函館地方裁判所 昭和24年(ワ)503号 判決
原告 竹内新太郎
被告 村山昇吾
一、主 文
被告は原告に対し、
一、別紙目録<省略>記載の土地のうち五十三番の地上に存在する木造柾葺平家建工場一棟建坪二十八坪を収去して、同目録記載の土地を明渡さなければならない。
二、昭和二十一年四月一日以降昭和二十五年七月三十一日までは一ケ月金六十二円六十一銭五厘の割合による金員、昭和二十五年八月一日以降前項土地明渡にいたるまで一ケ月金二千一円二十七銭の割合による金員を支払うこと。
三、訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告は主文と同旨の判決並びに土地明渡の部分につき仮執行の宣言を求め、その請求の原因を次のとおり述べた。
別紙目録記載の土地は原告の所有地であるが、昭和二十一年四月一日原告は被告に対し、右土地を賃料一ケ月金六十二円六十一銭五厘、毎月末払いの約で、賃貸借期間を三ケ年と定め、若し賃料を一回でも延滞したときは、通知催告を要せず、ただちに賃貸借契約を解除することができることを特約して賃貸した。しかるに、被告は賃貸後一回も賃料の支払をしないので、原告は右特約に基いて、被告の賃料不払を理由として、本件訴状の送達を以て、右賃貸借契約解除の意思表示をする。しかして、本件訴状は昭和二十四年十二月十二日被告に送達せられたので、本件契約は同日の経過によつて解除となつたものである。従つて右契約解除後は、被告において本件土地を占有できる何らの権原がないにもかかわらず、被告は本件地上に、主文に掲げたような建物を所有し、依然として本件土地を占有しているので、ここに原告は被告に対して、契約解除による原状回復義務の履行として、右建物を収去して本件土地の明渡を求めるものである。そしてこれと同時に昭和二十一年四月一日から昭和二十四年十二月十二日までは、一ケ月金六十二円六十一銭五厘の割合による賃料を、又本件契約解除後の同月十三日から昭和二十五年七月三十一日までは一ケ月右同額の割合により、同年八月一日から本件土地明渡ずみにいたるまでは、本件土地の賃料統制額である一ケ月金二千一円二十七銭の割合による賃料相当の損害金の支払を求めるため本訴に及んだのである。
被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告の主張事実中、被告が原告所有の本件土地を、その主張のような、賃料、支払期、賃貸借期間で賃借しその地上に原告のいうような建物を所有していること。昭和二十一年四月一日以来賃料を支払つていないこと。本件土地の昭和二十五年八月一日以降の地代統制額が一ケ月金二千一円二十七銭であることはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。
被告は、昭和十九年四月一日、建物所有の目的で、本件土地を賃借したもので、昭和二十一年四月一日、右賃貸借契約を更新したのであつて、原告主張の賃貸借期間は、賃料その他の条件の単なるすえ置き期間にすぎない。元来本件地代は、いわゆる取立債務の約であつて、被告は原告方から集金に来るのを待つていたが、一こう集金にこないので、再三進んで支払をしようとしたのであるが、原告は賃料値上げをもくろんでいる様子で受取つてくれないまま、延び延びになつたのである。それ故被告の方に履行遅滞はないのであるが、念のため、昭和二十五年一月十九日本件地代を供託し、即日その旨を原告に通知した。従つて、本件契約は今尚継続しているから、原告の請求は失当である。
仮に、本件土地の賃貸借契約が解除せられたものとしても、被告は工場敷地に使用のため借地したのであつて、現に原告主張のように、地上に工事を建築して使用中であり、本件土地の地盛りのため、石灰残滓、煉瓦屑等を運ぶために合計金十三万二千余円を投じて土地の改良につとめ、この増加額は現存するから、その償還を受けるまでは本件土地を留置する。よつてその返還には応じられないと述べた。
原告は、被告の右抗弁事実を否認し、本件賃料の支払場所については、被告主張のような特約はないのであつて、当然の持参債務である。なお、土地改良につとめたというけれども、これは被告の方で、本件土地の隣地において石灰工場を経営している関係から、工場で生ずる石灰かすを本件土地内に捨たに過ぎないのであつて、土地改良というような事実はなく、かえつて原告の方で耕地として使用する際のさまたげをしている。しかし、仮に原告主張のような増加額について償還義務あるものとしても原告は右償還につき相当期限の許与を請求すると附加えた。
<立証省略>
三、理 由
原告所有の別紙目録記載の土地について、原、被告間に昭和二十一年四月一日、原告主張のように、賃料一ケ月金六十二円六十一銭五厘、賃料支払期毎月末日、賃貸借期間契約の日から満三年とした賃貸借契約が成立(新たな契約か、旧契約の更新であるかの点は別として)したことは当事者間に争なく、成立に争のない甲第一号証によれば、右契約には被告が一回でも賃料の支払を怠つたときは、通知催告等を要せず右契約を解除し得る特約があつたことが窺われる。そして被告が右賃料を契約の日から少しも支払つていないことは、被告の争わないところであつて、原告が右特約に基いて、本訴状の送達を以て本件契約解除の意思表示をしたこと及び本件訴状が昭和二十四年十二月十二日被告に送達せられたことは本件の記録上で明白である。
被告は本件賃料の支払場所については、いわゆる取立債務の特約があつたにもかかわらず、原告の側で賃料の取立をしなかつたから賃料支払をしなかつたと主張し、なお延滞賃料は、昭和二十五年一月十九日供託したので賃料の怠りはないと主張するがこれを認めるに足りる立証がないから、右主張は援用できない。されば本件土地の賃貸借契約は、他に特別の事情がない限り、昭和二十四年十二月十二日の経過によつて解除せられたものである。
よつて、被告主張の留置権の当否について考えてみる。
検証の結果と証人木村松三、堀内音治、貝崎信作、鈴木福五郎の各証言を合わせてみると、本件土地の附近一帯は住宅地又は工場地帯であつて農耕地としては利用価値の少い土地柄であること、本件土地は道路に比べ約二尺ないし三尺も低いうえ、排水の便も悪い状況であつて、住宅又は工場敷地として使用するには相当の地盛を必要とすること、被告に於て、昭和十九年頃から昭和二十二年頃までの間数回に人夫を雇い馬車で附近の海岸から砂を運んだり、或は隣にある被告の石灰工場から石灰かすを運んだりして本件の地盛りをしてきたこと。
右地盛は本件土地の北方に接して通じている添山道路と高低の差がないまでになつて、本件土地のうち約六百坪にわたる地域に現存していること等が認められる。以上認定の事実によれば、被告の右地盛工事は本件土地の価値を増加せしめたものとして有益費たり得よう。(たとえ、右地盛が原告のいうとおり、石灰かすを捨たものであつて、単に廃物利用であつたとしても、これによつて土地の価値増加を否定する理由とはならない。)そしてその価格の増加が現在する場合ということができる。従つて本件契約解除により、被告は本件土地の改良によつて生じた増価額について原告からその償還あるまでは一応本件土地を留置する権利を持つものというべきである。ただ被告は右現在増価額が何程であるかについて何等立証するところがないので、あるひは右増加額の確定されるまでは償還請求権自体発生しないか又は発生しても弁済期が到来しないものではないかとの疑いもないではないが元来債権はその給付の内容が将来確定し得れば足りるものであるからたとえ、具体的に右増加額が確定されていないとしても、これを以て右留置権の成立を妨げるものとは解し得ないのである。しかしながら右増加額が確定しない限り、原告は有益費を償還しようとしても、これを償還するに由がないので、当裁判所は原告の請求を容れ、右増加額の確定があるまで、原告の本件有益費償還につき期限を許与するのが相当であると考える。されば被告の本件有益費償還請求権はいまだ弁済期に在らざるに帰したものといわなければならないから、被告の主張する留置権は成立しないものといわざるを得ない。
以上に述べたとおりであるから、本件土地の賃貸借契約解除後は、被告は右土地占有につき何等正当な権原がないことは明かであるから本件土地上にある主文掲記の建物を収去して右土地を原告に明渡す義務があるものといわなければならない。
次に、本件土地の一ケ月の賃料額が金六十二円六十一銭五厘であつたこと、昭和二十一年四月一日以降被告が右賃料を支払つていないこと及び本件土地の昭和二十五年八月一日以後の賃料統制額が一ケ月金二千一円二十七銭と定められたことは当事者間に争がない。そうだとすれば、被告は原告に対し、昭和二十一年四月一日から昭和二十四年十二月十二日までは一ケ月金六十二円六十一銭五厘の割合による賃料を、前記契約解除の同月十三日から昭和二十五年七月三十一日までは一ケ月右と同額の割合により、本件土地の賃料統制額が一ケ月金二千一円二十七銭と改められた昭和二十五年八月一日から本件土地明渡済にいたるまでは一ケ月右同額の割合による賃料相当の損害金を支払うべき義務があることも明かなりといわなければならない。
されば、原告の本訴請求は正当としてこれを容れ、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用し、なお原告の求める仮執行の宣言は、本件事実にかんがみ、これを許容することは適当でないと考えるのでこれを許さないことにし、主文のとおり判決する。
(裁判官 岩崎善四郎)