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八戸簡易裁判所 昭和30年(ハ)46号 判決 1955年10月22日

原告 国

訴訟代理人 岩村弘雄 外二名

被告 菊地幸之進

主文

被告は原告に対し金壱万九千八百七拾参円及び之れに対する昭和三十年九月四日より完済に至るまで年五年分の割合に依る金員を支払え。

原告の其余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告指定代理人は被告は原告に対し金壱万九千八百七拾参円及び之れに対する昭和二十五年参月拾七日より完済まで年五分の割合に依る金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め其の請求原因として陳述したる要旨は被告は原告に対し「こちふ六三一一番」郵便貯金通帳により昭和二十四年七月二十日預入れた金弐万五千円の預金を有して居た。そして被告は同年十一月五日午前十一時頃八戸郵便局に於て、割増定額貯金の受払事務を担当して居た郵政事務官近藤常太郎に対し据置期間を経過した額面金参万円の割定「こへ自七二七五番至七三五四番」割増金付定額貯金証書を差し出し其の払戻を請求したので、同事務官は新しい定額貯金に組替えることを勧めたところ被告は普通貯金に振替える旨申出で、前記郵便貯金通帳を同事務官に手渡した。そこで同事務官は其保管中の金額印日附印及び主務者印(八戸郵便局長印)を使用して右通帳二行目に同日金参万円の受入があつた旨を記帳し其保管中の現金から百円紙幣を似て同額の現金を取り出し之れを右通帳に添えて普通貯金の受払事務を担当して居た同局事務官久慈静江に手渡した。ところが同事務官は右金参万円の受入が既に記帳されて居ることに気附かず其保管中の金額印、日附印及び主務者印を使用して右通帳三行目に同日再度金参万円の受入があつた旨を誤つて記帳し、之れを被告の交附した。従つて被告が同日原告に対して有する真実の預金は計金五万五千円なるに拘らず右通帳には金参万円の架空の預金を含み結局金八万五千円の預金があるように記帳された。

被告は其後右通帳に依り昭和二十四年十二月十二日金五千円昭和二十五年一月十二日金弐万円同年二月二十五日金参万円合計五万五千円の払戻を受けたので同日を以て右通帳に依る預金がなくなつたのである。然るに被告は右通帳に前記の如き経緯に依り猶預金参万円が存在するように記帳されて居ることを奇貨とし同年三月十六日同郵便局に於て右通帳を係員に提示し係員の不知に乗じて金弐万円の払戻を受けた。ところで原告は被告に対し被告の真実の預金五万五千円に対する昭和二十四年度中の利子金壱百弐拾六円五拾銭の支払債務を負担して居るから右払戻金弐万円より右利子額を差引いた差額金壱万九千八百七拾参円(円未満切捨)は被告が之れを取得する法律上の原因なくして不当な利益を受けたものであり原告は之れと同額の損害を被つたものである。従つて被告は原告に対し之れを返還する義務がある。そして被告は悪意の不当利得者であるから被告は原告に対し右不当利得金に対する不当利得の日の翌日である昭和二十五年三月十七日より支払済まで民法所定の年五分の割合に依る利息を支払うべき義務がある。依て右支払を求むるため本訴に及んだ次第であると謂うにある。

被告は原告の請求を棄却するとの判決を求め答弁として原告の主張事実中被告が原告に対し「こちふ六三一一番」郵便貯金に依り昭和二十四年七月二十日預入れた金弐万五千円也の預金を有したる点及び被告が同年十一月五日午前十一時頃八戸郵便局に於て満期の額面金参万円也の割定「こへ自七二七五番至七三五四番」割増金附定額貯金証書を差出し之れを普通郵便貯金に振替え前記普通郵便貯金通帳に依り同金額を預入れた点並に被告が右通帳により原告主張の日時に四回に亘り合計金七万五千円也の払戻しを受けた点は之れを認めるが其の他の事実は否認すると述べ抗弁として被告は昭和二十四年十一月五日午前中に前記の如く金参万円也を預入れた外に同日午後二時頃更に現金参万円也を現実に預入れたものであるから其の払戻しを受けた事は正当であつて不当利得したものではないと陳述した。

<立証 省略>

理由

案ずるに原告の主張事実中被告が原告に対し「こちふ六三一一番」郵便貯金通帳に依り昭和二十四年七月二十日預入れた金弐万五千円也の預金を有したること、被告が同年十一月五日午前十一時頃八戸郵便局に於て満期の額面金参万円也の割定「こへ自七二七五番至七三五四番」割増金附定額貯金証書を差出し其の金額を預金普通貯金に振替え前記普通郵便貯金通帳に依り預入れたること、並に被告が右通帳に依り原告主張の日時に四回に亘り合計金七万五千円也の払戻しを受けたことは当事者間に争なく亦原告が被告に対し右預金の昭和二十四年度中の利子金壱百弐拾六円五拾銭の支払債務を負担し之れが被告に支払わるべきものなることに付いては被告に於て明に争わず弁論の全趣旨よりするも之れを争うものと認められないから此点は被告に於て自白したるものと看做すべきものである。

進んで案ずるに成立に争なき甲第一号証及び証人久慈静江、証人近藤常太郎の各証言を綜合すれば被告が昭和二十四年七月二十日記号番号「こちふ六三一一番一郵便貯金通帳により金弐万五千円也を預入れた後同年十一月五日午前十一時頃八戸郵便局に於て満期の額面金参万円也の割定「こへ自七二七五番至七三五四番」割増金附定額貯金証書を差出し之れを普通郵便貯金に振替え同金額を預入れたものであるが其の旨を前記郵便貯金通帳に記入するに際し郵政事務官近藤常太郎が其保管中の金額印、日附印及び主務者印(八戸郵便局長印)を使用して右通帳二行目に同日金参万円也の受入があつた旨記帳し其の保管中の現金参万円也を取出し之れを右貯金通帳に添えて普通貯金受払の事務を担当して居たところの同局事務員久慈静江に手渡した。ところが同事務員は右金参万円也の受入が既に右通帳に記入されあることに気附かず右通帳三行目に同日再度金参万円也の預入れがあつた旨誤つて記帳したことが認められるから右通帳三行目の金参万円也の預入れの記入分は架空のもので被告の事実の貯金は計金五万五千円也であつたと謂わねばならない。

然るに被告は其の認めるが如く右通帳に依り昭和二十四年十二月十二日金五千円也昭和二十五年一月十二日金弐万円也同年二月二十五日金参万円也同年三月十六日金弐万円也の各払戻しを受けたのであるから昭和二十五年二月二十五日までに払戻しを受けた計金五万五千円也は被告が真実に貯金した金員の払戻しを受けたものであるが同年三月十六日払戻しを受けた金弐万円也は該通帳に前示の如く誤つた記入があつた為めに被告の真実の貯金が無かつたに拘らず払戻しを受けたものであるから其の金額は被告が之れを受取るべき法律上の原因なく不当な利得をなし原告に其の損害を蒙らしめたものであるから被告は原告に対し其金額を返還せねばならぬ義務があると謂わねばならない。被告は此点に付いて昭和二十四年十一月五日午前拾壱時頃八戸郵便局に於て満期の割増金附定額貯金参万円也を普通貯金に振替え預金した後更に同日午後二時頃現金参万円也を真実に預入れたもので其の払戻しを受けたのであるから不当な利得をしたものでない旨抗弁するけれども之れを認むべき何等の立証もないのみならず再度の金参万円也の記入は真実の貯金でなかつたと認むべきこと前記の如くであるから被告の抗弁は認容されない。然れば被告は右不当金弐万円より原告より被告に支払わるべき前記利息金壱百弐拾六円五拾銭を差引きたる金壱万九千八百七拾参円也(円未満切捨)を原告に支払わねばならない。次に原告は被告の不当利得は悪意に出でたものであるから被告は不当利得金に対する不当利得の日の翌日である昭和二十五年三月十七日より支払済まで民法所定の年五分の割合に依る利息を支払うべき義務がある。仍て其の支払を求めると謂うにあるけれども原告の凡ての立証を以てしても被告が悪意の不当利得者なることを認容するに由なく被告を悪意の不当利得者なりと断定し得ないのである。従つて原告が昭和二十五年三月十七日よりの利息を請求するは失当と謂うべきである。然しながら本件訴状は被告に対し昭和三十年九月三日送達せられたることは送達報告書に依り明で当裁判所に顕著であるから其の翌日より被告は前示不当利得金債務履行遅滞に置かれたるものと謂うべきである。然れば被告は昭和三十年九月四日より本件不当利得金を完済するに至るまで民法所定の年五分の割合に依る損害金を支払うべき義務がある。

以上説示するところに依り被告は原告に対し金壱万九千八百七拾参円也及び之れに対する昭和三十年九月四日より完済まで年五分の割合に依る金員を支払うべき義務があるから此部分の原告の請求を相当と認め其の余の部分の請求を失当と認め訴訟費用に付いて民事訴訟法第八十九条第九十二条に依り主文の如く判決する。

(裁判官 橋本匡也)

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