佐賀地方裁判所唐津支部 平成14年(ワ)113号 判決 2005年6月30日
主文
1 甲、乙事件被告Yは、甲、乙事件原告(丙事件被告)に対し、別紙1物件目録記載1ないし同4の不動産について、佐賀地方法務局唐津支局平成14年11月6日受付第12420号の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
2 甲、乙事件被告Yは、甲、乙事件原告(丙事件被告)に対し、別紙1物件目録記載2の建物から退去して、同目録記載1の土地を明け渡せ。
3 甲、乙事件被告Yは、甲、乙事件原告(丙事件被告)に対し、平成14年12月27日から前項の明渡し済みまで1か月10万円の割合による金員を支払え。
4 甲、乙事件原告(丙事件被告)のその余の請求を棄却する。
5 甲事件被告(丙事件原告)有限会社三富士興業の反訴請求を棄却する。
6 訴訟費用は、甲、乙事件原告(丙事件被告)に生じた費用の2分の1と甲、乙事件被告Yに生じた費用を、甲、乙事件被告Yの負担とし、甲、乙事件原告(丙事件被告)に生じたその余の費用と甲事件被告(丙事件原告)有限会社三富士興業に生じた費用は、本訴反訴を通じ、これを2分し、その1を甲、乙事件原告(丙事件被告)の負担とし、その余を甲事件被告(丙事件原告)有限会社三富士興業の負担とする。
7 この判決は、第2項、第3項及び第6項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1 甲、乙事件
甲、乙事件被告Y(以下「被告Y」という。)は、甲、乙事件原告(丙事件被告、以下「原告」という。)に対し、別紙1物件目録記載1ないし同4の不動産について、佐賀地方法務局唐津支局平成14年11月6日受付第12420号の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
2 甲事件
(1) 甲事件被告(丙事件原告)有限会社三富士興業(以下「被告会社」という。)は、原告に対し、別紙1物件目録記載1(以下「本件土地」という。)及び同2(以下「本件建物」という。)の不動産について、佐賀地方法務局唐津支局平成6年7月26日受付第8690号の抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。
(2) 被告Yは、原告に対し、本件建物から退去して、本件土地を明け渡せ。
(3) 被告Yは、原告に対し、平成14年12月27日から前項の明渡し済みまで1か月10万円の割合による金員を支払え。
3 丙事件
原告は、被告会社に対し、9498万4440円及びこれに対する平成5年3月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
(甲、乙事件)
本件は、原告が(1)被告Yに対し、所有権に基づき、①本件土地、本件建物、別紙1物件目録記載3及び同4の不動産について、所有権移転登記の抹消登記手続、②本件建物から退去して本件土地を明け渡すよう各求め、③本件土地及び本件建物を占有していることによる賃料相当損害金の支払を求め、(2)被告会社に対し、所有権に基づき、本件土地及び本件建物について抵当権設定登記の抹消登記手続を求めた事案である。
(丙事件)
本件は、被告会社が原告に対し、消費貸借契約または連帯保証契約に基づいて金員の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実等(証拠等の摘示のない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 本件土地及び別紙1物件目録記載3の各土地について、原告は、昭和44年12月7日相続を原因として所有権を取得した。
(2) 別紙1物件目録記載4の土地について、原告は、平成3年8月19日売買を原因として所有権を取得した。
(3) 原告は、平成3年12月18日ころ、本件土地上に、本件建物を建築した。
(4) 株式会社日建土地サービス(以下「日建土地サービス」という。)他が所有する別紙2物件目録記載の土地等について、根抵当権者を原告、債務者を日建土地サービス、極度額を1億5000万円、平成3年5月2日設定を原因とする、福岡法務局平成3年5月2日受付第17269号根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)設定登記がなされている(乙29)。
(5) 原告は、平成5年4月5日に被告会社との間で、別紙2物件目録記載の土地について本件根抵当権を目的とする転抵当権(以下「本件転抵当権」という。)を設定し、同月7日その登記手続きを了した(福岡法務局平成5年4月7日受付第11348号)(甲10)。
(6) 本件土地及び本件建物について、佐賀地方法務局唐津支局平成6年7月26日受付第8690号をもって、平成3年5月7日金銭消費貸借、平成6年7月26日設定を原因とする、被告会社への抵当権(以下「本件抵当権」という。)設定登記がなされている。
(7) 本件土地、本件建物、別紙1物件目録記載3及び同4の不動産について、佐賀地方法務局唐津支局平成14年11月6日受付第12420号をもって、同日売買を原因とする、原告から被告Yへの所有権移転登記(以下「本件移転登記」という。)がなされている。
(8) 被告Yへの訴状送達の日は、平成14年12月27日である。
2 争点
(1) 被告会社と原告との間で1億円の金銭消費貸借があったか。(全事件)
(2) 被告会社がA(以下「A」という。)に1億円を貸し付けたそのAの債務について原告が連帯保証したか否か。(全事件)。
(3) 原告と被告会社との間でなされた本件抵当権設定の合意は、有効になされたものか。(甲事件)
(4) 原告と被告Yとの間でなされた本件移転登記設定の合意は、被告Yの強迫によってなされたものか。(甲、乙事件)
(5) 被告Yが本件土地及び本件建物を占有するのは不法行為となるか。賃料相当損害金はいくらが妥当か。(甲事件)
3 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)(被告会社と原告との間で1億円の金銭消費貸借があったか。)
(被告らの主張)
被告会社は、原告に対し、平成3年5月7日、返済期を同年7月31日、利息を被告会社が銀行から借り入れる金利と同額として1億円を貸し渡した。
① 原告は、平成3年5月7日、A、B(以下「B」という。)とともに被告会社事務所を訪れ、被告会社代表者C(以下「C」という。)に対し、原告に1億円の融資をして欲しい旨申し入れた。
Cは、原告に対して1億円を貸し渡すために銀行から金利を支払って1億円を借り入れ、原告に対し、返済期を同年7月31日、利息を銀行からの借入金利と同額として1億円を貸し渡す旨約束した。
なお、CとA、Bとは初対面であった。
② 同日、Cは、原告及び被告会社の事務員D(以下「D」という。)とともに銀行に行き、被告会社名義で株式会社佐賀銀行(以下「佐賀銀行」という。)から6000万円、株式会社西日本銀行(以下「西日本銀行」という。)から4000万円をそれぞれ借り入れ、被告会社振出しのそれぞれ同額の銀行保証小切手を作成し、原告に額面合計1億円の小切手を渡した(以下、被告会社がなした当該融資(融資の相手方については争いがある。)を「本件融資」という。)。この際、被告会社は、佐賀銀行に161万1368円、西日本銀行に76万3205円の利息をそれぞれ支払った。
③ 原告が本件融資の返済をしなかったため、被告会社は、平成4年11月9日に西日本銀行に対して、平成5年3月1日に佐賀銀行に対してそれぞれ上記②の借入金の返済をしたところ、被告会社が両銀行に支払った利息合計は1198万4440円である。
被告会社は、平成3年11月25日に原告から受け取った、原告が代表者を務める昭和交通船有限会社(以下「昭和交通船」という。)振出しの額面1000万円の手形を同年12月27日に元本に組み入れ、平成3年7月30日にAが被告会社事務所に持参した日建土地サービス振出しの額面700万円の小切手を平成4年5月31日に利息に充当したため、両銀行に支払った1億1198万4440円から1700万円を控除した9498万4440円が平成5年3月1日の本件融資残額となる。
④ 原告は、自分は1億円を借りていないと主張するが、Cは、原告に対して合計1億円の銀行保証小切手を手渡していること、原告が昭和交通船の1億5000万円の小切手を被告会社事務所に持参したこと、本件融資の返済期日後、Dが原告に本件融資の返済を催促していること、原告がAを借主、自己を貸主とする公正証書を作成していること、CはA及びBとは初対面であり、人物を全く知らず、また、A、B及び原告がいかなる関係であるか知らなかったことを総合すると、Cが初対面のAに無条件で1億円もの大金を貸し付けるなどというのは荒唐無稽の話であり、被告会社の代表者であるCが幼友達の原告に1億円を貸し付けたのは明らかである。
⑤ よって、被告会社は原告に対し、9498万4440円及びこれに対する平成5年3月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求める。
(原告の認否・主張)
原告は、被告会社から金銭を借り入れた事実はない。
① 被告らの主張①については否認する。
② 同②のうち、被告会社が銀行に利息を支払ったという事実は知らない。
その余は否認する。原告は、Dらに同行して、佐賀銀行や西日本銀行に行っていない。
③ 同③の事実は知らない。
④ 原告が昭和交通船の1億5000万円の小切手を被告会社事務所に持参したのは、被告会社の強要によるものである。
原告は、Dから本件融資の返済を催促されていない。
原告がAを借主、自己を貸主とする公正証書を作成したのは、いわば被告会社から名義を貸すよう依頼されていたからである。
Cが初対面のAに無条件で1億円もの大金を貸し付けるなどというのは荒唐無稽の話であり、被告会社の代表者であるCが幼友達の原告に1億円を貸し付けたのは明らかであるという点は否認ないし争う。
⑤ 同⑤については争う。
(2) 争点(2)(被告会社がAに1億円を貸し付けたそのAの債務について原告が連帯保証したか否か。)
(被告会社の主張)
仮に、本件融資の貸付けがAに対するものであるとしても、原告が自己が代表者を務める会社の小切手あるいは手形を被告会社事務所に持参したこと、本件転抵当権の設定行為をしたこと等を総合すれば、少なくとも原告が被告会社のAに対する貸金を同日連帯保証したというべきである。
(原告の認否)
すべて、否認する。
(3) 争点(3)(原告と被告会社との間でなされた本件抵当権設定の合意は、有効になされたものか。)
(原告の主張)
① 強迫による取消し
本件抵当権設定登記の合意については、Cの強迫によるものであり、原告は、平成15年9月10日付け準備書面(3)をもって取消しの意思表示をし、同意思表示は同日被告会社に到達した。
② 虚偽表示による無効
仮に、平成6年7月末頃、原告と被告会社との間で、本件抵当権設定登記について合意がなされていたとしても、Cから銀行に説明をするだけの格好だけのものであると言われて合意したものであるから、これは通謀虚偽表示によるものであり、無効である。
③ したがって、本件抵当権設定登記の合意は無効であり、本件抵当権設定登記もまた不実の登記として無効である。
(被告会社の認否)
すべて否認する。
(4) 争点(4)(原告と被告Yとの間でなされた本件移転登記設定の合意は、被告Yの強迫によってなされたものか。)
(原告の主張)
平成14年11月6日、原告と被告Yとの間で本件移転登記の原因となるような何らかの合意がなされたとしても、これは被告Yの強迫によるものであるから、原告は、平成15年9月10日付け準備書面(3)をもって取消しの意思表示をし、同意思表示は同日被告Yに到達した。
したがって、本件移転登記の合意は無効であり、本件移転登記もまた不実の登記として無効である。
(被告Yの認否)
すべて否認する。
(5) 争点(5)(被告Yが本件土地及び本件建物を占有するのは不法行為となるか。賃料相当損害金はいくらが妥当か。)
(原告の主張)
平成14年12月初めころから現在に至るまで、被告Yは、本件建物の鍵を交換するなどし、原告ら家族が立ち入れないようにして本件土地及び本件建物を占有している。
本件土地及び本件建物の賃料相当額としては月10万円を下らない。
よって、原告は被告Yに対し、平成14年12月27日から同不動産の明渡し済みまで1か月10万円の割合による金員の支払を求める。
(被告Yの主張)
被告Yは、正当な権原により、本件土地及び本件建物を占有しているものである。
第3判断
1 争点(1)、(2)について
(1) 末尾記載の証拠によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠は採用できない。
① 原告は、平成4年ころまで、定期船、貨物船とホテル業を業とする昭和交通船の代表取締役であり、平成6年ころまで七ツ釜観光の遊覧船の株式会社呼子グラスボートセンターの代表者であった者であり、平成3年5月ころは、呼子商工会理事を務めていたが、現在は無職である。
Cは、昭和48年6月に被告会社を設立し、以来、代表者を務めている者であり、平成15年12月現在で、社団法人日本砂利協会の会長、呼子町議会議長、唐津東松浦観光ネットワーク会長を務めており、平成3、4年ころは、唐津湾海区砂採取協同組合(以下「砂組合」という。)理事、社団法人海砂部会会長及び呼子町議会議員を務めていた。
原告とCは、学年はCが1年上であるが、地元の同じ小学校及び中学校の卒業生同士であり、呼子町の商工会の理事長をCが務めていたころ、原告が理事であって、商工会活動を通じて関わりが相当程度深くなったものであり、Cは、昭和交通船の所有する船舶の進水式祝賀会に出席し、原告の長女の結婚式に出席するなどしていたものである。
Aは、有限会社五岳商事(以下「五岳商事」という。)及び日建土地サービスの代表取締役であり、Bは、不動産仲介を仕事としており、アメニティジャパン株式会社(以下「アメニティジャパン」という。)の代表取締役である。
(甲4、乙25、証人E、原告本人第1回、被告会社代表者)
②ア 平成3年3月10日ころ、当時原告が所有していたホテルの売却の仲介を依頼していたBから原告に対し、博多駅前の土地を整理して転売する計画(以下「本件土地転売計画」という。)があり、土地買収資金が1億円ほど不足しているため、その1億円を融資してくれる人物はいないかとの相談が電話であった。
イ 同月15日ころにも、B及びAが呼子町に来て原告との面会を求めたので、呼子町内の喫茶店にて面会して本件土地転売計画について説明を受けたところ、原告とAはこのときが初対面であった。その際、原告はAらに対して、Cが呼子内では大きな事業をしている旨答えた。
ウ 同月25日ころ、被告会社事務所において、B、A、原告及びCらが集まり、本件土地転売計画に関する融資について話を進めた。
エ 同年4月中旬ころ、原告、原告の妻であるF(以下「F」という。)及びCは、福岡市内のBの事務所に行き、本件土地転売計画の現地をBから案内された。
オ 同年5月2日、本件根抵当権設定登記手続がなされた。
カ 同年5月7日、Cは、預金担保で西日本銀行から4000万円を借り受けてDが同金額の小切手を受領し、佐賀銀行から6000万円を借り受けてDが同金額の小切手を受領し、被告会社事務所において、C、D及び原告の面前でAが同2枚の小切手を受領した。
Cは、五岳商事が日建土地サービスを受取人として振り出した、満期日が平成3年7月31日である、額面が1億円の約束手形と額面が5000万円の約束手形をAから手渡された。
(乙3、乙4、乙29、証人F、原告本人第1、2回、被告会社代表者)
③ 原告は、同年7月9日に、自己を債権者、日建土地サービスを債務者、アメニティジャパンを連帯保証人として平成3年5月7日に返済期限を同年7月31日と定めて1億円を貸し渡した旨の公正証書を、債務者及び連帯保証人については代理人に委任して、作成した(甲14、乙28、原告本人第2回)。
④ 同年7月末ころ、Aは、被告会社事務所において700万円の小切手を振り出し、Cに渡した(乙2の1、証人D、原告本人第1回)。
⑤ 同年9月24日ころ、Aは、五岳商事振出しの少なくとも額面1億円の小切手をDに渡した(乙2の1、証人D、被告会社代表者)。
⑥ 同年10月初めころ、原告は、昭和交通船振出しの、同月11日を振出日とし、額面1億円の小切手及び同月15日を振出日とし、額面5000万円の小切手を各作成し、C側の人物に手渡した(甲4、乙5、乙6、証人D、原告本人第1回)。
⑦ 原告は、前項に記載する2通の小切手の決済ができそうになかったため、C側の人物にその旨相談すると、5000万円の小切手を分割した約束手形を振り出すよう電話にて要求されたため、昭和交通船振出しの約束手形6枚を作成してC側の人物に手渡した。
すなわち、平成3年11月末ころ、額面が2000万円、振出日が平成3年11月25日、支払期日が平成4年1月25日と記載された約束手形、額面が1000万円、振出日が平成3年11月25日、支払期日が平成3年12月25日と記載された約束手形、平成4年3月26日に額面が300万円、振出日が平成4年3月26日、支払期日が平成4年4月30日と記載された約束手形、額面が300万円、振出日が平成4年3月26日、支払期日が平成4年5月30日と記載された約束手形、額面が400万円、振出日が平成4年3月26日、支払期日が平成4年6月30日と記載された約束手形、額面1000万円の約束手形を各振り出した。
同6通の約束手形のうち、最初に支払期日が到来した額面が1000万円の約束手形1通については、原告は、金融機関から借金をして決済をしたが、その余の約束手形については、決済されず、額面300万円の約束手形2通については、それぞれ支払期間内に呈示されたが、被告会社から金融機関に返却を依頼しており、決済されていない。
(甲4、乙7の1、2、乙8の1、2、乙9の1、2、乙10の1、2、乙26、証人D、原告本人第1回)。
⑧ 平成4年12月17日ころ、原告は、Cの意を受けた同人の長男であるE(以下「E」という。)の面前にて、被告会社に対して、平成4年12月31日までに1億円とその利息が返済できない場合は、自宅と事務所に担保設定されても異議はない旨の同意書(以下「本件同意書」という。)を作成し、これをEに手渡した(乙12、証人D、証人E、原告第1回)。
⑨ 平成5年4月5日、Dと原告は唐津市内のG(以下「G」という。)司法書士事務所に赴き、Dの持参した別紙2物件目録記載の不動産に関する原告を債権者とする根抵当権設定登記済証書を利用して、本件転抵当権を設定する旨合意し、同司法書士はさらに福岡市内の司法書士にその旨の登記手続きを委任して被告会社と原告とはその旨の登記を了した(甲10、乙27、証人G、証人D、原告本人第1回)。
⑩ 平成6年7月ころ、原告は、CからBの同席する唐津市内のホテルに呼び出され、物的担保を設定するよう要求され、同月26日に本件抵当権設定登記手続をした。
また、B所有の宮崎市<以下省略>所在の共同住宅について、債務者を原告、債権者を被告会社、極度額を5000万円とする平成6年8月19日設定を原因として、平成6年9月28日付けで根抵当権設定登記手続がなされている。
(甲17、証人D、原告本人第1回、被告会社代表者)
⑪ 原告は、平成14年10月31日に電話にてCから呼子町役場議会事務局にまで来るようにといわれたため、平成14年11月1日午後1時ころ、同所に赴いたところ、被告YとHがCとともにおり、Cは原告に対して、本件融資の債権を被告Yに譲渡するので、今後Cは本件融資とは関係のない旨通告した。
その場において、被告Yは、原告に対して本件融資の返済をするよう告げ、原告は、被告Yに対して、福岡の不動産屋から物件を造成するために金銭を貸すよう依頼を受け、Cを紹介したが、だまされたなどと言った。
被告Yは原告に対し、同年11月3日に唐津市内のホテルにて本件融資の返済について話合う旨原告に告げ、その際に、利息として約300万円を持参するよう約束させた。
被告Yと原告とはその時が初対面であった。
(甲4、乙24、証人F、原告本人第1回、被告会社代表者、被告Y)
⑫ 同月3日午後2時ころ、原告と被告Yとは、唐津市内のホテルのロビー兼喫茶室において、待ち合わせをして会い、被告Yは、原告に対し、被告Y宛の借用証を書くよう依頼したが、同借用証の作成には至らず、その場にて、原告は、被告Yから、本件融資の返済が10年間なされておらず、他方、原告は船舶及びホテルを売却し、立派な自宅を建築して居住しているのであるから、本件融資の返済をしないというのは人間ではない旨告げられた。それに対して、原告は、支払を一応拒否したが、被告Yは原告と同月5日に同喫茶室にて再度待ち合わせをした(甲4、原告本人第1回、被告Y)。
⑬ 同月5日に被告Yが唐津市内のホテルのロビー兼喫茶室にて原告の訪れを待っていたが、原告は、訪れなかった。
そこで、被告Yは、自らまたはいわゆる取立屋らしき人物をして原告宅に赴き、原告が帰宅するのを待ったが、原告がそれに気付いて警察署に相談をしに行き、警察官とともに夜遅く帰宅すると、原告に対して、被告Yに連絡をするよう記載した紙が玄関に貼られていた。
(甲4、証人F、原告本人第1回、被告Y)
⑭ 被告Yは、同月6日午前7時ころ、原告宅に赴き、玄関先にて大声で原告を呼びつけ、原告が玄関の扉を開けて応対に出るや、約束を守らなかったことを非難し、原告の胸ぐらを掴んだまま、人から金銭を借りていて、返さないで逃げ回るのは、人の道に外れており、人間ではなく、法律がなかったら、原告のような者は殺したいぐらいである旨感情的に怒鳴りつけ、原告の胸ぐらを放す際に原告を突き飛ばした。
被告Yが原告に対して暴言等をやめなかったため、Fは110番通報し、警察官が臨場したが、被告Yから債権の取立てであって警察官は関係ないと言われ、原告も警察官に対して何ら告げることはなかったため、同警察官は間もなく帰った。
警察官が帰った後、約1時間の間、被告Yは、原告に対し、本件融資の返済ができなければ原告の自宅を提供するよう要求し、登記済証を出せと怒鳴り続けた。原告はFに登記済証及び印鑑を持って来させ、原告と被告Yとは、同日午前10時半ころ呼子町役場まで赴き、印鑑登録証明書の発行を同役場に求めたが、印鑑登録証を持参していなかったため、かなわず、結局、印鑑登録証の亡失届及び廃止届をし、持参していた印鑑で新たに印鑑登録をし直し、印鑑登録証の発行を受け、住民票の交付も受けた。その後、原告は、唐津市内の司法書士事務所まで被告Yと同行し、原告と被告Yは、同司法書士を本件移転登記手続の代理人と定め、本件移転登記手続を了した。
他方、Fと原告の長女は、呼子町役場まで赴き、原告の印鑑登録の抹消を申し出たが、原告本人の申し出か原告本人の委任状がなければ申請を受付けることはできない旨教えられたため、1度帰宅して委任状のようなものを用意して同町役場に再度赴き、原告の印鑑登録を抹消する手続きをした。
(甲4、甲8、甲19、甲29、証人F、原告本人第1、2回、被告Y)。
(2) 以上の事実及び前示争いのない事実等を前提として原告と被告会社との間に1億円の金銭消費貸借契約または1億円の金銭消費貸借に関して連帯保証契約が締結されたか否かを判断する。
① Cの供述とその認識
まず、Cは、平成3年5月7日に初めて原告から砂組合事務所において、原告の友人が不動産に関する事業をしており、急に1億円が必要であるという相談を受けているので、1億円を貸してくれないかと言われ、1億円を用立てることに決め、被告会社事務所に行ったところ、同事務所玄関にCとは初対面のBとAがいたと供述している。
しかしながら、甲第12号証によれば、西日本銀行からの平成3年5月7日の借入れについては、同月2日に被告会社が西日本銀行に予め申込みをしていたことが認められ、前示(1)②ウのとおり、Cは、平成3年3月25日ころBと面談していることからすると、平成3年5月7日になって初めて本件融資の話を聞き及んだのではなく、遅くとも平成3年3月末には認識していたものと推測される。
② 5000万円の報酬約束
そして、前示争いのない事実等記載のとおり、本件根抵当権の極度額は1億5000万円であり、乙第3、第4号証及び被告代表者尋問(159項)の結果によれば、本件融資がなされた直後、AはCに五岳商事振出しの額面合計1億5000万円の約束手形を手渡したことが認められる。
また、甲第10号証、乙第2号証の1、同第26号証及び証人Dの証言によれば、Cが本件融資に関して額面が合計1億5000万円の五岳商事振出しの約束手形を受け取っていたが、平成3年7月30日に日建土地サービス振出しの額面700万円の小切手を取得し、その決済が済んでいるとDが本件転抵当権設定登記手続の依頼をした司法書士に対して話し、その結果、本件転抵当権の債権額が1億4300万円に決定されたことが認められ、それは、貸付金1億円から前示700万円を差し引いた金額に貸付けの報酬金5000万円を加えた金額であると解され、ただ、平成3年11月25日に原告から受け取った額面1000万円の昭和交通船振出しの約束手形については、同年12月27日に決済済みであったが、同司法書士とのやり取りの中においては、本件融資の回収額に加えることはなかったことが認められる。
さらに、甲第4号証によれば、Aは、本件土地転売計画どおり、土地を転売することができた場合には、本件融資の謝礼として5000万円支払う旨、Cと約束したことを原告は聞いたことが認められ、乙第25号証によれば、Cが、原告から、本件融資を行えば、Aから5000万円の謝礼が提供される旨聞いたことが認められる。
さらに、本件融資のなされた平成3年5月ころは、その直前まで土地転売利益がかなり見込まれ、いわゆる地上げが横行し、そのバブルの崩壊する兆しが窺われ始めた微妙な時期であることは公知の事実であり、同時代背景に照らすと、報酬を5000万円とすることもあり得ると解される。
以上の認定の事実等からすると、Aから本件融資に関し、5000万円の報酬を支払う旨の申し出ないし約束があったと認めるのが相当である。
③ 原告の債務の有無
そして、証人Dの証言及び被告会社代表者尋問の結果によれば、前々から被告会社の経理に携わる者として、Dは本件融資の回収について、Cからある程度任されており、同回収の手続きに関し、事後あるいは事前にCの承諾をとっていることが認められるところ、前示②のとおり、本件転抵当権の債権額が1億4300万円になっているが、本件転抵当権の設定登記手続の際には、昭和交通船振出しの額面1000万円である約束手形については、決済が済んでいたにもかかわらず、当該1000万円を1億5000万円から差し引かず、日建土地サービス振出しの決済済みの小切手についてのみ1億5000万円から差し引いていること、並びに、前示(1)②カのとおり、Cが本件融資に際して受け取ったのは五岳商事が振り出して受取人が日建土地サービスである約束手形であり、原告または原告が経営する会社等の約束手形ではないこと、前示(1)④のとおり、本件融資の返済期限である平成3年7月31日ころに、本件融資の利息分として被告会社が日建土地サービスの小切手700万円を受け取っていること等からすれば、Cが本件融資に関し、支払を請求する相手はAであることが認められる。
この点、確かに、本件融資を担保するものとして、被告会社に対して本件根抵当権の譲渡ではなく、本件転抵当権の設定がなされている。しかしながら、証人Gの証言及び原告本人尋問(第1回)の結果によれば、原告は、G司法書士の説明した転抵当という概念を根抵当権の譲渡という概念との比較においてその内容を理解することができなかったことが認められ、したがって、本件転抵当権の設定をもって被告会社が原告に融資をし、その原告がAに融資をしたと認めることはできない。
また、確かに、原告が日建土地サービスに1億円を貸し渡したという公正証書(乙28)が存在する。しかしながら、被告会社が原告に金銭を貸し付けたという内容の公正証書は本件全証拠を検討するもなく、したがって、原告の日建土地サービスに1億円を貸し渡したという公正証書(乙28)の存在することのみをもって、本件融資の相手方が原告であると認定することはできない。
したがって、被告会社の、原告が平成3年5月7日の本件融資の相手方であり、借主であるという主張も、Aの連帯保証人であるという主張もともに採用できない。
④ 原告の本件融資への関わり
原告本人尋問(第1回)の結果によれば、平成3年3月25日ころ、原告が被告会社からの1億円の借り手になってくれるなら本件融資を前向きに考える旨Cが原告に話し、原告が平成3年5月7日にも本件融資に際して少なくとも立ち会ったことが認められる。また、被告会社代表者尋問の結果によれば、Aに対する連絡は当初、原告を通じてなされたことが認められ、証人Gの証言によれば、本件転抵当権の設定登記の際、Aの住所を原告がG司法書士に教えたと認められ、証人Dの証言及び被告会社代表者尋問の結果によれば、Cは原告から渡された小切手や手形を取立てに回さないよう指示をしてDに手渡すことが多かったことが認められ、前示争いのない事実等記載のとおり、本件根抵当権の根抵当権者が原告であり、債務者が日建土地サービスであるという本件根抵当権設定登記手続がなされていること、前示(1)③のとおり、平成3年7月9日に債権者を原告、債務者を日建土地サービスとする公正証書が作成されており、原告本人尋問(第2回)の結果及び同証書が被告らから証拠として当裁判所に提出されたという弁論の全趣旨によれば、原告が同証書を作成する手続きを直接とり、原告は同証書をCに渡したと認められる。
以上の事実を前提にすると、平成3年3月以降、原告がCにもちかけた話として両者で本件融資をすべきか否か検討が重ねられ、原告は、本件融資に消極的であったが、Cが被告会社の資金でもって、Aらに融資したと認定するのが相当である。
この点、原告は、原告本人尋問(第1回)において、Bらから呼子で大きな事業をしている人を知らないかと尋ねられて、ちょっとCの名を挙げただけであり、BらにCを紹介したわけではない、また、Cが本件融資に乗り気であったため、本件融資はしない方がよい旨Cに再三忠告をした旨供述するが、甲第4号証の陳述書には、原告がCをAらに紹介したと原告自身供述していることなどからすると、原告本人尋問(第1回)における原告の供述をたやすく信用することはできない。
なお、原告もCも、当裁判所に提出した陳述書の内容を熟読したと供述するが、原告本人あるいは被告会社代表者尋問においてその供述内容が陳述書の記載と異なっている部分が多々認められる。例えば、原告の陳述書(甲4、3頁)には、本件融資に際し、日建土地サービスは原告に対する借用書を用意していたと記載されているが、原告本人尋問(第1回)の際には、借用書ないし契約書について尋問されたにもかかわらず、自己宛の借用書については触れていない(94項以下)し、また、原告の陳述書(甲4、3頁)によれば、原告はAらにCを紹介しており、本件根抵当権が勝手に原告を債権者として設定されていることを原告がCに抗議した際に、Cは原告に、原告が紹介したのであるから、名前ぐらい貸してくれてもよいだろうと告げて原告を説得した旨記載しているのに対して、原告本人尋問(第1回)の際には、同紹介はしていない旨供述し、本件根抵当権の設定に関してはCの名前は出すことができないので原告の名前ぐらい貸してくれてもよいだろうということのみ告げて原告を説得した旨供述しており(101項)、さらに、原告の陳述書(甲4、4頁)によれば、平成3年の暮れころ、有限会社三松興業(以下「三松興業」という。)事務所において、原告はCやI(以下「I」という。)らに強迫されて、被告会社宛の借用書を書かされ、昭和交通船を振出人とする約束手形3枚(額面合計5000万円)を振り出すに至った旨記載されているが、原告本人尋問(第1回)において、同日には、1億円の借用書の作成と1億円と5000万円の小切手の振出しをIやEらに強要された旨供述しており(154項以下)、原告の陳述書(甲4)には、乙第12号証作成の経緯についてEらから強迫されたという事実の記載がない。
他方、被告Yに本件融資の取立てを依頼した経緯について、Cの陳述書(乙25)の記載とCの供述とでは齟齬がある。
これらの齟齬ないし差異は、重要な部分において、真実が、陳述書の内容とも、本人あるいは代表者尋問の結果とも異なるために生じたものであると考えざるを得ない。
2 争点(3)について
(1) 1(1)認定の事実に証拠を加えれば、以下の事実が認められ、これに反する証拠は採用できない。
① 前示1(1)⑥のとおり、平成3年10月初めころ、原告は、昭和交通船振出しの、同月11日を振出日とし、額面1億円の小切手と同月15日を振出日とし、額面5000万円の小切手を作成し、C側の人物に手渡している。
同小切手2通が、原告からC側の人物に手渡された経過について当事者間に争いがあるのでこの点を判断する。
乙第34号証各号によれば、平成3年5月7日当時、西日本銀行は被告会社に対する融資にあたり、CとIが西日本銀行と被告会社との間の銀行取引約定書に基づく一切の取引に対する包括保証の保証人であったが、平成16年2月27日現在において、Iは当該保証人ではないことがそれぞれ認められる。また、証人E及び証人Fの証言並びに原告本人尋問(第2回)の結果によれば、Iは地元において逆らうことができず、非常に恐れられている人物であること、原告は、結局、同小切手2通を決済することができず、前示1(1)⑦のとおり、別の約束手形を振り出したこと、甲第30号証及び原告本人尋問(第1回)及び弁論の全趣旨によれば、昭和交通船は、当時、資本金額が50万円の、従業員数が10人程度の有限会社であったことがそれぞれ認められる。
そして、同小切手2通を原告が被告会社側に渡した経緯について、まず、原告は、要旨、Iから、Iの経営する三松興業事務所に電話で呼びつけられたため、同事務所2階にある社長室に赴いたところ、I、Eのほかに、被告会社従業員のJなど、合計6、7名の男性がおり、同人らから囲まれて本件融資の支払をしなければ、家族を含めて恐ろしい目に遭う旨脅されて本件融資の支払を求められ、被告会社宛の1億円の借用書を書かされ、次に、昭和交通船事務所に戻って1億5000万円の小切手を作成するよう要求され、被告会社従業員Jが昭和交通船事務所まで原告に付き添い、同所にて、同Jに額面1億円及び同5000万円の小切手を手渡したと供述する。これに対して、被告会社代表者は、同小切手2通を原告から直接受け取ったことはないと供述し、証人Dは、同小切手を原告が直接被告会社事務所に持参したわけではないと当初証言し、その後、原告代理人からD作成の陳述書には、原告が被告会社事務所に来て、五岳商事振出しの額面合計1億5000万円の手形と交換した旨の記載があると指摘を受けて、同陳述書の内容と同じ証言をするに至っている。
まず、原告は、同小切手2通を振り出した経緯について詳細に供述しているのに対し、被告会社代表者は、ただ、自己は同小切手2通の受取りに関与していない旨供述するだけであり、被告会社の経理担当者たるDについては、その証言に理解しがたい変遷があり、原告から同小切手2通が被告会社側に渡った経緯に関する証人Dの証言は信用性が低いといわざるを得ない。
ただ、原告の供述は、その内容は、Iが原告を強迫したというものであるから、証人Dの証言が信用に値しないということから直ちに原告供述の信用性を肯定するのではなく、一定の吟味が必要であるところ、証人Dの証言及び乙第34号証各号によれば、被告会社が西日本銀行から4000万円を借り入れるに際し、預金を担保とすることができたため、申込みから早期の借入れが可能となったが、被告会社の西日本銀行に対する債務については前示のとおりIが包括保証していたのであるから、Iは本件融資に関し、ある程度強い利害関係にあったこと、記録によれば、Iは被告会社の取締役を平成4年12月7日まで務めていること(裁判所に顕著な事実)、乙第27号証、甲第30号証及び同第31号証によれば、原告所有のホテルが平成4年9月21日に売却されたが、その代金は5000万円であると推定され、1億5000万円という金額は原告にとって容易な金額とはいえないこと、Fの証言及び原告本人尋問(第2回)の結果によれば、Iは地元において恐ろしがられた人物であったこと等がそれぞれ認められることからすると、原告は、Iから、強迫されて、同小切手2通をIに人を介して渡し、IからCないしDに同小切手2通が渡ったと認めるのが相当である。
② そして、前示1(1)⑦記載のとおり、後日、同小切手2通の支払について原告が支払うことは不可能であると、原告がC側の人物に告げたため、同人は、原告に対し、同小切手2通の代わりに手形を振り出すようにと電話にて要求し、原告は、額面合計5000万円の約束手形を振出人を昭和交通船として振り出し、同約束手形のうち、額面1000万円の約束手形のみ地元の信用組合から融資を受けて支払い、その余の約束手形については、原告は支払うことが困難であるとして、取立てに回すことを控えてもらったことがそれぞれ認められる。
③ 次に、原告の供述する、平成4年6月ころ、原告がIに呼ばれ、三松興業事務所に監禁されたか否かについて検討する。
この点、原告(第1回)は、Iから、北九州市にA、E及び三松興業の従業員が5億円の借金の手配をするために行っており、その借主に原告がなり、その後、その支払をせずに姿を消すように言われた旨供述し、監禁された状況、例えば、その日の天気、Aらが事務所に戻って来た時間、自己が解放された時間等について具体的に供述している。
そして、Fの証言によれば、原告が監禁されたという日時に原告の所在が一時不明となったことが認められ、他方、この点に関するEの証言は、Eは、本件融資の後にAとともに小倉に赴いたことが1度あったものの、その目的はどうしても思い出せないというものであり、証人Eの証言によれば、EとAがともに小倉に赴くことは1度限りであったことが認められるのであるから、その目的を思い出せないというのは、Eにとって不利なものであるからであると推測される。
以上のことからすると、原告は、平成4年6月ころ、三松興業事務所において、EとAらが小倉に金銭を借りる段取りをつけるために赴いている間、その場から立ち去ることができない状態にされたことが認められる。
④ さらに、乙第37号証、証人Eの証言及び原告本人尋問(第1回)の結果によれば、平成4年10月ころ、Eは、本件融資の回収のために、被告会社の従業員とともに原告を捜していたところ、原告が仕事先にいなかったため、原告宅に赴いて原告を呼びつけたところ、Fが応対に出て口論となり、警察を呼ぶ、呼ばないという事態になったが、原告の長女の取りなしでその場はそのまま収まったことが認められる。
⑤ そして、平成4年12月17日ころ、本件同意書を作成するに至った経緯について検討する。
この点、原告(第1回)は、以前から原告の自宅を本件融資の担保とするようCから度々依頼されていたが、砂組合事務所2階にEから呼ばれ、Cの出張中に本件同意書を作成するようにCから指示を受けているが、本件同意書を作成しなければ、ひどい目に遭うと告げられたため、本件同意書を作成したと供述し、これに対して、Eは、Dに呼ばれて被告会社事務所に行ったところ、しばらくして原告が訪れ、原告が本件同意書を作成したと証言し、Dは、本件同意書が作成された深い事情は分からないが、同月25日に支払期日が到来する約束手形等の支払ができないという相談を原告がして、原告は本件同意書を被告会社事務所にてDとEの面前にて穏やかに作成した旨証言する。
まず、本件同意書は、欄外下に「三富士興業」という名称とその電話番号が印刷された罫紙であり、被告会社宛(但し、記載は「三冨士興業殿」)で、12月31日までに1億円と利息の返済ができない場合には、担保設定されても異議のない旨記載され、その下欄に自宅と題してその所在地が、事務所と題してその所在地が各記載され、作成年月日である平成4年12月17日との記載がされ、原告の署名と拇印が押されている。
関係各人の供述の信用性を判断するに、証人Dの証言は、原告が当日、約1週間先に支払期日の到来する約束手形等の支払の猶予のために原告自らが来たと証言するが、前示1(1)⑦記載のとおり、その前年の平成3年12月25日に支払期日の到来する約束手形は存在したが、平成4年12月25日に支払期日の到来する約束手形等は、本件全証拠を検討するも、存在しないことからすると、同証言は虚偽といわざるを得ない。
また、Eは、Dから原告が来所するので確認のため来るよう依頼されたにもかかわらず、原告が本件同意書を作成する話し合いの席には同席しなかったため、本件同意書が作成された経緯ないし自己が原告をどのように説得したかについて的確な証言ができないでおり、原告代理人から本件同意書を作成させるために話に加わったのではないかと詰問されるや、その時には少し話に加わった旨証言するなど、全体的にあいまいであり、かつ、具体性に乏しい。
他方、原告の供述する、EからCの出張中に本件同意書を作成するように言われたという供述は、証人E及び証人Dの各供述と比較すると、具体的であり、信用性が高い。
また、本件同意書は、その体裁からするに、途中、「壱億及び利息が」という挿入句があるものの、挿入印はなく、印影も拇印であって、到底、そのままでは抵当権設定証書となるものではなく、むしろ、とりあえず記載し、作成したという感が否めないものである。
そして、本件転抵当権設定登記手続を司法書士に委任する場合等のように、予め重要書類の作成が予定されている時は、原告は、実印を持参するのであり、本件同意書作成の際に実印は持参していないことからすると、原告は予め本件同意書の作成を予定してEに面会したと認めることはできない。
しかも、甲第34号証、証人Fの証言及び原告本人尋問(第1回)の結果によれば、本件同意書中、担保権を設定されても異議はないという「事務所」については、その所有名義はFであり、本件同意書作成中に原告はそのことに気付いたが、その点をEに告げなかったことすら認められる。
以上の事実を総合して、判断するに、原告は、Eから、Cが原告の所有不動産に本件融資の担保権を設定するよう要求している旨伝えられ、Cの出張中に本件同意書を作成しなければ、Cから何をされるか分からないと感じてEの面前にて作成したものであると認められる。
⑥ そして、前示第2、1(5)記載のとおり、本件転抵当権が設定されたところ、それは、証人Dの証言及び原告本人尋問(第1回)の結果によれば、D及び原告がG司法書士事務所に赴いて手続きを同司法書士に依頼して設定されたものである。
(2) 以上の事実を前提に、平成6年7月26日に設定された本件抵当権の設定契約が強迫によるものであるか否かについて判断する。
① 甲第9号証によれば、本件抵当権の設定登記は、原告及び被告会社が佐賀県東松浦郡(現佐賀県唐津市)鎮西町所在の司法書士を代理人と定めて、原告については、平成6年7月19日付けの印鑑登録証明書を添付してなされたものであるところ、同司法書士に対する委任状には原告の署名がなされ、実印が押捺されていることが認められる。原告は、Cから、平成6年7月ころに、唐津市内のホテルにて、本件融資の返済金を調達できなければ、担保を設定するよう要請され、その担保を設定しなければ、いわゆる取立屋に頼むことになる旨通告され、その2、3日後にも電話にて担保権設定の手続きをするかどうか見張りを付けている旨通告され、それまで、IやEから本件融資の返済をするよう強要されるなどしていたため怖くなってやむを得ず、本件抵当権の設定手続きを行ったと供述する。
② 前示1(2)④のとおり、本件融資は、そのきっかけこそ原告が作り出したが、原告とCとが検討を重ねて熟慮の末に決定されたものであり、金銭的に比較的余裕のあった被告会社が本件融資の資金を調達したというものであり、本件融資の回収が困難になり、原告としては、ある程度責任を感じるのは通常であると解される。
また、Iから振出しを求められた額面合計1億5000万円の小切手については、原告から金銭的な余裕がなく、銀行に支払呈示を行わないよう要請されたため、Cは、同小切手を銀行に支払呈示していない。
さらに、同小切手の代わりに振出しを求められた約束手形6通については、約束手形1通のみ手形金の支払がなされ、残余については、決済に回されず、あるいは、依頼返却で決済がなされていない。
これらの事情からすると、原告は、ある程度、C側の人物から強要されて小切手あるいは約束手形等を自己の経営する会社名義で振り出すが、それを取立てに回さないようにC側に依頼して、1000万円の約束手形の決済を除くと、本件抵当権の設定当時までに、ほとんど経済的打撃を受けていない。原告の主張する、Cらに対する恐怖心が極限にまで至っていたならば、取立てに回さないようにとの依頼は通常はできないものである。したがって、原告としては、小切手等経済的価値のあるものを交付をしたとしても、その場さえ過ぎれば、それを取り返し、あるいは、決済されずにすむものであると認識する状況にあったと解される。
したがって、本件抵当権の設定についても、いわゆる仲間内のことであり、1度その手続きを行いさえすれば、Cは満足するのであり、実際に、競売等に付されることはないとの認識の下に同手続きを行ったものと認めるのが相当であり、したがって、Cらから、強迫までに至らなくとも、指示を受けさえすれば、同手続等をとるものであると推認され 本件抵当権の設定当時、Cらの強迫行為があったと認定することはできない。
③ 以上により、原告の、本件抵当権の設定契約が強迫によるものであるとの主張は採用できない。
(3) 次に、本件抵当権設定契約が通謀虚偽表示によるものであるか否かについて検討するに、本件全証拠によるも、被告会社側の者らが、原告に対して本件融資の返済を請求し、本件融資について担保の設定を受けようとしていた状況等からするに、直ちに本件抵当権を実行するか否かは別として、被告会社が全く形だけのものとして本件抵当権を設定したと認めることはできない。
(4) よって、本件抵当権設定の合意は有効であるといわざるを得ない。
3 争点(4)について
(1) 末尾記載の証拠等によれば、以下の事実が認められ、これに反する証拠は採用できない。
① 本件抵当権の設定登記後は、特に原告とCとの間で本件融資に関し、取立等の動きはなかった(証人F、原告本人第1回、弁論の全趣旨)。
② Cは、本件融資の回収が困難であったため、平成14年10月にH(以下「H」という。)に相談したところ、Hは友人の被告Yに任せるのがよかろうとの助言をしたため、Cは、以前被告Yから金銭を借りるなどしており、被告Yに原告が代表者を務める会社の約束手形等の一切の書類を示して本件融資の回収を打診したところ、被告Yは、本件融資の債権を自己に譲渡し、一切の取立ての権限を任せるよう希望したため、同月末ころ、Cは、被告Yに対し、本件融資に関する一切の権限を委任し、債権譲渡書と委任状を渡した(乙24、乙25、被告会社代表者、被告Y)。
③ 前示1(1)⑪のとおり。
④ 前示1(1)⑫のとおり。
⑤ 前示1(1)⑬のとおり。
⑥ 前示1(1)⑭のとおり。
⑦ 同月7日、原告の家族は、親戚の家に避難した(甲4、弁論の全趣旨)。
⑧ 同年12月初め、被告Yは、原告の自宅の鍵を換え、以来、原告が自宅に戻れないようにし、同鍵を管理している(甲4、被告Y、弁論の全趣旨)
⑨ 被告Yの身長は約160センチであり、同体重は約78キロである(被告Y)。
(2) 以上の事実等を前提に本件移転登記の原因契約は被告Yの強迫によりなされたものであるか否かを検討する。
① まず、原告は、被告Yと平成14年11月1日に初めて会っており、その際、Cから本件融資の債権を被告Yに譲渡したため、自己は今後全く本件融資と関わりがない旨通告され、被告Yからは本件融資の返済をするよう催促を受けており、それまでは、地元仲間のC側からの催促であったのが、他人からの催促となり、本件融資の回収を巡る状況がかなり異なる局面となったと感じるに至ったことが推測される。
他方、被告Yは、Cから本件融資の回収の打診を受けた際、取立てを容易にするために、本件融資の債権を自己へ譲渡するようCに依頼しており、これは、自ら回収のための条件整備をCに要求するものであるから、被告Yは他人の債権の取立てに関して相当程度経験を積んでいたものと認められる。
また、被告会社代表者尋問及び被告Y本人尋問の結果によれば、被告Yは金融業者であり、弁護士ではないのであるから、いわゆる取立屋であると認めるのが相当である。
そして、前示(1)④ないし同⑥のとおり、被告Yは、原告が約束の日時の待ち合わせを1度怠るや否や、夜間に原告宅に自らまたは人をして赴いて原告が帰宅するのを待ち受け、被告Yが待ち受けているのを原告に気付かれ 原告が帰宅を躊躇したため、翌朝午前7時に原告宅に赴いて大声で原告を呼びつけ、原告が応対に出るや、感情の赴くままに、原告の胸ぐらを掴み、非難の言葉を一方的に発して、Fをして警察官を呼ばせるほどであり、被告Yが原告宅を訪れておよそ3時間以上経って、原告は本件土地、本件建物、別紙1物件目録記載3及び同4の不動産を被告Yに譲渡する手続きをするために、被告Yに連れられて自宅を後にしている。
以上の被告Yの属性、本件融資の債権者が原告の見知らぬ者に変わったこと及び本件移転登記の手続きをする直前の状況等を総合考慮すると、原告としては、原告宅の所有名義を被告Yに移転すれば、家族を巻き込むかなり大変な状況になることが予想できたが、被告Yから強迫を受け、畏怖して被告Yと売買契約あるいは代物弁済契約を締結し、本件移転登記手続をしたものと解される。
よって、売買契約あるいは代物弁済契約がたとえ成立するとしても、被告Yの強迫を理由とする原告の取消しにより、無効になるものと解される。
原告は、被告Yに対し、同取消しの意思表示をし、その意思表示は平成15年9月10日に被告Yに到達した。
4 争点(5)について
被告Yの尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告Yが平成14年12月初めころ、原告所有の本件建物の鍵を換えて、以後、同鍵を被告Yが管理し、原告ら家族が本件建物に立ち入ることができないようにしたことが認められる。
そして、甲第32号証及び弁論の全趣旨によれば、本件建物の賃料相当損害金は10万円を下らないことが認められる。
前示3の事実に以上の事実を加えれば、被告Yは、原告に対し、原告主張の平成14年12月27日から本件土地及び本件建物の明渡し済みまで貨料相当損害金として1か月10万円の割合による金員の支払義務があるというべきである。
5 まとめ
以上によれば、原告が、被告Yに対し、本件土地、本件建物、別紙1物件目録記載3及び同4の不動産について本件移転登記の抹消登記手続、本件建物から退去して本件土地の明渡しを求める各請求並びに平成14年12月27日から本件土地及び本件建物の明渡し済みまで1か月10万円の割合による金員の支払を求める請求は理由があるからこれらを認容し、その余の原告の被告会社に対する本訴請求及び被告会社の原告に対する反訴請求は理由がないからそれぞれ棄却することとし、主文のとおり判決する(抹消登記手続については相当でないので、仮執行宣言を付さない。)。
(裁判官 武野康代)
(別紙1)物件目録<省略>
(別紙2)物件目録<省略>