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函館地方裁判所 昭和44年(ワ)366号 判決 1976年3月22日

原告 木村正夫 外九名

被告 日本国有鉄道

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨(原告ら)

(一)  被告が原告らに対して昭和四四年六月一日付でなした日本国有鉄道法(以下「国鉄法」という。)三一条の規定による別表(一)処分目録記載の各減給処分(以下総称して「本件処分」ということがある。)は、いずれも無効であることを確認する。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告)

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求の原因(原告ら)

(一)  (当事者)

被告は、国鉄法に基づいて、鉄道事業などを営む公共企業体である。

原告らは、いずれも被告に職員として雇用されており、本件処分当時、原告木村、同福士の両名は青函船舶鉄道管理局五稜郭駅操車掛の、その余の原告らは、いずれも同駅構内作業掛(以下「構作掛」という。)の職務に従事していた者であつて、かつ、訴外国鉄労働組合(以下「国労」という。)の組合員である。

(二)  (本件処分)

被告は原告らに対し、本件処分をなした。

(三)  (処分の無効)

原告らには懲戒処分に付される理由がない。

(四)  (結論)

したがつて被告のなした本件処分は、いずれも根拠を欠く無効なものであるから、原告らは、請求の趣旨記載のとおり、訴求する。

二  請求の原因に対する答弁(被告)

(一)  請求の原因(一)(当事者)は認める。

(二)  同(二)(本件処分)は認める。

(三)  同(三)(処分の無効)は争う。

(四)  同(四)(結論)は争う。

三  被告の抗弁(本件処分の根拠)

(一)  (本件処分に至る経緯)

1 本件闘争の位置

(1) 本件操車場の使命

国鉄の貨車操車場は、貨物列車の組成、貨車の入換えのため設けた場所をいうのであつて、小駅に付随した側線二~三本のものから大きなものは何何操車場という名称のある独立したものまでがあり、このような大小さまざまの操車場を国鉄の貨物輸送基準規程(昭四一、一一、一五貨達一一)では、組立駅と中間駅とに分け、貨物列車の組成または組成整理(途中駅で、貨物列車に貨車をつなぐさい前途の駅における入換作業に支障のないよう貨車の組替え整理をすること。)を行う駅を組立駅とし、その他の駅を中間駅としている。したがつて、組立駅なる駅は、操車場としての使命が大であり、規模も大きくなる。組立駅は、使命の大きいものから国鉄本社、同支社、同管理局の順にそれぞれ指定するものにわかれている。実態として本社指定の組立駅は、国鉄幹線の要所、要所に配置されており、本件の五稜郭駅の操車場(以下「本件操車場」という。)は、その意味から本社指定の組立駅となつている。

(2) 本件操車場の果す役割

国鉄は主要な操車場の設置にあたつては、産業地帯や都市の周辺、幹線同志の分岐点や幹線と支線の接続点、長距離幹線の出発点とその中間、水陸連絡の中継点という四要件の一以上を備えていることを必要としているが、本件操車場は、この要件のすべてを充たしている。すなわち、本州と道内との水陸連絡の中継点(長距離幹線の中間でもある。)であり、函館市の都市圈であり、松前線方面、江差線との分岐点であり、長距離幹線の貨物列車の出発点でもあり、次の項で述べるように函館駅からの貨物の入換駅であるところから、長距離幹線の中間というべく函館駅が旅客主体の北海道の表玄関(国鉄連絡船の岸壁が二つ)であるのに比し、本件操車場もまた、貨車主体の北海道の表玄関(国鉄連絡船の岸壁二つ)として函館港(有川)と青森港間を一日一〇往復し、陸揚げされた貨物は勿論のこと、また、松前線方面、江差線への接続駅としての貨車、かつ又、国鉄青函連絡船(以下「連絡船」という。)による函館駅に陸揚げされる本州からの貨車のすべてを各々の行先別に入換をする操車場(函館から約四五両連結の貨物列車として五稜郭駅へ一日に約一二個列車運転される。)として心臓的役割を果している要所であり、同駅での貨車総扱数は、昭和四二年度八九万一、五九三両、昭和四三年度一一〇万六、四三八両であつた。

(3) 到着線、有川到着線

本件操車場のうち、原告らにおいて本件のいわゆる順法闘争(期間の点はともかくとして、以下「本件闘争」という。)を行つた到着線、有川到着線の役割は次のとおりである。

すなわち、連絡船から函館駅及び有川に陸揚げされた貨車の連結順序は方面別に区別されたものでないから、これを方面別に入換するため、函館駅からは五稜郭駅へ約四五両連結の貨車群からなる貨物列車として一日約一三個列車、五稜郭駅本屋からは約四五両連結の貨車群からなる構内運転車両として一日約八個列車、また、有川からは約四五両連結の貨車群からなる構内運転車両として一日約一二個列車が各輸送され、これらの貨車群のうち、函館方面から到着の貨車群は五稜郭駅下り副一番線、同二番線(以下「到着線」という。)のいずれかに(函館、五稜郭駅発、松前・江差両線駅発の各下り方面行貨車についてもこの線に一旦留置する。)又、有川から到着の貨車群は有川到着一番線、同二番線(以下「有川到着線」という。)のいずれかに各一旦留置される。しかしてこれらの留置貨車は次に述べるような作業順序により一個列車ごとに下り入換線に引き上げ入換がなされる。もしこれが渋滞すれば到着線及び有川到着線への一日合計約三〇個列車余にものぼる貨車群の受入れができなくなり、操車場の機能は全く麻ひし、ひいては、函館・有川の両岸壁とも連絡船による輸送貨車の陸揚げが不能となり、連絡船に貨車を積載したままとなり、その結果、連絡船は上下便(函館・有川の双方)とも北海道の表玄関たる水陸連絡の中継点としての役割を全く喪失するという重大な結果を招来するものである。

(4) 操車掛・構作掛などの職務内容など

国鉄の営業関係職員の職制及び服務の基準(昭三七、八、一七総裁達三六三)七条によれば、操車掛は、その主な職務内容を「列車の組成並びに列車及び車両の入換」とされ、また、構作掛(従前は「連結手」「構作連」などと呼称していた。)は、その主な職務内容を「車両の解結及びブレーキシユーの取扱、操車掛及び信号掛の職務補助」などとされている。

本件闘争当時における本件操車場下り仕訳の操車掛・構作掛らの職務内容はこれによつていた。次に本件闘争当時における下り仕訳の操車掛及び構作掛等の勤務形態は、一部の者を除いて八時三〇分から翌朝八時三〇分までの勤務に服するものである。(除かれた一部の者の勤務形態は、九時から翌朝七時五〇分までであつた。)被告の五稜郭駅の当務助役が八時三〇分から行う出勤点呼の際、人名照合時において一名の操車掛と五名の構作掛を一グループ(以下「一操五連」という。)とする二つ(A組、B組)のグループの組合せ指定及び一操五連のグループ中、突放時において切方を担当する構作掛(以下「切方担当」という。)の指定を行い、八時三〇分から一二時まで、一二時から一六時三〇分まで、一六時三〇分から二四時(〇時)まで、翌〇時から六時二〇分まで、六時二〇分から八時三〇分までの間二つの一操五連のグループにより各交互に操車掛の直接の指揮命令下にあつて被告の五稜郭駅長があらかじめ定めて原告らに指定した所定の構内作業ダイヤにより、下り分解において入換作業をなすものであるが、その作業順序と方法などは、次のとおりである。

イ 下り仕訳の役割

到着線及び有川到着線に一旦留置した貨車群は方面別に区分されたものでないから、構内作業ダイヤに定められた時間帯にこれらの到着線から貨車群を入換線に引き取り、下り仕訳〇番線から一七番線の各下り仕訳線、受渡一番線、同二番線に方面別に入換を行うのであるが、これらの作業の順序及び方法は、次のとおりである。

すなわち、到着線ないしは有川到着線に留置されている貨車群の引取りは、入換線において待機中の入換機関車に操車掛と出勤点呼時当務助役から指名された切方担当が添乗し、操車掛から入換機関車の機関士に示される入換合図により到着線に留置中の貨車を引取りの際は到着線へ、有川到着線に留置中の貨車を引取りの際は有川到着線へ行き、切方担当は入換機関車と貨車群最前部貨車との制動ホースを連結したのち、最前部貨車及び最後部貨車などのブレーキの緊締を解き、操車掛に対して、引上げオーライの合図を行うものである。引上げの際は、操車掛は入換機関車の前頭に、また、切方担当は後方の貨車に各添乗し、操車掛の入換合図により下り入換線にこれを引き上げ、続いてロで述べる入換の方法で一操五連の共同作業により、方面別に貨車の入換を行うものである。

ロ 下り仕訳における入換の方法

下り仕訳とは下り貨車を方面別に入換することである。すなわちイで述べた下り入換線に引き上げた貨車群を方面別に仕訳線へ分離して留置することである。この場合、一連につながれた貨車を入換機関車の推進により下り入換線から仕訳線へ行き貨車を切り離して留置し、入換機関車がまた下り入換線へ引き上げるということの繰返しによつてのみ入換が行われるとすれば、入換作業は迅速処理ができず非能率的である。本件操車場においては、線路施設がほぼ水平(千分の三の下りこう配)に作られたいわゆる平面ヤードで仕訳するのであつて、線路上を入換機関車により貨車を突き放して(以下「突放」という。)行う方法をとつている。その方法を詳述すれば次のとおりである。入換作業のうち、一連につながつた貨車と貨車とを切り離す作業を分解(または解放)というが、この分解を行う方法は、分解する前頭の同方面の一両ないし数両の貨車の連結器(連結部分)を切方担当が解錠したうえ全体の貨車群を操車掛から機関士に対する入換合図により入換機関車が推進加速する。そして必要、かつ、十分な速度になつたとき操車掛から機関士に対する停止合図により入換機関車のブレーキをかけると連結器を解錠したところから先の貨車は惰力によつて突き放された形で一連の貨車群から離れてゆく。この分解作業は、一操五連の共同作業により行われるものである。すなわち、貨車を下り入換線から仕訳線に方面別に突放する場合操車掛と切方担当とはトークバツク(特殊連絡用高声電話機)附近にあつて、また、他の四名の構作掛(以下「受方担当」という。)は仕訳線の敷地内にあつて、それぞれ次の職務を行うものである。

操車掛は、入換機関車の機関士に対し、貨車の突放(特殊貨物積貨車・特殊車両等を除く。)に必要十分な前進、停止、後進等の繰返しからなる入換合図などをするほか、五名の構作掛に対して、適正な作業の指導にあたる。

切方担当は、分解の際、ブレーキの機能試験及び受方担当に対するブレーキ取付位置の合図・突放貨車を留置する仕訳番線の合図(受方担当から出される合図を含めて以下「打合せ合図」という。)などを行い、方面別に貨車の連結器を解錠し、かつ、貨車群の入換機関車寄りの一〇両についは制動ホースの切り離しなどを行う。

受方担当は、切方担当から出される打合せ合図の確認受領と突放された貨車(突放禁止貨車を除く。)を待ち受けて添乗し、直ちに抵抗の多い分岐器上をさけてブレーキの効力試験を行い適正なブレーキ調整により、貨車を円滑に目的の停止位置まで移動停止させるものである。

要するに右のように入換作業は、操車掛・切方担当、受方担当がそれぞれの作業を適正、かつ、迅速に実施することによつて円滑に行われるものである。そしてこれらの者の強力な連係動作が要求されるのであつて、これを欠くと全体の作業に影響し渋滞の結果を来たすものなのである。

2 本件闘争

(1) 国労は、合理化反対の基本方針のもとに年末手当をはじめとする諸手当の要求や運輸関係の賃金改善などの諸要求を貫徹するため、年末闘争を企図して、昭和四三年一一月二〇日さん下の各地方本部に対し、指令第九号をもつて同年一二月一〇日から一四日までと同月一六日から一八日までの期間本件闘争を行うべきことなどを指令した。右指令に基づき国労青函地方本部(以下「青函地本」という。)は同年一一月二二日第六二回地方委員会(原告関幸弘は同委員会の委員であつた。)を開催して、本件闘争を行うことなど当面の闘争方針を決定し本件闘争の拠点として五稜郭駅など数箇所を指定し、下部組織にこの旨指令した。

(2) 原告関を書記長とする青函地本函館支部(以下「函館支部」という。)は、本件闘争の実施を決定し、現地に支部役員らを動員することとした。又訴外浜渕信男(以下「浜渕」という。)を執行委員長とする青函地本函館支部五稜郭駅分会(以下「駅分会」という。)においては、浜渕を闘争委員長として、同年一二月一一、一二日の両日非番者を招集して非番者集会を開催し、本件闘争の体制固めを行つた。

(3) 本件闘争を察知した被告の当時の青函船舶鉄道管理局長浅野道夫は、昭和四三年一二月一三日青函地本執行委員長森影誠に対し、同月一二日付青函総労第三五七号をもつて本件闘争計画を直ちに中止するよう厳重に申し入れを行うとともに、管内の被告の職員に対し、昭和四三年一二月一二日付の青函船舶鉄道管理局報号外をもつて違法行為に参加しないよう警告し、被告の当時の五稜郭駅長近藤秀吉は、昭和四三年一二月一二日同駅の当務の助役らをしていわゆる順法闘争と称する違法行為に参加しないよう記載した「職員諸君に告ぐ」と題する警告書を原告らの勤務する下り運転室内及び貨物事務室などに掲示するとともに同月一二日から同一八日までの間、原告らを含む同室の勤務者に対し出勤点呼時において右警告を伝達し、あわせて平常どおりの業務をなすべきことを命じ、同月一四日から同一七日にわたり当務の助役らをして出勤点呼時などにおいて勤務者全員に対して違法行為に参加しないよう記載した業務命令書を手交するとともに平常どおりの業務を遂行するよう命じ、同月一六日同駅首席助役赤塚豊丸をして、右浜渕に対し、違法行為に職員を参加させることのないよう記載した申入書を手交し警告した。しかるに原告らはいずれもこれを無視したものである。

(二)  (懲戒事由)

1 原告らの行動

(1) 原告らの従事した作業(原告関を除く)

原告らは、本件闘争期間中、五稜郭駅操車場下り仕訳の入換作業に従事したが、具体的に原告らがなした入換作業は、別表(三)ないし(七)の「列車及び船便名」欄記載のとおりであつて、その内別表(三)は、昭和四三年一二月一三日から翌一四日における原告木村、同沖本、同坂野、同中西、同藤島、同白幡により、別表(四)は、同年一二月一六、一七日における原告福士、同沖本、同藤島、同白幡、同五日市他訴外一名により、別表(五)は、同年一二月一五日における原告遠藤、他訴外五名により、別表(六)は、同年一二月一六日における原告遠藤、他訴外五名により、別表(七)は、同年一二月一七日における原告坂野、他訴外五名によりなされた各分解作業である。

(2) 操車掛としての行動(原告木村、同福士について)

イ 一操一連

操車掛は、入換作業開始にあたり到着線、或は有川到着線へ貨車を引取りに行く場合、通常であれば切方担当一人のみを入換機関車に乗せて行つていた。

原告木村は別表(三)の10の第六七便からの取卸貨車の入換作業に操車掛として従事したが、構内作業ダイヤ上の右着手時刻である二時二〇分には引取りに行けたのにかかわらず、漫然とこれをしなかつたので、二時二二分ころ同駅助役(輸送総括)四辻勉(以下「四辻助役」という。)が直ちに作業に着手せよとの業務命令を発したのに、これを無視して構内に広範囲に分散している受方担当たる原告沖本、同白幡、同中西、同藤島の四名をも入換機関車に乗せ終るまで、ことさら待ち合せ、六分遅れた二時二六分にようやく発車せしめた。

原告福士は別表(四)の3の第九六七列車貨車の入換作業に操車掛として従事したが、構内作業ダイヤ上一〇時二〇分であつたけれども、遅くとも一〇時三七分には引取りに行けたのにもかかわらず、漫然と出発しなかつたので、一〇時三八分ころ同駅助役(運転指導)小林一雄(以下「小林助役」という。)及び同駅助役(運転掛)桝谷良太(以下「桝谷助役」という。)の両名から「直ちに作業に着手せよ」との業務命令を受けたにもかかわらず、これを無視して構内に分散していた受方担当たる原告沖本、同藤島、同白幡、訴外某の四名をも入換機関車に乗せ終るまで、ことさら待ち合せ、四分遅れた一〇時四一分ようやく発車せしめた。

ロ 指揮命令

原告木村は、別表(三)の9の第六五便からの取卸貨車、10の第六七便からの取卸貨車、7の第九八三列車貨車について、同福士は、別表(四)の3の第九六七列車貨車、5の第九七五列車貨車、7の入九貨車、8の第六一便からの取卸貨車、13の第九六三列車貨車、14の第九六五列車貨車についての各入換作業において、原告木村については、自らの指揮下にあつて構作掛として従事した原告沖本、同坂野、同中西、同藤島、同白幡らの、又、同福士については、自からの指揮下にあつて構作掛として従事した同沖本、同藤島、同白幡、同五日市らの、後記の各行為(たとえばブレーキを特に強める異常なブレーキ操作をするなど)に対して、「平常通り作業を行うよう」指示すべき操車掛としての職責を果さず、これを看過してこれらの作業を遅延させた。

(3) 切方担当としての行動(原告坂野、同五日市、同沖本、同遠藤について)

イ 受方担当との合図の交換

切方担当として従事する際、貨車を突放するに先立ち、切方担当は受方担当に対し、何番線に貨車が進入するかとか、貨車のブレーキ位置はどちら側かを知らせるために打合せ合図を行うことになつている。ところが、この合図交換を受方担当が受けられる状態にあるにもかかわらず、原告坂野は別表(三)の10の第六七便からの取卸貨車の分解に切方担当として時期を故意に遅らせるなどして、ことさらゆつくり行つた。

ロ エアーホース切作業

原告坂野は、別表(三)の7の第九八三列車、原告五日市は別表(四)の3の第九六七列車貨車、7の入九貨車、13の第九六三列車貨車、原告沖本は同表の5の第九七五列車貨車、原告遠藤は、別表(五)の第五五便からの取卸貨車の、各分解作業に切方担当として従事した際、制動ホースの切離し作業に際し、通常は機敏に行うべきところ、ことさらゆつくり歩いて行い、分解作業を遅延させた(原告遠藤に対しては、四辻助役が「機敏に作業をするよう」指示したが、同原告はこれを無視した。)。

ハ 切方担務指定

一二月一六日の出勤点呼の際、当務助役の桝谷助役から、同日の担務について、「原告五日市は切方担当」に、「同沖本は受方担当」に各命令されていたのに、別表(四)の5の第九七五列車貨車の分解作業についてのみ、原告沖本はその命令に反し切方担当をしていたので、桝谷助役が同原告に対し「命令どおり受方担当をするよう」命令したにもかかわらず、同原告はこれを無視して切方担当を継続した。

(4) 受方担当としての行動(原告白幡、同沖本、同中西、同藤島、同坂野、同遠藤、同五日市について)

イ ブレーキの効力試験

原告白幡、同沖本の両名は、別表(四)の3の第九六七列車貨車の分解作業に受方担当として従事し、突放貨車に待受け添乗した際、貨車のブレーキの効力試験は、受方担当が添乗した際、ブレーキの効力状態を確認するもので、通常は左片手でブレーキ棒を棒受からはずし、左片足で下げ、ブレーキ止め(ツメ)をかけてブレーキ棒の上に両足をかけると制輪子との摩擦音がし、減速できることを確認した段階で終了しており、又分岐器上をさけて行うように指導されていたが、これをことさら分岐器上で、かつ、ブレーキを特に強める異常なブレーキ操作を行い、分解作業を遅延させた。

ロ ブレーキ操作

原告沖本、同中西、同藤島、同白幡は別表(三)の7の第九八三列車貨車の、同白幡は同表の9の第六五便からの取卸貨車の、同中西、同藤島は同表の一〇の第六七便からの取卸貨車の、同白幡、同沖本、同藤島は別表(四)の3の第九六七列車貨車、同沖本は同表の8の第六一便からの取卸貨車、14の第九六五列車貨車の、原告坂野は別表(七)の入七貨車の、各分解作業において、受方担当として突放貨車に待受け添乗した際、前記ブレーキ効力試験終了後、適正なブレーキ調整により貨車を円滑に目的の停止位置まで移動させて停止し、停留貨車に連結すべきところ、ブレーキを特に強める異常なブレーキ操作を行つた。

ハ 受方担務指定

一二月一六日の出勤点呼時の際、当務助役の桝谷助役から、同日の分解作業の担務について、「原告五日市は切方担当」に、「原告沖本は受方担当」に各命令されていたのに、別表(四)の5の第九七五列車の分解作業についてのみ原告五日市はその命令に反し受方担当をしていたので、桝谷助役が同原告に対し「命令どおり切方担当をするよう」命令したにもかかわらず、同原告はこれを無視して受方担当を継続した。

ニ その他

原告遠藤は、別表(六)記載の第五五便からの取卸貨車の分解作業を行つた際、受方担当が添乗してから突放しなければならないタンク車の添乗にあたり、仕訳線群から突放地点の入換線へ移動の際、通常は小走りで機敏に移動し添乗しているところ、これをことさらゆつくり歩いていたので、桝谷助役が同原告に対し「早くせよ」と指示したが、同原告はこれを無視して前同様ゆつくり歩いて行い、分解作業を遅延させた。

(5) 原告関の行動

原告関は、当時、青函地本函館支部書記長であり、かつ、青函地本の地方委員であつて、昭和四三年一一月二二日青函地本の第六二回地方委員会及び同年一一月二五日開催された函館支部執行委員会に出席し、本件闘争の実施と闘争拠点に同支部役員らを動員することなどの決定に参画し、いわゆる順法闘争と称する違法行為を行なわないようにとの警告などを無視して、本件闘争期間において右闘争の実行を期するため組合の赤腕章をつけ、右闘争拠点となつた本件操車場構内において入換作業中の操車掛及び構作掛らの作業監視を行ない、右闘争を実施させ、右作業監視中の間において同月一五日一五時ころ同駅の運転本部室にいたり、四辻助役に対し、「組合の代表機関として来たが、闘争を一時中止するため組合員に話したいので、操車掛、構作掛らに対して、少しの間休憩時間をやつてほしい」旨などの申入れを行なつたり、同月一七日右助役らに対し繰り返し執拗な抗議行動を行なつたりするなどの本件闘争の実施計画に参画するとともに、現地において右闘争の指導にあたつたものである。

2 原告らの行動による影響

(1) 原告らの右1の(1)ないし(5)記載の行動によつて、別表(三)ないし(七)のとおりの分解作業が、それぞれ「構内作業ダイヤによる分解作業日時分」欄記載の作業時分で完了すべきところ、「実作業による分解作業日時分」欄記載のとおり遅延した。

又別表(三)記載の遅延により同表「記事」欄記載の影響が生じたほか、五稜郭駅での七時までに分解作業を完了すべき第九六五列車貨車などの分解作業が著しく遅延した。別表(四)記載の遅延により、同表「記事」欄記載の影響が生じたほか、二三時五五分までに分解作業を完了すべき第九八三列車貨車などの分解作業が著しく遅延した。

(2) その他、下り仕訳における貨車の入換作業が著しく渋滞し、到着線及び有川到着線が塞がるなどして連絡船などからの貨車の受け入れが円滑にできなくなり、被告の正常な業務の運営が著しく阻害された。

これの詳細は次のとおりである。

一二月一三日〇時現在、下り仕訳線  七三両、有川構内  五二両

同  一四日〃    〃      三三両 〃    一三三両

同  一五日〃    〃     一一五両 〃     九七両

同  一六日〃    〃     一六九両 〃     五六両

同  一七日〃    〃      七三両 〃     一五両

同  一八日〃    〃     一九三両 〃     九一両

の未分解貨車が停留し、やむなくこれら未分解貨車のうち、四二〇両を一三個列車にわけて東室蘭、岩見沢などの組成駅の操車場へ排出した。これら排出貨車のうち、北桧山、森、鹿部、桔梗、五稜郭、函館などの各駅に到着するものは逆送を余儀なくされ、通常輸送に比して約二四時間ないし約一〇二時間遅れの到着となり、また、その余の貨車についても多大の遅れを生じ、年末で到着を急ぐ荷主に対し、多大の迷惑をかけ、右遅れのため、これらの運送品に腐敗変質等の損害を生じたものもあり、被告は、被告の青函船舶鉄道管理局管内を着駅とする荷主に対する損害賠償金として金二三万〇、八六四円の賠償をなした。

また、右作業遅延により一二月一四日には有川到着の連絡船二個便が約一二時間沖合待ちの後、ようやくとう載貨車の陸揚げを行ない、そのためこれら両船の折返し便となる上り二個便と下り二個便が運休するのやむなきにいたつた。

3 懲戒事由

原告らは、前記(二)の1記載のとおり、法規令達などを一方的に曲げて解釈し、通常の作業慣行や管理者の作業指示に反して通常と異なる緩慢作業などをし、或はそれを計画・指導して、前記(二)の2記載のとおり、被告の業務の正常な運営を阻害したものであつて、原告らの前記(二)の1記載の行動のうち、原告関を除くその余の九名の原告らについては、別表(二)記載の日本国有鉄道就業規則(以下「就業規則」という。)六六条二号、一七号に、原告関については、右一七号に各該当する。

よつて被告の代表者たる総裁は、国鉄法三一条に基づき、原告らに対し本件処分をした。

四  抗弁に対する答弁(原告)

(一)  抗弁(一)(本件処分に至る経緯)の1「本件闘争の位置」は認める。2「本件闘争」のうち、(1)は認め、(2)のうち函館支部が現地に支部役員らを動員することとしたことは否認、その余は認め、(3)は、認める。ただし原告坂野のみは業務命令書を受取つていない。

(二)  抗弁(二)(懲戒事由)

1 原告らの行動

(1) 「原告らの従事した作業」は認める。

(2) 「操車掛としての行動」について。

イ 一操一連

原告木村、同福士が被告主張のとおり貨車入換作業に操車掛として従事し、受方担当の四名の入換機関車に乗車を待つて作業を開始したことは認め、その余は否認。

なお五稜郭駅運転作業内規「操車掛編」(以下「操車内規」という。)六〇条は、「操車掛は作業区域を変更して入換する場合、同伴する構作連の添乗したことを認めた後でなければ入換合図を行つてはならない。」と定めている。入換作業においては操車掛一名、構作掛連結(すなわち、切方・受方)担当五名の一操五連のチーム編成で作業を行うのであり、又、構作掛に対して作業指示をする立場にある操車掛は、構作掛の動静を把握しておかなければならないから、特に、作業区域変更の場合の入換については、構作掛の動静把握の必要性及び安全対策上からも一操五連で行動するのが正しいのであつて、右内規の「同伴する構作連」というのは、チームを組んでいる当該五人の構作掛全員を指すと解すべきであつて、構作掛一人(切方担当)の添乗だけでよいとの解釈は正しくない。そして、本件において原告木村、同福士が操車掛として従事した入換作業は「作業区域」を変更し、この入換すなわち下り運転から第一運転への区域変更になるから、一操五連で作業を行うのが正しいのであり、操車掛は他の構作掛五名全員を同伴すべきなのである。したがつて、助役らの原告らに対する業務命令が日常の作業においては、ダイヤ消化を最優先として必らずしも操車内規六〇条を厳格に遵守して、一操五連で作業を行つていないこともあるという実態から出されたものであるとしても、本来規則どおり行うとすれば、右原告両名の作業が正しいのであり、原告木村、同福士は操車内規六〇条を遵守して、入換作業を行つたものであるから、受方担当をも同伴すべく待合せたのは当然であり、「ことさら待合せた」というのはあたらず、それ自体非難さるべきところはない。なおたとえば、原告木村は当時下り運転の三浦助役から、引き取りに行くときは、一操五連で行くようにとの指示も受けており、本件処分後、駅分会と五稜郭駅当局との現場長交渉においては、当局側も結局一操五連で行くべきとの駅分会側の主張を認めている。

ロ 指揮命令

原告らが被告主張のとおりの作業に従事していたことは認め、その余は否認する。

構作掛においてそもそも被告の指摘するような事実はなく、ブレーキの効力試験等においても構作掛は内規を遵守して作業を行つていたのであるから、操車掛たる原告木村、同福士が特段に作業指示等をなすべき必要性はなかつた。

(3) 切方担当としての行動について。

イ 受方担当との合図交換

原告坂野が被告主張の列車の分解作業に切方担当として従事していたことは認め、その余は否認する。

合図の交換は、切方担当と受方担当が突放されても添乗できる状態であると、それぞれが判断した時に行われる。この合図の交換が終了したのち操車掛に対し、突放オーライの合図がなされる。なお五稜郭駅運転作業内規「連結担当」(以下「連結内規」という。)四一条は、「切方構作連は、突放する線路及びブレーキの所在を次の各号に掲げるところにより受方構作連に通告するものとする。(1)山側にあるとき、『何線(何番)山』と呼称し、昼間は片腕を山側に伸す。夜間は白色灯を山側に波形に動かす。(2)海側にあるとき『何線(何番)海』と呼称し、昼間は片腕を海側に伸す。夜間は白色灯を海側に波形に動かす。2ハンドブレーキの場合、『何線(何番)丸』と呼称し、昼間は片腕を波形に動かす。夜間は白色灯を円形に動かす。(注1)操車掛は、線名車数を切方構作連に通告すること。(注2)海側とは七重浜側をいい、山側とはその反対側をいう。」と規定している。ところで、日常の作業においては合図を省略するなどのこともあり、また正確に行われていない場合がある。それぞれ勘で判断するわけである。

本件闘争時においては、合図の交換を完全かつ確実に行つたのであり、ことさら遅らせて合図の交換をしたという事実はない。

かえつて、当日、構内に当局側の現認班と称する者が多数立入つてきたため、合図の交換にあたつて視界がさえぎられるなどのことがあり、原告坂野が「合図のじやまになるからさがれ」と云つたこともあつた。

ロ エアーホース切作業

原告坂野、同五日市、同沖本、同遠藤が被告主張のとおりの列車の分解作業切方担当として従事したことは認め、その余は否認する。

なお通常の作業時においては、まま小走りでホース切作業をやつている事実はあるが、内規上ホース切などの構内作業をする場合、小走りで行うことはなんら定められておらず、またそのような指導もなされておらない。むしろ、足場の悪い構内での作業であるから小走りはねんざなど傷害事故の原因にもなり易い。

したがつて、右原告らは、ことさらゆつくり歩いて制動ホース切をやつたのではなく、小走りでの作業は、安全作業という点を厳格に貫ぬくという意味で、あえてやらなかつたというにすぎない。

ハ 切方担務指定

原告沖本が、被告主張の列車の分解作業に切方担当として従事したことは認め、その余は否認する。

助役による構作掛の受方、切方の担当の指名は業務命令という程のものではない。かつては、構作掛の仲間同志で話し合いにより決めていたこともあり、特定の者が切方ばかりをやつていては不満がでるので担当を公平にするために構作掛が助役に頼んで指名してもらつているというのが実情である。くじ引きで担当を決めているところさえあるのである。したがつて、構作掛においても変更を許されない業務命令などとは理解していない。いつたん点呼時において決められた担務をその後お互いに話し合いで交替するということはごく普通日常的に行われている。したがつて、担当を交替したことをことさら非難し、ましてや懲戒処分の事由とするなどは全く不当である。

なお当日、原告沖本は助役に切方を担当していることについて指摘を受けているが、それは「なして受方と切方と替つたんだ」といつた程度のことであり、原告沖本も「どつちやつても同じなんだから」と答えているのであり、格別業務命令により担当を受方にもどすようにといわれたのではなく、又、一日受方と切方を交替して作業に着手している以上、これをもとに戻すためさらに交替すればかえつて作業が遅延することにもなるのである。

(4) 受方担当としての行動について。

イ ブレーキの効力試験

原告白幡、同沖本の両名が、被告主張のとおりの列車の分解作業に受方担当として従事したことは認め、その余は否認する。

なお連結内規三九条二項は「受方構作連は、突放車に添乗したときは、直ちにブレーキの効力試験を行うものとする。」と規定するが、効力試験を行うべき位置、あるいは行つてはならない位置についての定めはとくにおいておらず、受方担当が突放車に添乗する位置・場所は必らずしも一様でないから、効力試験を行う位置・場所も一様でない。

しかし直ちに行わないと、たとえば停留貨車の直前で行つたりすると、ブレーキの効きが弱い場合など衝突事故を起すおそれがある。本件において仮に、分岐器上で効力試験が行われたにしても、それは添乗位置との関係からたまたま分岐器上で効力試験が行われたということにすぎない。

又効力試験は、突放後走行中の車両において実際にブレーキ操作を行つてブレーキの効き具合を確認する作業であるから確実に行う必要があるが、それをどの程度に行うかは、その時の天候や貨車の重量、突放車のスピードなどにより異り、最終的には効力試験を行う当該受方担当が「ブレーキが十分に作動するかどうか」の判断を行い、確認することになるが、日常は必らずしも確実に行われておらず、省略されることすら少くない。また、効力試験を行つた場合でも、日常は経験と勘で判断しており、ブレーキが作動し、現実に貨車のスピードが落ちることを確認するまでの効力試験は行つておらないところ、本件闘争時においては、ブレーキエツジに体重を乗せて、現実に車両のスピードが落ちるかどうか確めるまで効力試験を厳格、かつ、完全に行つたのであり、ここまでやらなければ、確実に効力試験をやつたことにはならない。

したがつて、本件闘争時に原告らが行つたブレーキの効力試験は、日常のそれとは確実度・完全度において異つていること自体は事実であるが、これはあくまで内規を忠実に厳格遵守した結果にほかならない。

以上要するに本件闘争は、効力試験を内規にしたがい、「添乗後直ちに確実に」行つたに過ぎないのである。

ロ ブレーキ操作

原告沖本、同中西、同藤島、同白幡、同坂野が、被告主張のとおりの列車の分解作業に受方担当として従事したことは認め、その余は否認する。

右イで記載のとおり、原告らは、連結内規三九条二項及び指導事項を厳守して、ブレーキの効力試験を完全、かつ、確実に行つたにすぎず異常な操作は行つていない。

ハ 受方担務指定

原告五日市が被告主張のとおりの列車の分解作業に受方担当として従事したことは認め、その余は否認する。

事情は前記(3)のハ記載の場合と同様である。

ニ その他

原告遠藤が、被告主張の列車の分解作業に受方担当として従事し、作業中走らなかつたことは認めるが、その余は否認する。日常小走りで作業を行うことはまま行われているが、本件闘争時においては、安全作業の実施という立場から、作業中は走らないで従事したにすぎず、ことさらゆつくり歩いたのではない。

(5) 原告関の行動について。

函館支部執行委員会において、順法闘争の実施拠点に同支部役員らを動員することを決定したこと、「作業監視を行つた」こと、四辻助役に対し、「闘争を一時中止するため」と申入れたことを否認し、その余は認める。

本件闘争の指令は国労中央本部から青函地本に対して発せられ、青函地本は右指令を函館支部を経て駅分会に対し伝達した。函館支部は青函地本と分会との間に立つ機関であり、青函地本の指令をさん下の分会に伝達するにすぎず、具体的な順法闘争実施の内容は、それぞれ拠点の分会に任されており、本件闘争においても駅分会が決定しており、函館支部執行委員会として、闘争戦術を決定したり、闘争実施についての取り組みなどについて駅分会に対し、指導を行うということはやつていない。順法闘争といえば、諸規定を厳格、かつ、確実に実施して業務を行う闘争内容であることは駅分会としても十分承知しているところであり、あえて函館支部の指導などは必要としないのである。本件闘争においても、青函地本の第六二回地方委員会においては、順法闘争の拠点として五稜郭駅などを指定したのである。

原告関は本件操車場に本件闘争期間中三~四回行つているが、原告関が下り運転の現場に出向いたのは、函館支部書記長という組合役員の立場から、本件闘争におけるトラブル防止のためであつた。すなわち、当時世上有名となつたいわゆる「マル生」運動が激しく展開されていた時であり、被告側も多数の人間を順法闘争対策要員として動員しており本件闘争中の組合員に対する挑発、妨害等が想定されていたため、そのような挑発や妨害により、現場が混乱したりする場合にそなえたのであつて、組合員らの作業を監視したり、現場で順法闘争を指導するのが目的ではない。

なお、原告関が現場に来て具体的に行つた行動は、例えば、構内に立入つた当局側要員の懐中電灯のため合図灯による打合せの交換に支障が生じたことに対する抗議、雨中の作業継続についての申入れ、食事時間をつぶしての作業の続行指令に対する抗議などであり、被告側の業務を妨害するとか、組合員の作業内容を「監視」したり、順法闘争を具体的に指導するなどは全く行つていない。

要するに原告関の右のような行動は組合役員とし正当な組合活動であつて、何んら懲戒に値する点はない。

2 原告らの行動による影響

(1) 被告主張のとおりの分解作業について「構内作業ダイヤによる分解作業日時分」たる所要時間と本件闘争時における「実作業による分解作業日時分」たる現実の所要時間が、その主張どおりであつたことを認める。

(2)は争う。

3 懲戒事由

争う。

原告らの行動はすべて被告が制定実施している作業基準規程や内規等を遵守し、それにしたがつてなされたものであり、規程や内規等に違反する点は全くなかつた。

すなわち、被告の運転関係業務の職員がその職務に従事するにあたつて準拠すべき諸規程としては、本社作成の運転取扱基準規程を基本とし、各支社、局、駅などでそれぞれ定める規程がある。原告らについていえば、右本社作成の運転取扱基準規程、北海道支社作成の運転取扱基準規程、青函局作成の運転取扱基準規程、五稜郭駅長作成の五稜郭駅運転作業内規(前記操車内規、連結内規など)が、その準拠すべき諸規程であり、さらに、被告職員が準拠すべきものとしては、右の如くまとまつてあらかじめ文書化された諸規程のみにとどまらず、日常の業務の過程において行われる文書又は口頭による指導・指示事項も同様に準拠すべきものであり、規程に準じるものである。

本件闘争中被告が本件処分の対象としている原告らの行動が準拠した諸規程は、前記それぞれのところで述べたとおりである。そして右諸規定の解釈にあたつては、国鉄利用者、被告職員の生命、財産の安全(事故防止)のために、厳格、かつ、完全な遵守を旨とすることが必要である(ちなみに被告の「安全の確保に関する規程」は、その冒頭の「綱領」において、「安全は輸送業務の最大の使命である。」とし、「安全の確保は規程の遵守及び執務の厳正から始まり」と述べて規程の遵守を強調している。)ところ、日常の業務においては、ダイヤの過密により規程を厳格、かつ、完全に遵守していたのでは作業が遅れ、列車に影響するという状況のもとに、規程が正確、かつ、厳格に守られておらず、そのため五稜郭駅においても多数の傷害事故、車両破損事故を発生せしめている。そこで原告らは、本件闘争時において、駅分会の指導のもとに、運転事故や傷害事故防止にかかわる諸規程の厳格、かつ、完全な遵守を行つたものである。したがつて、そのことによつて、仮に列車、貨車の分解作業に遅延が生じたとしても、それは結果であつて、当初から意図されたものではなく、原告らの行為は正当なものであるから、被告主張の就業規則の懲戒事由の該当項目である「責務をつくさず、よつて業務に支障を生ぜしめた(就業規則六六条二号)」や「その他著しく不都合な行為のあつたとき(就業規則六六条一七号)」に該当しない。

五  再抗弁(原告ら)

(本件処分の無効事由)

(一) 憲法違反ないし民法九〇条該当

国労は、被告が提案した車両検修新体系、EL・DL一人乗務などのいわゆる「合理化」反対及び昭和四三年度年末手当等の諸要求を実現すべく、国労中央本部は昭和四三年一一月二〇日、さん下の各地方本部に対し、同年一二月一〇日から一四日までと同月一六日から一八日までとの期間、本件闘争を行なうよう指令し、これを受けた青函地本は五稜郭駅分会など数個所を右闘争の闘争拠点と定め、闘争を実施するよう組合員に指令した。原告らはいずれも右五稜郭駅分会に所属する組合員として、右指令にもとづき本件闘争に参加したものである。

右のとおり、原告らの行動は、いわゆる五万人合理化問題についての国労の要求実現、組合員の労働条件改善などの要求実現の目的で国労中央本部の指令に基づく順法闘争として行われた、国労の組合員としての団体行動であり、原告らの個人的行動ではないから、「憲法二五条に定めるいわゆる生存権の保障を基本理念とし、勤労者に対して人間に値する生存を保障すべきものとする見地に立つて」定められた憲法二八条の保障する団体行動権の具体的行使である。

したがつて、原告に対する本件処分は、憲法二八条に直接違反するものとして無効である。仮に憲法二八条に直接違反しないとしても、憲法二八条は労使関係を規律する「公序」であるから、本件懲戒処分はその「公序」に反するものとして、民法九〇条により無効である。

(二) 不当労働行為

又、原告らの行動は前述のとおり国労の一組合員として、その指令にしたがい規程などを遵守する団結活動ないしは団体行動として行われたものであり、その目的及び手段において社会的相当性を有し、まさに正当な組合活動である。

本件懲戒処分は結局原告らの正当な組合活動に対してなされた不利益処分であることは明らかであり、そうであるからには労働組合法七条一号に違反して無効である。

(三) 懲戒権の濫用

本件闘争は国労の団体行動として行なわれたものである。したがつて原告らの職場である本件操車場に限つても原告らにとどまらず、多数の国労所属組合員が本件闘争に参加し、原告らと同様な行動をとつている。しかるに原告らのみが過酷な効果を生ずる本件処分を受けている。

又、被告は本件闘争によつて生じた貨車の遅れを誇大に述べ、それがあたかも原告らの行動のみによつて生じたかのように主張したが、しかし、仮にそのような貨車の遅れがあつたとしても、それが専ら原告らの行動によるものとの証拠は少しも存在しない。それにもかかわらず、その責をあげて原告らにのみ帰している。

このような均衡性、公平性を欠除している本件処分は、処分権の濫用である。

なお被告がとつた回復措置(後記六の(三)記載)は将来に向つてとられたものであり、処分時以降回復措置が行われるまでの賃金減及び期末手当へのはね返りによる実質的損失を原告らはこうむつている。

六  再抗弁に対する答弁(被告)

(一)  再抗弁(一)は争う。

但し次の点は認める。国労は合理化反対及び昭和四三年度末手当等の諸要求を実現すべく、国労中央本部において昭和四三年一一月二〇日、さん下の各地方本部に対し、同年一二月一〇日から一四日までと同月一六日から一八日までとの期間、本件闘争を行うように指令した。これを受けた青函地本は五稜郭駅など数個所を本件闘争の拠点として下部へ指令した。

(二)  同(二)は争う。

(三)  同(三)は争う。

なお原告らの本件処分により昇給期において減ぜられた号俸分については、その後、昭和四七年四月期ないし同四九年四月期の昇給期において、原告ら全員についてそれぞれ昇給の回復措置がなされた。

第三証拠<省略>

理由

一  請求の原因(一)(当事者)、同(二)(本件処分)については当事者間に争いがない。

二  請求の原因(三)(処分の無効)及び抗弁(本件処分の根拠)について一括して判断する。

(一)抗弁(一)(本件処分に至る経緯)について。

1  「本件闘争の位置」は当事者間に争いがない。

2  「本件闘争」の(1)は当事者間に争いがない。(2)のうち、函館支部が現地に支部役員を動員することと決定した事実は本件全証拠によるも認めるに足りず、その余の事実については当事者間に争いがない。(3)のうち原告坂野に対し業務命令書がいつたん交付された事実は、成立に争いのない乙第三号証の一、二、証人四辻勉の証言及び弁論の全趣旨によつて認められ、その余の事実は当事者間に争いがない。

(二)  抗弁(二)(懲戒事由)について。

1  原告らの行動

(1) 「原告らの従事した作業」については当事者間に争いがない。

(2) 「操車掛としての行動」について。

イ 一操一連

(イ) 原告木村が別表(三)の10の第六七便からの取卸貨車の、原告福士が別表(四)の3の第九六七列車の各分解作業に各操車掛として従事し、その際、原告木村は、原告沖本、同白幡、同中西、同藤島の四名の、原告福士は、原告沖本、同藤島、同白幡、訴外某の四名の各受方担当が入換機関車に乗り終るのを待つて後、引取り作業を開始したことは、当事者間に争いがない。

(ロ) 成立に争いのない乙第三七号証の二、証人尾井端一男の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第七号証、検証の結果、証人四辻勉、同内山孝次、同桝谷良太の各証言、原告木村、同福士の各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、左記(ハ)及び(ニ)記載の事実が認められる。

(ハ) 右分解作業の着手にあたり、下り入換線上に停止して、原告木村は有川到着線上に停止していた未分解車両を、原告福士は下り到着線上に停止していた未分解車両をそれぞれ引取りに行こうとしていたのであるが、その際、通常であれば、切方担当一名のみを添乗させたいわゆる一操一連の段階で貨車引取りを開始していたが、当時下り仕訳線群内に分散していた四名の受方担当が、前記のとおり入換機関車のところに集合して添乗するのを待つていたため、通常よりも作業が遅れ気味であることに気付いた助役(原告木村に対しては四辻助役、原告福士に対しては桝谷、小林の各助役)から、「直ちに作業に着手せよ」との命令を受けたが、これを無視し、結局右四名の受方担当を乗せ終つて貨車引取りを開始するまでに、助役の命令を受けてから約四分間を経過した。

(ニ) 操車内規六〇条は、「操車掛は作業区域を変更して入換する場合、同伴する構作連の添乗したことを認めた後でなければ入換合図を行つてはならない。」と規定しているが、被告側はこの規定を、「同伴して連れて行つた者は必ず連れて帰る」意味に理解し、したがつて、到着線(又は有川到着線)へ貨車を引取りに行くような場合にまであらかじめ五人の構作掛がそろつて添乗しなければならないものでもなく、一操一連で引取りを開始しても右内規に反するものではないとして、通常その趣旨で運用し、原告らも通常時は右取扱にとりたてて異議を述べることもなく、貨車引取りの作業は一操一連で行い、他の四名の構作掛は、引取つた貨車が下り入換線付近にもどつて来るまでの間、トークバツク付近で待機していることも多かつたところ、本件闘争時において、突如として右原告らが右規定を、常に一操五連全員が添乗してから作業に着手することを意味しているとの取扱をなし、前記のとおりの態様で作業を行い、本件闘争期間後は従来どおりの取扱にもどつている。なお、成立に争いのない甲第一三、第一四号証、証人谷口義征の証言によると、本件闘争後、駅分会と五稜郭駅当局との交渉で、右のような場合も一操五連で行く考え方も有り得ることを被告側が認めたふしがうかがえるけれども、実際にその後一操五連で行つていることを認めるに足りる証拠はない。

(ホ) 操車内規六〇条の「同伴する構作連」とは、入換作業が一操五連で行われるという点では原告側の主張するように、構作掛五名全員を指称するものと一応考えることも可能ではある。

しかし、一方操車内規自体「待受け突放」と称して(突放の際についての規定ではあるが)受方担当全員が添乗していない場合がありうることを予定しているので、(たとえば四八条)、一操五連全員が常に同乗して作業することが操車内規の趣旨にそうものであるとは必ずしもいい得ない面があり、更に後記の如く受方担当の作業内容は、大部分が下り入換線に引上げた貨車群が方面別に突放される段階以後に限られており、強いて貨車引取の際にまで添乗しなければならないとすることは不必要に非能率であつて不自然にも考えられる。又前記のとおり、通常、貨車引取りの際、四名の受方担当がトークバツク付近で待機していることも多かつたが、そのことが安全上支障があるとも認め難い。

したがつて、操車内規六〇条の文言を貨車引取の際にも一操五連全員がそろつて行かなければならない趣旨のみに一義的に解釈することはいささか無理があるというべきであつて、被告側の解釈及び通常時の運用にそれ相当の理由があるから、本件闘争時における原告らの前記作業形態のみが、操車内規六〇条の趣旨にのつとつたものであると認めることは相当でない。

ロ 指揮命令

(イ) 別表(三)のうち、9の第六五便からの取卸貨車、10の第六七便からの取卸貨車、7の第九八三列車貨車の各分解作業に、原告木村が操車掛として、その指揮下で原告沖本、同坂野、同中西、同藤島、同白幡の五名が構作掛として従事した。

別表(四)のうち、3の第九六七列車貨車、5の第九七五列車貨車、7の入九貨車、8の第六一便からの取卸貨車、13の第九六三列車貨車の各分解作業に原告福士が操車掛として、その指揮下で原告沖本、同藤島、同白幡、同五日市、訴外某の五名が従事した。その具体的行動は後記(3)のイないしハの各(イ)及び(4)のイないしハの各(イ)記載のとおりであつた。以上のことは当事者間に争いがない。

(ロ) 証人四辻勉、同桝谷良太の各証言、及び弁論の全趣旨を総合すると操車掛は、その指揮下にある構作掛の作業が緩慢であつたりした場合、注意する義務があるにもかかわらず、後記(3)及び(4)で認定(前記争いない事実を除く)したとおり構作掛たる原告ら七名が通常時と異なる作業を行つていたのに対し、特に注意などせず、放任していたことが認められる。

(ハ) 操車掛が構作掛を指導監督する立場にあることは当事者間に争いのないところであり、構作掛の行動が正当でなかつたことは後記それぞれのところで説示するとおりであるから、右原告木村、同福士の行動は、操車掛として構作掛に対する指導監督を怠つたものというべきである。

(3) 「切方担当としての行動」について。

イ 受方担当との合図交換

(イ) 原告坂野が、別表(三)の10の第六七便からの取卸貨車の分解作業に切方担当として従事したことは、当事者間に争いがない。

(ロ) 前出甲第七号証、成立に争いのない乙第三八号証の二、検証の結果、証人富原晃の証言、原告坂野の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、左記(ハ)及び(ニ)記載の事実が認められる。

(ハ) 右分解作業が行われたのは夜半であつたため、打合せ合図も合図灯を用いて行われた。その実際に行われた手順は、まず突放された貨車が入線すべき「番線」、「ブレーキの所在(海側、山側のいづれに付いているかを示す。)」を合図で示し、更にブレーキの機能試験をして、その効きが悪い場合は、口頭で「ブレーキ早め」など指示した後、連結器の解錠操作を行つた。

(ニ) 連結内規(乙第三八条の一、二)、四一条の規定は原告側主張のとおりであると認められるところ、通常時においては、打合せ合図は、作業能率を上げる目的で必ずしも正確でなかつたり、省略する場合もあるが、構作掛の経験による判断で、敏速に行われ、他の作業も含めて、一突放から次の突放まで約三〇秒ないし四〇秒で行われるが、本件闘争時においては、右内規を杓子定規的に運用し、切方担当と受方担当との相互の合図の交換が間断なく行われなかつたこと、被告側の現認班の者数名が、本件闘争の実態を把握するために本件操車場内に立入つたため、右原告を含む一操五連との間に若干のやりとりがあつたことなどもあつて、右所要時間として約一分三〇秒を要した。

なお本件闘争前の通常時において、右合図とダイヤの関係など(合図を正確にすると構内作業ダイヤどおりの時間では作業を遂行し得ないので改善すべきであるとか)が労使の間でとりたてて論議されたことはなく、本件闘争終了後は再び従来の通常時どおりの方法にもどつて作業が行われている。

(ホ) 以上によれば、原告坂野とその受方担当らとは、本件闘争時において、連結内規を形式的に実行してはいるけれども、通常時よりも作業が遅延した原因としては、そのほかに合図交換に必要以上と考えられる間隔をおいたことも一因であり、連結内規自身必要にして十分な時間で行うことは自明の前提として、これを受けて通常時における分解作業に必要な構内作業ダイヤが組まれていると考えられるから、その意味で原告坂野らの行動が内規の趣旨に反する面があつたことも否定できない。

したがつて原告坂野らの本件闘争中の右作業方法が内規の文言に形式的に忠実な面もあつたということのみをとらえて、原告坂野らの右行動のみが内規の趣旨に合致したものと一義的にとらえることは正当でないというべきである。

ロ エアーホース切作業

(イ) 原告坂野が別表(三)の7の第九八三列車の分解作業に、同五日市が別表(四)の3の第九六七列車貨車、7の入九貨車、13の第九六三列車貨車の各分解作業に、同沖本が別表(四)の5の第九七五列車貨車の分解作業に、同遠藤が別表(五)の第五五便からの取卸貨車の分解作業に、それぞれ切方担当として従事したことは、当事者間に争いがない。

(ロ) 前出の甲第七号証、検証の結果、証人富原晃、同岩崎正、同三沢順二の各証言、原告坂野、同五日市、同沖本、同遠藤の各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、左記(ハ)の事実が認められる。

(ハ) 到着線(又は有川到着線)から引き取る貨車が三〇両以上ある場合には、入換機関車寄りの一〇両は、過走防止のためにエアブレーキを効かせておく目的で、ホースで連結されている。分解作業の段階で、貨車を逐次突放して、この一〇両が突放される段階になつた際、右ホース切断作業をするのは切方担当の役目であつて、右原告らはこの作業を右分解作業において行つていたが、その際、右原告らは一〇両目の突放を始める直前に一旦突放作業を中断、連結器の遊間が完全になくなるまで貨車が停止するのを見届けてから一〇両まとめてホース切断を行い、ホース切の間を移動するにも足元を十分に確認しつつ、ゆつくり歩いて行い、一〇両全部切断した後、再び突放を開始した。

なお通常時においては、作業能率を上げる目的で、一〇両目の段階に至つても突放を中断することなく、一両突放する毎に一両ホースを切断し、作業員の経験で必ずしも列車が完全に停車しないうちに切断作業にかかつたり、ホース切の間の移動も小走りで行つていたりしたため、一〇両のホース切断をし、もとの作業位置にもどるまで約三分間位の所要時間であつた。しかるに本件闘争時は右のような作業方法であつたため遅延し、原告沖本の場合は約六分間、原告五日市の場合は約六分間を要した。

なお右作業は、通常時の方法について特に不都合であるとして論議されたこともなく、本件闘争時に突如として行われ本件闘争終了後は又従来どおりの方法にもどつている。

(ニ) 原告遠藤が前記作業を行つていた際、四辻助役から注意されたことは、証人田中和久の証言によつてもこれを認めるに足りず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(ホ) 内規などにおいて、特にホース切断を一〇両まとめてやるとか、一両づつ行うべきであるとか、小走りで、あるいは歩いて行うべきであるとかを具体的に定めたものは存在しない。したがつてそのような場合には、特に不合理であると認められるような場合を除いては、通常の業務慣行が尊重されるべきものと考えられるところ、本件において通常時は一操五連の経験と技量とによつて敏速に作業が行われており、そのことに対し具体的に(本件闘争時を除いては)問題にされることはなかつたのであるから、少くとも、本件闘争時に右原告らが行つた作業方法のみをもつて正当なものと一義的に解することは相当でない。

ハ 切方担務指定

(イ) 原告沖本が別表(四)の5の第九七五列車貨車の分解作業に切方担当として従事したことは当事者間に争いがない。

(ロ) 検証の結果証人四辻勉、同桝谷良太の各証言、原告沖本、同五日市の各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると左記(ハ)記載の事実が認められる。

(ハ) 原告沖本は右作業を行つた一二月一六日朝、出勤点呼の際、助役から、同日は受方担当をするよう指名された。そして特段の根拠もなく右のとおり切方を担当していたため、桝谷助役から「受方を担当するよう」命ぜられた(業務命令といいうるかは、ともかくとして)にもかかわらず右列車の分解作業にかぎり、切方担当を続行した。

当時、通常時、構作掛が切方担当、受方担当のいずれを行うかは、作業による負担の公平をはかるためもあつて、構作掛内部で話合い、平均して担当する結果になるように助役に指名を依頼したりしていたが、いずれにせよ毎日朝行われる出勤点呼の際助役により指名され、一応その日は右指名どおりの分担で作業が行われていた。そして原告沖本も右列車の分解作業終了後、他の列車については受方担当として従事した。

(ニ) 以上によれば、助役が命ずるに至る過程にはいきさつがあつたとしても、通常時は一応最終的には助役の命令によつて指定された切方或は受方担務を、そのとおりに従事していたのであるから、本件闘争時、しかも一日のうちの一列車のみ、切方担当と受方担当が交代した場合、敏速、正確を要求される入換作業において、不必要な混乱を招くおそれがあり、少くとも右原告らの作業方法が、通常時に比して正当であるとは言い難い。又これを本来の担務にもどそうとすれば更に作業が遅延するおそれがあることは原告側主張のとおりであるとしても、そもそも原告らが右のような変則的な行動をとらなければその後の事態は生じないのであるから、その理由をもつてしても原告の行動が正当であるということにはならない。

(4) 「受方担当としての行動」について。

イ ブレーキの効力試験

(イ) 原告沖本、同白幡が別表(四)の3の第九六七列車貨車の分解作業に受方担当として従事したことは当事者間に争いがない。

(ロ) 前出甲第七号証、乙第三八号証の一、二、検証の結果、証人四辻勉、同内山孝次、同岩崎正、同飯田政徳、同富原晃の各証言、原告沖本、同白幡の各本人尋問の結果、及び弁論の全趣旨を総合すると左記(ハ)及び(ニ)記載の事実が認められる。

(ハ) 原告白幡、同沖本は右分解作業の際、添乗後直ちにブレーキの効力試験を行つたため、その場所が分岐器上で行われたこともしばしばであつた。そしてその際ブレーキエツジを下ろしてラツチをかけ、体重をかけたうえ、つめがどこまでかかつて貨車のスピードダウンがどの程度かを確実に検査したため、通常時よりも突放された貨車のスピードが極端に落ちたことも多かつた。

(ニ) 連結内規三九条二項が原告側主張のとおり(抗弁(二)に対する答弁の1の(4)のイ)の規定であることは認められるけれども、通常時において、原告らは、必ずしも常に添乗後直ちにブレーキの効力試験を行つているわけではなく、作業能率を上げるため、仕訳線上の停留貨車に衝突させない限度で経験によりブレーキ操作を行い、効力試験を効力の有無を確認できる限度にとどめたり、抵抗の多い分岐器上を避けて、停留貨車により近い位置に突放貨車が進んでからブレーキエツジを下ろしてみることもしばしばであつた。

そして右通常時の作業方法について、具体的に問題とされたことは従来特になく、本件闘争終了後も又従来の通常時と同様の方法にもどつて作業が行われている。

(ホ) 以上によれば連結内規三九条二項が、添乗後直ちにブレーキの効力試験をなすべきものとしているので、通常時に行われている右ブレーキ操作は、必ずしも直ちに行われていないという意味において一応右内規の文言どおりではないといえる。

しかし右内規は、ブレーキ効力試験の強度などについては、どの程度まで貨車のスピードをゆるめるべきかなど具体的に規定しているわけではなく、要はブレーキが確実に効力を有しているかどうかを確かめればよいわけであるから、それに必要な範囲で構作掛の経験により、その場における判断にゆだねられているものと考えられ、貨車が停止寸前になるまで強くかけることを要求しているものでもない。そして通常時において右経験によつて、一応受方担当が必要と考えた範囲で効力試験が行われていたことは前記認定のとおりであり、本件闘争終了後も又そのように行われていたのであるから、効力試験の強度については、本件闘争時における原告らの操作方法のみが内規に合致したものと一義的に解することは相当でなく、通常時の作業方法が内規に違反しているとはいいがたい。

ロ ブレーキ操作

(イ) 原告沖本、同中西、同藤島、同白幡が別表(三)の7の第九八三列車貨車、同白幡が同表の9の第六五便からの取卸貨車、同中西、同藤島が同表10の第六七便からの取卸貨車、同藤島が別表(四)の3の第九六七列車貨車、同沖本が同表8の第六一便からの取卸貨車、同表の14の第九六五列車貨車、原告坂野が別表(七)の入七貨車の各分解作業に受方担当として従事したことは当事者間に争いがない。

(ロ) 前出甲第七号証、乙第三八号証の一、二、検証の結果証人四辻勉、同内山孝次、同岩崎正、同飯田政徳、同富原晃の各証言、原告沖本、同中西、同藤島、同白幡の各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、右原告らが右分解作業を行つた際のブレーキ調整と、通常時におけるブレーキ調整とは、ほぼ右イ(ブレーキの効力試験)の(ハ)(ニ)と同じ事実を認め得る。

(ハ) そして連結内規三九条二項においては、具体的にブレーキの効力試験の際、ブレーキをかけてみる強度についてまで規定しておらず、要はブレーキが作動するか否かを知り得る範囲で行えばよいのであつて、その見地からすると必ずしも右原告らの本件闘争時における操作のみを内規に忠実であると一義的に解釈することが正当でないことも又前記イ(ブレーキの効力試験)の項で説示したとおりである。

ハ 受方担務指定

(イ) 原告五日市が別表(四)の5の第九七五列車の分解作業において、受方担当として従事していたことは当事者間に争いがない。

(ロ) 検証の結果、証人四辻勉、同桝谷良太の各証言、原告沖本、同五日市各本人尋問の結果によると、原告五日市が右分解作業に受方担当として従事した経緯及び事情は、ほぼ前記(3)のハの原告沖本の場合と同様である旨認めることができる。

(ハ) そして右原告五日市の作業方法が通常時の作業方法に比して正しいと一義的にいえないことも又右同様である。

ニ その他

(イ) 原告遠藤が別表(六)の第五五便からの取卸貨車の分解作業に受方担当として従事しその作業にあたり、走らずに歩いて行つていたことは当事者間に争いがない。

(ロ) 検証の結果、証人桝谷良太の証言、原告遠藤本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、右分解作業の際は、受方担当が添乗してからでないと突放すべきでないタンク車であつたから、仕訳線群から突放地点の入換線へ移動する原告遠藤としては、通常ならば小走りで移動しタンク車に添乗するところであるけれども、この場合に限り、全く走らずに歩いて行つていたため、桝谷助役が原告遠藤に向つて「急いで行くよう」注意したが、距離が約八〇メートル離れていたこともあつて、原告遠藤には聞えず、結局原告遠藤は歩いて作業を続行した。本件闘争後は構作掛全般として経験と判断とで適宜危険を自らに及ぼさない範囲で歩いたり、或は小走りで行つている。

(ハ) なお内規などにおいて、作業を小走りで行うべきである旨の規定の存在につき立証はない。

要は構作掛自らの判断において、危険を自らに及ぼさない範囲で敏速に担務を遂行すべきことが要請されることは、このような作業において当然であつて、通常時及び本件闘争後は時により小走りで行つていたこと前記認定のとおりであるから、特に目につくほど歩いていた原告遠藤の行為のみが、安全の見地からとはいえ、通常時のやり方に比して一義的に正当なものと解することは相当でない。

(5) 「原告関の行動」について。

イ 原告関が本件闘争時青函地本函館支部書記長であり、かつ、青函地本の地方委員であつて、昭和四三年一一月二二日開催された青函地本の第六二回地方委員会及び同年一一月二五日開催された函館支部執行委員会に出席し、被告側の警告を無視し、本件闘争期間内において、本件闘争の実効を期するため、組合の赤腕章をつけ、本件闘争拠点となつた五稜郭駅構内において、入換作業中の操車掛及び構作掛の本件闘争を支援し、一二月一五日一五時ころ、五稜郭駅の運転本部室にいたり、四辻助役に対し「組合の代表機関として来たが、組合員に話したいので、操車掛、構作掛らに対して少しの間、休憩時間をやつてほしい」旨の申入を行つたり、同月一七日、助役らに対し執拗な抗議行動を行つたことについては、当事者間に争いがない。

ロ 成立に争いのない乙第四号証、証人四辻勉、同飯田政徳の各証言、原告関本人尋問の結果(但し一部)及び弁論の全趣旨を総合すると、左記の事実が認められる。

すなわち、青函地本は、国労中央本部からの、本件闘争を行うことなどの指令を受けて前記第六二回地方委員会及び地方闘争委員会を開催した際、本件闘争の拠点たる駅分会の指定を含む当面の闘争方針を決定し、函館支部及び駅分会に同時に本件闘争を行う旨の指令を出した。そして原告関は、右地方委員会に、委員として出席した際、提案された本件闘争を含む議案に対して審議を行い、賛成をした。

右一二月一五日の一五時ころ原告関は四辻助役に対し「順法闘争を中止するから一〇分ぐらい時間を貸して欲しい。下り運転へ行つて、皆んなで話合いするから。」と申入れた。四辻助役が上司と相談のうえ、大局的に、右申入れを許容した。当時降雨中でもあつてか、右一〇分の約定を大幅に経過しても分解作業は休憩したままの状態であつた。同日一九時ごろに至り、組合側から「雨がやんだから休戦をやめた」との申入れがあつて、その場を打切つている。

なお函館支部が、「本件闘争現場に支部役員らを動員する旨の決定をなした」との主張は、本件全証拠によるも認めるに足りないことは前記(一)の2で説示したとおりである。

ハ 以上の事実により、原告関の青函地本、函館支部における立場、青函地本の本件闘争に果した役割、本件闘争時の原告関の行動からみると、原告関は、本件闘争において、必ずしも中心的指導者とまではいえないにしても、指導的役割の一端を担う者として計画がとどこうりなく推進されるよう上部機関からの指令を積極的に下部へ伝達し、更に本件闘争が行われた現場においても、前記原告らの通常時と異なる方法の作業が、被告側の阻止によつて中途で通常時の作業方法、状態にもどつたりすることのないよう、被告側の現認班や、助役などに積極的に働きかけ、そのための具体的行動をとつていたといえる。

2  「原告らの行動による影響」について。

(1) 本件闘争期間中、本件操車場において、原告木村、同沖本、同坂野、同中西、同藤島、同白幡によつて、昭和四三年一二月一三・一四日別表(三)、原告福士、同沖本、同藤島、同白幡、同五日市他訴外一名によつて同年同月一六日から翌一七日にかけて別表(四)、原告遠藤他訴外五名によつて同年同月一五日別表(五)、原告遠藤他訴外五名によつて同年同月一六日別表(六)、原告坂野他訴外五名によつて同年同月一七日別表(七)のとおり分解作業が行われた(但し「記事欄」の部分を除く)ことは、当事者間に争いがない。

(2) 成立に争いのない乙第八ないし第二三号証、証人内山孝次の証言及びこれによつて真正に成立したものと認められる乙第三三号証の一ないし六、証人四辻勉の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、左記の事実が認められる。すなわち、別表(三)ないし(七)記載の分解作業は、通常時においては、ほぼ右各別表の「構内作業ダイヤによる分解作業日時分」及び「分解所要時分」欄記載のとおり行われていたところ、本件闘争時においては、右各別表の「実作業による分解作業日時分」及び「分解所要時分」欄記載のとおり混乱し、そのため別表(三)「記事」欄記載の未分解車両の発生及びそれに引続き分解作業を完了すべき第九六五列車貨車の遅延、別表(四)「記事」欄記載の未分解車両の発生及びそれに引続き二三時五五分までに分解作業を完了すべき第九八三列車貨車の分解作業の遅延を生じた。(但し、各別表のとおりのダイヤと実作業の時間、分量とであつたことは、争いがない。)更に本件闘争によつて、未分解車両約一〇〇〇両余りの構内滞留などにより、到着線、及び有川到着線が塞がるなどして連絡船からの貨車の受入れが円滑にできなくなるなど、本件操車場の機能が低下し、未分解車両約三〇〇両余りをそのまま東室蘭、岩見沢方面へ直送したり一部連絡船(貨物船)が運休したりせざるを得なくなつたほか、運送品が一日ないし五日間遅れの到着となり、右貨物の延着により運送品中には変質を生じたものがあり、被告青函鉄道船舶管理局管内を着駅とする生鮮食料品の荷主からの請求によつて、被告が支払つた損害賠償金は二三万〇八六四円であつた。

(3) ところで、原告らの行動が右影響、損害のすべての原因であるとか、具体的に損害の発生に寄与した比率までの立証はないが、原告関を除く原告らについては、少くとも別表(三)ないし(七)記載の遅延について、前記認定のとおりの、作業慣行と異なる作業方法で加担したものということができ、このことと前記争いのない事実である本件操車場の機能などに照すと、原告関を除く原告らは、本件操車場における一連の分解作業に従事する作業員として、本件闘争に欠くことのできない一定の役割を果し、原告関については、原告関が前記認定のとおりの、本件闘争を指導する立場の役割の一端を担う者として、他の原告らの行動を含む本件闘争を、現場において具体的行動によつて積極的に支援し、その遂行を容易ならしめることによつて、本件操車場における職場秩序を混乱させ、前記認定の影響、損害を発生させることに加担したものと認めることができる。

3  懲戒事由について。

(1) 本件闘争中における原告らの行動などは、各説示のとおりであつて、いずれも通常の作業慣行に反したり、管理者の作業指示にしたがわないで作業を行つたり或はそれに対する指導的役割を果していたことが明らかである。

そして、原告らが準拠したものとして個別的に指摘した内規が、本件闘争時、原告らが行つた作業方法のみに適合するものであると一義的に定まつているものではなく、通常の作業慣行は、それ相当の合理性があり適法であると解釈しうるものであることも、前記それぞれのところで説示したとおりである。

(2) ところで、内規などを解釈するに際しては、当該作業場において日常行われている作業慣行が存在する場合、それが一見して内規などに違反することが明らかであるとか、当該作業場に定着しておらず、その作業慣行ゆえに危険な作業方法であるような場合を除いては、十分に尊重されなければならず、右作業慣行にしたがつてなされる作業形態は、一応適法に行われたものとして、いわば業務の正常な運営状態を形成し、当該作業場における作業員は、右作業慣行にしたがつて作業に従事する義務を負い、それに反した作業方法を行つた場合には、その結果生じた職場秩序の混乱に対して、就業規則などに照らして懲戒を負わされても、致し方がないと解するのが相当である。

右の見地から本件を検討するに、本件操車場における通常の作業慣行が、一見して明らかに内規に反するものでないことは前記のとおりであり、原告関を除く九名の原告らが、特段の個別的具体的な異議を述べることもなく、通常は右作業慣行にしたがつて作業を行い本件闘争も、右作業慣行の不当を指摘して、原告らの本件闘争時における作業方法に改めさせるとか、それに適合するような作業ダイヤを改訂することを要求するといつた趣旨のものではなく、いわゆる五万人合理化反対、年末手当をはじめとする諸手当の要求や、運輸関係の賃金改善などの諸要求を貫徹するための年末闘争の一環として行われたものであつて、本件闘争終了後も作業環境に特段の変化があつたわけでもないのにかかわらず、又旧に復して従来の作業慣行どおり作業に従事している。

他面、本件操車場において作業中の災害が発生していることは認められる(成立に争いのない甲第一五ないし一九号証)ものの、前記のとおり、通常時の作業慣行も、従事する者が自身の安全を考えながら、経験と技量とによつて作業を行つた結果形成されたものであると解しうるうえ、右災害が通常時の作業方法の欠かんに起因するものであることを認めるに足りる具体的立証がなく、右作業慣行がそれゆえに特に危険なものであるともいえないことなどに照すと、本件操車場において、通常の作業慣行は、それ相当の合理性をもつたものとして労使間に定着し、業務の正常な運営状態とみなしうるまでに至つているものと認めるのを相当とする。

したがつて、前記説示の原告らの行動は被告の業務の正常な運営を阻害したものということができ、又原告らはそれぞれ右行動によつて作業が遅延することがありうることを認識していたことが明らかであるから、これを「ことさら」という言葉で表現するかはともかくとしても、故意に行つたものと認めることができる。

なお、原告側は、「本件闘争中、原告ら(原告関を除く)が内規などの諸規定を忠実に遵守して入換作業を行つたものであり、右内規などの解釈には安全の配慮が必要であるところ、通常時の作業方法はきわめて危険であり従来もそのための傷害事故が多発したのであるから、作業の安全のためには原告ら(但し関を除く)が本件闘争時行つた作業方法によることが必要であり、内規もそれを適法としている」旨主張し、成立に争いのない乙第三五号証の一ないし三、第三六号証の一、二、三七号証の一、二、第三八号証の一、二、甲第八ないし第一二号証、第一五ないし第一九号証によれば、原告側の挙示する諸規程などが安全を重視する趣旨を強調していることが認められるけれども、通常の作業慣行が安全性と矛盾するとまではいえないこと前記認定のとおりであるから右主張は理由がない。

(3) 就業規則六六条が別表(二)記載のとおりであることは、原告において明らかに争わない。

(4) 以上の次第で、原告関を除く原告らの行動は、本件操車場において右原告らがしたがうべき義務のある通常の作業慣行に違反し、職場秩序を混乱せしめて業務の正常な運営を阻害した点において、就業規則六六条二号「責務を尽さず、よつて業務に支障を生ぜしめたとき」及び一七号「その他著しく不都合な行いのあつたとき」に該当し、原告関の行動は、前記のとおりの方法で右原告らの行動を含む本件闘争に対し、指導的役割の一端を担う者として積極的に支援し、その遂行を容易ならしめることによつて、前記の影響、損害の発生に加担した点において右一七号に該当するということができるから、被告代表者たる総裁が、国鉄法三一条に基づいてなした本件処分は正当であるというべきである。

三  再抗弁(本件処分の無効事由)について判断する。

(一)  「憲法違反ないし民法九〇条該当」について。

1  本件闘争が、いわゆる五万人合理化問題についての国労の要求実現、国労組合員の労働条件改善などの要求実現の目的で、国労中央本部の指令に基づくものであり、原告らの行動も、国労の組合員として行われた団体行動であることは、被告において明らかに争わない。(ただし被告の主張する本件処分は原告らが団体行動をしたことを直接の理由とするものでないこと前記のとおりである。)

2  しかし勤労者の団体行動であれば、いかなる場合にも絶対無制限に保障するのが憲法二八条の趣旨であると解することは相当でない。そこには自ら限界があり、結局原告らの行動が団体行動であつたという事実も含めて、その目的、態様、影響など、諸般の事情を考慮したうえ、本件処分の軽重も含め、それがその時代にマツチしたものとして適法であつたか否かを判断するのを相当とする。

そして右判断をする際、被告が、国鉄法に基づき、国が国有鉄道事業特別会計をもつて経営している鉄道事業その他の事業を経営することなどを目的として設立された公法人であり、国民の生命、財産を安全、かつ、迅速に輸送する重大な使命を負つているものであり、被告職員は、就業時間中職務に精励する義務を、被告に対してのみならず、全国民に対して負つているものというべきであること、そして、本件のような団体行動についても右国庫出資の実情から、業務停滞による影響、損害が、ひとり被告のみならず、利用者であり、実質的な出資者ともいうべき国民に帰することや、倒産、それによる失業の危険に対するおそれからくる内在的自制が働きにくいことなどを考慮すると、一般私企業に比して、より外部的制約が加えられてもやむを得ない面があるというべきであることなどは、重要な事情として勘案せざるを得ない。

3  そして本件闘争の目的は、いわゆる五万人合理化問題や、経済的要求であつて、本件操車場における通常時の作業の改善などを直接の要求の対象としていたわけでないから、その意味において、緊急差し迫つて自らの安全を守るために止むを得ず本件闘争で採用した態様の行動に及んだというまでには至らず、通常の争議行為の手段以上のものではないと考えられる。

そしてその態様は、前記のとおり、本州との連絡口で、北海道の表玄関である函館港に密着する重要な位置にあり、規模からいつても主要操車場の一つであり、その役割も本州からの貨車のすべてを北海道内の行先別に入換する操車場として心臓的役割を果している本件操車場において、前記認定のとおり、故意に業務の正常な運営を阻害し、それによつて生じた混乱から、一時的にせよ遅延貨車の停滞によつて、本件操車場の機能を停滞せしめ、そのため生鮮食料品の運搬を依頼した荷主の要求で、損害賠償を支払わねばならない場合も生じたものである。

すなわち、本件闘争は、小規模な輸送機関、あるいは民間の輸送機関が同様の行動を行つた場合と異り、多大の物心両面における影響を被告及び道民に与え、その意味で、一時的にせよ被告の業務の正常な運営を阻害し、道民生活に迷惑を及ぼしたといわざるを得ない。そしてこのことと、被告の企業体としての前記のごとき特殊性を考えると、本件闘争に参加した原告らに対し、右加担の程度を考え、本件処分程度の懲戒処分を行つたとしても、それ自体として憲法二八条に違反したり、民法九〇条に該当すると解することは相当でないというべきである。

(二)  不当労働行為について。

前記認定の本件闘争の目的、態様、結果に被告の企業としての特殊性を考慮すると、本件闘争を労働組合法七条一号の規定する「労働組合の正当な行為」であると認めることは相当でなく、したがつて「本件処分が右条項に該当するから無効である」とする原告側の主張も理由がない。

(三)  懲戒権の濫用について。

1  原告側は「原告らのほかにも原告らと同様の行動をした者があり、又本件闘争の結果は原告らのみによつて生じたものでないにもかかわらず、原告らのみ不当に過酷な本件処分の対象となつたのは公平、均衡を失する」旨主張するけれども、原告らの行動が団体行動の一環としてなされたということ以上に、原告らと同様の行動をした者が他に存在したことの具体的な主張立証がない。又原告らの行動によつて、被告の職場秩序を一時的にせよ混乱せしめ、被告の業務の正常な運営を阻害したことは前記認定のとおりであつて、懲戒権者が諸般の事情を考慮していかなる処分を選択するかは、恣意にわたらず、当該行為との対比において甚だしく均衡を失する場合を除いては懲戒権者の裁量の範囲内にゆだねられていると考えられるところ、前記認定の本件処分の理由となつた事実を基礎にしても本件処分において、その効力を否定しなければならないほど裁量の範囲を逸脱していると認めることはできず、懲戒権の濫用とみることも相当でない。

四  結論

以上の次第で、本件処分が無効であるとの原告らの請求は理由がないから、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 龍前三郎 北谷健一 池田亮一)

別表(一) 処分目録

原告の氏名

減給処分

1

木村正夫

一〇分の一

一ケ月

2

沖本好司

三〇分の一

二ケ月

3

五日市剛

三〇分の一

一ケ月

4

坂野隆司

三〇分の一

二ケ月

5

福士純司

一〇分の一

一ケ月

6

遠藤精介

三〇分の一

二ケ月

7

中西輝男

三〇分の一

一ケ月

8

藤島一雄

三〇分の一

二ケ月

9

白幡強

三〇分の一

二ケ月

10

関幸弘

一〇分の一

三ケ月

別表(二) 就業規則

(懲戒される行為)

第六六条 職員に次の各号の一に該当する行為があつた場合は、懲戒を行う。

(1) 日本国有鉄道に関する法規、令達に違反したとき。

(2) 責務を尽さず、よつて業務に支障を生ぜしめたとき。

(3) 上司の命令に服従しないとき。

(4) 部下に対し不法不当の命令を発したとき。

(5) 部下の指導監督に欠くるところのあつたとき。

(6) 故なく職場を離れ又は職務につかないとき。

(7) 注意を怠り業務上の事故を惹起したとき。

(8) 事故防止等に関して有効な助言、諫止又は援助をなさず、よつて事故発生又は損害を拡大せしめたとき。

(9) 旅客又は荷物の取扱に関して不正な行いのあつたとき。

(10) 物品又は財産を不当に損壊、破失、又は私用に供したとき。

(11) 金銭物品の取扱若しくは土地家屋等の売買に関して、不正の行いあつたとき。

(12) 無賃乗車証の発行行使に関して、不正の行いのあつたとき。

(13) 職務上の機密をもらしたとき。

(14) 懲戒せらるべき事実を故意に隠ぺいしたとき。

(15) 職務上の規律をみだす行いのあつたとき。

(16) 職員としての品位を傷け又は信用を失うべき非行のあつたとき。

(17) その他著しく不都合な行いのあつたとき。

別表(三) 分解時分表

(原告木村が操車掛、原告沖本、坂野、中西、藤島、白幡が構作掛)

番号

列車及び船便名

構内作業ダイヤによる

実作業による

記事

分解作業日時分

分解所要時分

分解作業日時分

分解所要時分

到着両数

分解両数

時分

時分

1

五五便

一三

一二・〇〇~一二・三五

三五

一三

一二・一五~一三・〇四

四九

四二

四二

2

九六九

一二・三五~一三・〇五

三〇

一三・一五~一四・一二

五七

三二

三二

3

九七一

一三・二〇~一四・〇〇

四〇

一四・三八~一五・四〇

六二

四三

四三

4

入五

一四・〇〇~一四・三五

三五

分解作業遅延により、入五貨車の分解作業ができなくなつた。

5

九七三

一五・二〇~一五・五五

三五

一三

一五・四〇~一六・〇三

二三

6

九七七

一五・五五~一六・三〇

三五

一六・〇三~一六・二八

二五

二五

一四

分解作業遅延により、一一両を未分解とするのやむなきに至つた。

7

九八三

二三・一五~二三・五五

四〇

一四

四・〇七~五・一八

七一

四六

四六

8

入一三

一四

〇・三五~一・一〇

三五

一四

〇・三五~一・一五

四〇

二八

二八

9

六五便

一・一〇~一・四五

三五

一・二四~二・二〇

五六

三八

三八

10

六七便

二・二〇~二・五五

三五

二・二六~三・一三

四七

三九

三九

11

九六一

三・三〇~四・一〇

四〇

五・五〇~六・二〇

三〇

四六

一三

分解作業遅延により、三三両を未分解とするのやむなきに至つた。

12

八〇五九便

五・〇五~五・四〇

三五

五・一八~五・五〇

三二

四三

分解作業遅延により、四三両を未分解とするのやむなきに至つた。

別表(四) 分解時分表

(原告福士が操車掛、原告沖本、藤島、白幡、五日市、他訴外一名が構作掛)

番号

列車及び船便名

構内作業ダイヤによる

実作業による

記事

分解作業日時分

分解所要時分

分解作業日時分

分解所要時分

到着両数

分解両数

時分

時分

1

入一

一六

九・〇〇~九・三五

三五

一六

九・〇〇~九・二四

二四

一五

一五

2

五三便

九・四五~一〇・二〇

三五

九・四五~一〇・三七

五二

三五

三五

3

九六七

一〇・二〇~一一・〇〇

四〇

一〇・四一~一一・四一

六〇

四三

四三

4

入三

一一・二五~一二・〇〇

三五

分解作業遅延により、入三貨車の分解作業ができなくなつた。

5

九七五

一六・四〇~一七・二〇

四〇

一六

一六・四〇~一七・四四

六四

四四

四四

6

入七

一七・二〇~一八・〇〇

四〇

一七・四四~一八・三七

五三

四二

四二

7

入九

一八・三五~一九・一五

四〇

一八・三七~一九・三〇

五三

三八

三八

8

六一便

一六

一九・一五~一九・五〇

三五

一六

一九・三五~二〇・二一

四六

三八

三八

9

入一一

一九・五五~二〇・三〇

三五

分解作業遅延により、入一一貨車の分解作業ができなくなつた。

10

九七九

二一・二〇~二二・〇〇

四〇

一六

二一・二二~二二・一四

五二

四五

四五

11

九八一

二二・〇〇~二二・四〇

四〇

二二・五八~二三・五二

五四

四七

四七

12

六三便

二二・四〇~二三・一五

三五

二二・二五~二二・五八

三三

三七

分解作業遅延により、三一両を未分解とするのやむなきに至つた。

13

九六三

一七

五・四〇~六・二〇

四〇

一七

六・〇七~六・五六

四九

四四

四四

14

九六五

六・二〇~七・〇〇

四〇

六・五六~八・〇七

七一

四四

四四

別表(五) 分解時分表

(原告遠藤が切方担当として、訴外の五名と共に従事)

列車及び船便名

構内作業ダイヤによる

実作業による

記事

分解作業日時分

分解所要時間

分解作業日時分

分解所要時分

到着両数

分解両数

時分

時分

五五便

一四

一二・〇〇~一二・三五

三五

一五

一・一九~二・一四

五五

三九

三九

別表(六) 分解時分表

(原告遠藤が受方担当として、訴外の五名と共に従事)

列車及び船便名

構内作業ダイヤによる

実作業による

記事

分解作業日時分

分解所要時分

分解作業日時分

分解所要時分

到着両数

分解両数

時分

時分

五五便

一六

一二・〇〇~一二・三五

三五

一六

一二・〇五~一二・五四

四九

四〇

四〇

別表(七) 分解時分表

(原告坂野が受方担当として訴外の五名と共に従事)

列車及び船便名

構内作業ダイヤによる

実作業による

記事

分解作業日時分

分解所要時分

分解作業日時分

分解所要時分

到着両数

分解両数

時分

時分

入七

一七

一七・二〇~一八・〇〇

四〇

一七

一七・四六~一八・三五

四九

四二

四二

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