佐賀家庭裁判所 平成9年(家)1003号 審判 1999年1月07日
申立人 X
主文
本籍佐賀県<以下省略>、筆頭者X戸籍の記載中、筆頭者Xの身分事項欄に婚姻事項として「平成八年壱月八日国籍フィリピン共和国A(西暦千九百六拾九年○月○日生)と同国の方式により婚姻同月拾弐日証書提出」および、名欄中の「夫」とあるのを、いずれも削除することを許可する。
理由
1 家庭裁判所調査官B作成の調査報告書及びその他本件記録によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 申立人は、平成7年ころ、福岡市内のいわゆるフィリピンパブで働いていたフィリピン国籍のA(以下「A」という。)と知り合い、まもなく、親密に交際するようになり、性行為類似の関係も持つようになった。
(2) 申立人は、Aが親切に身の回りの世話をしてくれる上、Aから求婚されたこともあって、平成8年1月8日、フィリピン国内でAの両親の立ち会いのもと、フィリピン国の方式で婚姻した。そして申立人は、同月12日に○○町役場に婚姻の報告的届出をし、その結果肩書本籍地に新戸籍が編成された。
(3) 申立人は婚姻後、Aと同居していたが、平成9年4月中旬ころ、Aの入国査証の更新のために福岡入国管理局にAと共に赴いたところ、同局の職員から、Aが偽造旅券を使用して日本に入国したこと、そして真正の旅券では男性になっていることを告げられた。
(4) その後、○○町役場から申立人に対し、平成9年6月6日付けでAとの婚姻届出が不法である旨の戸籍法24条1項による通知がなされ、申立人は、同年9月17日、本件戸籍訂正の申立てをした。なお、Aは、本件申立て前の同年8月末ころ、福岡入国管理局職員に身柄を拘束され、まもなくフィリピンに強制送還された。
(5) 真正旅券でのAの本名は「A1」であり、また、生年月日も、前記戸籍記載の年月日ではなく「1965年○月○日」であり、性別は「男性」であった。さらに、A本人も福岡入国管理局の事情聴取の際に、みずから、女性ではなく、男性であることを認めた。
2 ところで、婚姻の実質的成立要件は、法例13条1項により各当事者の本国法によるところ、申立人の本国法である日本法によれば、男性同士ないし女性同士の同性婚は、男女間における婚姻的共同生活に入る意思、すなわち婚姻意思を欠く無効なものと解すべきであり、申立人と婚姻したAの本国法であるフィリピン家族法によれば婚姻の合意を欠き無効になるものと解される。前記認定事実によれば、申立人の戸籍中、前記婚姻事項は、Aの偽造旅券に基づいて作成されたフィリピン国の婚姻証書の提出により記載されたものであること、したがって、前記の報告的婚姻届出により、戸籍に錯誤ないし法律上許されない戸籍記載がされたことが明らかである。
そして、このように、明らかに錯誤ないし法律上許されない戸籍記載がされている場合、それが重大な身分事項に関するものであっても、その真実の身分関係につき当事者間において明白で争いがなく、これを裏付ける客観的な証拠があるときは、ことさらその真実の身分関係について確定裁判を経るまでもなく、直ちに戸籍法113条にしたがい戸籍の訂正をすることができるものと解するのが相当である。
よって、本件申立てを相当と認め、主文のとおり審判する。
(家事審判官 古川順一)