出水簡易裁判所 昭和42年(ろ)11号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判決理由】そこで、本件衝突事故の原因について検討するに、右各証拠に、当裁判所の検証調書を綜合すると、被告人は大型貨物自動車を運転して出水郡高尾野町上水流方面から国道三号線へ通ずる県道を西進して、同国道との交差点を右折するに際し一時停車して、左方(南)阿久根方面を確めたところ、山崎和幸の運転する大型貨物自動車の進行して来るのを認めたが、自車との距離が右折進行しても衝突の危険はないものと認めて、右方向指示器で右折の合図をして時速約二〇キロメートルの速度で右折して国道の左側部分に進入し、更に同交差点から約三四メートル離れた国道の東側(被告人から見て国道右側)沿いにある同町下水流二、一七〇番地三川添石油店(ガソリンスタンド)に給油に行くため右方向指示器の合図を継続しながら、前示一時停車した地点から直線で約二五・三メートルの地点で右後方をバックミラーで確かめたところ、前記大型貨物自動車は左側部分を進行しているのを認めたので衝突の危険はないものと認め右に横断すべく道路中央線に寄つて同一速度で約一七メートル進行し、前示川添石油店前から同店に行くべく右に横断し、自車運転席が同店前の側溝に達したとき、自車の右後部に衝突の衝撃を感じて衝突の事実を知つたことが認められるのであるが、その横断地点および衝突地点は、実況見分調書記載の同地点は実地に当て嵌めてみるといずれもその位置および距離が実地に適合せず、両車の衝突の個所及び衝突後の両車両の停車した位置等から判断して検証調書記載の地点が適合することが認められる。一方山崎和幸は法定速度を二〇キロメートル越えた時速約七〇キロメートルで国道三号線を阿久根方面から福岡方面に向け北進中、前記交差点を右方向指示器で合図しながら右折して国道三号線左側部分に進入し、前示合図を継続しながら自車と同一方向に北進する被告人車を認めたのであるが、そのまま直進するものと軽信し、前車たる被告人車を追越そうとして右側部分に方向を変えて同一速度で進行し同交差点東角附近に来たところ、被告人車が右に横断を開始したので衝突の危険を感じて急ブレーキをかけたが約二六メートルスリップして被告人車の右後輪泥除け部分に自車前部を衝突させたことが認められる。
次に、本件事故が被告人の過失によるものかどうか判断する。被告人が国道三号線の交差点を右折する際、左方阿久根方面から進行して来る山崎和幸運転の自動車との距離について、検察官は約七〇メートルと主張し、被告人の供述調書および実況見分調書に同趣旨の記載があるが、被告人の当公廷における供述によると、右七〇メートルという距離は被告人が司法警察員の実況見分の際「山崎運転の自動車はその時モーテルの看板の手前にいた」と述べたのに対し司法警察員が実測せず目測で約七〇メートルと認定し記載されたものなることが認められ、当裁判所の検証調書によると、右距離は約一二五メートルあることが明らかであるから、同車と衝突の危険はないものと判断して交差点を右折した被告人の所為には責むべき点はないのである。
次に、被告人が交差点の右折時から衝突するまで右方向指示器で合図を継続していたのであるが、これはは前記認定のとおり右折を終り同地点から更に横断する地点まで約三〇メートルあるので、右は法規に従つて合図を継続したものでこれについては被告人に過失はない。
本件のように、車両が右に横断しようとしてあらかじめその前から道路の中央に寄り方向指示器による合図をしたときは、その後方にある車両は当該合図をした車両の進行を妨げてはならないのであつて(道路交通法第二五条第二項)、このような場合前車の運転者としては特別な事情のないかぎり右後方から来る他の車両が交通法規を守り、自車との衝突を回避するため適切な行動に出ることを信頼して運転すれば足りるのであつて本件山崎の車両のようにあえて交通法規に違反し自車の前面を突破しようとする車両のありうることまでも予想して後方に対する安全を確認し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務はないものと解するのである。(昭和四一年一二月二〇日最高裁判所第三小法廷判決参照)本件の場合特別な事情は認められないから、被告人には責むべき過失はないものといわなければならない。これに反し右山崎は前車の横断の右方向指示器の合図を認めながら直進するものと軽信し、右側部分に方向を変えて敢えてこれを追越そうとして、法定制限速度を二〇キロメートル超えた時速七〇キロメートルで法令を無視して運転をしたもので、本件事故は同人の右運転に原因するものと認められるのである。