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函館地方裁判所 平成25年(行ウ)2号 判決 2014年7月24日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求の趣旨

1  被告委員会が原告に対してした別紙物件目録記載2の家屋に係る平成24年度固定資産課税台帳の登録価格についての審査申出を却下する旨の決定のうち、3億4997万8682円を超える部分を取り消す。

2  被告委員会が原告に対してした別紙物件目録記載3の家屋に係る平成24年度固定資産課税台帳の登録価格についての審査申出を却下する旨の決定のうち、7544万8857円を超える部分を取り消す。

第3当裁判所の判断

1(1)  証拠(甲1から3まで、6、8、9、乙2の2、7の2、7の3、11の2、13から27まで)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 本件建物は、昭和50年5月に新築され、同年9月に増築された鉄筋コンクリート造陸屋根8階建の建物であり、新築当時の用途種類はホテル・店舗であった。被告は、固定資産評価基準に従い、本件各家屋につき、同年11月の調査に基づき部分別による算出方法により再建築費評点数を求め、ホテル等を対象とする経年減点補正率を適用するなどし、当初の登録価格を本件家屋1(1階以外の部分)は7億1497万1772円、本件家屋2(1階部分)は1億5413万4539円と決定した。

イ 被告は、平成13年度以降、固定資産評価基準に従い、本件各家屋につき、在来分の非木造家屋に係る再建築費評点数の算出方法(=基準年度の前年度における再建築費評点数×再建築費評点補正率)により再建築費評点数を求め、登録価格を決定してきた。これは、本件訴訟において争われている平成24年度も同様である。

この間の平成16年8月に本件建物の用途種類が共同住宅・店舗に変更されている。これを受け、被告は、平成17年度以降は本件各家屋に適用される経年減点補正率を、アパート用建物等を対象とするものに変更している。

(2)  七飯町公文書管理規則所定の保存年限(10年)が経過しているため、平成12年度以前の本件各家屋の登録価格の決定根拠を直接裏付ける資料は現在しない(乙11の2参照)。しかし、上記認定に係る平成13年度以降の被告の取扱いに照らし、被告は、平成12年度以前も、固定資産評価基準に従い、本件各家屋につき在来分の非木造家屋に係る再建築費評点数の算出方法により再建築費評点数を求め、登録価格を決定してきたものと認めるのが合理的である。すなわち、被告は、本件建物が新築されてから一貫して、固定資産評価基準に従い、本件各家屋の登録価格を決定してきたものであって、平成24年度の本件登録価格も同様に、当初の登録価格に係る再建築費評点数を前提として、再建築費評点補正率を乗ずるなどして算出され決定されたものと認められる。

(3)  法が固定資産税の課税標準に係る固定資産の評価の基準等を総務大臣の告示に係る固定資産評価基準に委ね、市町村長は固定資産の価格を同基準に従って決定しなければならない旨規定したのは、全国一律の統一的な評価基準による評価によって各市町村全体の評価の均衡を図るためと解される(法388条1項、403条1項)。このような固定資産評価基準の位置付けに加え、固定資産評価基準が定める家屋の評価方法(その概要は前記第2の1(2)のとおりである。)、さらに、固定資産評価基準の定める家屋の評価に関する経年減点補正率、再建築費評点補正率等は物価変動等に対応して随時見直しがされていると認められ(乙2の2、7の2、25)、その内容に不合理性はうかがわれないことなどに照らせば、固定資産評価基準が定める家屋の評価方法は、一般的な合理性を有するものであって、固定資産税の課税標準の決定は、原則としてこれによるべきものといえる。

したがって、上記基準に従い決定された家屋の価格は、固定資産評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は固定資産評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情の存しない限り、適正な時価であると推認するのが相当である(最高裁平成15年7月18日第二小法廷判決・裁判集民事210号283頁参照)。本件においてこのような特別の事情が存しない限り、固定資産評価基準に従った本件登録価格は、適正な時価であると推認される。

(4)  原告は、本件各家屋の再建築費評点数の算出方法や適用された経年減点補正率に一般的な合理性はないなどと主張するが、その主張は、なお抽象的な指摘にとどまるものであって、上記のような特別の事情を直ちに根拠付けるものとはいえない。このほか、このような特別の事情を認めるに足りる証拠はない。

2  原告は、固定資産評価基準を適用する上で前提となる本件建物の面積の誤りなどについて主張している。この点についての主張は、前記のような特別の事情に関する主張ではないが、固定資産評価基準を適用する上での前提部分に誤りがあれば、登録価格に誤りが生じ得るため、以下、原告の主張について検討する。

(1)ア  まず、原告は、課税面積と登記簿面積との不一致を指摘する。

イ  証拠(甲1、6、8)によれば、本件建物の昭和50年9月30日付け登記の床面積合計(附属建物を除く。以下同じ。)は7989.87平方メートルであること、本件建物の平成5年3月12日以降の登記簿上の床面積合計は8138.94平方メートルであることが、また、証拠(甲3の7丁、9、乙13)によれば、当初の本件建物の課税面積は8577.64平方メートルであること、平成6年度以降の本件建物の課税面積は8791.55平方メートルであることが、それぞれ認められる。

ウ  確かに、本件建物に関する課税面積の合計は登記簿謄本に記載された床面積合計より、当初においては587.77平方メートル、平成6年度以降においては652.61平方メートル大きい。

しかし、区分所有に係る家屋に対して課する固定資産税については、当該家屋の専有部分に係る建物の区分所有等に関する法律2条2項の区分所有者は、当該家屋に係る固定資産税額を当該区分所有者全員の共有に属する共有部分に係る同法14条1項から第3項までの規定による割合(基本的には専有部分の床面積の割合。以下「持分割合」という。)によってあん分した額を、当該各区分所有者の当該家屋に係る固定資産税として納付する義務を負うとされている(法352条1項)。よって、区分所有に係る建物に共有部分がある場合、課税面積の算出においては、区分所有者の共有部分の持分割合を求め、これに基づいて算出した共有部分の床面積をその区分所有者の専有部分の床面積に加算することになる。

そして、証拠(甲1、8、乙30の1から30の195まで)によれば、本件建物は一棟の建物(以下「全体建物」という。)の構造上区分された一部であり、登記簿上、現在の全体建物の合計床面積は16937.48平方メートルであるのに対し、各区分所有者の専有部分の合計床面積は14421.4平方メートルであることが認められる。よって、現在の全体建物の専有部分以外の床面積は2516.08平方メートルとなり、これは共有部分に該当すると考えるのが相当である。

仮に、現在の本件建物(原告の専有部分)の登記簿上の床面積に基づいて原告の持分割合に応じた共有部分の床面積を算出してみると、1000平方メートルを超えることとなる(2516.08(共有部分床面積)×8138.94(原告の専有部分床面積合計)÷14421.4(専有部分床面積合計))。

以上のことからすれば、課税面積と登記簿面積の差は、少なからず共有部分床面積の持分割合の加算の有無によって生じたと考えるのが相当であり、このことから直ちに本件建物についての固定資産評価に課税面積の誤りがあるとは認められない。

エ  なお、原告は、全体建物は当初ホテル・店舗として建築された本件建物と分譲マンションとして建築された部分とから成るところ、本件建物と分譲マンションとは構造的に区画されており、前記ウの共有部分は分譲マンションの一部共有部分(建物の区分所有等に関する法律11条1項ただし書参照)であり、本件建物とは無関係であると主張する。

しかし、証拠(甲1、7、8、乙26から28まで、30の1から30の195まで)及び弁論の全趣旨によれば、全体建物は本件建物と分譲マンションとで構成されるところ、これらはその入口を共通にしている一方、全体建物の1階のほぼ全部を原告が専有していること、本件建物と分譲マンションとの間の行き来を制限するような障壁等は特段見当たらないことが認められる。このような全体建物の構造に照らし、本件建物と分譲マンションとが構造的に区画されているなどとはいえず、原告の主張は採用できない。

(2)ア  次に、原告は、課税面積の増加分が登記簿面積の増加分より大きい旨指摘する。

イ  証拠(甲3の7丁、6、9、乙13、26から28まで)によれば、以下の事実が認められる。

(ア) 本件建物の昭和50年9月30日付け登記の床面積と平成5年3月12日付け登記の床面積を比較すると、1階部分が13.58平方メートル、2階部分が77.92平方メートル、3階部分が57.57平方メートル増加しており、全体で149.07平方メートル増加している。

なお、本件建物の昭和50年7月22日付け登記の床面積と同年9月30日付け登記の床面積を比較すると、2階部分が242.45平方メートル増加している。

(イ) 他方で、本件建物の当初の課税面積と平成6年度以降の課税面積を比較すると、全体で213.91平方メートル増加している。そして、増加部分は、18.86平方メートル部分、320.14平方メートル部分及び59.56平方メートル部分の3個の物件(以下、まとめて「増築物件」という。)に分けられ、本件各家屋とは別にそれぞれ課税されているのに対し、本件家屋1の課税面積が184.65平方メートル減少している。

(ウ) 平成5年3月の登記申請書及びこれに添付された各階平面図によれば、本件建物の1階については平成2年あるいは平成4年に約18.08平方メートル増築された部分(甲7の1丁及び乙28の4丁のうちニの部分)が存在する。2階については、上記時期に、新築直後の昭和50年9月に増築された部分(主として乙27の10丁のうちリ、ヌ、ル、ヲの部分)のほとんどが取り壊された上で同箇所が増築されており(甲7の2丁及び乙28の5丁のうちリ、ヌ、ル、ヲ、ワ、カ、ヨ、タ、レの部分)、その際増築された部分の面積はおおむね320.37平方メートル(昭和50年9月30日付け登記の増加分242.45平方メートルと平成5年3月12日付け登記の増加分77.92平方メートルの合計面積)である。また、3階については平成2年あるいは平成4年に57.57平方メートル増築された部分(主として甲7の3丁及び乙28の6丁のうちヘ、ト、チの部分)が存在する。

ウ  固定資産評価基準(第2章第1節四)では、一棟の家屋に増築された部分があるときは、原則として当該家屋を増築された部分とその他の部分とに区分して評点数を付設するものとされている。すなわち、登記簿では、増築後の全体の床面積がそのまま登記されるのに対し、固定資産税の課税標準に係る家屋の評価では、増築部分は、既存家屋とは別物件として評価され課税されることとなるところ、数値の近似性に照らし、増築物件のうち18.86平方メートルのものは平成2年あるいは平成4年の1階の増築部分に、320.14平方メートルのものは上記時期の2階の増築部分に、59.56平方メートルのものは上記時期の3階の増築部分に、それぞれ対応するものと認めるのが合理的である。すなわち、増築部分は、それぞれ課税面積に正しく反映されているといえる。

他方、上記時期に取り壊された2階部分の面積はおおむね242.45平方メートル(昭和50年9月30日付け登記の増加分)であるのに対し、本件家屋1の課税面積は184.65平方メートル減少しているにすぎない。七飯町公文書管理規則の保存年限が経過しているため、この点に関する詳細を検証する資料は現存しないが、家屋課税カード(乙13)によれば、本件家屋1の課税面積は増築物件の存在を前提として平成6年度に見直され、上記のとおり減少したものと認められ、本件家屋1の課税面積減少分は相応の根拠をもって算定されたものであることが推認される。(具体的には、当初の本件家屋1の課税面積が昭和50年9月30日付け登記の増加分を正確に反映したものではなかったことから、この段階で調整を図った可能性などが考えられる。)そして、これ以降20年近くにわたり原告はもちろん本件建物の前所有者であった者も本件各家屋に係る登録価格につき異議を述べていなかったことも、上記推認を根拠付ける。したがって、この点をもって直ちに本件各家屋の課税面積に誤りがあると認めることはできない。

結局、課税面積における増加分と登記簿面積における増加分とに差があるという事実をもって、直ちに本件登録価格の決定に誤りが存在するとは認められない。

(3)  原告は、平成2年あるいは平成4年に増築された増築物件(3個の物件)の登録価格につき1平方メートル当たりの単価が極端に異なるなどとして本件登録価格が誤りである旨主張するが、増築物件は、本件各家屋とは別個に課税されている物件であり、本件訴訟の審理対象ではないので、仮に原告主張の事情が認められるとしても、直ちに本件登録価格に誤りがあることにはならない。よって、この点についての原告の主張は採用できない。

3  以上のことからすれば、本件登録価格について、固定資産評価基準を適用する上で前提となる部分に誤りを認めることはできない。また、固定資産評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は固定資産評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情を認めることもできない。

よって、本件登録価格は、本件各家屋の適正な時価を上回るものではない。

第4結論

以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木尚久 裁判官 矢口俊哉 天田愛美)

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