函館地方裁判所 昭和35年(わ)404号 判決 1965年4月24日
被告人 佐藤孝行 外二一名
主文
被告人佐藤孝行を懲役一年に、
被告人種田信也を懲役四月に、
被告人川原金蔵を懲役四月に、
被告人庄司満子を懲役四月に、
被告人藤井義信を懲役三月に、
被告人伊藤佐一を懲役三月に、
被告人棟方定太郎を懲役三月に、
被告人安井ユキを懲役三月に、
被告人斎藤武男を懲役四月に、
被告人田中巽を罰金一万五、〇〇〇円に、
被告人峯田佐市を罰金一万円に、
被告人藤盛貴雄を罰金二万円に、
被告人西村吉司を罰金一万二、〇〇〇円に、
被告人牧野久を罰金二万円に、
被告人青山省次郎を罰金二万円に、
被告人藤田孝三を罰金三万円に、
被告人竹内啓太郎を罰金一万五、〇〇〇〇円に、
被告人野村せいを罰金一万五、〇〇〇円に、
被告人森谷ミツを罰金一万、五〇〇〇円に、
被告人川上健一を罰金二万円に、
被告人岩谷信次を罰金三万円に、
それぞれ処する。
ただし、この裁判確定の日から、被告人佐藤孝行、同種田信也、同川原金蔵、同庄司満子、同藤井義信、同伊藤佐一、同安井ユキ、同斎藤武男に対し、三年間、被告人棟方定太郎に対し四年間、それぞれその刑の執行を猶予する。
被告人田中巽、同峯田佐市、同藤盛貴雄、同西村吉司、同牧野久、同青山省次郎、同藤田孝三、同竹内啓太郎、同野村せい、同森谷ミツ、同川上健一、同岩谷信次において、その罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。
被告人安井ユキから、押収してある現金一万五、〇〇〇円(昭和三六年押第四九号の三〇)を没収する。
被告人種田信也から金二万円を、被告人庄司満子から金一万円を、被告人藤井義信から金一万円を、被告人伊藤佐一から金一万六、〇〇〇円を、被告人棟方定太郎から金一万円を、被告人安井ユキから金五、〇〇〇円を、被告人斎藤武男から金七、二二〇円を、被告人田中巽から金五、〇〇〇円を、被告人峯田佐市から金三、〇〇〇円を、被告人藤盛貴雄から金一万円を、被告人西村吉司から金六、四〇〇円を、被告人牧野久から金一万四〇〇円を、被告人青山省次郎から金一万円を、被告人藤田孝三から金一万円を、被告人竹内啓太郎から金五、二二〇円を、被告人野村せいから金五、〇〇〇円を、被告人森谷ミツから金五、〇〇〇円をそれぞれ追徴する。
訴訟費用中、証人蛎崎広根に支給した分は被告人佐藤孝行、同川原金蔵、同棟方定太郎、同庄司満子の連帯負担、証人広瀬武、同東惣与吉、同斎藤友吉、同広島常太郎、同野藤吉太郎、同大坂梅三郎、同佐藤栄太郎、同山尾直太郎、同山谷勝三郎、同宮川豊、同三上政一、同長谷部雄吉、同田中政武、同沢田長太郎、同林梅吉、同岩井甫、同小林文雄、同林茂、同白戸孝一、同相馬定市、同増田富次郎、同林野下二三、同倉地昌三、同前田時太郎、同端本市三郎に支給した分は被告人佐藤孝行、同藤井義信の連帯負担、証人鍋島健一郎に支給した分は被告人佐藤孝行、同藤田孝三の連帯負担、証人加藤東治、同寺尾鉱、同木村鎮雄、同荒木幸太郎、同大森嘉雄、同金子玲子、同岩本明義、同泉マツヱ、同佐々木利雄、同林謙二に支給した分は被告人佐藤孝行の負担、証人播磨和子に支給した分は被告人川原金蔵、同庄司満子の連帯負担、証人古山トメ、同松井恵美子、同山村敏子、同佐藤稲、同鬼山恭子、同中谷としゑ、同川崎美津子、同本間規矩子、同田原多賀子、同富樫芙美子、同原田ツヤ、同住吉信子、同野宮智、同斎藤ふみ子、同小島愛、同今井孝、同菊地道に支給した分は被告人庄司満子の負担、証人藤井あや子に支給した分は被告人藤井義信の負担、証人小松太郎に支給した分は被告人種田信也、同藤盛貴雄の連帯負担、証人松谷則男、同山田金三郎に支給した分は被告人種田信也の負担、証人山村信枝に支給した分は被告人藤盛貴雄の負担、証人斎藤三郎に支給した分は被告人伊藤佐一の負担とする。
被告人藤盛貴雄に対し、公職選挙法に規定する選挙権および被選挙権を有しない期間を四年に、被告人田中巽、同峯田佐市、同藤田孝三に対し右期間を三年に、被告人西村吉司、同牧野久、同青山省次郎、同竹内啓太郎、同野村せい、同森谷ミツ、同川上健一、同岩谷信次に対し、右期間を二年に、それぞれ短縮する。
被告人岩谷信次に対する公訴事実中、被告人岩谷が峯田佐市に対し金三、〇〇〇円を供与したとの点については被告人岩谷は無罪。
被告人峯田佐市に対する公訴事実中、被告人峯田が岩谷信次から金三、〇〇〇円の供与を受けたとの点については被告人峯田は無罪。
被告人庄司満子に対する公訴事実中、被告人庄司が大島三郎から金五万円の供与を受けたとの点については被告人庄司は無罪。
被告人大島三郎は無罪。
理由
一、罪となるべき事実
(昭和三五年一一月二〇日施行の衆議院議員総選挙関係)
被告人佐藤孝行は、昭和三五年一一月二〇日施行の衆議院議員総選挙に際し、同年一〇月三〇日北海道第三区から立候補の届出をしたもの、被告人種田、同川原、同庄司、同藤井、同伊藤、同棟方、同安井、同斎藤、同田中、同峯田、同藤盛、同西村、同牧野、同青山、同藤田、同竹内、同野村、同森谷は、いずれも被告人佐藤孝行の支持者となつたものであるが、
第一、被告人佐藤孝行は、自己に当選を得る目的をもつて、
(一) いまだ自己の立候補届出前であるにもかかわらず、
(1) 昭和三五年九月中旬頃函館市松風町所在の二菱モーター販売株式会社二階の佐藤孝行後援会事務所において、安井ユキに対し、自己のため投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬等として現金三万円を供与し、
(2) 同月三〇日頃右同所において、西村吉司、伊藤佐一に対し右同様の選挙運動をしたことの報酬等として現金五、〇〇〇円ずつ合計金一万円を供与し、
(3) 同月同日頃右同所において、伊藤哲に対し、右同趣旨の下に現金一万円を供与し、
(4) 同月同日頃右同所において、青山省次郎に対し、右同趣旨の下に現金一万円を供与し、
(5) 同年一〇月一三日頃上磯郡上磯町所在の映画館上磯座横路上において、種田信也に対し、前同様の選挙運動をすることの報酬等として現金三万円を供与し、
(6) 同月二七日頃函館市湯川町二丁目一二番地の七、新松旅館において、斎藤武男に対し、右同様の選挙運動をすることの報酬等として現金二万円を供与し、
(7) 同月二九日頃函館市真砂町六番地日魯漁業株式会社函館支社三階の佐藤孝行事務所において、藤田孝三に対し、右同趣旨の選挙運動をすることの報酬等として現金一万円を供与し、
もつてそれぞれ立候補届出前の選挙運動をなし、
(二) 同年一一月三日頃函館市音羽町所在の佐藤孝行選挙事務所において、棟方定太郎に対し、前同様の選挙運動をすることの報酬等として現金一万円を供与し、
第二、被告人佐藤孝行、同川原金蔵は共謀のうえ、被告人佐藤においては自己に当選を得る目的で、被告人川原においては被告人佐藤が立候補の暁には同被告人に当選を得させる目的をもつて、いまだ被告人佐藤が立候補の届出前であるにもかかわらず、
(1) 昭和三五年九月三〇日頃前記二菱モーター二階の佐藤孝行後援会事務所において、佐野久に対し、被告人佐藤のため投票取りまとめなどの選挙運動をしたことの報酬等として現金三、〇〇〇円を供与し、
(2) 同年一〇月一日頃右同所において、右牧野に対し、右同趣旨の下に現金七、四〇〇円を供与し、
(3) 同月四日頃右同所において、西村吉司に対し右同趣旨の下に現金一、四〇〇円を供与し、
(4) 同月八日頃右同所において、伊藤佐一に対し、右同趣旨の下に現金五、〇〇〇円を供与し、
(5) 同月一〇日頃右同所において、右伊藤佐一に対し、右同趣旨の下に現金六、〇〇〇円を供与し、
(6) 同月一九日頃函館市真砂町六番地日魯漁業株式会社函館支社三階の佐藤孝行後援会事務所において、庄司満子に対し、被告人佐藤のため投票取りまとめに従事する者を募集するなどの選挙運動をなしたことの報酬等として現金一万円を供与し、
もつてそれぞれ立候補届出前の選挙運動をなし、
第三、被告人佐藤孝行は、米沢一、金子玲子らと共謀のうえ、被告人佐藤孝行の名を広く前記選挙区の選挙人らに対し周知させ、同被告人が立候補の暁には、当選を得ようと考え、いまだ被告人佐藤が立候補の届出前である昭和三五年一〇月三日および同月九日の両日、東京都荒川区三河島三丁目二、九四五番地荒川郵便局から函館市新川町二三番地阿部悦郎外七万一、七五九名に対し、右経緯により編集、印刷した「次期選挙新人の巻、自民党若手ホープ佐藤孝行氏立起」などのみだしの下に同被告人の経歴、政治に対する抱負、これまでの業績および推せんの言葉などの記事および被告人の写真などを掲載した「やまと新聞」(特集号)と題する印刷物合計七万一、七六〇部位を郵送し、その頃そのうち右阿部悦郎ら約四万名にそれぞれ右印刷物各一部ずつを到達させ、もつて法定外の選挙運動のため使用する文書を頒布し、立候補届出前の選挙運動をなし、
第四、被告人佐藤孝行、同川原金蔵、同棟方定太郎、同庄司満子は共謀のうえ、いまだ被告人佐藤が立候補の届出前である昭和三五年一〇月二二日および翌二三日の両日函館市西川町所在の函館電報局から亀田郡七飯町字本町大貫勇外一、六九八名に対し、「コツカイカイサンワレタツベンタツコウサトウコウコウ」との被告人佐藤に投票を依頼する趣旨の同文電報を打電し、同月二四日から同月二六日までの間右大貫勇ら右名宛人にそれぞれ右電文記載の電報送達紙各一部ずつを到達させ、もつて法定外の選挙運動のため使用する文書を頒布し、立候補届出前の選挙運動をなし、
第五、被告人佐藤孝行、同伊藤佐一は共謀のうえ、被告人佐藤においては自己に当選を得る目的で、被告人伊藤においては被告人佐藤が立候補の暁には同被告人に当選を得させる目的をもつて、いまだ被告人佐藤が立候補の届出前であるのにもかかわらず、
(1) 昭和三五年一〇月二四日頃上磯郡木古内町字木古内二一二番地峯田佐市方において、同人に対し、被告人佐藤のため投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬等として現金三、〇〇〇円を供与し、
(2) 同月同日頃同町字本町二六二番地田中巽方において、同人に対し、右同趣旨の下に現金五、〇〇〇円を供与し、
もつてそれぞれ立候補届出前の選挙運動をなし、
第六、被告人佐藤孝行、同藤井義信は共謀のうえ、被告人佐藤においては自己に当選を得る目的で、被告人藤井においては被告人佐藤が立候補の暁には同被告人に当選を得させる目的をもつて、いまだ被告人佐藤が立候補の届出前であるにもかかわらず、
(1) 昭和三五年一〇月二六日頃函館市湯川町二丁目一二番地の七、新松旅館において、斎藤武男外九名に対し、被告人佐藤のため投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として、一人当り約一、二二〇円相当の酒食を提供し、さらに右一〇名のうち右斎藤外五名に対しては同人らを同所に宿泊(一人当り一、〇〇〇円相当―朝食付)させ、もつて饗応接待し、
(2) 同月二八日頃右新松旅館において、山谷勝三郎外一四名に対し、右同趣旨の下に一人当り約一、一八〇円相当の酒食を提供して饗応接待し
もつてそれぞれ立候補届出前の選挙運動をなし、
第七、被告人棟方定太郎、同安井ユキは共謀のうえ、前記佐藤が立候補の暁には右佐藤に当選を得させる目的をもつて、いまだ右佐藤が立候補の届出前であるにもかかわらず、
(1) 昭和三五年一〇月二日頃函館市末広町三七番地自由民主党函館支部事務所において、野村せいに対し、右佐藤のため投票取りまとめなどの選挙運動をしたことおよびこれからも引続きすることの報酬等として現金五、〇〇〇円を供与し、
(2) 同月五日頃同市恵比須町所在のすし屋「与つぺ鮨」において、森谷ミツに対し、右同趣旨の下に現金五、〇〇〇円を供与し、
もつてそれぞれ立候補届出前の選挙運動をなし、
第八、被告人川原金蔵は、前記佐藤に当選を得させる目的をもつて、
(1) 昭和三五年一〇月三〇日函館市音羽町所在の佐藤孝行選挙事務所において、伊藤哲に対し、右佐藤のため投票取りまとめなどの選挙運動をしたことの報酬等として現金一万五、〇〇〇円を供与し、
(2) 同年一一月三日頃同市音羽町所在の喫茶店「白馬」において、播磨和子に対し、右同趣旨の下に現金一、二〇〇円を供与し、
第九、被告人種田信也は、
(1) 前記第一の(一)(5)記載の日時場所において、前記佐藤から同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら、現金三万円の供与を受け、
(2) 前記佐藤が立候補の暁には右佐藤に当選を得させる目的をもつて、いまだ佐藤が立候補の届出前である昭和三五年一〇月一四日頃上磯郡上磯町字会所町一三二番地の自宅において、前記藤盛貴雄に対し、右佐藤のため投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬等として現金一万円を供与し、もつて立候補届出前の選挙運動をなし、
第一〇、被告人斎藤武男は、
(1) 前記第一の(一)(6)記載の日時場所において、前記佐藤から同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら現金二万円の供与を受け、
(2) 前記第六の(1)記載の日時場所において、前記佐藤らから同記載の目的および趣旨でなされることを知りながら、一人当り約一、二二〇円相当の酒食の提供を受け、さらに同所に宿泊(一、〇〇〇円相当―朝食付)して饗応接待を受け、
(3) 前記佐藤が立候補の暁には右佐藤に当選を得させる目的をもつて、いまだ佐藤が立候補の届出前である昭和三五年一〇月二七日頃函館市湯川町二丁目一二番地の七新松旅館において、斎藤友吉、大坂梅三郎、大坂岩五郎、竹内啓太郎、広島常太郎の五名に対し、それぞれ右佐藤のため投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬等として、いずれも現金三、〇〇〇円ずつを供与し、
もつてそれぞれ立候補届出前の選挙運動をなし、
第一一、被告人庄司満子は、
(1) 前記第二の(6)記載の日時場所において、前記川原から同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら、現金一万円の供与を受け、
(2) 前記佐藤に当選を得させる目的をもつて、昭和三五年一〇月三〇日頃から同年一一月三日頃までの間、別表第一記載のとおり函館市音羽町所在の佐藤孝行選挙事務所外三ヵ所において、松井恵美子外一八名に対し、右佐藤のため投票取りまとめなどの選挙運動をしたことおよびこれからも引続きすることの報酬としてそれぞれ現金三〇〇円ないし九〇〇円ずつ合計一万八〇〇円を供与し、
(3) 右同様の目的をもつて、同年一一月初頃右佐藤孝行選挙事務所において、藤井義信に対し、右同様の選挙運動をしたことの報酬等として現金一万円を供与し、
第一二、被告人安井ユキは、前記第一の(一)の(1)記載の日時場所において、前記佐藤から同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら現金三万円の供与を受け、
第一三、被告人西村吉司は、
(1) 前記第一の(一)(2)記載の日時場所において、前記佐藤から同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら現金五、〇〇〇円の供与を受け、
(2) 同第二の(3)記載の日時場所において、前記川原から同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら現金一、四〇〇円の供与を受け、
第一四、被告人伊藤佐一は、
(1) 前記第一の(一)(2)記載の日時場所において、前記佐藤から同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら現金五、〇〇〇円の供与を受け、
(2) 同第二の(4)(5)各記載の日時場所において、前記川原からそれぞれ同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら、同記載のとおり現金合計一万一、〇〇〇円の各供与を受け、
第一五、被告人青山省次郎は、前記第一の(一)(4)記載の日時場所において、前記佐藤から同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら現金一万円の供与を受け、
第一六、被告人藤田孝三は、前記第一の(一)(7)記載の日時場所において、前記佐藤から同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら現金一万円の供与を受け、
第一七、被告人棟方定太郎は、前記第一の(二)記載の日時場所において、前記佐藤から同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら現金一万円の供与を受け、
第一八、被告人牧野久は、前記第二の(1)(2)各記載の日時場所において、前記川原から、それぞれ同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら、同記載のとおり現金合計一万四〇〇円の各供与を受け、
第一九、被告人峯田佐市は、前記第五の(1)記載の日時場所において、前記伊藤佐一から同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら現金三、〇〇〇円の供与を受け、
第二〇、被告人田中巽は、前記第五の(2)記載の日時場所において、右伊藤から同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら現金五、〇〇〇円の供与を受け、
第二一、被告人野村せいは、前記第七の(1)記載の日時場所において、前記棟方から同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら現金五、〇〇〇円の供与を受け、
第二二、被告人森谷ミツは、前記第七の(2)記載の日時場所において、右棟方から同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら、現金五、〇〇〇円の供与を受け、
第二三、被告人藤盛貴雄は、前記第九の(2)記載の日時場所において、前記種田から同記載の趣旨および目的で供与されるものであることを知りながら現金一万円の供与を受け、
第二四、被告人竹内啓太郎は、
(1) 前記第六の(1)記載の日時場所において、前記佐藤らから同記載の目的および趣旨でなされるものであることを知りながら、一人当り約一、二二〇円相当の酒食の提供を受け、さらに同所に宿泊(一、〇〇〇円相当―朝食付)して饗応接待を受け、
(2) 前記第一〇の(3)記載の日時場所において、前記斎藤から同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら、現金三、〇〇〇円の供与を受け、
第二五、被告人藤井義信は、前記第一一の(3)記載の日時場所において、前記庄司から同記載の目的および趣旨で供与されるものであることを知りながら、現金一万円の供与を受け
たものである。
(昭和三八年一一月二一日施行の衆議院議員総選挙関係)
被告人川上健一、同岩谷信次は、いずれも昭和三八年一一月二一日施行の衆議院議員総選挙に際し、北海道第三区から立候補した佐藤孝行のため選挙運動をしていた者であるが、
第二六、被告人川上健一は、右佐藤に投票を得させる目的をもつて、いまだ右佐藤が立候補の届出前であるにもかかわらず、
(1) 稲見清勝外一名と共謀のうえ、昭和三八年一〇月初頃別表第二の(一)記載のとおり前記選挙の選挙人である茅部郡鹿部村字鹿部六三番地川村宗十郎ら六名方を戸々に訪問し、
(2) 三沢一彦と共謀のうえ、同月二〇日頃右選挙の選挙人方を戸々に訪問する意思の下に、右選挙人である同郡南茅部町字尾札部一六四番地吉岡藤太郎方を訪問し、
もつて、戸別訪問をし、かつ立候補届出前の選挙運動をなし、
第二七、被告人岩谷信次は、右佐藤に投票を得させる目的をもつて、いまだ右佐藤が立候補の届出前であるにもかかわらず、
(1) 単独で、昭和三八年一〇月中頃別表第二の(二)記載のとおり、前記選挙の選挙人である上磯郡木古内町字泉沢四六番地日当玉男ら四名方を戸々に訪問し、
(2) 西山篤外一名と共謀のうえ、同月一五日頃別表第二の(三)記載のとおり、右選挙の選挙人である上磯郡木古内町字札苅七九七番地長谷川スエら一九名方を戸々に訪問し、
(3) 山本賢一外一名と共謀のうえ、同月末頃別表第二の(四)記載のとおり、右選挙の選挙人である上磯郡知内村字元町二二番地池田信行ら七名方を戸々に訪問し、
もつて、戸別訪問をし、かつ立候補届出前の選挙運動をなし、
第二八、被告人川上健一、同岩谷信次は共謀のうえ、右佐藤に投票を得させる目的をもつて、
(一) いまだ右佐藤が立候補の届出前であるにもかかわらず、
(1) 昭和三八年一〇月二五日頃別表第二の(五)記載のとおり前記選挙の選挙人である茅部郡砂原村大字掛澗字場中五七番地池田正己ら三名方を戸々に訪問し、
(2) 同月二七日頃別表第二の(六)記載のとおり右選挙の選挙人である茅部郡砂原村大字掛澗字度杭崎二〇六番地坂本喜四郎ら六名方を戸々に訪問し、
もつて戸別訪問をし、かつ立候補届出前の選挙運動をなし、
(二)(1) 同年一一月初頃別表第二の(七)記載のとおり、右選挙の選挙人である茅部郡南茅部町尾札部三四四番地吉岡藤太郎ら三名方を戸々に訪問し、
(2) 同月六、七日頃別表第二の(八)記載のとおり、右選挙の選挙人である茅部郡森町鳥崎七一番地小川徳次郎ら五名方を戸々に訪問し
もつて戸別訪問をし
たものである。
二、証拠の標目(略)
三、確定裁判の存在
(一) 被告人棟方は、昭和三八年一二月一二日函館地方裁判所で公職選挙法違反により懲役五月、四年間刑執行猶予に処せられ、右裁判は同月二七日確定し、
(二) 被告人斎藤は、昭和三五年八月三〇日函館地方裁判所で公職選挙法違反の罪により懲役三月、三年間刑執行猶予に処せられ、右裁判は同三六年八月一五日確定し、
(三) 被告人藤盛は、同三七年九月二四日函館簡易裁判所で公職選挙法違反の罪により罰金三万円に処せられ、右裁判は同年一〇月一三日確定し、
(四) 被告人牧野は、同三六年五月二六日函館簡易裁判所で道路交通法違反の罪により罰金六、〇〇〇円に処せられ、右裁判は同年六月一四日確定し、
(五) 被告人青山は、同四〇年一月二九日函館簡易裁判所で道路交通法違反の罪により罰金一、〇〇〇円に処せられ、右裁判は同年二月一三日確定し、
(六) 被告人藤田は、昭和三九年三月三一日松前簡易裁判所で松前町畜犬取締及び野犬掃とう条例違反の罪により科料八〇〇円に処せられ、右裁判は同年四月一六日確定し
たものであつて、右(一)(四)ないし(六)の各事実は当該被告人に対する同四〇年三月二二日付、(二)(三)の各事実は当該被告人に対する同三七年一二月五日付各前科調書によつて認める。
四、法令の適用
被告人佐藤の判示の(一)(1)、(5)ないし、(7)、第五の(1)、(2)、第六の(1)、(2)の各所為中、供与又は饗応の点は公職選挙法第二二一条第一項第一号に、判示第一の(一)(2)ないし(4)、第二の(1)ないし(6)の各所為中、供与の点は同法第二二一条第一項第三号第一号(判示第一の(一)(2)の所為は包括して)に、判示第三、第四の各所為中、文書頒布の点は同法第二四三条第三号、第一四二条第一項第一号に、以上各所為中事前運動の点は同法第二三九条第一号、第一二九条に、判示第一の(二)の所為は同法第二二一条第三項第一号、第一項第一号、にそれぞれ該当(判示第二の(1)ないし(6)、第三、第四、第五、の(1)、(2)、第六の(1)、(2)については外に刑法第六〇条)するが、判示第一の(二)を除くその余の供与、文書頒布または饗応と事前運動とはいずれも一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、同法第五四条第一項前段、第一〇条に従い、いずれも重い供与、文書頒布または饗応の罪の刑に従つて処断することとし、判示第三、第四の各罪につきいずれも所定刑中禁錮刑を、その余の各罪につきいずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により、最も重い判示第一の(二)の供与罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処する。
被告人川原の判示第二の(1)ないし(6)の各所為中、供与の点は公職選挙法第二二一条第一項第三号第一号に、判示第四の所為中、文書頒布の点は同法第二四三条第三号、第一四二条第一項第一号に、以上各所為中、事前運動の点は同法第二三九条第一号、第一二九条に、判示第八の(1)、(2)の各所為は同法第二二一条第一項第三号第一号にそれぞれ該当(判示第二の(1)ないし(6)、第四については、外に刑法第六〇条)するが、判示第二の(1)ないし(6)、第四の供与または文書頒布と事前運動とはいずれも一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、同法第五四条第一項前段、第一〇条に従い、いずれも重い供与または文書頒布の罪の刑に従つて処断することとし、判示第四の罪につき所定刑中禁錮刑を、その余の各罪につきいずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により犯情の最も重い判示第八の(1)の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役四月に処する。
被告人棟方の判示第四の所為中、文書頒布の点は公職選挙法第二四三条第三号第一四二条第一項第一号に、判示第七の(1)、(2)の各所為中、供与の点は事前買収の関係で同法第二二一条第一項第一号、事後買収の関係で同法第二二一条第一項第三号第一号(包括して同法第二二一条第一項)に、以上の各所為中、事前運動の点は同法第二三九条第一号、第一二九条に、判示第一七の所為は同法第二二一条第一項第四号、第一号にそれぞれ該当(判示第四、第七の(1)、(2)については、外に刑法第六〇条)するが、文書頒布または供与と事前運動とは一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、同法第五四条第一項前段、第一〇条に従い、いずれも重い文書頒布または供与の罪の刑に従つて処断することとし、判示第四の罪につき所定刑中禁錮刑を、その余の各罪につきいずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上各罪と前記確定裁判のあつた公職選挙法違反の罪とは同法第四五条後段、前段により併合罪の関係にあるので、同法第五〇条によりいまだ裁判を経ていない判示第四、第七の(1)、(2)、第一七の各罪につきさらに処断することとし、同法第四七条本文、第一〇条により最も重い判示第一七の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役三月に処する。
被告人庄司の判示第四の所為中、文書頒布の点は公職選挙法第二四三条第三号、第一四二条第一項第一号に、事前運動の点は同法第二三九条第一号、第一二九条に、判示第一一の(1)の所為は同法第二二一条第一項第四号第三号第一号に、判示第一一の(2)の松井恵美子らに対する各所為は事前買収の関係で同法第二二一条第一項第一号、事後買収の関係で同法第二二一条第一項第三号第一号(包括して同法第二二一条第一項)にそれぞれ該当(判示第四については、外に刑法第六〇条)するが、判示第四の文書頒布と事前運動とはいずれも一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、同法第五四条第一項前段、第一〇条に従い、重い文書頒布の罪の刑に従つて処断することとし、判示第四の罪につき所定刑中禁錮刑を、その余の各罪につきいずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により、最も重い判示第一一の(2)の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役四月に処する。
被告人伊藤の判示第五の(1)、(2)の各所為中、供与の点は公職選挙法第二二一条第一項第一号に、事前運動の点は同法第二三九条第一号、第一二九条に、判示第一四の(1)、(2)の各所為は同法第二二一条第一項第四号第三号第一号にそれぞれ該当(判示第五の(1)、(2)については、外に刑法第六〇条)するが、判示第五の(1)、(2)の供与と事前運動とはいずれも一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、同法第五四条第一項前段、第一〇条に従い、いずれも重い供与の罪の刑に従つて処断することとし、各罪につきいずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により犯情の最も重い判示第一四の(2)の金六、〇〇〇円を受供与の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役三月に処する。
被告人藤井の判示第六の(1)、(2)の各所為中、饗応の点は公職選挙法第二二一条第一項第一号に、事前運動の点は同法第二三九条第一号、第一二九条に、判示第二五の所為は同法第二二一条第一項第四号第三号第一号にそれぞれ該当(判示第六の(1)、(2)については外に刑法第六〇条)するが、判示第六の(1)、(2)の饗応と事前運動とはいずれも一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、同法第五四条第一項前段、第一〇条に従い、いずれも重い供与の罪の刑に従つて処断することとし、各罪についていずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により、犯情の最も重い判示第六の(1)の饗応の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役三月に処する。
被告人安井の判示第七の(1)、(2)の各所為中、供与の点は事前買収の関係で公職選挙法第二二一条第一項第一号、事後買収の関係で同法第二二一条第一項第三号第一号(包括して同法第二二一条第一項)に、事前運動の点は同法第二三九条第一号、第一二九条に、判示第一二の所為は同法第二二一条第一項第四号第一号にそれぞれ該当(判示第七の(1)、(2)については外に刑法第六〇条)するが、判示第七の(1)、(2)の供与と事前運動とはいずれも一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、同法第五四条第一項前段、第一〇条に従い、いずれも重い供与の罪の刑に従つて処断することとし、各罪についていずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により、犯情の最も重い判示第一二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役三月に処する。
被告人種田の判示第九の(1)の所為は公職選挙法第二二一条第一項第四号第一号に、判示第九の(2)の所為中、供与の点は同法第二二一条第一項第一号に、事前運動の点は同法第二三九条第一号、第一二九条にそれぞれ該当するが、右(2)の供与と事前運動とは一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条に従い、重い供与の罪の刑に従つて処断することとし、各罪につきいずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により、犯情の重い判示第九の(1)の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役四月に処する。
被告人斎藤の判示第一〇の(1)、(2)の各所為は公職選挙法第二二一条第一項第四号第一号に、判示第一〇の(3)の各所為中、供与の点は同法第二二一条第一項第一号に、事前運動の点は同法第二三九条第一号、第一二九条にそれぞれ該当するが、右(3)の供与と事前運動とは一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条に従い、重い供与の罪の刑に従つて処断することとし、各罪につきいずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上各罪と前記確定裁判のあつた公職選挙法違反の罪とは、同法第四五条後段、前段により併合罪の関係にあるので、同法第五〇条によりいまだ裁判を経ていない判示第一〇の(1)、(2)、(3)の各罪につき、さらに処断することとし、同法第四七条本文、第一〇条により犯情の最も重い判示第一〇の(1)の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役四月に処する。
被告人西村の判示第一三の(1)、(2)の各所為は、公職選挙法第二二一条第一項第四号第三号第一号に該当するので、いずれも所定刑中罰金刑を選択し、以上各罪は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四八条第二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で同被告人を罰金一万二、〇〇〇円に処する。
被告人青山の判示第一五の所為は公職選挙法第二二一条第一項第四号第三号第一号に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、右は前記確定裁判のあつた道路交通法違反の罪と刑法第四五条後段の併合罪なので、同法第五〇条により、いまだ裁判を経ていない判示第一五の罪についてさらに処断することとし、その金額の範囲内で同被告人を罰金二万円に処する。
被告人藤田の判示第一六の所為は、公職選挙法第二二一条第一項第四号第一号に該当するので所定刑中罰金刑を選択し、右は前記確定裁判のあつた条例違反の罪と刑法第四五条後段の併合罪なので、同法第五〇条により、いまだ裁判を経ていない判示第一六の罪についてさらに処断することとし、その金額の範囲内で同被告人を罰金三万円に処する。
被告人牧野の判示第一八の各所為は公職選挙法第二二一条第一項第四号第三号第一号に該当するので、いずれも所定刑中罰金刑を選択し、以上各罪と前記確定裁判のあつた道路交通法違反の罪とは刑法第四五条後段、前段により併合罪の関係にあるので、同法第五〇条によりいまだ裁判を経ていない判示第一八の各罪につきさらに処断することとし同法第四八条第二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で同被告人を罰金二万円に処する。
被告人峯田の判示第一九、同田中の判示第二〇の各所為は、それぞれ公職選挙法第二二一条第一項第四号第一号に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内で、被告人峯田を罰金一万円に、同田中を罰金一万五、〇〇〇円に処する。
被告人竹内の判示第二四の(1)、(2)の各所為は、公職選挙法第二二一条第一項第四号第一号に該当するので、いずれも所定刑中罰金刑を選択し、以上各罪は刑法第四五条前段の併合罪であるので、同法第四八条第二項により、各罪所定の罰金の合算額の範囲内で同被告人を罰金一万五、〇〇〇円に処する。
被告人野村の判示第二一、同森谷の判示第二二の各所為は、それぞれ事前買収の点で公職選挙法第二二一条第一項第四号第一号、事後買収の点で同法第二二一条第一項第四号第三号第一号(包括して同法第二二一条第一項)に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内で被告人野村、同森谷を各罰金一万五、〇〇〇円に処する。
被告人藤盛の判示第二三の所為は、公職選挙法第二二一条第一項第四号第一号に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、右は前記確定裁判のあつた公職選挙法違反の罪と刑法第四五条後段の併合罪なので、同法第五〇条により、いまだ裁判を経ていない判示第二三の罪についてさらに処断することとし、その金額の範囲内で同被告人を罰金二万円に処する。
被告人川上健一の判示第二六の(1)、(2)第二八の(一)(1)、(2)の各所為中、戸別訪問の点は刑法第六〇条、公職選挙法第二三九条第三号第一三八条第一項(判示第二六の(1)、第二八の(一)(1)、(2)は、いずれも包括して)に、事前運動の点は刑法第六〇条、公職選挙法第二三九条第一号、第一二九条に、判示第二八の(二)(1)、(2)の各所為はいずれも包括して刑法第六〇条、公職選挙法第二三九条第三号、第一三八条第一項にそれぞれ該当するが、判示第二六の(1)、(2)第二八の(一)(1)、(2)の戸別訪問と事前運動とは一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条に従い、いずれも犯情の重い戸別訪問の罪の刑に従つて処断することとし、各罪につきいずれも所定刑中罰金刑を選択し、以上各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四八条第二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で同被告人を罰金二万円に処する。
被告人岩谷信次の判示第二七の(1)ないし(3)、第二八の(一)(1)、(2)の各所為中、戸別訪問の点はいずれも包括して公職選挙法第二三九条第三号、第一三八条第一項に、事前運動の点は同法第二三九条第一号、第一二九条に、判示第八の(二)(1)、(2)の各所為はいずれも包括して同法第二三九条第三号、第一三八条第一項にそれぞれ該当(判示第二七の(2)、(3)、第二八の(一)(1)、(2)、(二)(1)、(2)については、外に刑法第六〇条)するが判示第二七の(1)ないし(3)、第二八の(一)(1)、(2)の戸別訪問と事前運動とは一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、同法第五四条第一項前段、第一〇条に従い、いずれも犯情の重い戸別訪問の罪の刑に従つて処断することとし、各罪につきいずれも所定刑中罰金刑を選択し、以上各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四八条第二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で同被告人を罰金三万円に処する。
被告人佐藤、同種田、同川原、同庄司、同藤井、同伊藤、同棟方、同安井、同斎藤に対し、諸般の情状を考慮し、同法第二五条第一項を適用して主文第二項のとおりそれぞれその刑の執行を猶予する。
被告人田中、同峯田、同藤盛、同西村、同牧野、同青山、同藤田、同竹内、同野村、同森谷、同川上、同岩谷において、その罰金を完納することができないときは、同法第一八条により金五〇〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。
押収してある現金一万五、〇〇〇円(昭和三六年押第四九号の三〇)は、被告人安井が判示第一二の犯行により収受した金員であるから、公職選挙法第二二四条前段によりこれを同被告人から没収する。
被告人種田、同庄司、同藤井、同伊藤、同棟方、同安井、同斎藤、同田中、同峯田、同藤盛、同西村、同牧野、同青山、同藤田、同竹内、同野村、同森谷が供与を受けた判示各現金および利益は、いずれもこれを没収することができないから、同法第二二四条後段により、同被告人らから主文第五項掲記のとおり、それぞれ追徴する(ただし、被告人種田に対しては判示第九の(1)の供与を受けた現金三万円のうち、被告人藤盛に供与した一万円を控除した残額、被告人安井に対しては判示第一二の供与を受けた現金三万円のうち、被告人野村、同森谷に供与した各五、〇〇〇円、前記の没収した一万五、〇〇〇円を控除した残額、被告人斎藤に対しては判示第一〇の(1)の供与を受けた現金二万円のうち、被告人竹内ら五名に供与した金三、〇〇〇円を控除した残額および判示第一〇の(2)の饗応を受けた利益の価額二、二二〇円をそれぞれ追徴する。)。
訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文、第一八二条により、主文第六項掲記のとおり被告人佐藤、同川原、同棟方、同庄司、同藤井、同藤田、同種田、同藤盛、同伊藤にそれぞれ負担させる。
被告人田中、同峯田、同藤盛、同西村、同牧野、同青山、同藤田、同竹内、同野村、同森谷、同川上、同岩谷に対し、情状により昭和三七年法律第一一二号附則第三条による改正前の公職選挙法第二五二条第三項を適用して、同法に規定する選挙権および被選挙権を有しない期間を主文第七項掲記のとおり、それぞれ短縮する。
五、弁護人らの主張に対する判断
(一) 先ず、弁護人らは、被告人佐藤が本件選挙に立候補の決意をした時期は、同被告人が自民党より公認証書の交付を受けた昭和三五年一〇月二八日頃である。それ以前においては、選挙運動の準備行為はあつても、特定の選挙において当選を得、若しくは得させるための行為、すなわち選挙運動なるものは、理論上も実際上もあり得ないものである。従つて、本件公訴事実中、昭和三五年一〇月二八日以前の金銭供与饗応、文書頒布はいずれも選挙とは関係のないものとして無罪である旨主張する。よつて考えるに、第二回公判調書中証人加藤東治の供述部分、証人河野一郎、同松田鉄蔵、同亘四郎に対する当裁判所の各証人尋問調書、被告人佐藤(同三五年一二月二〇日付(甲)、同三六年一月五日付)、同棟方(同三五年一二月一六日付)、同安井(同日付)の検察官に対する各供述調書、被告人佐藤の当公判廷(第四四回、第四五回)における供述を総合すると、次の事実を認めることができる。すなわち、被告人佐藤は年少の頃より政治家を志し、昭和二七年三月明治大学を卒業したが、その少し前の同二六年九月、郷土の先輩政治家平塚常次郎の秘書となり、爾来秘書として精励していた。同三五年七月末頃代議士平塚常次郎は函館市内の日魯ビルで代議士引退を声明し、次いで同年八月頃同市の労働会館で佐藤孝行激励会が開かれた際、平塚は代議士を引退する旨およびその後継者として被告人佐藤を推す旨の挨拶をした。一方被告人佐藤は、同年七月頃平塚らの所属する春秋会の河野一郎代議士から次期の総選挙には北海道第三区から平塚か、佐藤かのいずれかを立候補させたいと思つている旨を知らされ、さらに将来のことを考えると出来るものなら佐藤を立候補させたい、そのためこれから北海道第三区で春秋会の演説会を開き、佐藤でやれるかどうかをテストしてみる、そうしてやれるという見通しがつき、かつ党の公認が得られたときは、佐藤を立候補させる旨を告げられ、また同年八月中旬頃春秋会の北海道地区責任者松田鉄蔵代議士から佐藤後援会結成資金として八〇万円を渡された。そこで、佐藤は同年八月末頃函館市内に佐藤孝行後援会事務所を設け、河野代議士から話のあつた前記春秋会の国会報告演説会の会場設営やその開催準備ならびに後援会会員募集等に着手した。またその頃には一般に衆議院議員総選挙が同年一二月初め頃か一一月下旬に行われることが予想されていた。そして同年九月一二日自民党函館支部は役員会を開き、次期衆院選挙における北海道第三区の党公認候補者として佐藤ら三名を党北海道支部連合会へ推薦したが、他方平塚代議士はこれまでたびたび次期の選挙には立起しない旨を声明しておきながら、いざ選挙になると出馬したことがあつたので、被告人佐藤は次期総選挙に立候補するかどうかについては、前記春秋会の河野代議士らに一任する気持であつたのみならず、万一平塚がさきの引退声明をひるがえして立起するような場合には自己の立候補を断念し、平塚を支持する考えでいた。ところが、結局同年一〇月二七日頃に至り、ようやく党本部で佐藤の公認が決定し、佐藤は同日頃河野代議士から公認証および公認料を渡され、同月三〇日の公示と共に立候補の届出をした。以上の事実を認めることができる。
右各事実によれば、被告人佐藤が本件選挙に立候補の確定的決意をした時期は、右一〇月二七日頃であることが認められるが、他方同年九月初め頃には、同年一二月初め頃か一一月下旬に総選挙が行われることが一般に予想されていたことおよび既にその頃から佐藤は、前記河野ら春秋会幹部のテストに合格し、自民党の公認を得ることができ、かつ平塚常次郎が立候補しない場合には、次期総選挙に立候補しようとの意思を有していたものであることが認められる。そうして選挙運動というためには、必ずしも特定人に立候補の確定的決意があることを必要とするものではなく、諸事情が許すに至るときには立候補しようとする意思、すなわち不確定的または条件付の立候補の意思があるときは、これをもつて足りるものである。けだし、かかる立候補の意思があれば、当選を得、若しくは得させる目的をもつてする行為が理論上も実際上も存在し得るからである。
従つて、被告人佐藤が立候補の決意をした時期は右一〇月二七日であり、それ以前においては選挙運動なるものは理論上も実際上もあり得ないとする弁護人らの主張は失当である。
(二) 次に、弁護人らは佐藤孝行後援会の組織活動、会員募集、国会報告演説会等の諸活動はいわゆる政治活動であり、選挙運動ではない旨主張する。
よつて、判断するに、被告人佐藤が昭和三五年八月末頃函館市に佐藤孝行後援会事務所を設け、国会報告演説会の会場設営やその開催準備、後援会会員募集等に着手したことは前記(二)で認定したとおりである。そこで、先ず右後援会の活動のうち後援会会員募集について考えてみる(国会報告演説会についてはしばらく措く。)。
被告人佐藤(昭和三五年一二月二〇日付(甲)、同月二一日付、同月二三日付(乙))、同川原(同月一一日付乙、同月一九日付、同月二八日付乙)、同伊藤哲(同月九日付)の検察官に対する各供述調書によれば、被告人佐藤は前記のように後援会事務所を設けたが、同年九月頃には四、五百名の者を集めて右後援会の趣意書を配布し、後援会会員の署名集めを依頼したりした外、さらに同月頃から被告人西村、同青山、同牧野、同伊藤、同藤井らを右後援会事務所に雇い入れ、同人らをして北海道第三区内の郡部を分担させたうえ、各担当郡部へ出張させ、平塚代議士の支持者や日魯漁業の関係者を訪問させ、後援会趣意書を渡したり、佐藤を支持することやその土地の有力者への紹介、一般人への趣意書の配布などを依頼させていたことなどが認められる。右各事実に前記の既に同年九月初頃には一般に総選挙が同年一二月初めか一一月下旬に行われると予想されており、かつ当時被告人佐藤において諸事情が許すときはこれに立候補する意思を有していた事実を合せ考えると右にみられる後援会会員募集は、後援会結成の本来の目的および被告人佐藤が供述するような選挙民の同人に対する支持状況を調査する目的をも合わせ有していたものとしても、それらのみにとどまらず、近く行われる次期選挙に際し、被告が立候補するに至つたときは、当選ができるように、同人の名前を選挙人に売り込み、もつて次期選挙において佐藤を有利ならしめようとしたものであることが認められ、これが選挙運動に該当することは明らかである。
してみれば、後援会員募集に従事した被告人らが、右の会員募集の他に国会報告演説会関係の仕事にも従事し、仮りにその演説会関係の行為がすべて選挙運動に該当しないとしても、既に後援会員募集が選挙運動に該る以上弁護人の主張は理由がないものというべきである。
(三) さらに、弁護人らは、本件公訴事実中いわゆる解散電報打電の事実(前記罪となるべき事実第四参照)については、右電報の打電行為は罪とならないものである、すなわち、国会解散の際に候補者となろうとする者らが、「国会解散よろしく頼む」と打電する行為は、立候補の準備行為として選挙違反とならないものであり、現に国会解散の際、かかるいわゆる解散電報が多数打電せられている、本件解散電報は右解散電報とその電文がやや異り、「我立つ、鞭達乞う、」とあるけれども、両者はその実質的意義において異るところがないから、本件解散電報の打電は犯罪を構成しないものである旨主張する。
よつて、審究するに、国会解散の際立候補しようとする者が選挙区の自己の選挙運動関係者に対し、選挙運動の準備を依頼する趣旨で弁護人主張のいわゆる解散電報を打つ場合、右電報が選挙運動のために使用する文書に該らないことは弁護人主張のとおりであろう。しかしながら同文の電報であつても、それが立候補しようとする者の選挙運動の準備と関係のない選挙区の多数人(単なる地方の有力者や支持者など)に対して打電するときは、投票の依頼等選挙運動そのものを依頼する趣旨を有すると認められ右電報は選挙運動のために使用する文書たるの性質を有するに至るものと解するのが相当である。
そこで本件について考えるに、先ず被告人佐藤、同川原らが、右主張のような電報を発信到達させたことは、前記罪となるべき事実第四に判示したとおりである。そうして、被告人庄司(昭和三五年一二月一四日付)、同佐藤(同月二一日付)の検察官に対する各供述調書、押収してあるメモ一九通(同三六年押第四九号の一〇)によれば、被告人佐藤、同川原らは佐藤孝行後援会事務所の運動員が北海道第三区内の郡部を廻り、右後援会会員募集をした際に作成したメモや道南人名録に基づき、右郡部の有力者や支持者ら、一、六九九名に対し、前記電報を打電したものであることが認められる。しかして、これらの電報名宛人は、佐藤の選挙運動の準備についての関係者ではなく、単なる選挙区の有力者かないしは佐藤の支持者に過ぎないことが認められる。してみれば、佐藤らの打電した「国会解散我立つ鞭達乞う」の電文が普通使用されている解散電報の「国会解散よろしく頼む」の電文とその意味内容が実質において異るところがないとしても、右は投票依頼などの趣旨を含む選挙のために使用する文書に該ることは明らかである。従つて、右電報の打電行為は、選挙運動のための法定外文書の頒布に該当し、公職選挙法に違反するものというべきであり、この点に関する弁護人らの主張も亦理由がない。
六、無罪の言渡をする公訴事実と無罪理由
(被告人岩谷―峯田関係)
(一) 右公訴事実の要旨は、
被告人岩谷、同峯田は、いずれも昭和三五年一一月二〇日施行の衆議院議員選挙に際し、北海道第三区から立候補すべき決意を有する佐藤孝行の支持者であるが、
(1) 被告人岩谷は、右佐藤が立候補の暁には同人に当選を得しめる目的をもつて、いまだ同人が立候補の届出前である同年一〇月一三日頃函館市真砂町六番地日魯漁業株式会社函館支社三階の佐藤孝行後援会事務所において、峯田佐一に対し、右佐藤のため投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬等として現金三、〇〇〇円を供与し、もつて立候補届出前の選挙運動をなし、
(2) 被告人峯田は、右日時場所において、右岩谷から右趣旨の下に供与されるものであることを知りながら、現金三、〇〇〇円の供与をうけ
たものである。というにある。
(二) よつて考えるに、被告人峯田の検察官に対する供述調書によれば、右公訴事実を一応肯認し得るかのようでもあるが、被告人岩谷は捜査段階から当公判廷に至るまで終始右金員の授受を否認して居り、一方被告人峯田も当公判廷(第一二回)においては、「昭和三五年一〇月一三日頃日魯ビルの佐藤孝行後援会事務所で、相手は誰か判らないが三、〇〇〇円を受取つたことはある。その相手が岩谷であつたかどうかは判らない。いま被告人席の岩谷を見ると、おぼろげではあるが、容貌がそれらしく思う。」旨を供述するに至り、検察官に対する供述とはやや異つている。よつてこの点につき検討する。
(1) 先ず、被告人峯田の当公判廷(第一二回)における供述、被告人伊藤の検察官に対する昭和三六年一月一八日付供述調書によると、被告人峯田は同三五年九月頃から佐藤孝行のため後援会会員募集をやつて居り、また同年一〇月二四日頃には右後援会事務所の伊藤佐一からその報酬として現金三、〇〇〇円の供与を受けていること(前記罪となるべき事実第五の(1)参照)、本件金員が授受されたとされている同年一〇月一三日頃峯田は日魯ビル内の右後援会事務所に出向いていることなどが認められ、また第四四回公判調書中被告人岩谷の供述部分によると岩谷はその当時右後援会の仕事に従事して居り、右後援会事務所には出入りしていたことが窺われるので、これらの事実を考え合わせると、前掲峯田調書にはかなりの信用性があるようにも判断される。
(2) けれども、他面前記峯田調書を仔細にみると、被告人峯田は検察官に対し本件の現金三、〇〇〇円を渡してくれた人は「ワイシヤツ姿の眼鏡をかけた二十四、五の若い青年」であり、「足代や弁当代もかかることだから持つて行つてくれといつて、無理矢理私のポケツトにねじこんだ」と供述して居り、また岩谷の写真を示されると、「この写真の男が私に三、〇〇〇円くれた男に間違いない」と述べて居るのであるが、前掲各証拠および被告人佐藤の検察官に対する同年一二月二三日付供述調書(乙)を総合すると、峯田が右後援会の会員募集に際し、交渉をもつた後援会事務所の者は佐藤孝行、佐藤佐一、牧野久らであり、岩谷とは面識がなかつたこと、岩谷は右後援会活動については、長万部方面を担当して居り、峯田の住居地である木古内方面の担当者は伊藤佐一であつて、岩谷は同方面とは関係がなかつたことが認められ、また岩谷が右後援会会員募集に関して本件金員以外に金員を供与したと認めうるような証拠は存しないことを考えると、峯田に対する本件金員の供与者が被告人岩谷であるとすることは不自然の点あるを免れず、これらの諸事実に被告人岩谷が当初より一貫して本件事実を否認してきた事実など合せ考えると、右峯田のこの点に関する供述部分は、いまだ当裁判所の心証を形成させるに十分ということができない。結局被告人岩谷については、犯罪の証明がないことに帰する。
(3) また被告人峯田についても、同被告人が岩谷から本件金員を受取つたものと認定し難いことは前段説示のとおりである。もつとも、前掲峯田調書によれば同被告人が、右公訴事実の日時場所で岩谷以外の何人かから現金三、〇〇〇円の供与をうけたことは認め得ないわけではないけれども、そうであつたとしても右峯田についても結局犯罪の証明がないことに帰着する。
(4) このような次第であるから、刑事訴訟法第三三六条により被告人岩谷、同峯田に対し、前記各公訴事実について無罪の言渡をする。
(被告人大島―同庄司関係)
(一) 右公訴事実の要旨は、
(1) 被告人大島は、昭和三五年一一月二〇日施行の衆議院議員選挙に際し、北海道第三区から立候補した佐藤孝行の選挙運動者であるが、右佐藤に当選を得させる目的をもつて、同年一〇月三〇日函館市音羽町一三番地佐藤孝行選挙事務所において、同人の選挙運動者である庄司満子に対し、右佐藤のため投票取りまとめ等の選挙運動をなすことの報酬資金として現金五万円を供与し、
2 被告人庄司は、右日時場所において、右大島から右趣旨の下に供与されるものであることを知りながら、現金五万円の供与を受け
たものである、というにある。
(二) よつて考えるに、被告人大島は右金員の授受につき当公判廷における供述はもとより、捜査官の取調べに対しても終始一貫して右金員の授受を否認しているのに対し、被告人庄司は捜査段階のみならず、当公判廷においても右金員の授受を認めているので、以下右金員の授受の有無について審究する。
(三)(1) 先ず、被告人庄司の昭和三五年一一月七日付供述調書(乙)(以下庄司調書と略称することがある。)には、「公示が行われた一〇月三〇日の午前中、佐藤孝行の選挙事務所へ行つたが、同所のついたての向うの部屋で大島三郎から一万円札五枚を渡された。その際、大島は『五万円だが昨日の女の人達が来たら一人当り三〇〇円を渡してくれ』と言つた。」旨の記載があり、次いで、第一回公判調書によれば庄司は被告事件に対する認否の際、本件金員を大島から受取つたことを認める旨の陳述をしていることが認められ、また第四二回および第四九回公判においても同様に右金員を大島から受取つたことを認める旨の供述をなしていることが明らかである。
(2) そうして、(イ)被告人庄司の検察官に対する同年一一月二七日付(乙)、同三六年一月二八日付各供述調書、住吉信子(同三五年一二月七日付)、斎藤文子(同月六日付)野宮智の検察官に対する各供述調書、被告人大島の当公判廷(第四三回)における供述を総合すれば、被告人庄司は佐藤孝行の指示に基づき、昭和三五年一〇月二九日午前一〇時頃日魯ビル二階会議室に婦人約十二、三名位を集めたが、その際集つた婦人に対し、佐藤は自己の経歴や抱負を話し、次いで大島は佐藤の人物を推賞して協力を求めたうえ、パンフレツトをもとにして第三者が行える選挙運動について証明したこと、また佐藤は庄司に対して前記指示の際、右婦人達には一日三〇〇円位のアルバイト料を支払う旨を告げていたことなどが認められ、(ロ)次に、被告人大島(同三六年一月二五日付)、同佐藤(同三五年一二月二〇日付(甲))の検察官に対する各供述調書によれば、大島は同三五年八月末頃、佐藤孝行後援会の事務所開きに出席し、その後も三、四回右事務所に出入りして居り、右後援会の主要なメンバーであつたこと、本件金員の授受がなされたとされている同年一〇月三〇日大島は佐藤孝行の選挙事務所開きに出席していること、さらに大島は同年一〇月二一日頃札幌で松田鉄蔵代議士から佐藤後援会の費用として佐藤のため現金三五万円(一万円札で三五枚)を受取り、これを函館に持ち帰り、佐藤の依頼により同月三〇日頃まで保管していたことが認められ、(ハ)被告人庄司の検察官に対する同年一二月二六日付供述調書によると、佐藤は同年一一月初頃庄司に対し「俺は金を持つていない、全部大島に預けてあるんだ。」ともらしていたことが認められ、(二)被告人庄司の検察官に対する同年一一月三〇日付供述調書によると、同月二日頃庄司が選挙違反の嫌疑で警察の取調べを受けるようになつた際、大島三郎らは右取調の状況を庄司に聞きただしたうえ、都合のわるいことは米沢一にかぶせるようにせよと教示したことが認められる。これらの事実を考え合わせると一応前掲庄司調書にはかなりの信用性があるものと判断される。
(3) けれども、当裁判所の検証調書、証人木島保、同星野博司、同納代勝一郎の各証言を合せ考えれば、同年一〇月三〇日は総選挙の公示の日であり、佐藤選挙事務所では午前中事務所開きが行われ部屋の真中においてあつたついたては部屋の傍らに寄せられて居り、被告人大島は同日午前一〇時頃から一一時半頃まで、他の四、五〇名の関係者と共に事務所開きに出席していたが、その間大島が庄司調書記載のような状況で、庄司に金員を手渡すことは不可能ではないかとの疑いが存する。これに対し、被告人庄司は、本件公判が回を重ねたのちにおいて、事務所開きの時は、自分は事務所には入らず、その奥の畳の部屋にいた。大島から金を受取つたのは、事務所開きの日だつたかどうか忘れたが、事務所のついたてのかげで受取つたことは間違いないと述べるに至つたが、庄司調書は、この点一〇月三〇日選挙の公示の日とはつきり述べておりしかも婦人らを集めた二九日の翌日であることも、わざわざことわつて居るのであり、さらに前記のとおり同年は一一月二日には警察の取調べを受けるようになつたのであるから、右調書が一一月七日付のものである点をも合せ考えると、庄司が右調書をとられた当時、大島から金員を受取つた日時を間違つて述べるということは普通考え難いことである。また庄司は、当公判廷において、「大島から五万円を受取つたが、それは一、〇〇〇円札だつた気もするが、はつきりしない。」とか「大島から受取つた金は一万円札だつたと思う。」など右金員の種別をはじめとして、右授受の前後の状況については、必ずしも明瞭に供述しては居らず庄司の第四二回、第四九回公判における供述)、(ロ)庄司が同年一〇月二九日日魯ビル二階に婦人十二、三名位を集めたのは、佐藤の指示によつたものであり(前記(2)(イ)参照)、大島が右指示をなし、ないしはこれに関与していたと認めるに足りる証拠は見当らないし、また大島が右婦人らに一日三〇〇円のアルバイト代を支払うと言つたような証拠も存しないこと、(ハ)庄司が右婦人らに支払つた一日三〇〇円の割の日当は、総額で一万円内外であつたこと(庄司の検察官に対する同三六年一月二八日付供述調書)、(ニ)庄司は捜査段階で本件金員の授受につき、証人尋問(刑事訴訟法第二二七条)を受け、前掲庄司調書と同趣旨の証言をして居り、当公判廷において金員の授受を否認するときは、偽証罪に問われるおそれのある立場にあること(庄司の第四九回公判における供述)、(ホ)大島は昭和一六年函館市会議員に当選し、次いで同二二年には北海道議会議員となり、爾来連続五期当選の地方政治家であり、これまで一度も選挙違反の罪を犯したことがないこと(大島の第四三回公判における供述)などが認められる。
これらの各事実および被告人大島が終始一貫して本件金員の授受を争つていることを合わせ考えると、大島と庄司との間に本件金員の授受があつたのではないかとの疑いを打ち消すことはできないけれども、右授受があつたと断定するにはいささか躊躇を感ぜざるを得ない。結局被告人大島については犯罪の証明がないことに帰する。
(4) 次に被告人庄司については、同被告人と同大島との間に本件金員の授受があつたものと認定しがたいことは、前段説示のとおりである。結局庄司についても犯罪の証明がないことに帰着する。
(四) このような次第であるから、刑事訴訟法第三三六条により被告人大島、同庄司に対し前記各公訴事実についてそれぞれ無罪の言渡をする。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 中平健吉 千葉裕)
別表第一、第二の(一)ないし(八)(いずれも略)