函館地方裁判所 平成9年(わ)293号
主文
被告人株式会社海商を罰金二四〇〇万円に処する。
被告人中村利博を懲役一年四月に処する。
被告人中村利博に対しこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する
理由
(犯罪事実)
被告人株式会社海商(以下「被告会社」という。)は、北海道茅部郡森町字石倉町二六八番地の二三に本店を置き、観光みやげ品店の経営、生鮮魚介類の販売業、飲食店業等を目的とする株式会社、被告人中村利博は、同社の代表取締役として、その業務全般を統括しているものであるが、被告人中村利博は、被告会社の業務に関し、被告会社の法人税を免れようと企て、売上げの一部を除外する等の方法により被告会社の所得を秘匿したうえ、
第一 平成五年四月一日から平成六年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億三〇七〇万八六〇九円であったにも拘わらず、平成六年五月三〇日、北海道山越郡八雲町出雲町六〇番地にある所轄八雲税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三九四三万三一〇六円で、これに対する法人税額が一四一七万九一〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四八二四万八五〇〇円と右申告税額との差額三四〇六万九四〇〇円を免れた。
第二 平成六年四月一日から平成七年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八二三五万七九三七円であったにも拘わらず、平成七年五月三一日、前記八雲税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二三四一万九三五七円で、これに対する法人税額が八〇二万二一〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出して、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三〇一二万三八〇〇円と右申告税額との差額二二一〇万一七〇〇円を免れた。
第三 平成七年四月一日から平成八年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一三四六万二六一九円であったにも拘わらず、平成八年五月三一日、前記八雲税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三五八二万五一二二円で、これに対する法人税額が一二八〇万二七〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出して、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四一七八万八二〇〇円と右申告税額との差額二八九八万五五〇〇円を免れた。
(証拠)(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)
判示全事実につき
1 被告人の公判供述、検察官調書五通(乙2ないし6)
2 中村由里子、表秀樹、の検察官調書
3 臨検てん末書、検査てん末書、調査事績報告書二通、現金調査書、割引債券調査書、短期貸付金調査書、代表者勘定調査書、未払事業税調査書、未払消費税調査書、交際費等の損金不算入額調査書、みなす犯則損金調査書、その他所得(預金)調査書、その他所得(役員借入金)調査書、その他所得(未払消費税)調査書、その他所得(工具器具備品)調査書、その他所得(建物付属設備)調査書、領置てん末書
4 商業登記簿謄本、閉鎖商業登記簿謄本四通、不動産登記簿謄本四通
判示第一の事実につき
1 押収してある平成五年度分の確定申告書等一綴(平成一〇年押第七号符号1)
判示第二の事実につき
1 押収してある平成六年度分の確定申告書等一綴(平成一〇年押第七号符号2)
判示第三の事実につき
1 押収してある平成七年度分の確定申告書等一綴(平成一〇年押第七号符号3)
(法令の適用)
被告人及び被告会社の判示各所為は、事業年度毎に法人税法一五九条一項に各該当する(被告会社についてはさらに同法一六四条一項)ところ、被告会社については情状に鑑み同法一五九条二項を適用し、被告人については所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告会社については、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で罰金二四〇〇万円に処し、被告人については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年四月に処し、情状により被告人に対し同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
(量刑事情)
本件は、被告人が、その代表者を務める被告会社の法人税を逋脱したという事案である。
被告人は、被告会社の業績が好調であったが、将来高速道路の開通等により業績が落ち込んだ場合等に備え、また将来空港の売店等に出店したいと考え、あるいは観光バスやタクシーの運転手等へのバックリベートの財源等にする目的で、被告会社の内部留保を増やし、財務体質を強化しようとして、国民の当然の義務である納税の義務を怠ったもので、その動機は自己中心的なもので酌むべき点はない。またその手法も、キャッシュレジスターが使用されにくい業態であることを利用して売上げの一部を除外し、割引債券を購入してその一部を被告会社の敷地に埋めたり被告人の妻の親族の家に隠匿する等、巧妙で悪質である。以上によれば、被告人両名の刑事責任は重いというべきである。
他方、被告人は、捜査段階の当初から事実を認め、顧問税理士や割引債券発行の金融機関の協力も得て、洗いざらい国税担当の職員に述べる等反省の態度が認められること、前科が全くなく、今回初めて公開の法廷で裁判を受け、その手続を通じて自己の刑事責任を認識したと認められること、これまで経営者として健全な社会生活を送ってきたものであること、また被告会社も既に修正申告を済ませ、多額の各種租税を納付していること、経理や現金管理の方法を全面的に見直して、爾後不正が行われないように改めたこと等、酌むべき事情も存する。
そこで、右のような事情を総合考慮して、被告会社については主文のとおり刑を定め、被告人については、今回に限り、社会内で更生の機会を与えるのを相当と判断した。
(検察官髙橋久志、被告人両名の私選弁護人坂下誠各出席)
(求刑-被告人株式会社海商につき罰金三〇〇〇万円、被告人中村利博につき懲役一年六月)
(裁判官 村越啓悦)