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函館地方裁判所 平成3年(ワ)206号 判決 1992年11月26日

原告

小中政廣

右訴訟代理人弁護士

山本啓二

被告

自交総連相互交通労働組合

右代表者執行委員長

桜井忠良

右訴訟代理人弁護士

前田健三

主文

一  原告が被告の組合員たる地位を有することを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、訴外相互交通株式会社(以下「訴外会社」という。)の労働者をもって組織する労働組合であり、法人格のない社団である。

2  原告は、昭和四一年八月二一日、全自交中央ハイヤー労働組合に加入したが、右組合は、昭和五五年一二月三日、被告と組織合同した。

3  被告は、平成三年二月二〇日、原告を被告から除名処分(以下「本件除名処分」という。)したとして、同日以降、原告が被告の組合員たる地位にあることを否定している。

4  よって、原告は、被告に対し、原告がその組合員たる地位にあることの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実は、すべて認める。

三  被告の主張

1  被告組合規約

被告組合規約には、組合員の懲罰及びその決定手続について、大旨、次のとおり規定されており、組合員の除名処分を行うためには、重要な事項として大会の決議が必要であり、かつ、右決議に際しては、組合員の直接無記名投票による過半数の同意を得ること及び当該組合員に弁明をする機会を与えることが必要である。

第八条 組合員は等しく次の権利を有する。

(一ないし三号 省略)

四  処罰に対する抗弁又は弁護の権利

ただし、第九条の規定(組合員は組合費を納入し組合規約並びに決議に服する義務を負う。)によって権利停止され又は除名された者はこの限りでない。

第一一条 大会は組合の最高機関であって、役員と組合員で構成し、次の事項は大会の決議を経なければならない。

(一ないし五号 省略)

六 その他重要なる事項

第一二条 定期大会は、原則として毎年九月執行委員長が招集する。臨時大会は、次の場合、執行委員会が招集する。

一 組合員の三分の一以上の請求があった場合

二 執行委員会が必要と認めた場合

第二四条 組合員に対する懲戒は、戒告、解任、権利停止及び除名とし、組合員が左の一に該当したときは、組合員の直接無記名投票により、組合員の過半数の同意で執行委員長が行う。

一 規定又は決議に違反したとき

二 組合の統制を乱したとき

三 組合員としての義務を怠ったとき

四 その他、組合の不都合な行為があったとき

2 平成二年八月二三日臨時大会に至る経緯

(一)  職務専念報奨金問題(以下「報奨金問題」という。)

訴外会社は、平成二年六月一三日、夏期一時金とともに支給する職務専念報奨金につき、年間の加給金総額が四万円を下らないこととする旨の昭和六二年ころからの慣例に反し、最高一〇万円から最低四〇〇〇円と大きな格差をつけて支給した。

被告の組合員が、右支給を受けた後、激怒して組合事務所に集合してきたので、被告としては、問題の正確な把握のため、各組合員に給与明細書の呈示を求め、各自に支給された職務専念報奨金の調査を開始したが、当時、被告の執行委員長であった原告は、同人に支給された職務専念報奨金の金額は示したものの、給与明細書は呈示しなかった。また、抗議行動を求める組合員の声が強かったことから、被告執行部としては何らかの対応が必要と判断される情況であったにもかかわらず、原告は、支給されてしまったものはどうすることもできない旨の投げやりな態度で、「用があるから帰る。」として組合事務所を立ち去った。

被告は、同月一四日、報奨金問題で緊急執行委員会を開催したが、その冒頭、原告は、「やっていく自信がなくなった。」として被告執行委員長を辞任する旨申し出、他の執行委員が翻意を促したものの、原告は頑として譲らず、被告は、原告の人事問題と報奨金問題とを併せて臨時大会で討議することとした。

臨時大会は、同月一五日に開催されたが、原告は被告執行部の要請にもかかわらず、これに出席しなかった。被告は、右大会において原告の辞任を承認し、その後任の執行委員長を選任した。

(二)  労金債務処理問題(以下「労金問題」という。)

昭和六三年、当時被告の一般組合員であった者(以下「訴外甲」という。)の負債整理のため、被告は、訴外甲が北海道労働金庫(以下「労金」という。)から融資を受けられるよう援助をすることにしたが、労金会員である被告の紹介により融資を受けるについては、そのことにつき被告執行委員会の決議書を付すること、被告振出しにかかる約束手形を差し出すこと及び被告執行委員五名が連帯保証することが条件とされた。そこで、当時被告執行委員長であった原告の下、当時の執行委員会における決定により、右の条件がすべて履践され、訴外甲は、融資を受けることができた。

しかし、その後、訴外甲が労金への返済を怠り、また、組合費も滞納するようになったため、被告は、平成元年一一月、訴外甲に誓約書を書かせるなどして対応したが、右懈怠は改善されなかった。

また、被告執行委員会は、平成二年七月二八日、再度訴外甲に対し、これまでの立替金の処理及び今後の返済計画などの確認をしようとしたが、具体的な結論を得るに至らなかった。

そこで、被告執行委員会は、この問題の対策を立てるための協議を持つべく、当時の各執行委員及び労金融資実行当時の執行委員に連絡をとった。原告は、このとき既に報奨金問題により被告の執行委員長及び執行委員を辞任していたが、融資実行当時の執行委員として、右連絡の対象となった。しかし、原告は、被告執行委員会からの電話連絡に対し、「俺には責任のないこと。話合いには行かない。」と拒否した。被告執行委員会は、やむなく原告の出勤時に右協議への参加を直接申し入れようとしたが、原告は、「俺は仕事に来ているんだ。(訴外会社の職制に)こいつらを何とかしろ。」などと発言したうえ、多数の従業員の前で被告役員を暴力団呼ばわりするなど、被告役員に敵対する態度に終始した。

3 平成二年八月二三日臨時大会(以下「本件大会」という。)の決議

(一)  本件大会は、平成二年八月二三日、労金問題の処理及び原告に対する処分を審議する目的で開催された。

なお、本件大会は、当初全員集会として招集されたが、その後臨時大会に切り換えられた。このような招集方法は、従来から慣例として行われてきたものであり、また、被告組合規約上も招集手続の規定がないことから、出席組合員の了解の下に、全員集会を臨時大会に切り換えることは手続的に何ら問題がない。

(二)  本件大会において、被告執行委員会は原告に対する処分につき、労金問題に対する原告の対応の問題点を理由として、原告を被告から除名する旨の提案をした。

しかし、多くの組合員の意見は、労金問題のみならず報奨金問題に対する原告の対応にまで及び、原告の釈明を求める意見が続出した。これに対し原告が弁明した内容は、報奨金問題につき、その支給時に他の組合員から暴言を吐かれたことをもって自己を正当化する根拠として挙げた点を除けば、右問題とは無関係の団体交渉時における他の被告役員の行動を批判するなどにとどまり、右釈明に何ら応えるものではなかった。

また、原告は、除名を求める提案に対しては、「一回下がって頭を冷やしたい。被告から脱退する」旨申し述べたが、批判されている点については明確な反論を述べるでもなく、さりとて批判は受け入れないという態度に終始した。

そこで、被告執行委員は、一時、本件大会の席を離れて執行委員会を開き、協議した結果、原告の処分につき、「原告の行為は除名に値するものであるが、本人の反省を求め、一、被告の組合員としての権利停止六か月とし、二、この間、反組合的行為があった場合及び自ら組合脱退を申し入れた場合は、直ちに除名とする。」旨の再提案をすることとし、本件大会にその旨の提案をして、右処分に賛成又は反対の投票を求める形で採決したところ、賛成多数で再提案のとおり可決された(以下これを「本件決議」という。)。

なお、もともと本件大会は原告の除名処分の可否を審議するために開催されたものであるところ、本件決議は、「原告の行為が除名に値するものである」旨の判断を前提としたうえで、原告の反省と組合への再結集を期待して一時その除名処分を猶予する趣旨に出たものであり、また、本件決議における「反組合的行為があった場合」という留保事由の意味内容は議論の余地がないほど明白であり、また、右処分に反対する立場の組合員からの疑義もなかったのであるから、本件決議は、目的において合理的で、内容も明確なものである。

4 原告の反組合的行為

(一)  事故支援問題

原告は、平成二年一〇月一二日、営業車運転中に、他車両と衝突し、相手方運転手を入院させるという交通事故を起こした。被告執行委員会は、右事故の処理につき、同年一二月一九日、原告に対して、この事故についての原告の過失は否定できないので、被告としては弁護士に依頼して裁判で争う取組み方はできず、罰金等の費用負担についても救済しないが、刑事処分及び行政処分の軽減を図るべく支援することなどの見解を文書により通知した。また、被告は、右見解を出すまでの間にも、右交通事故の相手方との示談を成立させるべく努力したり、事件が検察官送致された後には、被告役員が担当検察官に面会し、原告を不起訴処分にするよう嘆願するなどの支援行動を取っていた。

しかし、原告は、被告が事故支援につき一定の制約を付したことを誇大に取り上げ、右文書を増刷して不特定多数の組合員及び非組合員に配付したうえ、「今の執行部は何もやってくれない。」などと事実を歪曲して伝えたりした。

(二)  積立金問題

被告は、組合員の委託を受けて、組合員から徴収した金員を労金に積立てする業務を行っているが、平成二年一一月中旬ころ、当時の被告の労金担当者が、組合員の一人から積立金の引出し方を依頼され、積立金を引き出して、同人に渡したところ、同人が勘違いをして、その金額が当人の思惑と違っていたとして他の組合員に話したということがあった。これを聞き知った原告は、事態の真偽を確認することなく、不特定多数の組合員に対し、「被告の労金担当者が組合員の積立金を勝手に使い込んでいる。いまに一万円プール(経理の欠損を埋めるために組合員の負担を求めること)がかかってくる。」などとして、右労金担当者や被告執行部を中傷する発言を繰り返した。

5 本件除名処分の経緯

被告執行委員会は、事故支援問題及び積立金問題に関する原告の言動が明らかに反組合的であることの認識の下に、原告の処分を検討しつつあったが、原告自身の弁明を聞くべく、平成三年二月ころ、原告に対し二、三度にわたり、執行委員会に出頭して釈明するよう求めた。原告は、同月一六日、被告執行委員会に対し、同月二三日の執行委員会に出頭する旨約束したが、同月一九日、右約束を破棄し、執行委員会には出頭しない旨連絡してきた。

そこで、被告執行委員会は、同日、原告の反組合的行為の存否及び原告に対する除名処分の可否について議論し、一、事故支援問題において被告執行委員会の見解を歪曲し、また、同執行委員会見解を記載した文書を増刷して不特定多数の組合員に配付し、反執行部をあおる行為、二、自らが被告役員として当時掌理していたにもかかわらず、故意に積立金問題を不正行為であるかのように吹聴し、労金担当者個人及び被告の名誉を失墜させようとした行為、三、弁明を求めるための被告執行委員会の再三にわたる呼出しに応じない行為、の三点において、原告の反組合的行為の存在は明らかであるとの一致した判断に達したため、これを理由に、原告に対する本件除名処分を決定した。

なお、前記のとおり、本件決議は、目的において合理的で、内容も明確なものであるから、それに基づいて行われた本件除名処分は、被告組合規約に抵触するものではない。

6 被告執行委員会のした右判断は、その後、参加者の員数面では大会と実質的に異なるところのない全員集会で承認された。

四 被告の主張に対する認否及び反論

1 被告の主張1の事実は、認める。

2 同2の(一)の事実中、平成二年六月の職務専念報奨金支給額に従来なかったような個人格差があったこと、そのことについて一部の被告組合員から不満と困惑の声が上がっていたこと、原告が被告執行委員長の辞任を申し出たこと及び同月一五日の会合に出席しなかったことは認め、右会合が臨時大会であったこと及び同会合での討議、決定内容については不知、その余の事実は否認する。

3 同2の(二)の事実中、原告が労金融資実行当時の被告執行委員長であったこと、平成二年八月ころ、訴外甲の融資金返済の滞納などの問題に関連して、被告執行委員から原告に対して電話連絡があり、原告は、会合への出席を要求されたが、これを拒絶したこと及びその後出勤した原告と被告執行委員との間に紛争が生じたことは認め、訴外甲に誓約書を書かせるなどの対応をした後も同人の懈怠が改善されなかったこと、原告が訴外甲の融資金返済の滞納などの問題について責任がない旨述べたこと及び被告役員を暴力団呼ばわりしたことは否認し、その余の事実は知らない。

4 同3の(一)の事実中、被告において、全員集会として招集した後、臨時大会に切り換える慣例があったことは否認し、その余の事実は明らかに争わない。

なお、被告において臨時大会を開催する場合には、従来から、必ず被告組合規約第一二条に従って臨時大会としての招集通知が組合事務所等に掲示されてきたものであり、本件大会のように、全員集会として招集し、その途中急遽臨時大会に切り換えたという前例はなかった。また、被告執行委員会は、臨時大会に切り換えると宣言したのみで、臨時大会として本来必要な定足数の審査などの手続をしなかった。

5 同3の(二)の事実中、被告執行委員会が、原告を除名する旨の提案を明確に行っていたこと、「原告の行為は除名に値するものであるが、本人の反省を求め、一、被告の組合員としての権利停止六か月とし、二、この間、反組合的行為があった場合及び自ら組合脱退を申し入れた場合は、直ちに除名とする。」旨の再提案がされたこと及び右処分に賛成又は反対の投票を求める形で採決されたことは否認し、その余の事実は明らかに争わない。

なお、本件大会の当初における被告執行委員会の発言内容は極めて不明確、不正確なものであり、「懲罰問題」という言葉は多用されたが、「除名」という言葉は一度しか使われなかった。また、本件大会における議長の採決方法は、「被告執行部提案に賛成の者はマル印、任意脱退に賛成の者はバツ印をしてほしい。」というものであり、被告執行委員会の再提案の内容が、単なる権利停止処分であるのか、それとも、いわゆる条件付除名処分を含むものであるのか、必ずしも明確にされないまま採決された。

6 同4の(一)の事実中、原告が業務中に事故を起こしたこと及び右事故に関する支援問題について被告主張のとおりの執行委員会見解を文書により通知されたことは認め、原告が、不特定多数の組合員に対し、右文書を増刷して配付したこと及び原告が「今の執行部は何もやってくれない。」などと事実を歪曲して伝えたことは否認し、その余の事実は知らない。

7 同4の(二)の事実は、すべて不知ないし否認する。

8 同5の事実中、平成三年二月一六日、被告執行委員から電話連絡を受け、原告が同月二三日に執行委員会に出頭すると約束したことは認め、原告が、同月ころ、二、三度にわたり、執行委員会に出頭するよう求められたこと及び同月二三日に出頭する旨の約束を破棄したことは否認し、その余の事実は明らかに争わない。

なお、本件除名処分については、被告の適式な大会決議がなく、また、原告に弁明の機会が与えられていないから、手続上の瑕疵があり、無効である。

9 同6の事実は否認する。

理由

一請求原因事実及び被告の主張1の事実は、当事者間に争いがない。

二被告の主張3の(一)の事実中、本件大会が、平成二年八月二三日、労金問題の処理及び原告に対する処分を審議する目的で開催されたこと、並びに、同5の事実中、被告執行委員会が、平成三年二月一九日、原告の反組合的行為の存否及び原告に対する除名処分の可否について議論し、事故支援問題に関連して反執行部をあおる行為、積立金問題に関連して個人及び被告の名誉を失墜させようとした行為及び被告からの弁明を求めるための呼出しに応じない行為の三点において、原告の反組合的行為の存在は明らかであるとの一致した判断に達したため、これを理由に原告に対する本件除名処分を決定したことについては、いずれも原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

三本件除名処分の手続について

原告は、本件除名処分について、被告の適式な大会決議がなく、また、原告に弁明の機会が与えられなかったから、手続上の瑕疵があり、無効である旨主張するので、この点につき検討する。

1 労働組合は、使用者に対する個々の労働者の労働力の取引における不利な立場を団結力によって克服し、より有利な労働条件を獲得しようとするものであるから、その団結を強固なものとするために、懲戒権を含む統制権を行使することができるものである。ところで、除名処分は、労働組合の懲戒権の具体的発現形態の一つであるが、組合員としての資格を喪失させる重大な効果を持つ処分であるから、組合員の権利保護の建前上慎重かつ厳格な手続に従って行われることを要するというべきである。そして、そのことは、除名処分が労働者個人の団結権を直接に制約するものである以上、労使間にユニオン・ショップ協定が存在せず、かつ、企業内に複数組合が併存し組合選択の自由がある場合においても、異なるところはない。。

2 前記当事者間に争いがない事実に<書証番号略>を総合すれば、被告組合規約第一〇条において、被告には、大会、委員会及び執行委員会の三機関を設ける旨、同第一一条において、大会は被告の最高機関であって、役員と組合員とで構成し、同盟罷業の開始、予算及び決算、規約の改正、他団体への加入及び脱退、組合の解散及び合併並びにその他重要な事項は、大会の決議を経なければならない旨、同第一二条において、定期大会は、原則として毎年九月に被告執行委員長が、臨時大会は、被告組合員の三分の一の請求があった場合、あるいは、被告執行委員会が必要と認めた場合に、それぞれ招集する旨、同第二四条(<書証番号略>の第七章の第二三条は第二四条の誤りと認められる。)において、組合員に対する懲戒は、戒告、解任、権利停止及び除名とし、組合員が懲戒事由の一に該当したときは、組合員の直接無記名投票により、組合員の過半数の同意で執行委員長が懲戒を行う旨、それぞれ規定されていることが認められる。しかし、他方、組合員に対する除名処分につき大会以外の下位機関がこれを決議し得るとする規定が存在することを認めるに足りる証拠はない。

してみると、被告組合規約上、組合員に対する除名処分は、その労働者としての権利に及ぼす影響が重大であることから、被告の最高機関であって、所定の手続により招集された役員と組合員で構成するところの大会の専属議決事項とされているものであり、かつ、組合員の直接無記名投票により組合員の過半数の同意を要するものとされているものと解すべきであり、右処分の決議権限を、他の下位機関に委譲することは許されていないものといわざるを得ない。

これを本件除名処分についてみると、前記原告の自白したものとみなした事実によれば、これを決定したのは、被告執行委員会であって、大会ではないから、その処分には、被告組合規約上、重大な手続違背があるものといわざるを得ない。

3 なお、この点について、被告は、もともと本件大会が原告の除名処分の可否を審議するために開催されたものであり、本件決議は、「原告の行為が除名に値するものである」旨の判断を前提としたうえで、原告の反省と組合への再結集を期待して、一時その除名処分を猶予する趣旨に出たものであり、したがってまた、本件決議における「反組合的行為があった場合」という留保事由の意味内容は議論の余地がないほど明白であり、また、右処分に反対する立場の組合員からの疑義も提出されなかったことから、本件決議は、目的において合理的で、内容も明確であって、右決議に基づいて行われた本件除名処分は、被告組合規約に抵触しない旨主張する。

しかし、本件大会において、被告主張のとおりの再提案がされ、その旨の本件決議がされたとしても、右決議は、あくまで権利停止処分決議であって除名処分決議ということはできず、仮に、全く裁量の余地のない範囲で除名処分の手続の一部を下位機関に委譲することが理論的には許される可能性があるとしても、本件決議にいう「反組合的行為」がいかなるものか一義的に明らかとは到底いえず、その有無の判断に当たっては広い裁量の余地があるものというべきである。加えて、原告の自白したものとみなした事実によれば、本件除名処分においては、本件決議以後に生じた事故支援問題、積立金問題及び被告の呼出しに応じない行為が反組合的行為であり除名事由に当たるとされており、しかも、被告執行委員会のみが右除名事由該当性を判断したものであることに照らすと、、除名処分決議の枢要な部分である除名事由の存否の判断につき大会の決議を全く欠いており、結局、被告のした本件除名処分は、本件決議の目的の合理性の有無を判断するまでもなく、被告組合規約上、重大な手続違背があるものといわざるを得ず、したがって、被告の右主張は採用することができない。

4  また、被告は、本件除名処分後、被告執行委員会の右決定が参加者の員数面で大会と実質的に異ならない全員集会で事後承認されているのであるから、手続違背があったとしても、実質的な権利保障はされている旨主張する。しかし、右全員集会において本件除名処分が事後承認されたとしても、それは被告組合規約第一二条所定の手続により招集されるべき大会ではないのであるから、右集会における承認をもってしては、手続違背の瑕疵を治癒するに足りないというべきである。

5  そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、本件除名処分はその手続において重大な瑕疵があり、無効である。

四以上のとおりであって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官橋本昌純 裁判官鈴木陽一 裁判官加藤亮)

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