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函館地方裁判所 昭和30年(ヨ)57号 判決 1955年8月30日

申請人 函館バス株式会社

被申請人 函館バス労働組合

主文

別紙目録第一、第二記載の車輌倉庫及宅地等に対する被申請人の占有を解き申請人の委任する函館地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。

執行吏は申請人の申出により申請人に右物件の使用を許すことができる。

被申請人は申請人が右物件を使用して行う業務を妨害してはならない。

執行吏は前各項の趣旨を公示するため適当な方法をとらなければならない。

申請人のその余の申請は棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を申請人の、その二を被申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

申請代理人は別紙目録第二、第三記載の物件に対する被申請人の占有を解き申請人の委任する函館地方裁判所執行吏にその保管を命ずる、執行吏はその占有保管に係ることを適当な方法により公示しなければならない、執行吏は申請人の申出により申請人に右物件の使用を許すことができる、被申請人は申請人が右物件を使用して業務を行う場合これを妨害してはならない、執行吏は前各項の趣旨の実効をあげるため適当な方法をとることができるとの判決を求め、その申請理由として、

一、申請人は函館市松風町八番地に本店を置き、函館(前同所)、江差、松前、鹿部、森、木古内、八雲の七ケ所に営業所を、東瀬棚、川汲に出張所を設け、百十六台の自動車と、二百八十五名の従業員をもつて、道南下海岸外五十二の路線で一般乗客の運輸を業とするもの、被申請人は申請会社の従業員の一部をもつて、昭和二十九年八月三日組織された労働組合で現在員は百三十一名である。

二、かねて申請人は函館市日の出町五番地所在の従業員独身寮日の出寮居住の従業員に立退命令を発し、又函館市公安委員会より運転免許停止処分をうけた坂本秀雄、羽田豊太郎の両名に停止期間中の出勤停止期間中の出勤停止を命ずる等の処置をとつていたところ、被申請人は昭和三十年六月二十三日申請人に対し右命令の撤回、及び組合除名者の解雇、労働協約の一部改正等二十五項目の要求をなして来た上、同月二十九日業務の一部を拒否するに及んだので、七月三日、五日、の両日団体交渉を続けたが、被申請人は前掲主項目を逼つて譲らず、交渉は決裂するに至つた。

三、七月六日になり被申請人は「七月七日午前零時以降四十八時間に亘りガイド及び函館営業所、本社事務職員の就労を拒否する」旨申請人に通告して来たが、同日夜と翌七日夜にかけて、申請会社に無断で函館、鹿部、松前、江差各営業所管内の各所に駐車格納中の三十三台と、函館市松風町大同自動車修理工場に保管中の二台のバス車輌を実力をもつて奪取し、これを函館市日の出町五番地所在の車庫(以下日の出町車庫と称す)に集結し、同車庫に格納してあつた五十六台のバス車輌と共に計九十一台を実力占有し、同車庫附近にピケラインを張つて申請会社の右車輌に対する管理使用を不可能ならしめると共に、本社、事務所、並に函館営業所を占有し、同所附近にピケラインを張つて、労組員以外の者の立入を制限、禁止したため申請人の営業は一時停止するに至つた。

四、その後七月二十五日地方労働委員会の斡旋により、当事者間で、被申請人はとりあえず奪取車輌中五十五台を申請人に返還し、申請人においてこれを運行しながら同日より五日間、問題の解決を計る旨の協定が成立し、同日被申請人より車輌五十五台の引渡をうけて、運行していた。

五、ところが八月二日に至り又も被申請人は暴力をもつて函館、鹿部、松前、江差各営業所管内各所に駐車格納中の計三十八台のバス車輌を翌三日午前六時頃までに日の出町車庫に集結し、更に同月八日申請人において運行中の車輌四台、松風町大同自動車修理工場に保管中の一台を強奪して、同車庫に集結し、同車庫に格納中の三十八台のバス車輌と共に総計八十一台(別紙目録第二記載)を同車庫一帯に労組員のピケラインを張ることによつて、車庫と共に占有して、申請人の管理使用を拒否すると共に、本社事務所並に函館営業所を占有して申請人の業務を妨害している。

六、しかしながら被申請人の右行為は正当なる争議行為の範囲を逸脱した違法のものであり、そのため無秩序なる被申請組合の管理下にある申請会社の経営は危機にひんしており、将来回復し得ない損害を蒙る虞あるのみでなく、道南唯一の交通機関である申請人の営業は公衆の日常生活に不可欠のものであつて、被申請人の右争議行為により一般公衆の不利益は甚大なるものがある。

よつて申請の趣旨記載の裁判を求めるため本申請に及んだと陳述した。

(疎明省略)

被申請代理人は、申請を棄却するとの判決を求め答弁として、

一、申請理由第一項中被申請人所属組合員数を除くその余の事実は認める、被申請組合員は二百三十六名である。

一、申請理由第二項は認める。

一、申請理由第三項中、被申請人が申請人主張の日時、場所より各車輌を日の出町車庫に集結させた事実は認めるも暴力によるものではない、その余の事実は否認する。

一、申請理由第四項は認めるも、右協定に際し、申請人との間に、右協定期間内に争議が妥結しないときは、被申請組合は七月二十四日の争議状態にかえるとの覚書をかわした。

一、申請理由第五項中被申請人が申請人主張のとおり各車輌を日の出町車庫に集結したことは認めるが、その余は否認する、右車輌の集結は七月二十五日の地方労働委員会の斡旋による協定の際の確認書並に覚書に基き合法的に引渡をうけたものである。

一、申請理由第六項は否認する被申請組合の行為は正当なる争議行為である。

と述べた。

(疎明省略)

理由

一、(当事者の態様)

申請人は函館市松風町八番地に本店を置き函館、江差、松前、鹿部、森、木古内、八雲の七ケ所に営業所を、東瀬棚、川汲に出張所を設け、百十六台の自動車二百八十五名の従業員をもつて、道南下海岸外五十二の路線で一般乗客の運輸を業とするもの被申請人は申請会社の従業員の一部をもつて昭和二十九年八月三日組織された労働組合であることは当事者間に争はない。

成立に争なき疎甲第二号証の一、及び証人中村豊、同今井利夫、同福士長蔵の証言、並に同証言により真正に成立したと認める疎甲第十九号証、第二十四号証、第二十五号証、第三十四号証、第三十七号証を綜合すれば、申請会社従業員中被申請人組合に属さない者の一部約五十名をもつて昭和二十九年十月五日函館バス従業員組合なる組織を発足し、

昭和三十年三月二十一日申請人との間に労働協約を締結するに及んで、組合員は百七名に増加したのであるが、それより先、被申請人組合と前記函館バス従業員組合(以下従組と称す)を統一して新組合を結成しようとする声が漸次両組合員間で叫ばれるに至つたため、従組側では四月十一日大会を開いたが統一について論議一致しないまま翌十二日の支部長、執行委員会会議に持越され、同会議で三役に一任され、田中委員長、池田副委員長、中村書記長の三名が数回に亘り被申請人組合側と準備会を開いたが結論を得ないまま同年六月一日被申請人組合と従組との統一大会を開くに及び同席上、両組合を統一し、新名称を函館バス労働組合とする旨の議決があつたが、従組所属組合中右統一大会に出席したのは委任状による出席を含めて、十七、八名程度に過ぎなかつた上従組解散についての議決もしていなかつたので従組の大勢は統一大会の議決を不適法とし、その後六月十五日江差地区で被申請人組合不加入の者約九十四名(委任状行使の者を含む)が出席して従組の大会を開き新に役員を選任して合法組合として依然存続活動し本件争議開始後も数回従組の名(執行委員長菅野信二)をもつて申請会社に対し或は団交を申入れ、或は要望書を提出する等の行為に及んでいることが認められ、証人古田嘉宏、同田中辰尾の証言も右認定の妨となるものではない。抑々労務者とその組合との関係は組合が経営者とユニオンシヨツプ制を採つていない以上労働組合への加入脱退は各個労働者の自由意思により定めらるべきものであつて従組傘下約九十名(前掲証拠より、江差大会以後若干名の者が被申請組合に加入したことが窺える)は被申請人組合に統一を欲せず適法な手続により組合を組織して存在しているものと認められるから、申請会社従業員二百八十五名中非組合員五十七名乃至六十名(前掲証拠より認定)と従組員九十名を控除した残りの百三十余名が被申請人組合所属の組合員であるものと解する。

二、(争議の経過及び実状)

当事者間に争のない事実及び成立に争のなき疎甲第三十八号証、乙第五十七号証の一、二、第五十八号証の一、二、証人中田有の証言(二回)及び同証言により真正に成立したと認める疎甲第四十四号証、第四十五号証、甲第六十一号証の一乃至六、甲第七十四号証乃至八十七号証、証人古田嘉宏の証言を綜合すれば、本件争議の経過実状は次のとおりである。

即ち申請人会社はかねて函館市日の出町五番地所在の従業員独身寮日の出寮(日の出町車庫内)居住の従業員に立退命令を発し、又函館公安委員会より運転免許停止処分をうけた坂本秀雄、羽田豊太郎の両名を免許停止期間の出勤停止を命ずる等の処置をとつていたが、被申請人組合は昭和三十年六月二十三日申請人会社に対し右命令の撤回、及び組合除名者の解雇、労働協約の一部改正等二十五項目の要求をなし次で同月二十九日業務の一部を拒否した。その後両者は七月三日、五日の両日前掲問題をかこんで団体交渉を続けたが、ともに譲らず交渉は決裂するに至つた。(以上当事者間に争はない)

七月六日になり被申請人組合は「七月七日午前零時以降四十八時間に亘りガイド及び函館本社事務職員の就労拒否を行う」旨申請会社に通告して来たが、(甲第三十八号証)、同夜半に至り、当時函館、松前等七ケ所の営業所には各配車台数が定まつており、夫々車庫を有して平常運行時の勤務終了後は各車庫に格納して函館を除く各営業所の所長等の責任者がその管理に当つていたこと、函館営業所管内の配車車輌は日の出町車庫に終車後格納され、同車庫に詰所を置いて申請人会社業務部直属の管理人二名が交替で管理に当つていたところ、被申請人組合は、申請人会社に無断で、且つ管理者の承諾なくして、函館、鹿部、松前、各営業所管内各所に駐車格納中のバス車輌二十九台と、函館市松風町大同自動車修理工場に保管中のバス車輌二台を七月七日夜までに日の出町車庫に集結させ、同車庫に入庫していた四十六、七台のバス車輌と共に、同車庫附近を労組員が占有することによつて、申請会社の管理を排除し、同日申請会社よりの車輌返還の申入を拒否するに至つた。

他方松風町八番地所在の函館営業所は被申請人組合員のため七日より閉鎖され、十一日頃より裏口玄関に竹棒を張り椅子を並べたりしながら、五、六名乃至多いときは五十名に及ぶ被申請人組合員がつめかけて、ピケを張り、同月十二日函館営業所長及び業務課長の出社入室を拒否し、更に従組員の立入を拒んだ。(以上証人中田有(第一回)甲第四十四号、第四十五号、第五十二号、第六十一号証の一乃至六)

その後七月二十五日に至り地方労働委員会の斡旋により、申請当事者間で、被申請人組合はとりあえず奪取車輌中五十五台を申請人会社に返還し申請会社において、右車輌を運行しながら、同日より五日間問題の解決を計る旨の協定と、その協定期間中に争議が妥結しないときは被申請人組合は七月二十四日の争議状態にかえるとの覚書が交され、即日申請人会社は被申請人組合より五十五台の引渡をうけて、運行を始めたが地労委の斡旋のもとの団体交渉は遂に妥結に至らず、八月二日更に申請当事者間のみの団体交渉ももの別れとなつた。

その間、被申請人組合において申請人会社に引渡した残十七台の車輌は、日の出町車庫に留置し、同車庫を労組員六、七名が監視しており、引渡をうけた五十五輌は申請人会社において平常時通り各営業所に配置し、各営業所長等が保管々理をなしていたが、前記二日団体交渉が物別れになるや、被申請人組合は更び行動を起し、申請人会社並に各車輌の管理者に無断で翌三日午前六時頃までに函館営業所管内各所に駐車格納中の十二台、鹿部営業所管内に駐車格納中の十台松前営業所管内に駐車格納中の四台、江差営業所管内に駐車格納中の十二台合計三十八台のバス車輌を日の出町車庫に集結し、更に同月八日申請人会社において従組員等をして運転させていた車輌四台を運行途中その拒否に拘らず暴力をもつて強奪し、松風町大同自動車修理工場にあつた車輌一台を奪取していづれも日の出町車庫に集結し、同車庫に駐車格納してあつた三十八台と共に総計八十一台のバス車輌(別紙目録第二)を同車庫内日の出寮に居住する被申請組合員等によつて、同車庫(別紙目録第一)を占拠することにより共に占有し、八月三日申請人会社の車輌返還要求を拒否した。これに対し、申請人会社は松風町八番地所在の会社本社、並に函館営業所入口に鍵をかけて労組員の入室を禁じていることが疎明される。

右認定に反する証人古田嘉宏の証言、同川崎敬尋問の結果はこれを信用し難い。

三、(争議行為の適法性の有無)

以上認められる事実関係を通じてみると被申請人組合が二回に亘り申請人会社の管理するバス車輌を無断で日の出町車庫に集結させたことは、被申請組合員の運転するバス車輌であり、有形的な暴力を用いず、用いる必要がなかつたとしても、日の出町車庫に労組員を集めて、車庫車輌を占有し、申請会社の車輌返還要求を拒否して、バス車輌に対する申請人会社の管理権を奪つたこと、(第一回ストにおいて、函館営業所を占有して労組員以外の出入を拒否したことも含めて)は、元来経営権と労働権の対等、調和を規律する現行法秩序の下において、企業の経営、生産手段の指揮管理が資本家側の権限に属するものである以上、争議の発端事情において従組員と労組間に露骨な差等を設け、或は争議途上の団体交渉の経過に於て徒に方法論などで終始し責任者は上京逃避して交渉を遷延させる等申請人会社側にも批難に値する幾多の点があるけれども、使用者側に属する生産手段即ちバス車輌等の管理を排除して、被申請組合側の実力支配の下におくことは争議行為の正当性の限界を越えたものであり、加えて被申請組合に属せず、就業の意欲を持つ他組合員が存在する以上自己の右争議行為によつて申請人会社に勤務する従組所属の労働者約九十名の就業の場を奪う何等の権利も見出し得ないのみでなく、第二回ストにおいて、従組員の運転するバス車輌四台を暴力をもつて奪取するに及んでは法の当然許容し得ないところである。

被申請人組合は第二回ストにおける車輌の集結は七月二十五日申請当事者間で成立した覚書に基き、合法的になしたものであると主張するが右覚書は地労委の斡旋による協定期間中に争議行為をなさないことを確認する平和条項と解すべきであつて、申請人会社が所有するバス車輌を被申請組合の管理下におくことを承諾し、それにより第二回ストによるバス車輌の集結が、違法性を阻却される条項を定めたものとは認め得ない。

申請人会社従業員が、被申請人組合員と、従組員とに分裂し、被申請人組合の単独ストが怠業、職場放棄等によつては実効性を挙げ得ないことは認め得るが、従業員自身の自覚と理解の下に問題の解決を計るべきであつて、前記争議行為の効果を挙げる手段として車輌、車庫を占拠し生産手段を管理することの正当性を理由づけるものとは云い得ないものである。

四、(仮処分の必要性)

前記認定のとおり現在申請人会社は函館市松風町八番地所在の本社、並に函館営業所の占有を回復していることが認められるから、右については仮処分の必要性は消滅したものであるが

被申請組合は尚日の出町五番地所在の車庫一帯と、同車庫内の車輌(別紙目録第二記載)を占有し、申請会社の適法な業務の執行を妨げており、これが継続されることは、申請会社の経営に危機をもたらし、将来において、回復し得ない損害を蒙る虞は充分看取されるのみでなく、申請会社の業務は道南唯一のバス交通機関であつて、一般公衆の日常生活と密接な関連を有し、その公共性、社会性が高度であることは顕著な事実であり、争議行為の続行によつて、道南居住の一般公衆に与える不利益は計り知れないものがあることより申請人は被申請人の業務妨害を排除して、仮処分を求める必要性を有するものといいうる。

五、以上の理由により申請人の本件申請を主文第一項乃至第四項表示の限度でこれを許容し、申請人会社本社、並に函館営業所については必要性ないものとしてこれを棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法第九十五条第九十二条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 小野沢竜雄 馬場励 鈴木雄八郎)

(別紙省略)

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