用者であった。
(4) 本件各懲戒処分は、全くの事実誤認に基づくものであるのみならず、原告らが国労に属しているが故に強行されたものであって、原告らは本件各懲戒処分により、労働者として、また人間としての尊厳を傷つけられたほか、労働者としての団結権をも侵害されたものであるから、右に対する慰謝料としては各一〇〇万円が相当である。
(5) 弁護士費用は各一〇万円が相当である。
(6) よって、原告らは、被告らに対し、不法行為による損害賠償請求として、連帯して、各一一〇万円及び不法行為の後である昭和六一年四月二七日から完済に至るまで右各金員に対する民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する被告らの認否
(被告ら)
1 請求原因1(1)ないし(3)記載の各事実は認める。
(被告事業団)
2 請求原因3(1)及び(2)記載の各事実は認める。
(被告ら)
3 請求原因4(1)及び(2)記載の各事実は否認する。
同(3)記載の事実は認める。
同(4)及び(5)は争う。
三 抗弁(本件職場離脱の事実の存在)
(以下の記述におけるア点、オ点、キ点、ク点、ケ点、サ点、セ点及びツ点並びにa点はいずれも別紙図面(略)上の点であり、一五キロ九一九メートル等と表示されている数字は有田駅中心を起点とする軌道延長距離である。)
1 原告らは、本件当日、国鉄松浦線東山代駅付近の一六キロ〇二〇メートル地点(以下「作業始点」という。)ないし一六キロ三五〇メートル地点(以下「作業終点」という。)間において線路周辺の草伐採作業に従事する予定となっていた。
2 原告らは同日午前一〇時八分から同三〇分までの間右作業予定区域を無断で離脱した。
四 抗弁に対する原告らの認否
1 抗弁1記載の事実は認める。
2 抗弁2記載の事実は否認する。
第三証拠関係(略)
理由
一 請求原因1(1)ないし(3)記載の各事実は当事者間に争いがない。
二 抗弁(本件職場離脱の事実の存在)について
1 抗弁1記載の事実は当事者間に争いがない。
2 被告藤井及び被告眞子の目撃状況
被告藤井及び被告眞子の各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告藤井及び被告眞子(以下「被告藤井ら」という。)は、原告らの作業を監督するため、本件当日午前一〇時ころ東山代駅に赴き、同一〇時八分ころク点及びa点(いずれも一六キロ一二〇メートル付近、ク点は線路の約五メートル北側、a点は線路上)から作業始点方向を見たが、原告らを発見することができなかった。
(2) 同一〇時九分ころ伊万里方面(東)から佐世保方面(西)に向かう急行列車(以下「第一列車」という。)が東山代駅を通過した際、被告藤井らは、ケ点(一六キロ一五〇メートル付近で線路の数メートル北側)から作業始点方向及び作業終点方向を見たが、原告らを発見することができなかった。
(3) 第一列車通過後、被告藤井らは、原告らがサ点(一六キロ二二〇メートル付近)付近のプレハブ建物内で休息している可能性があると考え、同所を探したが原告らを発見することはできなかった。
(4) 同一〇時二五分ころ佐世保方面から伊万里方面に向かう普通列車(以下「第二列車」という。)が東山代駅に到着して約一分間の停車の後同駅を発車し、同二八分ころア点(一五キロ九一九メートル)にある長浜踏切を通過したが、同三〇分ころ被告藤井らがサ点付近から同踏切の方向を見ていたところ、原告らが同踏切付近から作業始点方向に軌道敷内を歩いてきた。
(5) 被告藤井は、セ点(一六キロ三〇〇メートル付近)から軌道敷内に降り、作業始点方向に歩きながら作業の形跡を調査してキ点(一六キロ〇八〇メートル)付近で約一平方メートルにわたり草が刈りとられていたことを確認した後、作業始点ないしツ点(一六キロ三〇メートル)付近で作業を開始した原告らに近づき、原告南里に当日の作業状況等について質問したところ、同原告は、どこにも立ち寄っていない。前刈り作業や列車待避をしていた旨答えた。被告眞子は、伊万里保線区長後藤春治(以下「後藤」という。)の指示に従い、同一〇時三八分原告らに対し、同一〇時八分から同三〇分までの間の原告らの就労を否認する旨の通告をした。
3 原告らの供述
原告らは、各本人尋問において、本件当日原告らが東山代駅付近の作業現場に到着してから同日午前一〇時三〇分ころまでの原告らの動静について、大要次のとおりの供述をしている。
(1) 原告らは午前九時二五分ころ作業現場に到着し、機械を使用した除草作業に備えて空き缶等の支障物を除去する作業やかずら払い等をしていた。
(2) 午前一〇時ころから同一〇時九分ころまでの間及び同二〇分ころから同二八分ころまでの間、原告らは第一及び第二列車との接触事故を避けるため、オ点(一六キロ〇一八メートル付近線路の約三・三メートル南側)の草むらに三人で座って待避していた。
(3) 第一列車通過後午前一〇時二〇分ころまで原告らは作業始点から一六キロ〇七〇メートル地点にかけての線路南側で(1)と同様の作業をしていた。
(4) 第二列車通過後、作業始点付近で草の伐採作業を再開し、原告南里がク点付近に止めてあったトラックに上着を置きに行こうとしたところ、被告藤井から当日の作業状況について質問を受けた。
4 国鉄松浦線東山代駅付近(以下「本件現場」という。)の状況
(証拠略)によれば、本件現場は伊万里駅から東山代駅方向に向かって左側に緩くカーブ(半径一六〇〇メートル)していること、軌道敷両側にはススキ等の雑草が繁茂していること、平成元年七月二〇日当時はク点、a点及びケ点からオ点への見通しは極めて悪く(殊にオ点に人が座っていた場合には全く見えない)、また、サ点からア点に立った人物を見ることはできなかったこと、本件現場は昭和六〇年ころまでは毎年草の伐採をしていたが、昭和六三年及び平成元年度は軌道敷内の薬剤による除草をしただけで軌道敷外の草刈りはしていないこと、ススキは、一〇月ころには背丈の伸びる成長期は終わっていて、一一月ないし一二月には枯れ始め、枯れたまま放置すると風化して背丈も多少低くなり、密度も薄くなること、(証拠略)は昭和六〇年一〇月に本件現場付近の草の伐採作業が終わった後、残ったススキ等が枯れて翌年二月中旬まで放置された状況について望遠レンズで撮影されたものであること、サ点から長浜踏切自体はカーブ及びススキ等の雑草の存在のため見えないこと、本件当日の夕刻、後藤が本件現場において見通し状況の調査をしたところ、ク点から作業始点に座った人物は十分確認できたが、その時点では作業始点から東山代駅方向に一〇〇メートルの区域の草刈り作業が終了していたことの各事実を認めることができる。
以上の事実を総合すると、本件当日の本件現場の見通し状況が平成元年七月二〇日当時のそれと同一ないしこれに近いものであると断定することはできないけれども、(証拠略)に見られるような見通し状況であったということもまたできない。
5 本件現場通過列車乗務員の目撃状況
(証拠略)によれば、本件当日第一列車の乗務員であった原口は、昭和六一年一月ころ、「本件当日第一列車に乗務した際、長浜踏切の三〇メートル東山代駅寄り左側線路脇に保線区職員三名が列車待避しているのを確認した。」旨の証明書を、同じく第一列車の乗務員であった東も、同じころ「本件当日第一列車に乗務した際、伊万里・東山代間の長浜踏切の東山代寄りに保線区職員三名を確認した。」旨の証明書を作成していること、右目撃状況について、当時国労伊万里保線区分会長であった仁科は右乗務当日東に確認し、後藤も同日第一列車の乗務員の所属する早岐機関区長を介して原口に確認していること、原口及び東は国労と対立関係にあった動力車労働組合(以下「動労」という。)に所属していたことが認められ、右各事実を総合すると、原口、東が各証明書作成当時も前記目撃状況についての記憶を有していた蓋然性は高く、かつ、当時対立関係にあった国労組合員である原告らの利益のためにことさら虚偽の内容の証明書を作成するということは通常考えられないから、原口及び東作成の前記各証明書の信用性を否定すべき理由はないというべきである。
一方、(証拠略)によれば、本件当日第二列車の乗務員であった藤木は、昭和六二年六月一一日、「本件当日第二列車に乗務した際、長浜踏切・有田川鉄橋(長浜踏切より伊万里駅側)間の線路脇に保線区員らしき人が二・三人いるのを見た。東山代駅・長浜踏切間には保線区員はいなかったと思う。」旨の証明書(以下「藤木証明書」という。)を作成していることが認められる。しかしながら、藤木証明書は原口及び東の各証明書の約一年半後に作成されたものであり、かつ、本件訴訟において原口及び東の各証明書が書証として提出された後被告事業団からの依頼で作成されたものであること及び藤木は右乗務当日勤務先である唐津運転区の上司及び同運転区に所属する原文雄から、それぞれ目撃状況について質問された記憶はあるものの、その具体的内容についての記憶を有していないことに照らすと、藤木証明書がその記憶に従って作成されたものであるか否かについては疑問の余地が大きい。
また、後藤は、本件当日午後七時ころ、唐津運転区長から、長浜踏切から伊万里駅方向へ約一キロメートル離れた地点にある有田川鉄橋の手前に国鉄職員三名がいたのを藤木が目撃している旨の連絡を受けたと供述するが、藤木が乗務した第二列車の通過後間もなく原告らが長浜踏切付近に見えた事実に照らすと、右供述は採用することができない。
6 以上2ないし5を総合して考察すると、
(1) 本件当日午前一〇時八分ころ及び九分ころ、被告藤井らがク点、a点、及びケ点から作業始点方向を見た際、原告らが東山代駅に停車しない急行の第一列車を待避するためにオ点付近の地面に座っていたとすれば、両者の間には、伐採作業が必要な程度に繁茂していたがその時点では刈りとられていなかったススキ等が存在し、被告藤井らは原告らの姿を認めることができなかった可能性が十分あること
(2) 原告らが同日午前一〇時九分ころから二〇分ころまでの間作業始点付近で草の伐採作業をしていたとしても、その間被告藤井らはサ点付近で原告らを探していたため、原告らを発見することができなかった可能性があること
(3) サ点と長浜踏切(ア点)との間の距離は約三〇〇メートルであり、カーブ及びススキ等の存在のためサ点から長浜踏切は見えず、少なくとも同踏切付近に立っている人物の下半身は見えないから、サ点からはその人物の立っている位置を正確に確認することは困難であって、オ点付近で原告らが立ち上がって線路に出た場合、サ点からは長浜踏切付近から出てきたようにも見える可能性があること
(4) 少なくとも、第一列車が本件当日本件現場を通過したときには原告らは本件当日予定されていた作業区域内にいたこと
が明らかである。
そうすると、藤木証明書並びに被告藤井及び被告眞子の各供述は原告らの本件職場離脱を証明するに足りず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
三 請求第一項について
二で述べたとおり、処分事由が認められないから、本件各懲戒処分は無効というべきである。
四 請求第二項について
1 請求原因3(1)及び(2)記載の各事実は原告ら及び被告事業団間に争いがなく、二で述べたとおり本件職場離脱の事実が認められないから、被告事業団は右(1)の金額から(2)の金額を控除した額の金員を支払う義務があるというべきである。
2 そして、本件職場離脱を理由として現実に給与の減額がされたのが昭和六〇年一一月二〇日であることは当事者間に争いがないから、遅延損害金の起算日はその翌日であると解すべきである。
五 請求第三項について
1 請求原因4(1)について
前述のとおり、被告藤井らは、その職務上の行為として、本件当日原告らの作業を監督するため本件現場に赴いたのであるから、職場離脱の疑いを抱いた場合も、機械的にその目撃状況を報告するのではなく、自己の認識に反する事実が存在する可能性がある場合にはこれを十分に調査したうえで上司に報告すべき注意義務があったというべきところ、本件現場はススキ等の繁茂や線路のカーブのため必ずしも見通しが良好ではなかったこと並びに第一列車及び第二列車があいついで本件現場を通過したことに照らすと、原告らの列車待避の主張に十分耳を傾けず、これを排斥して上司に対し本件職場離脱の報告をした被告藤井らには右注意義務違反の過失があったというべきである。
2 請求原因4(2)について
(証拠略)によれば、国鉄における懲戒処分決定に至る一般的手続は、現場長の九州総局長宛の上申により開催される賞罰委員会が処分の具体的内容を決定し、これを懲戒処分通知書により当該職員に通知し、弁明弁護の手続を経たうえ改めて賞罰委員会により処分内容が決定されて右総局長が発令するというものであったこと、総裁の懲戒権限を代行する者は事実の調査にあたっては資料を手落ちなく収集し、整備しなければならないこと(懲戒基準規程第四条)、事実を証明するため必要な場合は関係職員を参考人として出頭させることができ、参考人は出頭に応じ、真実を述べる義務があること(同規程第一八条)、本件においては、九州総局長に対する上申書には被告藤井及び被告眞子作成の現認報告書が添付されていたこと、弁明弁護の手続は昭和六一年一月中旬ころ開催されたこと、賞罰委員会は弁明弁護手続における原告らの主張を受けて現場長である後藤に乗務員に対する再調査を指示し、後藤は乗務員の目撃状況に関する陳述は食い違っているが、従前の認定に変化はない旨賞罰委員会に報告したこと及び再調査の過程において原口、東及び藤木に対する事情聴取はされていないことの各事実が認められる。
以上によれば、被告石井は、国鉄総裁の権限を代行して本件各懲戒処分をするに際し、乗務員の目撃状況に関する陳述に食い違いのあることが判明し、本件各懲戒処分の処分事由が存在しない可能性が生じた以上、第一列車及び第二列車の乗務員を参考人として取り調べる等して資料を手落ちなく収集する注意義務があったというべきところ、これをせず、被告藤井及び被告眞子の現認報告書のみを信頼して本件各懲戒処分をした被告石井には、右注意義務違反の過失があったというべきである。
3 請求原因4(3)記載の事実は当事者間に争いがない。
4 請求原因4(4)について
以上認定したところに加え、原田保彦及び仁科の各証言、原告らの各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、本件は、国鉄民営化をめぐる国鉄当局と国労との厳しい対立を背景とし、第一列車の乗務員の目撃供述等の原告らに有利な証拠があったにもかかわらず、これが十分に検討されないまま被告藤井ら及び被告石井の前記過失の結果懲戒処分がなされたものであり、前述のとおり本件各懲戒事由が認められない以上、右処分により原告らの名誉が侵害されたことは明らかであって、これに対する慰謝料としては原告らについて各五〇万円が相当である。
5 請求原因4(5)について
本件訴訟の内容、期間その他諸般の事情を考慮すると、弁護士費用のうち本件と相当因果関係を有する金額は原告らについて各一〇万円と認めるのが相当である。
五 以上のとおりであって、原告らが被告事業団に対して本件各懲戒処分の無効確認を求める請求(請求第一項)は理由があるからこれを認容し、原告浦川の被告事業団に対する請求(請求第二項)は未払賃金六九五円及び昭和六〇年一一月二一日から完済に至るまで右金員に対する民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、また、原告らの被告らに対する請求(請求第三項)は、被告らに対し不法行為による損害賠償請求として、連帯して、各六〇万円及び不法行為の後である昭和六一年四月二七日から完済に至るまで右各金員に対する民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度でそれぞれ理由があるから、右各限度でこれを認容するとともに、原告らのその余の請求を棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法八九条、九二条但書及び九三条一項但書を適用し、仮執行宣言はその必要性がないから付さないこととして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 生田瑞穂 裁判官 池田和人 裁判官 山之内紀行)